※この作品はR-18です。

セクハラしてたらメイドハーレムが出来ていた   作:上り坂は下り坂

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王女と三男は確かめ合う

*****

 

「あっカッコイイ」

 

 確かなノックのあと麗しきメイドさんが現れる。そのメイドさんの丁寧な所作で開かれた扉の先から、金色の髪と金色の瞳を持つすんごい美少女が、開口一番、俺を見てそんな事を呟いた。

 

 何が何やら分からない。が、しかし、兎にも角にも王女殿下の御成である。無能だろうが、有能だろうが、権威を疎かにする事は貴族には出来ない。姉上と揃って立ち上がって臣下の礼を取る。

 

「んん……こほん。楽にして下さい」

 

 言われ頭を上げ、先ずは自己紹介。その後、非礼を詫びる。

 

「お初にお目に掛かります。ヘクトル伯爵が三男、ヴィクトルと申します」

「同じく、ヘクトル伯爵が長女、トリアーナと申します」

「先ずは、急に呼び立て、御足労をお掛けしました事を深く謝罪すると共に感謝申し上げます」

「きゅんっ……構いません」

 

 なんだろう、好感度が上がった音がした気がする。

 ゆったりとした動きを心掛け、口角をほんのり上げて微笑みを維持しているだけなのだが。

 

 ともあれ赦しを頂き、お茶の席へと案内して腰を落ち着けた頃。ミリアリア殿下が口を開く。

 

「私は、オルヴェリア王国国王レオヴァスト・オルヴェリアが娘、ミリアリア・オルヴェリアと申します。現状に至る経緯を軽くしか聞いておりませんので、改めてお話しを聞かせて頂けますか?」

「承知致しました」

 

 俺が武勲やらで騎士爵を授与される事と相なり、少々特別な能力を有しているので両家からの楔代わりに姉であるトリアーナとミリアリア殿下を嫁に貰う話が出ている旨を伝える。

 

 ミリアリア殿下は思考に沈むかの様に視線を数瞬だけ彷徨わせると、俺と目を合わせ、そして直ぐにフイッと逸らした。……粗相はしてない筈なのだが。

 

「あぁ、えっと……さぞ優秀なのでしょうね。ええ。噂ではキング種を討伐されたとか」

「我が家の戦力は贔屓目抜きに精強に御座います。私はトドメを刺したに過ぎません」

 

 俺は嘘は言ってない。何一つとして。婚約がまだ定かでは無い相手に情報をそのまま伝える愚は犯すまい。俺の力はまだ秘匿案件だ。

 

「そ、その、私を選ばれたとのことですが、噂はご存知でいらっしゃいますか? 自分で言うのもなんですが、あまり良い目で見られてはおりませんよ、私」

「どう言う目で見るかは、個人の主観で決める事です。他所の赤子が立ち上がった所で何も思う所は無くとも、腹を痛めて産んだ赤子が立つだの話すだのすれば、それはもうお祭り騒ぎになりましょう? 極端な例を挙げましたが、とどのつまり他者の評価は指標でしかありません。私は私が見た貴方を大切にしたいと思っております」

「きゅんっ……!」

 

 好感度が上がった音がした。

 目の前の金色の乙女が胸元を抑える度に聞こえてくる。

 視線はどんどん合わなくなり、もじもじとしながら長い髪を指で巻いては解いてを繰り返すミリアリア殿下。

 

 姉上に目で問い掛けるが、姉上の方もよく分かんないらしい。困惑し切った目が返ってきた。

 

 その後も世間話がてら、得意な事や好きな事などを会話で引き出しあって行くのだが、話せば話す程、ミリアリア殿下の化けの皮が剥がれていく。

 端的に言うと、きゅんきゅんしまくって辛そうなのだ。

 見かねたのかメイドさんが殿下に耳打ちをすると、少し席を外すとの事で部屋を楚々とした様子を維持しながら出て行った。

 

「姉上……なんかチョロそうです」

「チョロそうだったわね……。仮に無能だとしても、ヴィルが主導権を握れるなら悪く無い状況だわ」

「無能に見えましたか? 言葉の裏は理解してる様子ですし、チョロい意外は普通に察しが良さそうで気が抜け無かったのですが」

「王族基準で無能と言う意味だった……? でも陛下は肯定していた……。そも有用なヴィルに無能を与える? 情報漏洩を考慮するならあり得ない。騎士爵に降嫁すると言う意味でなら厄介払いと言う見方は可能……んー、逆、かしら? 厄介払いと言う風に見せたい? ミリアリア殿下の隠れ蓑にヴィルが丁度良い可能性も……」

 

 得意な事は特に無く、苦手も少ない。好きな事は食べる事とオシャレをする事。取ってつけた様に宝石類も好きなどと言っていたが、その割に身に付けているアクセサリーは少なく、どちらかと言うとシンプルな貴金属のみの物が多い。

 俺と同じく嘘は言っていないと言った様子で、どうにも掴み所の無い人だ。

 

 俺達はミリアリア殿下の正体を炙り出すべく、会話を思い出しながら粗探しを始めた。

 

 

*****

 

 

 マーハに連れられて隣室へ移った私は、大きく深呼吸を繰り返し、落ち着いてから状況の把握に努めました。……努めた上で、落ち着けませんでした。

 

「不味いです、マーハ!」

「だから言ったではありませんか。キモデブ醜男を想像していると妥協ラインが凄く下がると……」

「すごいイケメンに見えます! 性格もかなり良く思えます! ちゃんと私を見ようとしてくれてて……凄くキュンです!」

「そのせいで素が漏れてましたしね。今頃向こうは困惑し切っているでしょう。下馬評が当てにならなさ過ぎると。ヴィクトル様だけはブレる様子はありませんでしたが」

「そうでしたね! でもそれよりも! 騎士爵だから領地無し! 魔王征伐勲章で外野は手出しが難しい! 降嫁だから厄介払い感もある! 楔役だから大任を仰せつかる事はなさそう! これはあれでは? 理想中の理想なのではありませんか!?」

 

 理想の役満です! 国内外に出し辛い王女を目指して来ましたが、ここに来てその苦労が報われるかもしれません!

 

 ……いいえ、まだです。少なくとも向こうが受け入れなくてはならない。ヴィクトル様の妥協ラインを探す必要がありますね。

 

 いやいや、そもそもです。好きな数字で決められた……とすると、お父様はかなり譲歩している。国王陛下が秘密裏な談合を設け、婚約相手を譲歩し、さらには伯爵家と王家から楔をつけねばならない人材?

 ヴィクトル様の魔王征伐勲章は……嘘も誇張も無い、真性の物? 当人は伯爵の騎士が精強なお陰だと言っていたけれど……いえ、精強と言っただけ。トドメを刺したのも事実。嘘を吐かずに真相を隠した? とは言え単独でキング種を討伐出来る戦力ならオルヴェリア王国にはそこそこ居る。ならばさらなる付加価値がある筈。何か噂……彼の、ヘクトル領の噂は……。

 

「マーハ。昨今のヘクトル領の噂を何か」

「っ! ……そうですね、短期間の内に至る所で魔物を討伐しては去っていく者。その者は常に二人の女を侍らせていた。ゴブリンの集落を潰し回り、囚われていた女性を助けた。チンピラが更生された。エルフの美女で有名な冒険者ギルドの支部長が最近恋煩いをしている、などでしょうか」

「短期間に至る所で……ルートは分かりますか?」

「流石にそれは。ですが、相当に短期間で場所を移動していた様です。馬車で二日は掛かる街と村にその日のうちに顔を出していたと言う話を小耳に挟んだ記憶が御座います」

「…………はい、把握しました」

 

 圧倒的な移動能力。拡張鞄を持たせれば高速大量輸送の実現。さらには当人が魔王征伐者。護衛が要らず、妨害が出来ず、下手に敵対すれば逆に一掃される。これほど使い勝手の良い者がかつて居たでしょうか。

 

 これなら納得出来る。お父様がここまで譲歩する理由も。急な呼び出しに王女である私が応えさせられた理由も。王女ですら情報を制限された理由も。伯爵と陛下が情報を出し渋り、楔を付けたがった理由も。

 

「マーハ、貴方の思うヴィクトル様の為人を聞かせてくださいまし。本腰を入れて相手をする必要がありそうです」

「……流石で御座います。私が知る限りの事をお伝えしましょう」

 

 これは、戦いですね。能力を偽れる相手では無い。全力で事に当たるとしましょう。

 

 

*****

 

 

 ミリアリアが去ってから十分程の時間が経った頃、ヴィクトル達の話し合いもまた一段落がついていた。

 

「評判通りなら王家の格が下がり、実力を隠していたなら他国や貴族に下げ渡すには恐ろしい、ヴィルと言う規格外と合わせて管理運用出来るならそれが一番楽と判断された可能性が高いわね」

「俺が七を選ぶかどうか分からなかった筈ですが」

「そこは陛下の譲歩でしょう。結果的に七を選んだ、ならばその抱き合わせでの運用を考えるのは当然ね」

「どちらにせよ都合は良い、か。了解。実力を隠蔽しているならその理由を探り、下馬評通りの無能ならそれはそれで一人の女性として見るだけ。真摯に向き合う事に変わりはない」

 

 トリアーナのヴィクトルを見つめる瞳に熱が宿る。

 そういう所が好き、その在り方が好ましい。相手を見つめて、相手を知ろうとしてくれる。変わらぬ誠実さと裏表の無さこそがトリアーナを惹きつける。

 

 後ろで二人の考察と会話を聞いていたグリナとハルラは話の内容をあまり理解出来なかった。前提となる知識の有無で言葉の裏にある行間が読めなかったのだ。

 それでも分かる事がある。二人が優秀である事だ。

 弟狂いとメイド狂いの姉弟だが、思考は速く、判断も素早い。時間を掛けずに予想を終え、無闇に結論を出さずに偏見を持つ事を避ける。

 

 未来の主であるヴィクトルの誠実さにグリナは安心感を覚え、その穴を突かれてもトリアーナが居ることでサポートが可能である事を理解してさらに将来が明るくなったと確信する。

 

 ハルラはもっと単純だ。凛々しいヴィル君かっこいい、頭良くてかっこいい、トリアーナ様は綺麗でもっと賢くて素敵。仕える主に対する尊敬をただただ深めていくのみ。だからこそ、その忠義は深まり、見合うメイドになろうと奮起する。

 

 前を向くヴィクトルの背中を見て、三人は知らず知らずの内にさらに惹き込まれていく。それはヴィクトルの持つカリスマ。背中を見せる事で士気を高め、自分を中心に一体感を増していく。

 

 父親であるヴァンはヴィクトルのその能力をこそ危惧していた。

 戦乱の時代ならば、領主になっていたのはヴィクトルやもしれない。

 昨今の魔物の活発化を考えると、ヴィクトルの背中に多くの民が目を灼かれるかもしれない。

 ヴァンは身内で要らぬ争いが起きる事こそが恐ろしかった。

 

 ヴィクトルが祭り上げられる前に騎士爵と言う立場を与える事で、当主の座を争う場所から先んじて一歩遠ざける。そうする事で、大成する積もりが無さそうなヴィクトルの意にも沿い、長男のヴィートリヒとも良好な関係のまま居られる筈。

 キング種を討伐したあの日から、ヴァンは今この時を待ち望んでいたのだ。

 

 そんな事は露知らず、ヴィクトルはただまっすぐに突き進むのみ。

 戻ってきたらメイドのマーハとミリアリアを見て姿勢を正し、お茶会が再開される。

 

「ヴィクトル様はどんな魔法がお得意ですか? 私は氷魔法が得意でして、夏場などは濃く抽出した紅茶に氷を入れる事でアイスティーを作って頂く事が好きなのです」

「それはなんとも素敵な魔法の使い方ですね。私の得意魔法は恥ずかしながら『サイキック』でして。手の届かぬ場所にある物を取るなどズボラな事に使っておりますよ」

「まあっ! それもまた素敵ですわ。私も“手を抜く事は珍しくありませんから”。にしても『サイキック』ですか、魔法界隈では初歩の初歩。そう言った魔法を見直す流れが来ているそうですが、ヴィクトル様は先進的ですのね!」

「いえいえ。我が家のメイドが便利に使っていて感銘を受けただけなのです。気付けば頻繁に使う様になっていただけで……」

「——ああ。確かヘクトル家には、魔女とも言われる“空を飛ぶ”メイドが居るとか」

 

 戻ってきて早々、ミリアリアは切り込んで行く。

 噂や小話、特異な者達の情報を小耳に挟んでは記憶し、それを呼び起こす。ミリアリアはその記憶力を生かして要領を掴む事が上手く、今回はヘクトル家の話をしながら情報を記憶の底から呼び起こしていた。

 話をしながら情報と情報を線で繋げ、恐れる事なく歩み寄る。

 

 トリアーナがゆっくりと目を細めるのを視界の端で捉えながら、ミリアリアは飽くまでヴィクトルに話を振る。

 目的はヴィクトルの反応。これにどう対応し、どう切り返すのか。ヴィクトルの対応次第でミリアリアは身の振り方を変える積もりなのだ。

 

「おお、ご明察です。その二名に私自ら教えを乞うたのですよ。どうやっているのだと。二人は惜し気もなく教えてくれて……自慢のメイドです。お陰で私の普段の生活は『サイキック』有りき。例えば……こうしてハンカチを落としたとしても……」

「まあっ」

 

 ヴィクトルは胸ポケットのハンカチを取り出し、机の外側で手を離す。

 そして落ちる途中のハンカチが突如空中で止まり、ゆっくりと机の上まで持ち上がり、ヴィクトルの手のひらに舞い戻る。

 

「『サイキック』で拾い上げて仕舞えば、従者の手を煩わせず、机の下に潜るなどの無礼をせずに済み、時間も無駄にならない。慣れてくれば今の様に落とした側から拾い上げる事も可能なのですよ」

「……それが、ヴィクトル様の強さの秘訣なのですか?」

「……んー、はいとも、いいえとも言えますね」

「それは内緒、と言う事でしょうか」

 

 力の出所を探るミリアリアだが、ミリアリアの目的はその情報では無い。飽くまでヴィクトルの対応の仕方が知りたい。

 王女にも隠すのか、警戒するのか、言ってしまうのか。その際に怒るのか、困惑するのか、悩むのか、見せびらかすのか。

 ミリアリアは和かな表情の裏で鋭い視線を飛ばし続ける……のだが、不意に響く笑い声。

 

「あっはははっ! ……あいや、失礼、『内緒』と言うのが可愛らしくて。曖昧に答えたのは、内緒なのでは無く、判断が難しいと言うだけなのです。私がキング種にトドメを刺した際に最も重要だった能力は、恐らく魔法と隠密。そして普段からの鍛錬と冷静な判断力だったでしょう。ですので、一概にどれが秘訣かと言われても答え辛いのです」

「……つまり、そのどれもが重要で有り、『サイキック』はその中のいち要因でしか無いのですね。……どうして、そんなにも正直にお教え下さるのでしょう? 婚約が決まった訳でも無い相手に、無能と評される私相手に」

「ミリアリア殿下が、知りたそうだったからです。嘘を吐かなくて良い範囲でなら、答えられる範囲で答えたい。私がそう思ったのです。もちろん戦いの詳細は語れませんし、『サイキック』の運用方法も言いません。私の真価が何であるかは現在秘匿事項です。……だからこそ、婚約者になるかもしれない貴方様には、出来る限り誠実に在りたかった」

 

 ヴィクトルは嘘が嫌いだ。自分が嘘を吐く事が、嫌いだ。

 後ろめたい思いをしたく無い。罪悪感を覚えたく無い。少しでも気楽に生きて、メイドとイチャイチャを楽しみたいが為に、面倒を背負う事を避ける傾向にあった。

 

 吐いた嘘は、いつまでも嘘のまま対応するべきなのか。その嘘で傷付く人は居ないか。気持ちはちゃんとありのままを伝えねば、伝わり切らないと言う事を前世で読んだラノベ主人公から学んでいるから。

 

 究極的には、モテたい、楽がしたい、この二つの要因がヴィクトルから裏表を取り払っていた。

 

「…………はぁ〜」

 

 ミリアリアから似つかわしく無い程に大きな溜め息が漏れる。

 

 以前ジニアはヴィクトルに裏表が無いことが手に取るように分かってしまうと言っていた。

 ミリアリアもまた同じ所感を抱いたのだ。それが読み取れる程度には、王族として多くの人間を見て知っている。

 ミリアリアはこの男にこれ以上、芝居を打つ必要性を感じなかった。誠実であろうとしてくれているのなら、こちらも誠実で応えねば王家の名が廃る。

 

 劣等者である事を捨てる。

 第七王女として、気概と心構えで伯爵家の三男に劣る訳にはいかない。

 

「素敵ですわ、ヴィクトル様。感服です。貴族でありながらその清廉さと潔白さ。驚嘆に値します。ですので、私もまた貴方に倣いましょう。私、ミリアリア・オルヴェリアは、スローライフを望みます。穏やかな生活。ゆったりと流れる時間。何に縛られる事も無く、ただ好きな者と好きな様に時を過ごしたい。それが私の目的であり、夢です。そして、貴方とならばそれが叶うと判断しました」

 

 劣等者としての仮面を取り払ったミリアリアからは、レオヴァスト程とは言わずとも、王族としての存在感とそれに伴う覇気が放たれていた。

 今のミリアリアを見て彼女を軽視する者はおそらく居ないだろう。そんな彼女の口からは傲慢さを煮詰めたかの様な身勝手な願いが垂れ流された。

 

 今度はヴィクトル達が唖然とする側に回る。

 

「ヴィクトル様、トリアーナ様。どうか、私を選んでは下さいませんか? 勿論世継ぎも作りましょう。私にスローライフを提供して下さる限り、私はスローライフを守る為に、貴方がたに私の能力を用いたサポートを惜しみません。如何でしょうか?」

 

 ヴィクトルが騎士爵を賜れば、ヴィクトル達はヘクトル邸とは別にはなるが同じ敷地内に別邸を与えられ、そこに住まう事になるだろう。

 ヘクトル家の敷地となれば、守護獣が住まう山があり、緑豊かでスローライフには持って来い。それに騎士爵程度が開く茶会など無いに等しく、あっても精々が義母となるトリテアの手伝いや義理での参加程度。

 ヴィクトルの能力を加味すると、雑務や極秘書類の整理などがミリアリアに振り分けられるかもしれないが、その程度ならばミリアリアの処理能力があればスローライフを妨害するには値しない。

 

 様々な可能性を考慮した上で、ミリアリアはヘクトル伯爵家とヴィクトルと言う人間を信じると言う賭けに出たのだ。

 

「…………ふ、ふはは。あっははは! 良い! すごく良い! 私も、いや俺も! スローライフには惹かれるものがある! 好きな者達とゆったりとした時間……素敵じゃないか! 作物を育てるのも良いな。それともガーデニング? 料理の研究も奥が深いが、それこそ全部を好きにやるのも良い」

「んふふふ! ええ、ええ、良いじゃありませんか! 王女らしく無く野を駆けることも夢でして、小川でも遊んで見たかったのです!」

「小川か! 釣りなどどうだろう! 退屈なくらいゆったりとした時間を過ごせるはずだ」

「きゃー! 素敵! 麦わら帽子を被って木陰の下で、ただ糸を垂らす時間! 小川のせせらぎと小鳥のさえずり!」

「お腹が空いたらサンドイッチでも齧って!」

「日が暮れたら空っぽの釣果を笑いながら歩いて帰る!」

「帰ったら出てくるのはその小川で獲れる魚だったりして!」

「んんんん! それ良いッ!!」

 

 興奮した様子で妄想を繰り広げる二人。

 今度はトリアーナ、マーハ、グリナ、ハルラが唖然とさせられる。

 

 性格の擦り合わせによる本性の暴露。次いで広がる想像の合致。まさかの意気投合。

 取らぬ狸の皮算用ではあるものの、理想を描く事は万人に与えられた自由。それが他を虐げる物ではなく、まして誰かに迷惑を掛ける事でも無いのなら、それこそ止める理由が無い。

 

 それからヴィクトルとミリアリアは時間一杯まで二人で想像を膨らませ、絶えず会話を続けていた。

 マーハに見せる笑顔とは全く別の純粋な笑顔を浮かべるミリアリア。

 最近はめっきり見せなくなった、幼き日の無垢な笑顔を浮かべるヴィクトル。

 

 大人として、貴族として、王女として、そう言った何もかもを取り払った所で言葉を交わす二人に割って入れる者はこの場には居なかった。

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