セクハラしてたらメイドハーレムが出来ていた 作:上り坂は下り坂
お茶と菓子を手際良く人数分並べたメイドは、俺が下した六人の刺客に肩を貸し、ヘクトル家とそのメイド、陛下とその執事を残して速やかに去っていってしまった。
だが俺の前に紅茶を置いてくれた赤茶色の髪の美人メイドが去り際にウインクしてくれたので満足です。茶がうめぇ〜!
厳選された茶葉、丁寧な淹れ方、そう言った技術とはまた違った何かがこの極上の味わいを引き出している! ……そう、言うなれば、メイド……だろうか?
先のメイドの美しい横顔を思い返している間に、陛下と父上の間で話が和やかに進んでいく。
どうやらこの二人、父上が当主になる前、陛下が国王になる前からの仲らしい。
かしこまった挨拶の直後にレオヴァスト陛下を“レオ”と呼んだ時からそんな気はしていたけれどもね。
「ヴィクトルは当分、我が家で戦略級戦力として確保しよう」
「頼む。ポストを用意するのも簡単では無いからな。しかもその立場の加減も難しい……。トリテアよ、案はないか?」
「一代貴族にしてしまうのはどうでしょうか? それなら領地を与える必要はありませんし、次代に技術が継承出来ずとも問題にはなり得ません。いざと言う時はヘクトル家の分家として扱う事も視野に入れておけば、幾らでも保護は可能でしょう」
「一代貴族……爵位が低くては揉め事になりかねんが、伯爵より下でなくてはならんか。特授騎士爵辺りにしておき、追加で勲章を与えるか」
「なるほど。であれば、魔王征伐の勲章が良いだろう。事実であり、他所の貴族も下手な行動に出難い。キング種を討てる戦力はそこいらの貴族よりも価値があるのだから」
「その様な優秀な息子を輩出し、さらにヘクトル家の名を上げるつもりか? 更には実姉をつけるのだから相当な策士よな? ヴァンよ」
「……レオ、お前は先のあの目を見てまだその様な世迷言を言うか。娘は既に制御下に居ない。外から見ればそう見えたとしても、私にそこまでの権力欲は無い。それはお前が一番知っているだろうが」
「すまんすまん。だが、征伐勲章があれば我の娘をつけても文句は出まい。その案で進めよう」
……流れる様にポンポン話が進んだ。
一代貴族である騎士爵を得ることになり、魔王征伐勲章も貰うと。ヘクトル家と王家の肝煎りとして、トリアーナ姉上と王女を一人貰い受ける事にもなる。……なんか出世したな、俺。
仮に子を作ったとしても、子に不必要な重責を負わせずに済むならばそれに越した事も無い。
「おい、ヴィクトル。我が娘を一人つけよう。現在空いているのが、七から十だ。好きな数字を言え」
「三、でしょうか?」
「寝取り趣味か……?」
「七から十での好きな数字という解釈で宜しいでしょうかあぁ!?」
「素直に好きな数字を述べたお前に我が驚いたわ」
「では、七でッ!!」
っぶねぇ! 既婚者選ぶつもりは無いっつの!! 脳死で答えちゃったよ!!
ちなみに七はラッキーセブンだから! それ以外に理由無し!
「第七王女殿下と言うと、ミリアリア様でしょうか? 確か今年成人なさる筈ですが……うぅん……」
「トリアーナよ、言いたい事は口にして構わん。この場は私的な場よ。無礼講としてやる」
「……では」
普段からハキハキと意思を表示する姉上には珍しく言い淀んだかと思えば、陛下がわざわざ許しを下す……。なるほど、あまり良い噂の無い御仁の様だ。
姉上は俺に申し訳無さそうに目を配りながらも口を開く。
「噂に過ぎず、確証も無い事を前提として言います。優秀では無いが、無能でも無い。口数も少なく、笑顔も無い。見目だけは確かに麗しい為に、冷血なる姫と揶揄されているそうです」
「うむうむ、全く相違無い事実だ。面白い事に、ミリアリアは我が娘でありながら何一つ秀でた物を持たぬ。しかし不得意もまた無い。全てを卒無く熟すために、誰も何も言えんと言う面倒な奴よ。いやあ! 良かった良かった! ヴィクトルが貰ってくれるのであれば、我も一安心と言うものよ!」
「噂に違わないのであれば、無用なやっかみも無いやもしれんな。魔王征伐者に王女を当てがうと言う形は、褒美を与える事にもなる為にレオとしても面子を立てやすい。……国外にも国内にも出し難い不良在庫を押し付けるにはお互い持ってこいだった訳だ」
「おお! やはりトリアーナはその手の奴だったか! お互い難儀な娘を持った物だ。だがそれもこれもヴィクトルが全て解決してくれた! いやはや、ヴィクトル、これからは義父としてよろしく頼むぞ?」
政略結婚の覚悟自体はしていたので、別に驚く様な事ではない。
エリアリア姫とも、少しずつお互いを知っていけたならそれで構わない。優秀だとか、そうで無いとかは、この際どうでも良い。
たださ? 娘を不良在庫って言うのは……いや事実かもだけど。
なまじ優秀なだけに外に出す方が怖いのが姉上ではあるし?
大して役に立たない置き物になんてなれば王家の面目が潰れるかもしれないし?
否定出来ない……貴族社会めんどくせぇ。一代貴族の方向で良かったぁ。
「恐らく叙爵と勲章授与は少し先の事になる。話し合いもこの場では草案を出し合って纏める程度しか出来んだろう。成人のパーティまでに婚約を結ぶのも難しい。……ヴィクトルの叙爵、勲章、婚約は同じタイミングで公表するか」
「ヴィクトル、飛行は披露しても構わん。しかしヘクトル領内以外でキング種を討伐して見せた力を振るう事は控えろ。良いな?」
「あ、はい。……では、先程見せた力までは行使しても宜しいと言う認識で良いでしょうか」
俺の発言に、陛下と父上の顔が曇った。
「力を行使する予定があるともで言いたげだな?」
「成人のパーティにて、“私のメイド”に
「レオ……あれだけでも白兵戦の強さが透けて見えるぞ。六体一を瞬時に制圧したほぼ不可視の力だ。どうする」
「……構わん。あの程度ならば、我が国にもある程度は居る。社交界を敬遠していた理由づけにもなるであろうよ」
「感謝致します。私と致しましても、平和的に話を付けたく思っておりますが、時として人の感情は合理を超えます。無理が通れば道理が引っ込むと言うもの。ですが、暴威が通れば無理も引っ込むのが世の常ですから」
「……力も含めて道理よな。……やはり、やりづらい男よ」
陛下は、言葉とは裏腹に顔に笑みを浮かべていた。
父上もまた溜め息を吐いていたが、俺を止める積もりは無さそうだった。
俺は、これからも世話になる父上と、これから世話になっていく義父上と握手を交わした。
仔細はまた煮詰まった頃に追って知らせてくれるそうで、それまでは派手な行動は控える様に言われた程度。
俺の話はこれにて一旦終了だ。はふぅ〜。
次の議題が父上、姉上、俺の連盟の性病完治と『クリーン』の拡大解釈による治療法の再現性の証明と言う功績。
これに関しては、魔法研究界隈がざわついたそうだ。
『クリーン』は特別大した魔法では無い。使用者は数多く、その中で優劣がある程度。
しかし、そういった基礎の様な手軽な魔法で病を治療出来る……回復魔法以外でも病を癒せると言う新たな事実は、全ての魔法の可能性に今一度、光を当てる事に繋がるかもしれない…………と言った感じで激震が走っている最中らしい。
俺の飛行能力も、基礎の基礎であるサイキックの熟達によって獲得出来る能力だ。
風属性の魔法使い達が血眼になって飛行魔法の習得や継承をしている所に、俺の型破りな飛行は酷い顰蹙を買う事だろう。
しかしそれこそが魔法の可能性。目を向けるべき事実であるからして。……既得権益や、一子相伝の技術を解明されただけで揺らぐ土台に収まっている貴族には、恐ろしい時代がやってくるのかもしれないな。
ともかく、不治の病を一つ無くした功績は大きい。
どうして性病になるのか、だとか。どうして性病が『クリーン』で治るのか、だとか。何が原因で、何が理由かが分からないのが魔法の駄目な所だが、不可能を覆したと言う事実に価値がある。
これを既得権益にする事も可能だったが、俺達三人は揃って首を横に振る。この情報を広く広め、魔法研究をさらに活発にさせていきたい。
理想は市政にまで性病治療の波が広がって行く事だが、俺達は貴族。既得権益を捨ててでも得るべき物は『ヘクトル家の利益』である。
この様な重要な情報を惜しげも無く晒し、広める度量こそがそれに繋がる。
貴族には『この程度晒しても痛くも痒くも無い』と言う牽制と余裕のアピールとなり、民には『民思いの領主一族』と言うイメージがつくだろう。
ヘクトル家の成り立ちは、祖先が子々孫々を思ったが故にあるのだ。
ならば今代のヘクトル家である俺達も、俺達の子々孫々を思うべきだろう。
それらを聞いた陛下からは、報奨金とは別にその心意気に勲章を授けねばなるまいと呵呵と笑っていた。
そして『お前達の様な者達ばかりなら良かったのにな』と小さく弱音を吐く。
善があれば悪もある。良心に付け込む悪人が得をするのは前世も異世界も変わらない。
繁殖とはまた別に自然発生する生物である魔物。それと戦い続けねばならないこの世界で、身内で食い合うのは不毛だろう。せめて助け合ってくれと願いたいだろうに、立場がそれを許さない。
国王の両肩に乗る重責は、俺では想像すら出来そうにないな。
…………この場を私的な場と陛下は言った。
ならば、旧友と酌み交わす時間があっても良いだろう。
「陛下、父上、母上。私と姉上は、出来れば第七王女殿下に顔合わせをしておきたく思います。部屋を辞する事をお許し頂けますか?」
「それもそうだな。ミリアリアは城内に居る筈だが、お忍びのお前達が出歩くのは好ましく無い。おい、何処か部屋を用意してミリアリアを呼んでやれ」
「承知致しました。では、ヴィクトル様、トリアーナ様。ご案内致しますのでどうぞこちらに」
陛下は壁際に控えていた執事を呼ぶと、簡潔に指示を出す。
執事は迷う事なく動き出し、俺と姉上はその背中を追った。ハルラとグリナにも顎をしゃくってついて来るように指示する。
部屋を出る間際、『お節介な義息だな』と言う言葉が聞こえた。嫌なニュアンスでは無かったように思う。
「ヴィクトル様、御心遣い、感謝申し上げます」
俺達を先導する執事からも、そのような言葉をぼそりと呟かれた。
それに肩を竦めて返し、それ以上は無言を貫いた。
精緻な装飾の成された荘厳な廊下を進み、幾つかのドアを通り過ぎた後。通された部屋にて待つように言われ、俺達はしばし身内のみの空間で骨を休めるのだった。