セクハラしてたらメイドハーレムが出来ていた 作:上り坂は下り坂
ハークロックから受け取ったレインとの魔法の契約書を懐に収め、俺は次なる標的に狙いを定める。
受け取った情報通りの位置で壁に身を預けてクールに佇む灰髪のイケメン……ヘルミット・ハイドの姿があった。
事前情報としては相当な野心家で性格は良くは無い。貴族的に見るならば素直な方らしいが、そこは魔窟過ぎるだけで十分性格は悪いだろう。
何せ俺の大好きなメイドで暗殺と、メイドを殺す事で証拠の抹消を図る奴だぞ。オラおめえだけはぜってぇ許さねえ。どうやって叩き潰そうか考えるだけでワクワクすっぞ。
パーティは陛下がやってくるまで始まらない。出来るならばそれまでに全てを終わらせておきたい所だ。
気配を抑え、殺意を散らし、悠然と歩いてそれとなく近寄って行く。
ヘルミットは俺と言う存在をしっかり認識しているようだ。目がしっかりと俺を捉えている。ならばこちらから自然に挨拶をさせて貰おう。
「ハイド伯爵家の次男、ヘルミット殿とお見受けする。隣、良いだろうか」
「同じ伯爵家だからと図々しい奴だ。私は次男。貴様は三男。……分を弁えろ」
言葉の節々から滲む見下すようなニュアンス。目の敵にするかのような刺々しい視線。器が小さいな。
「何をそんなに苛立っているのか。真の強者は余裕を持っているものだ。今のヘルミット殿に強者らしさは見えないぞ」
「キッ……。口だけは回るらしい。良いだろう、好きにしろ」
上下関係に厳しく、上昇思考と言うよりも差別意識が強い様にも感じる。こう言うタイプは人を平気で道具の様に使えるタイプだ。子が子なら親も親なのかねぇ……。
絶対にシャオは俺が貰い受けてやる。二度とこいつの下には行かせない。
灰色の髪と、黄色い瞳。吊り目でその眼光は獣のようにすら見えるほどに鋭い。
立ち姿からは、程良く鍛えられている事が読み取れ、放つ存在感や感じる魔力量は相当。とは言え、せいぜいが中の上。才能が足りないか、努力が足りないか、師に恵まれていないか、環境が悪いか。
倒すだけなら難しく無い。面倒なのは付近で警戒している赤髪の執事。おそらくシャオと同じ部族の者だろう。こちらは相当に鍛えられているのか隙が無い。戦闘メイドで言うならグリナに匹敵しそうな雰囲気がある。
手を出し辛いな。強行しても良いが……。
と、思案しているとその赤髪の執事が動いた。魔力を即座に動かし、いつでも『サイキック』の発動に移れる状態に移行。赤髪の執事は躊躇無く歩みを進め、ヘルミットを挟んで俺の反対側で構える事なく足を止めた。
「ヘルミット様、無理です」
「…………黙れ」
「俺は勝てない戦いはしない主義なので」
「……黙れっ」
「絶対に無理です。コレは化け物ですよ」
「クッ……ぎっ……クソがッ……!!」
何やら勝手に話が進んで行く。凶行に出た場合に即座に取り押さえられる様に魔法の用意は維持したまま、成り行きを見守る。
執事が一方的に否を告げ続け、ヘルミットはそれに苛立ちを隠しもしない。そしてその感情は俺に向けるべきものだった様で、ヘルミットは強がるかの様に不気味に笑って懐から一枚の羊皮紙を取り出して見せた。
「ハッ、お前が欲しいのはコレだろう? あの貧相なメイドは何の役にも立たない無能だった事が分かったんだ。くれてやるよッ」
足元に叩き付ける様に放り捨てられたそれを、俺は『サイキック』の腕で拾い上げ、中身を確認する。シャオの名とハイド家の文字を確と確かめ回収する。
どうしてハークロックに続いてヘルミットまでもが契約書を持ち込んでいるのかと言えば、俺がレインとシャオに最後の仕事として二家にそう伝えさせたからだ。
前者にはただの交渉として。後者には宣戦布告の様な文言で。
「確かに頂戴した」
ヘルミットは歯を食い縛ると黄色く鋭い瞳でこちらを睨みつけ、わざと俺に肩をぶつけながら去って行く。
「死ぬ事も出来ないクソメイドがッ……」
————『サイキック』
「あがッ……!? んっ!? んご、がっ!?」
俺の直ぐ後ろで、ヘルミットが直立して動きを止めた。もがく様に目だけがギョロギョロと動き、顔や袖に指の様な窪みが浮き出る。
赤髪執事は、ヘルミットを助けるでもなく俺の前にやってきた。
「あの小さき者を救ってくれた事、同じ一族の者として感謝する、ヴィクトル・ヘクトル」
「シャオは立派だ。俺はアイツを気に入った。自らに出来る事は無いかと積極的に学び、そして役に立とうと奮起出来る。死ぬべき者では無い。クソメイドなどでは断じて無い」
「……否定はしない。俺が何を言っても信じられないだろうからな。だが、一つだけ。そろそろヘルミット様を離してくれ」
「んもごっがっんん!?」
不愉快極まり無い。シャオは確かに貧相かもしれない、暗殺者視点で見れば無能かもしれない。だが死ぬ事を強要されるべきでは無く、また、クソなどでは絶対に無い。
暗殺だって、紅茶だって、メイドとしての振る舞いだって、全てシャオは命令に応える為に努力したんだ。一族の誇りを守る為に、命を賭けたんだ。その努力を否定などさせて溜まるものか。
「頼む。俺から言って聞かせる。ヘクトル家に手出しはもうしない」
「一介の執事の言葉を信じられると思うか」
「ハイド家とて馬鹿では無い。竜の尾を踏みに行く様な愚者ならば、伯爵になどなってはいまい」
「…………良いだろう」
『サイキック』に込めていた力を少しずつ抜いて行く。カッとなってしまいそうな激情を押し込めて、ヘルミットの両足、両手、顔につけた五つの『サイキック』の腕をゆっくりと……消して行く。
「がはっ……けほ、げほごほっ……ヴィク、トル……ッ!!」
「ヘルミット様、もう終わりです。相手が悪い。あれに勝ちたければ、今の百倍努力して頂く他無いかと」
ヘルミットが赤髪の執事に連れられて去って行く。野心に支配された瞳に、俺は濃縮した殺意を意図して飛ばす。
「ヒっ……!?」
気配も、感情も、魔力も、完全にコントロールする。その技術の一端が威圧だ。
雑で半端な者ならば、無差別にそれを振り撒くだけ。だがしっかりと鍛錬を積めば、たった一人を狙ってそれを飛ばす事も出来る。
ジニアとの隠れん坊。サイキックとクリーンによる魔法と魔力の制御。これらの経験が相まって、俺は魔力を飛ばして威圧するのが割と得意だ。
ジニアはゾクゾクすると言って押し倒してきたが。
「なんにせよ未熟。威圧で怯む程度なら百人相手でも負けはしないな」
はぁ。どうせ魔力を操るなら、ティア支部長かウィノにやりたい。あの二人ならエッチなあれこれに発展出来るのに。
好きこそものの上手なれ。楽しいエッチが待っていると思えば、面倒な訓練も最高のスパイスでしか無くなる。モチベーションの維持には非常に有意義な報酬だ。
さて……。
「お待たせした様で、スティア嬢」
「あら、お気付きでしたのね。流石、ヴィクトル様ですわ」
一体いつから俺を見ていたのか。一体いつからそこに居たのか。
少なくとも俺がサイキックを用いる少し前から俺の近くに居た事は確実。俺の魔法を見て興奮したのか、気配がブレた事で漸く気付けた。
俺の後ろ、壁際。髪と同系色の藍色のパーティドレスに身を包んだ、メリハリのある身体の美しき女性が、シャンパンの入ったグラスを片手に微笑んでいた。
*****
ああ、なんと雄々しい魔法。なんと勇ましい立ち姿。ただのメイドの為にここまでするだなんて、わたくしも彼のメイドになればこんなにも愛して頂けるのでしょうか。
ハイド領の戦闘民族と正面切って話をし、向こうに譲歩を強いる……。
メイドの為に、契約魔法をどうやってか任意でその場で解除する荒技まで用いる……。
先のハイドの次男を縛った魔法はサイキックでしょうか、わたくし以外にも目を付けた方が居るだなんて思いも致しませんでした……。
はぁぁ……なんたる僥倖! こんなにも膨大な魔力を持ち、発想は柔軟、なのに善良な人間性まで備えているだなんて……!
「初めまして、わたくしはスティア・リーデース。リーデース侯爵家が四女。身の振り方に困っている、ただのうら若き乙女です」
「こちらこそ、お初にお目に掛かる。ヴィクトル・ヘクトル。ヘクトル伯爵家が三男。将来はメイドを愛でる仕事に就きたい男だ」
「まあ、ふふ。ではわたくしも貴方様のメイドになって愛でられてみたいですわ」
「貴方の様に優秀な方にメイドになられると、おちおち眠れ無さそうだ」
立ち居振る舞いは変えず、視線だけで最大限の警戒。魔力を活性化させ続け、いつでも攻撃に対処出来るよう迎撃態勢。わたくしの一挙一動に目を光らせ、未だ何もしていないわたくしをこんなにも意識してくれている。
あぁ、達してしまいそう……♡
……わたくし同様に社交の場を避けて居たにも関わらず、其処彼処から噂が止まらなかった傑物、ヴィクトル様。
根も葉も無さそうな噂ばかりが広まり、そのどれもが嘘臭く、それでもどれかは真実なのだろうと探りを入れた結果、噂のどれもが真実に近かった。
何か一つでも真実であれば面白いと思っていたのに、メイド好きで、高速で領内を飛び回って、キング種を討伐して……有能の一言に尽きる。
リンナの視界越しに読唇術で読み取ったユーラの口の動き。あれでヴィクトル様が絶倫である事も知れた。ヴィクトル様が浄化が得意である事も、理性が強い事も、メイドを心から愛している事も知れた。
あの二人は非常によく働いてくれました。有能です。もう十分です。
「うっふふ、ヴィクトル様? ユーラとリンナはお分かりになりますよね?」
「……ええ」
「わたくし、彼女達との契約書、持参しておりますわよ」
「……貴方には、そう言った情報を流した覚えは無いのですがね」
「いやですわ。あんなにも見つめ合った仲ではありませんか」
「リンナ越しに、でしょう」
「うふふ」
わたくしの目的を考えるならば、彼との既成事実を作るのが手っ取り早い。彼なら十分に相応しい。けれどメイドの扱い方を間違えてしまいました。今のまま彼の庇護下に入る事は残念ながら難しいでしょう。
ならば……やはり、この下らぬ地位はさっさと捨てるのが良さそうですね。それはそれとして、打てる手は打っておきましょうか♡
「ヴィクトル様がお望みとあらば、譲って差し上げても構いませんわ」
彼との距離を無防備に詰める。胸元に手を添え、優しくなぞり、この大きな胸を押し当て谷間を潰し、上目遣いで……。
「抱いてくださるならば……♡」
男の誘い方は心得ている。必要だから学んできた。必要だから他者を利用してきた。自分が利己的である事は自覚している。その為の犠牲を惜しんだ事も無い。
全ては、侯爵家なぞに生まれた自分が悪いのだから。
「……パーティが始まって挨拶を終えた後。場所を変えましょうか。二人きりで話せる場所に」
「ふふ。楽しみにしておりますね、ヴィクトル様……♡」
利己の極みである自分と、利他を本懐とするメイド。
彼に気に入って貰うためには一体どう動くべきなのでしょうね……。
作者はヘルミット嫌いじゃ無い。でも多分もう出てこない。かなC。
スティアはヒロイン候補。
ちなヘクトル家の価値が高くて近付いて来た令嬢はヴィクトルのしっかりした応対で普通にちょっと惹かれてる。
ヴィクトルは真面目にスイートコーン令嬢と仲良くなりたいと思っている。甘いとうもろこし食べてーんすな。