セクハラしてたらメイドハーレムが出来ていた 作:上り坂は下り坂
オルヴェリア王国。それが俺達の暮らす国の名前。
前世の大陸を全てくっつけてもまだ足りないくらい大きい……いや、デカ過ぎる程にデカい大陸、その二割を占める大国だ。
オルヴェリアは内陸の国で、海は無いが幾つもの山脈を擁しているので水資源には恵まれており、土壌も肥沃と言って良い場所が幾つもある。地続きの友好国の中には海に面している小国もあり、塩不足に悩む事は無く、基本的に恵まれた立地を有した豊かな国と言えるだろう。
その分、仮想敵国も多いのだが、現在の国王陛下は自ら争いを起こすタイプでは無く、自治を優先しているので国力が上がっているのもあってか、仮想敵国は長らく現実にやってきていない様だ。
外はともかく、自治。この内側の問題と言うのがこれまた多い。
俺が昔に少し学んだ範囲だけでも、相当な歴史があった。
大きく分けて、人災と魔物災害、そして自然災害。
人災は主に、貴族の反乱、悪政を敷かれた民の武装蜂起、魔法使いを掻き集めて魔法の自由化運動などなど。
自然災害は、川の氾濫、山の崩落、雪崩、地滑り等々。嵐は少なく、地震は全く無い。
魔物災害は……キング種が主に挙げられるだろうか。群れを率いるタイプのキングは平気で村を壊し、街を潰し、戦争のような戦いが魔物と繰り広げられるレベルで厄介。
だが、実は一番困るのが個を極めた個体。通称タイラント種。
我が家、ヘクトル伯爵家が擁する守護獣が住まう山……実はこれがタイラント種が眠る山なのだが、どうやら祖先はこのタイラント種と契約を結んだ様なのだ。
温厚な個体だったのだろう、その個体に安寧を齎す代わりに、ヘクトル家に加護を与えると言う条件で互いの血を交わした様なのだ。
血を交わす契約は存在を賭するとも言われており、結婚などの際に儀礼的に用いられる。
本気で血の契約をすると、本当に命懸けになるので儀礼だ。命懸けな分、強力な契約にはなるのだが……。魔力を交わすだけでも十分に効力を発揮するのは契約魔法が証明している。必要も無く血を交わす事はまず無い。
いやぁ、面白いよな。俺達ヘクトル家の類稀な能力や、その才能にはタイラント種との契約による恩恵があると言うのだから。
身体の潜在能力でも引き出されているのか、魔力的な素質に影響しているのかは分からないが。
閑話休題。
とまあ、魔物災害は実質内戦みたいなものなので、統治も中々難しい世界な訳だよ。
そうなってくると、余計な争いの種を生まない為に平民に魔法の知識を禁ずるのも少しは理解出来る。国が内部で分裂した暁には、魔物災害以上の人的被害を自分達で出す羽目になるのだから……。
で、だ。なんで俺がこんな事を今更おさらいしているのかと言えば、これから俺はそんな国を飛び回る役職に就くかもしれないからだな。
命が幾つあっても足りねーと嘆きたい気持ちをポーカーフェイスで封じ込め、俺は馬車を降りた。
降ろされたのは王城の裏手。かなり奥まった場所……と言うか、人気が無い。秘密裏な登城なので当然なのだが……。
加えて言うなら、実は俺達が乗っていた馬車はヘクトル家の紋章では無く、全く別の御用商人の紋章をつけていた。これもまたヘクトル家が登城した公的記録を残さない為の措置だ。
姉上に手を差し伸べてエスコートし、先に降りていたグリナとハルラを後ろに侍らせ父上達と合流する。
すると、ほぼ待つ事無く、壮齢のイケメン執事が現れて無言で俺達に礼を取ると、案内を始めた。
「黙ってついて行くぞ。道順は憶えるなよ」
ヴァン父上が率先して歩き出し、その隣を慣れた足取りで歩く母上の後に続いて、俺と姉上も歩き出す。
その後ろから、ラヴィ、ティル達メイドが目を伏して追従する。
父上に言われて道順を意識しない様にしながら歩くが、執事の進む道は細い道や入り組んだ道、石畳の薄暗い道など、およそ城内とは思えない複雑怪奇なルートばかりでそも記憶出来なかった。
おそらく王族が使うための逃走ルートだとか、秘密の抜け道みたいな奴なんじゃ無いだろうか。
ちょっとワクワクするのくらいは許して欲しいもんよ。
そんな曲がりくねったワインディングなロードを執事に続いて歩く事、十分ほど。
何度か階段を登ったので上階に居る事は察せられた。そして遂に行き止まり、と言うか閉ざされた両開きの扉の前に辿り着き、執事がそれを開けた。
薄暗い道を歩いていた俺達の視界に溢れ出す眩い光に目を細めながら扉を潜ると……そこはとても広々とした一室だった。
光に慣れた目を動かして室内を確認する。
天井には精緻な彫刻と、見事なシャンデリア。壁には金色に縁取られた柱と装飾。床もまた大理石の様なものの上に、足が沈むふかふかのカーペットが敷かれている。
家具も見事なもので、見るからに高そうな革張りのソファ、逆に柔らかそうな起毛のソファ、大樹の幹を削り出した天然の机、くどく無い程度に置かれた美術品や花卉が飾られている。
澄んだガラス窓の外には青空に転々と浮かぶ白い雲。そして貴族街と城下町が一望出来た。
これらを首は動かさずに目線だけで確認し、溢れそうになる溜め息を飲み下す。
後ろで執事の手によって、ゆっくりと閉められた両開きのドアは、閉められて初めて気付いたがクローゼットだった。絶対秘密の抜け道だったんだアレ。なんかちょっとラッキー。
「この部屋にて暫しお待ち下さい。陛下を呼んで参ります」
優雅に一礼をして見せた執事が薄い気配と共に、本来のドアを開けて去って行った。
「ふぅ……先の執事、只者では無いですね。監視の目、自体は残っている様ですし」
「それに気付けるならば大したものだ。一先ず我々は座って待つとしようか。メイドの皆は今暫く立っていてくれたまえ。恐らくそう時間はかかるまい」
父上も気付いていたのだろうか? この部屋の天井やら床やら、なんなら隣の部屋などからも向けられる薄らとした気配と意識に。
正直、俺はジニアと訓練していなければ気付かなかっと胸を張って言える。
そう——あれは俺とジニアが隠れん坊をした時のことだ……。
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『ヴィクトル様、見つけました』
そう言って俺がどこに隠れようとも即座に見つけ出し、罰としてジニアとベロチューをさせられる。そんな隠れん坊。
非常に役得ではあったが、これが恐ろしい事に本当にどこに隠れても見つかるのだから笑えない。
しかしおかげで隠密能力は鍛えられ、気配を自覚し、ある程度操る感覚を掴む事が出来た。俺の能力が上がっても見つかる事に変わりは無かったが。
そして逆にジニアを見つける、俺が鬼の隠れん坊。これが本当に見つからない。
ある時は常に俺の真後ろに居ただとか、ただ壁に突っ立って居ただとか、俺のベッドに寝転んでいただとか言うのだ。まじめにふざけるな。
そして何度かやって俺が全く見つけ出せないことで、時間制限と罰ゲームが課された。罰ゲームはもちろんベロチューだ。
俺は舌使いが非常に上手くなったと自負している。腰使いは言うまでも無い。舌で絡み合って上がったテンションを発散するには腰を使うしか無いのだからな。
ともあれ、俺がなんとかジニアを見つけられる様になった頃には嫌でも気配を読む能力を身に付けていたと言うものだ。
ちなみに、『よく見つけられました』とご褒美でベロチューされた。その後パコパコもさせられた。逆セクハラだったのかもしれない。
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いや、思考が逸れすぎた。
少なくとも父上は監視の目がある事を当然の様に思っており、あるいは気付いている。父上の戦闘能力の程を知る機会は無かったが、気付いた素振りや気にした様子を滲ませない辺り、やはり一角の人物なのだろう。
そして待つ事、数分。
父上が言った通りに幾つかの気配がこちらに近付くのを俺が感じた時にはラヴィが既に父上に耳打ちしていた。
後ろのティル、グリナ、ハルラに目を向けると、ティルからは小さく会釈が。グリナはブンブンと首を横に振り、ハルラはこてんと首を傾げた。
やはりジニア、ラヴィ、ティルは頭抜けている訳だ。今度、時間があればラヴィとティルとも訓練してみたいものだな。
「陛下の御成だ。立て」
父上の声に従いソファから立ち上がる。
執事が出て行った扉へと身体を向け、気配が扉の前で止まった頃に頭を下げておく。
目に映るのはふかふかのカーペットの複雑なデザイン。
しかし意識は開いたドアの先にある一つの存在に囚われた。
言葉にするならば、それは……“覇気”だろうか。
いや、武装と見聞とか覇王のアレじゃ無くて。存在感が燦々と放たれている様に感じる。
……気配を隠す、薄める……その対極の技術だろうか? 気配の凝縮、放出……? 後は、薄らと魔力を感じる。威光と威圧を込めた、王としての畏怖を示す能力やもしれん。
「っはっはっは! こやつらめ、我が入る前から頭を下げおって。折角の我の輝かしさを先ずは目で見て堪能するべきであろうが! っはっはっは!!」
声だけで分かる快活さ。傲岸不遜にも聞こえるが嫌味な感じは無い。一種のカリスマだな。
「レオヴァスト・オルヴェリア陛下。此度は我々の為にお時間を作って頂いた事、深く感謝申し上げます」
父上の朗々とした声が部屋に響く。
レオヴァスト・オルヴェリア。父上がそう呼んだお方こそが、我が国の象徴であり、トップであり、中心人物。
……しかし、覇気が怠い。索敵が邪魔される。気配を読み難くなる。感覚器を一つジャミングされるこの感じが居心地が悪い。
陛下がツカツカと大理石を踏み、フサフサとカーペットを踏む。そしてドサリと対面のソファに腰掛けた音を立てた後、俺達を改めて見回し、告げた。
「ふむ……まあ良い。面を上げろ」
スッと覇気とも言える気配と魔力が引っ込んだ。そして声色までもが落ち着き払われる。
いっそ不気味なまでの豹変ぶりに困惑しそうになるが、声に従い頭を上げる。
陛下は濃い金色の髪を後ろに軽く撫でつけており、これまた金色の瞳を溌剌と輝かせた、まるで獅子の様なお方だった。見た目でも威圧感が凄いな。
「うむ。楽にしろ。……さて。ヴァン、トリテア、久しいな」
「査定は済んだか、レオ」
「ああ、上々だ。お前の倅が成人してすぐにキング種を倒しただとか聞いた時は鼻で笑ったが、どうやら事実らしい。……ヴァンの息子よ、名乗る事を許す」
陛下の言葉に従ってソファに腰を下ろしたが……父上、気安っ。母上も平然とニコリと微笑んでいる。姉上は顔に出さない様に必死な様だが、冷や汗が流れていそうだ。
そして遂に俺に差し水が向けられた訳だが……これ立つの? それとも跪くの? 陛下よりも図が高いのもなんか違う気がするし、臣下の礼を取りながら跪いてみるとしよう。
「ヘクトル家が三男。ヴィクトルと申します」
「うむ。ヴィクトル、お前メイドが好きらしいな」
「はい。大変好ましいと感じております」
「どんな奴が好みだ?」
「……私の世話をしてくれる者が好みです。メイドと言う職自体も良い者ですが、好ましいと思うかどうかは、やはり相手の事を知っているか否か。手当たり次第にメイドを好いている訳では御座いませんので、悪しからず」
「うむうむ。では高貴な女はどうだ。髪も肌も手入れがされている。身体付きも年齢も、幼子から熟れた者まで選び放題。どう言った者を好む?」
「……内面を知らない事には選べません。私から見て見目の良い人間はありふれております。私は精神性をこそ重視したく思いますので」
「つまらぬな……女体の好みを語れ」
「正直、どれも素晴らしい。小さき体も、大きな体も。胸も尻も、個性です。抱きたいと思った相手であれば全て愛せましょう。いいえ……愛して然るべきでしょう」
俺はいったい何を語っているのだろうか……。初対面の、しかも国王陛下に。
そして目の前の陛下は一体何を問うているのだろうか……。頭おかしいんじゃ無いの?
「ふむ。男としてはまあ良い。不可は無い。では次だ。ヴィクトルよ、力を見せろ」
「と言いますと?」
「貴様の飛行能力。そしてキング種を倒した力の一端だ。そこの少し広い場所に立て。よし……始めろ」
俺が立ち上がって、家具などが置かれていない部屋の中央付近に立つと、陛下が指をパチンと打ち鳴らした。
その瞬間に姿を露わにしたのは、天井やら床やらに潜んでいた者達。
総勢六名の陛下の護衛と思しき人達が、俺の周囲に殺到しようとするので『サイキック』の腕で一人一人の顔を握り締める。
「申し訳ありませんが、キング種を倒した力を行使する場合、この部屋は狭過ぎます。加えて言うならば、飛行能力をお見せするのに戦闘は不要に御座います」
俺の『サイキック』の腕は、俺の腕を模したものになっている。それ故にイメージが容易く、それ故に出来ることが限られる。
だが便利な点があるとするならば、関節と痛みがないと言う事。これにより無茶な動きが可能で、且つ握力の限界が無い。
今も六人ともが顔の痛みに耐えかね、サイキックの腕を何度も叩いている。
戦いは既に終わったと判断して、速やかに魔法を解除。足元にサイキックの壁を作り出してそれに乗り上げ、陛下の近くまですーっと水平移動。陛下に向かって膝を突き、沙汰を待つ。
「発動速度、威力、気配の感知、発言からして上があるか。うむ、良いなお前。婿入りせぬか?」
「婿入りした場合に、私の能力は正しく使われるのでしょうか。私の愛する者を純粋に愛することは出来るのでしょうか。……ともすれば、私は私の力で以て、私の権利を主張させて頂く場合があるやもしれません」
「ふっ……図に乗るなよ
気配が一方向、俺の方へと差し向けられると、身体が硬直する様な、押さえつけられる様な感覚になる。
これに対抗するには魔力を纏えば良いのだろうか? ……うん、やってみたら凄く楽になった。顔を上げて陛下と視線を交わす。
「図になど乗っておりません。私の能力は国を変える程では無いでしょうが、誰であっても喉から手が出る程に欲しい力であると理解しているだけです。だからこそ秘密裏に、こういった場を設けたのでは?」
「やり難い男よな? 王族に名を連ねるなど、臥して拝するべき栄誉では無いか? 加えて言うならば、我が娘は皆、見目麗しい。玉石で言うならば玉ばかりだ。その玉にメイド服を着せて抱くのも一興であろう?」
……天才か? それは…………天才か?
「脱帽に御座います。…………脱帽に御座います」
「ふはははは! 本気で二度言いよったわ!!」
呵呵大笑と言った風に足を叩いて笑う陛下。恐らくこれは陛下も本気で笑っている気がする。
だが俺からすれば非常に魅惑の提案だ。なんだそのエッチなシチュ。王女殿下をメイド扱い? そして抱く? ……天才だろ。
揺らぎそうになる俺の視界の端。
————姉上のドロドロに濁った瞳が見えた。
俺の昂った感情が消え去った。恐怖で引き攣りそうな頬を堪える。
「どちらにせよ、私には過ぎたる立場に御座いますればばば……」
僅かに震えた声には気付かれ無かっただろうか? 気付かれていないと良いな……。
「ふっふふふ……まあそうさな、揶揄うのもこれくらいにしておくか。其方の娘の目が恐ろしいのなんの。名を確か……」
「トリアーナに御座います」
食い気味の姉上の返答。それも無機質で平坦な声。肉声から出力される機械的な声にある種の不気味さが滲み、感情によって漏れる澱んだ魔力が謎の威圧感を振り撒いていた。
「……う、うむ。まあ、なんだ。……ふ、ふざけ過ぎたな?」
おいおい、陛下。震えてんぜ、声が。
「……ヴァン、どうにかしろ」
「自業自得だ。我が家は普通では無い。それを知った上で揶揄ったのはそちらだ。……トト、トリテア、頼む」
あの、父上。震えてますよ、声が……。
「トリアーナ? 端ないですよ。ヴィルに相応しい淑女の取る態度がそれですか?」
「…………失礼致しました。私としたことが。おほほほ。さあ、ヴィル? 力の証明も済んだのならこちらに座りなさい」
「っ、はい」
言葉に詰まった瞬間、陛下と父上から向けられる目線。
ええい、やめろこっちを見るな。同情してくれるな!!
って言うか母上はなんで平気なんですか! おかしいでしょう!? 殺意じゃ無いけど昏い何かが滲んでましたよ!?
僅かな躊躇を押し殺して姉上の隣に腰掛ける。
即座に距離を詰め、肩を触れ合わせてにこやかに微笑む我が姉の姿に、俺は頑張って口角を上げる。
「ん゛っ、ごほん。さて、程良く場の空気も解れ、コミュニケーションも取れたな? 流石、我。……さて、少し時間を取ってしまったが、話し合いを始めようではないか!」
頑張って気を取り直した陛下が手を強く二度叩くと、見目麗しいメイドが複数人、扉から現れて、菓子や紅茶を並べ出した。
なんと言うか、俺と父上と陛下の心の距離は縮まったような気がするな、うん。