セクハラしてたらメイドハーレムが出来ていた 作:上り坂は下り坂
「んっ、んんっ!? ん……んっ……んぁっ!」
夜中に空の上で大声を上げられては堪らない。口を塞ぎ、唇を食む。ユーラが落ち着くまで。徐々に潤み出した瞳と赤らんだ頬を見てようやく口を離す。
「落ち着け。落ち着かないならまたキスし続けるぞ?」
「も、もう、だいじょぶ……れす……からぁ……」
数分間キスし続けたせいか、ユーラの顔が赤い。窒息寸前にさせてしまっただろうか。
しかし冷静になれたのなら良いだろう。ユーラに妹の元まで案内させ、上空から最短距離で向かう。
向かった先は、民家が密集した入り組んだ路地のさらに先。そこにはぱっと見
その家の前へと着陸し、ユーラは降ろさず抱えたまま中の気配を探る。
……気配は一つ。それ以外は無し。隠密技術で上回られていればその限りでは無いが、格上を想定するなら『サイキック』を維持しておけば逃亡は出来るだろう。
『サイキック』の腕で堂々とドアを開け、ユーラを抱えたままお邪魔する。
中は外見からは想像が付かないくらいに綺麗にされており、外は偽装工作でもされているかのようだ。ユーラも妹を気遣って相当掃除はしているだろうが、それ以上に内装が整っている。つまり侯爵家がこの家を用意している可能性が高い。
……そうなると余計に分からんな。ユーラを追い込む理由も、妹を快適な空間で生かす理由も。殺意や害意は無く、しかし仕事を強要させ続ける環境……情報を抜くのでは無く、俺の対応を見ているのか?
俺の思考を中断する様に、弱々しい声が部屋の隅に置かれているベッドの上の、そのさらに隅で膝を抱える少女から発せられた。
「だ、誰……ですか」
「夜分遅くに失礼する、リンナ。俺はユーラの今の主だ。ユーラがお前の為に汗水垂らしていると聞いて伺った次第」
「おねぇ……ちゃん……?」
しっかりと扉を閉めてからユーラを降ろし、仲介役を頼む。
同時に魔力と気配をさらに深く探っていく。
……魔法に類する反応は無い。この家は外装の偽装以外には特に変な所は無さそうだ。
……気配も室内には無い。半分スラムに近い場所と言う事もあってか屋外には雑多に気配があって読み切れないのでスルー。
安全を確認したのち、室内の明かり取り程度の光を生み出す魔法を使用し、俺はその場に腰を下ろす。
「なっ!? ヴィクトル様、その様な場所にお座りにならないでください! すぐに椅子を……」
「要らない。俺はこれ以上リンナに近付かないと言う事を示しているんだ。そしてリンナ、君に対して威圧する事もしない。貴族として振る舞うつもりも無い。今この場に置いて、俺はただのヴィクトルだ」
俺が座っている中で一人立つ事も出来なかったユーラもその場に座る。俺なりのリンナに対する気遣いである事は理解出来たのか、困った様な表情だが、何処か柔らかいものを感じる。
対して、目を丸くして驚いた様子を見せる妹リンナ。現在一番頭の位置が高く、短期間と言えど侯爵家で働いていただけはあるのか、俺の行動に正しく驚きと困惑を見せている。
対人恐怖症と言う訳では無いのか怯えの色は見えない。軽い鬱の可能性も考慮していたが、瞳に光はある。
体調が悪いのは事実なのか身体は細く、肉付きは悪い。しかし頬が痩ける程では無いので衰弱や栄養失調と言うよりは、軽度の拒食か?
手に持っているのは本。恋愛物なのか男女が瞳を閉じて寄り添い合う絵が表紙に描かれている分厚めの本だ。読書家……或いは趣味人?
なんにせよ、あまり切羽詰まった状態では無さそうだ。良かった。
「私は、リンナと申します……。ヴィクトル様……ヘクトル家の三男の……? でもおねえちゃんは生きてる…………交渉、ですか?」
「ほう、想像以上に頭が回るな。しかしハズレだ。姉との交渉は既に終えている」
「じゃあ、どうして。おねえちゃんの生存、私の認知と確認……低い姿勢……。状況は把握済み……なら、ヴィクトル様が、私達の次のご主人様、ですか……?」
頭の回転速いなこいつ。ユーラが居なければ何も出来ない妹を想像していたが……これは面白い。
「はは! おいユーラ、聞いてないぞ。妹はもっと虚弱でお前の後ろに隠れている様なか弱い
「頭は良いのですが……言葉が途切れてしまい会話などは不得意で、コミュニケーションが下手な事に加え、食も細い為に力仕事は難しく……」
頭が良くて会話が苦手……言語化が下手か……本を読んでいるなら語彙力は少なく無さそうだ。では直感的に思考が飛んで脈絡が無くなるタイプかね?
「精神的に弱っていたと聞いたが?」
「過去形、です。今は、マシ。性根の曲がった女は……無理です。おねえちゃんが信じる人……会話がんばり、ます」
読み取れない事は無い。『今はメンタルは落ち着いているが、自分達を貶めた底意地の悪い人間は苦手、姉が信用しているならば自分もコミュニケーションの努力はする』……こんなところか。所々で言葉が抜け落ち、文脈が途切れる節があれど、会話に支障は無いだろう。
「そうか……もう少し近付いても良いか?」
リンナがこくりと頷いたので、俺は膝立ちになってベッドの淵まで近寄る。ユーラも寄ってきて、俺の隣に並んでくれた。
そのお陰か、リンナも隅から少しこちらに歩み寄ってくれた様で、手を伸ばして握手を求めると、人差し指だけ掴まれた。
近付いてくれた事で良く見えたリンナの容姿は、姉と同じく黒髪黒目。整った顔立ちではあるが細すぎる身体。しっかりと食べて、適度に運動をすればリンナも十分に綺麗になれるだけの素材は持っていそうだ。
「リンナ、俺はお前達を雇う事を前向きに考えている。しかし侯爵家の意図が読めない。ユーラを追い込み、リンナを追いやり、この状況を作ったのは誰だ?」
「……スティア様。四女。単純にヴィクトル様に、興味有り、ます」
「この状況含め観察対象って事か?」
「推測ですが、肯定します。あの人、賢いので。私達、嫌な噂、流されました。拾われた私達、立場低いので、使い易い。おねえちゃん、愚直タイプ。抜擢され、ました」
やはり聡明だな。状況を把握出来ており、私情を含まず客観視出来ている。リンナと会話し、言葉を引き出す価値はありそうだ。強いていうなら表情が変わりにくくて機微が読み取りにくいのが難点か。
対して、隣で信じられないと顔で語るユーラは少し分かりやす過ぎるが、そこがポイントか。
スティア嬢は俺に間者が居ると理解させ、その上で俺が取る行動を知りたかったと。害意や殺意は無く、間者と発覚した後も金銭でユーラを釣っていたのも俺の反応の観察が目的か。
では今も見られている前提で行動するべき? だとしたら飛んできた時点で飛行は既に隠す意味は無い。いや、飛行は王都までの道中で既に多くの者に見せている。今更隠す方が馬鹿馬鹿しい。
「リンナ……どう言う、事? 何を、なんで……私の苦労は……?」
「必要な事、だよ。お金はどっち道、要る。私達に、選択肢は無い。そう言う風に、追い込まれた。切り捨てやすい、使い捨ての駒。でもおねえちゃんの苦労は、無駄じゃ無いっ。意味も、価値も、ある。新しい道、ヴィクトル様。……賭け、よ?」
状況の深い理解が出来ていなかったユーラの心が揺らぐ。リンナが都度その緩み掛けたネジを締め直し、方向性を正していたのか。
頭脳労働と肉体労働で役割を分担して支え合っているとも言えるが、リンナがユーラを導いていると言う見方も出来そうだ。
ユーラとリンナは互いを確かめ合う様に抱き締め合う。続いてリンナは俺の前へとやってくると、ゆっくりとベッドから降りて俺の目の前に座り、べたりと倒れ込む様に頭を下げた。
「私に、利用価値、あんまり無い、です。仕事、ほとんど出来ま、せん。私はおねえちゃんの、付属品。邪魔者。足手纏い。ヴィクトル様……おねえちゃんだけ、でも、助けて、ください」
「リンナ!? 何を言ってるの!? ヴィクトル様、私を好きにして良いと言いました! この身も心も捧げます!! ですからリンナを!」
ユーラとリンナの自分を切り捨ててでも互いを助け合う精神は素敵だが、別にどちらかしか助けないなどとは言っていない。ユーラには先程、リンナ次第で雇い入れる旨も伝えているのだがな。……その当人が自分を無能扱いしているのだから焦るのも当然かもしれないが。
しかし、どうしたものか。侯爵家四女、スティア嬢。俺の何に興味を持った? 女好き? メイド好き? 或いは戦闘力? だがこの二人への対応を見るのだとしたら測れるのは人間性?
いや、今はそこは良い。分からないものは分からない。分かる事を考えよう。
今発覚しているのはこの二人は確実に使い捨てであると言う事。しかし俺が露骨にこの二人を欲しがると、それは隙になり得る。
……スティア嬢に隙を見せるのは怖いが……この程度で俺がこの二人を諦めるに足る理由にするには弱い。俺が納得出来ない。
……救えるもんは救う。目の前のものすら救えないなら、力をつけた意味が無い。
振るうべき時に力を振るう。俺がするべきはその時を見極める事だ。
目の前の虚弱な少女の身体を支えて持ち上げ、ベッドへと乗せ直す。
リンナの隣で同様に床スレスレまで頭を下げていたユーラの身体を起こさせ、全員でベッドに座る。
土汚れや埃汚れは『クリーン』で綺麗さっぱり落としておいたので無問題。
「取り敢えず先に言っておこう。俺はお前達姉妹が気に入った。二人とも俺が雇う。居心地が良いかは分からない。環境が合うかも分からない。だが少なくとも今の暮らしよりは精神的に楽になるだろう」
「おねえちゃん……ヴィクトル様、業が、深めかも」
「っ…………」
何この子。俺は虚弱な奴まで食い物にするつもりは無いんですけど。
おい隣! 何でそっと目を背けるだけでなにも言わないんだよ!
「リンナ、俺はお前に性的魅力を感じていないから安心しろ。食べたいと思うのはユーラだけだ」
「むぅ……ちょっとショック……かも。です」
「いいえ、リンナ。止めておきなさい。貴方、死ぬわよ」
「死なねーよ……俺のはそこまで凶器では無いだろ」
「いいえ、凶器です。あれは股が裂けます。シャオは股を裂かれたからあんなにもフラフラだったのでしょう? 事実を仰って頂いて構いません。それでもユーラはこの身をお捧げいたします」
「裂けてねーよ。シャオは腰砕けになっただけだ」
「砕か、れる……!? この本には、ちょっぴり痛いとしか書いて、ない」
話が進まん。リンナの額を軽く小突き、ユーラにはチョップを落とす。
「元気なのは良いが、落ち着け」
「あうっ……。そう、でした。先ずは感謝申し上げ、ます。ヴィクトル様の、好意に甘えさせて、頂きます」
「私からも、伏して感謝申し上げます。妹のみならず、私まで。このご恩は忘れません。この身で少しでも返していければと思います」
「ああ、感謝は受け取った」
だがやるべき事は残っている。妹にも何か契約魔法が掛けられている可能性がある。なんならこちらを先に探るべきだったな。
リンナに魔力を全身へと巡らせる様に言う。
そうする事で独立型の紋章なら浮かび上がる。スティア嬢が施した物ならば、全身を改めて探る必要が出てくるが……。
「独立した契約魔法は無し……か。すまないがリンナ、服を脱げ」
「ヴィクトル様!?」
「砕かない、で下さい、ね?」
「砕ける前に股が裂けるらしいぞ」
「今までありがと、おねえちゃん」
「ヴィクトル様!!」
「ユーラ、手出し無用だ。リンナ、早く脱げ」
リンナは筋肉が大分衰えている様で、動きはのっそりとしていた。しかしそれでも命令には従い、服を脱いでいく。
ボタンを外し、パジャマのシャツをはらりとベッドに落とす。ズボンから足を一本ずつ抜き、リンナが下着姿になった。
「重ねて申し訳無いが、裸になってくれ」
「……分かった、です」
「ヴィクトル様……せめて、私も脱ぎます」
「おねえちゃん、こういう人、です」
「ああ。凄く良い姉だが、お前の苦労も偲ばれるな」
眼福なので止めはしない。やがて全裸の美人姉妹がベッドの上に並んだ。非常に良い光景だが、妹はやはり痩せすぎだな。姉はしっかり筋肉があり、引き締まっている。モデル体型で素晴らしい。
が、今回は妹にのみ用がある。ユーラには少し離れていて貰い、リンナの身体を具に、舐める様に、食い入る様に見つめていく。
薄平べったい乳房、骨張った肋、可愛らしいおへそ、肉の薄い骨盤、産毛の様な陰毛、その下の陰部まで。
足を持ち上げ、股間の内側、膣を開いてその内部。陰部にないなら膝の裏。ふくらはぎ、足の裏。
次は背中、尻、尻肉を開いて肛門周り、背骨の浮き出た背中、肩、うなじ、髪の生え際……。
「あった。こめかみの辺り……髪で見にくいな……。これは目に関する契約紋……? 一方的な視界の共有か!?」
他に頭部に紋は無いか……? 聴覚や味覚、触覚に関するものは……無い。視覚だけだ。
「くそ、見事に筒抜けだ。スティア……ね。笑えてくる程の徹底ぶりだな」
「目、閉じる?」
「いいや、別に構わない。それこそ今更だ。ユーラの裏切りも、契約紋の解除も、俺がお前達に友好的にしていたのも全てバレていると見ていい」
「ごめん、なさい。魔法は、分かんなくて……」
「それこそ仕方が無い。だが、詫びる気持ちがあるなら、俺を受け入れ、俺の物になれ。そういう思考と意思を持て。その魔法を剥がす」
状況に置いていかれたままのユーラが全裸であたふたとしており、リンナは俺の言葉を正しく認識して俺に身を委ねてくる。
取り敢えず二人ともを抱き寄せ、自己暗示を掛けさせる。
「俺の魔力をリンナへ注ぐ。リンナがそれを受け入れ易くする為の自己暗示だ。俺を受け入れる旨の言葉を繰り返してくれ」
「はい! リンナ……!」
「えっ……うん」
「「私達はヴィクトル様のものです」……?」
何故ユーラまで言っているのか。だが信用している姉の積極的な姿はリンナの心を幾分和らげてくれた様だ。
抱き寄せながらも、並行して回復魔法をリンナに掛けていたのだが、魔法の通りも良くなり、魔力の注入もかなりやり易くなった。
この紋様はおそらく俺の様に手動で凝りを作ったのでは無く、簡単に施せる様にした魔法術式によって作られた物。シャオ、レイン、ユーラに施されていたものもそういう類のものだった。
規格を統一する為か凝りの強度が幾分控えめなので、解すのは難しく無い。
代わりに……。
「んっ、やっ……あぁっ……んやぁっ……」
この凝り解しで何故か快楽を感じさせてしまうのが難点だが……まあ良い。ゆっくりと丁寧に、スティア嬢が仕掛けた契約魔法の凝りを解して俺の魔力で包み、体外へと抜き出していく。
魔力は空気中にて霧散して消えていくので、これ以上の対処は必要無いだろう。
「よし、もう良いぞ。よく頑張ったなリンナ。……後ユーラも」
「あ、あい……」
「はい!」
なんか……段々ユーラが可愛く見えてきたな。ちょっとお馬鹿な感じが特に。
さて、やる事もやったのでリンナに服を着させ、二人にここを放棄して我が家に来るかどうかを問う。
リーデース侯爵家を捨ててうちに来る覚悟があるかどうか。あの用意周到なスティア嬢からの報復に怯えず立ち向かう勇気があるかどうかを。
「私は、ヴィクトル様のもの、でしょう? じゃあ、答えは一択、です」
「私は全てを捧げると言いました。この言葉を違える積もりはありません。ですから、何があってもリンナの事をよろしくお願い致します」
ユーラの硬い意思を隣で聞いていたリンナは、言葉にする事は無かったが俺を強く見つめていた。その目で語るのは姉と同様の願い。
実質どちらも蔑ろにするなと言われたようなものだが、当然請け負ってやるとも。
「では帰ろうか、お前達の新たな家に」
===
リンナは絶叫系はいける口らしい。声は出さずに瞳を爛々と輝かせて飛行を楽しんでいた。
ユーラは行きもダメだったが、帰りもダメだった。行きと変わらず長くキスを交わし、頬が紅潮してきた辺りでようやく空に慣れてくる。
数分の飛行で帰宅し、俺の部屋のバルコニーへと着陸。リンナは俺がお姫様抱っこで運び、父上の元を訪ねて事情説明。
スティア嬢を要注意人物として情報共有し、ユーラとリンナには外出禁止の命令を出す。これは侯爵家からの口封じを警戒したものであり、こちらからの情報漏洩を警戒したものでもある。
一先ず夜遅いので話はここまでとし、後日また話をすることが決まった。
そんなこんなで話を終えて、二人を俺の部屋へと招き、ソファに座らせる。
「取り敢えず、ユーラには何らかの罰則が降るだろう。俺からも口添えはするが、情報漏洩した事実は無くならない。覚悟はしておいてくれ」
「……はい、畏まりました」
「リンナ、お前はリハビリだ。ユーラの弱みと言う立場を失った今、お前はお前の価値を示さねばならない。その為には人並みに動ける様になる必要がある」
「ん。覚悟は、出来てます」
「よろしい。ではお前達は今日は俺のベッドで寝ていけ。適度な睡眠は健康に必須だ。俺は少しやる事があるので好きに使え」
二人に『クリーン』を掛け、ベッドへと押し込み、部屋の明かりを消す。ベッドサイドのランプをベッドから少し遠くの机の上に置き、俺はソファに腰掛ける。
『サイキック』で部屋の本棚に置いていたバイブルと魔法の本をあるだけ取り出して机に積み、読み耽っていくのだった。