※この作品はR-18です。

セクハラしてたらメイドハーレムが出来ていた   作:上り坂は下り坂

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ベッドの上の戦い

 

*****

 

 スティアは侯爵家に生まれた。

 公侯伯子男における、上から二番目。一番上の貴族位である公爵は現国王の血筋の関係者に当たる為に、実質的に貴族位の最上位。

 侯爵家に求められるのは、ひたすらに能力である。

 

 領地を運営する能力。

 人を使い動かす能力。

 魔を退ける戦闘能力。

 政治の為の能力。

 

 種類だけなら多岐に渡る。誰が何を持つかなど誰にも分からない。だからリーデース侯爵家は子どもに有りとあらゆる教育と経験を積ませる。

 

 料理も裁縫もやった。戦闘も隠密もやった。人事も商売もやった。メイド業務も淑女教育もやった。魔法とその研究もやった。

 

 スティアはその全てに置いて高水準の結果を残した。

 スティアはその全てに置いて突出した能力を示さなかった。

 

 リーデース侯爵家は突出した類稀なる才を求めた。故に、スティアは居ても困らぬが、居なくても困らない存在となってしまった。

 

 期待に応えようと努力した、し続けた。でも望んだ結果を出せず、愛されず。可愛がられはしても、目を掛けられるのは他の兄弟姉妹達だった。

 スティアの中には空虚がある。何も得られなかった虚無がある。空っぽの隙間を埋めたくて埋めたくて、最後に価値を示せるとしたら優れた容姿。

 リーデース侯爵家に相応しい突出した存在との婚姻は大きな価値を生む筈だと考え至る。

 

 スティアは探した。情報を集め、間者を忍ばせ、手の届く範囲で手を打ち続けた。そして見つけた、ヴィクトルと言う才能を。

 自分と同じく社交界に顔を出して居ないのにも関わらず、人伝に広まる程の噂話。良くも悪くも才能がある。見い出し引き出す価値がある。

 

 スティアは成人のパーティ直前まで手を打ち続け、そしてリンナに共有させていた視界が途切れた事で確信した。常人離れした魔法の腕を持つ事を。

 理論上可能とはされているが、その労力を払う意味を見い出せぬと誰も実行しない契約魔法のフルマニュアル解除。双方の合意を得た上で、どれだけ繊細な技量を要求されるかなど、魔法使いであればある程理解出来る。

 それをやってのけた正真正銘の天才がヴィクトルなのだ。

 

 だから誘った。だから子種を欲した。既成事実を作ろうと思った。ユーラとリンナの契約書を提示した。

 

 けれども、スティアは疲れてもいたのだ。そしてそれを自覚もしていた。

 評価されない場所に居続ける意味。愛されない場所に留まり続ける意味。リーデース侯爵家で在り続ける以上、付き纏う有能であると言う義務。

 

 スティアは有能で無くても、才能が無くても、認めて貰いたかった。褒めて貰いたかった。少しで良いから、愛されたかった。

 

 疲れ果てた少女は自分の事から目を逸らし、侯爵家の一員として振る舞い続ける。それが貴族の、侯爵家としての義務なのだから。

 

 

=====

 

 

 陛下の入場が告げられた。ダンスホールの扉がゆっくりと両開きに開かれ、ミリアリアを連れたレオヴァストが堂々たる振る舞いで姿を見せる。

 

 一歩一歩を見せ付けるかの様な遅々とした行進。楽団が厳かな曲を陛下の御姿を引き立てる様に控えめに奏でる。

 会場中の貴族が陛下に向けて頭を下げた。令嬢も下品にならぬ様に胸元に手を抑え、谷間を隠す様にして頭を垂れる。

 

 一方で、陛下の後ろを細々と歩く威厳の無いミリアリア。この場に置いてその演技を全う出来る精神力はよくよく考えるとおかしい。

 しかしミリアリアの堂に入った不出来な王女感は今に始まったことでは無いのだ。誰も訝しまず、怪しまず。寧ろ相応しくないと腹を立てる。

 これはこれで狙い目かと野心家の貴族令息が目を鋭くするが、ミリアリアは動じない。誘いを断る時だけは勢いと覇気を纏うからだ。

 

 不出来を装う王女を引き連れ、レオヴァストがゆったりと壇上の豪奢な椅子に腰掛ける。そしてよく通る声を魔法で拡声し、パーティの開始を告げた。

 

 成人を祝うパーティが始まった。

 大人の世界へと放り投げられた子どもだった者達の争いが始まった。

 

 ヴィクトルとスティアは一旦別れており、それぞれ陛下と王女殿下への挨拶のタイミングを待つ。

 その間に他の同年代の者達と表面的な交流を持っておくのだ。これは必要なカムフラージュである。特にヴィクトルに必要なもの。

 

 未発表ではあるが、ミリアリアとの婚約は確定事項。でありながら、パーティ会場にてスティア侯爵令嬢と共に居続けるなど早速スキャンダル。

 まして二人で会場を抜け出してお話し(意味深)をするなど、あらぬ疑いを自ら作り出すような蛮行は許されない。

 

 ……と言うのが建前としてはある。

 だが、ヴィクトルは長男の失態を拭えた事実を思い返し、堂々たる様で部屋を借りる積もりだった。仮にヴィクトルが失態を晒そうとも、ミリアリアの駄目っぷりを見ると逆にお似合いなんじゃないかとすら思ったからだ。

 不出来な王女の評価のお陰で、ヴィクトルは行動を縛られない。妙なシナジーが生まれていた。

 

 

 爵位の高い者から順に王族に挨拶に伺う。スティアは挨拶を卒なく熟す。……スティアはミリアリアの本性を疑うことは無かった。

 

 次いでヴィクトルが挨拶に伺う。初対面を装った挨拶にレオヴァストとミリアリアが応えるが、ミリアリアの仮面が少し剥がれる。

 

「ヴィクトル様、仲良くして頂けると幸いです」

「こちらこそ、よろしくお願い致します、ミリアリア殿下」

 

 同好の士と認められたヴィクトルにだけ返された一言。そして美しき微笑み。ヴィクトルは『こいつやってらぁ』と苦笑いで流したが、ヴィクトルの後ろに居た伯爵令息の心臓がキュッと締まっていた。

 

 

 さておき、義務を終えたヴィクトルとスティアは程々に時間を潰した後、ドア近くで落ち合うと近くの執事に声を掛けて部屋を借りた。

 会場を出る際にヴァンからヴィクトルに向けられた呆れた視線をヴィクトルはわざと無視した。

 

 執事に案内された先は、月光が差し込むムードが漂う部屋。

 ベッドが一つ、ソファが一組、窓際にティーテーブルが置かれ、トイレと浴室が備え付けられた、まるで致して下さいと言わんばかりの様相。

 

 執事が静かにドアを閉めると、二人は会話も無く歩みを進めてベッドに腰掛ける。

 そして……すぐにヴィクトルがスティアを押し倒した。

 

「やぁん、そんなに焦らなくても、わたくしは逃げませんわ」

「万が一にも逃さない為だ。契約書は」

「わたくしの秘密のポケットの中ですわ。まさか……淑女の身体を無遠慮に弄るお積りで?」

「その積りだ」

 

 ヴィクトルは言葉を言い切ると同時にサイキックの腕を作り出してスティアの拘束に動き出す。

 

 しかし、ヴィクトルのサイキックの腕が止まった——否、止められた。

 何か壁の様な、肉眼では見えないそれに空中で阻まれていた。

 

 右から、左から、追加で腕を足して拘束に動くが、その行き先にやはり壁が展開されている。

 ヴィクトルは魔力を瞳に集め、スティアを中心に据えながら、視界の端に映る半透明の壁を確認した。

 

「『サイキック』の壁……同類か」

「流石ヴィクトル様、直ぐに気付いてしまうのですね」

 

 ヴィクトルはベッドの上でスティアの腕を掴んで組み伏せたまま、拘束のためにサイキックの腕を動かすが、傷を付けられない為に威力を出せず、スティアの壁を突破出来なかった。

 

 四本、五本、六本、七本……そしてヴィクトルの今の限界である八本目の腕を出しても、その全てを壁で防がれた。

 

「力付くならばわたくしの負け。しかし傷が付けばわたくしの勝ち。拘束されない為に腕の様なそれを防ぎ切ればわたくしの勝ち。わたくしの同時展開の限界を超えられてしまえばわたくしの負け、ですわね」

「幾つまで出せる」

「十はいけます。ヴィクトル様は、その腕の形に処理能力を割かれているのでしょうね。どうやらこの場はわたくしの勝ちでしょうか? ふふ」

 

 ヴィクトルと同じ魔法。ヴィクトルよりも多い手数。

 技術的な敗北を認めたヴィクトルは、スティアの華奢な腕を掴む手を緩め、魔法の腕もまた消し去る。

 

 そして、組み伏せた状態から徐々に身体を倒してスティアの目前にまで顔を寄せた。

 

「わたくしの見目は、お眼鏡に適いましたか? この身体を貴方の好きにして良いのですよ」

 

 スティアが藍色の髪を結っていた髪留めを取り払う。濡れた瞳を妖艶に細め、艶やかな唇に自らの指を這わせる。その指は徐々に身体を下りていき、大胆に開かれた胸元へと辿り着くと、深い谷間を広げていった。

 

 だがヴィクトルは女体そのものは見慣れている。同等の見目を持つ姉やメイドを幾度も抱いてきた。故に指の先を目で追いはしても、興奮を顔に出す事は無い。

 

「スティア嬢、俺が貴方を抱く事で生じるメリットは俺との既成事実による嫁入り。ヘクトル家との縁。俺個人の能力の利用。その程度だ。俺で無くとも良い。同年代に的を絞る理由が無い。もっと広く人を見れば俺と同等以上の利用価値のある者は大勢居る。……何を焦っているんだ」

 

 その問いにスティアは言葉を詰めてしまった。視線を揺らがせてしまった。動揺を漏らしたのだ。

 鼻頭がぶつかる距離でその一瞬の隙を見逃すヴィクトルでは無い。

 

 スティアの背に腕を回し、抱き締めながらサイキックを身体から滲ませるように発動。スティアの身体をしっかりとサイキックで掴まえた。

 

「あら……あらら……。捕まってしまいましたね。……わたくしに、抱く程の魅力はありませんでしたか……?」

 

 身体にピッタリと沿う様にサイキックを展開されたスティアが負けを認めた。ここからでは逆転のしようが無い。精々が強姦されていると叫び声を上げることだろうが、それをすればスティアの人生が無価値になる。敗北はしても、誇りの無い言動を取る事は出来ない。

 

 そして敗北と同時に、スティアの心が限界を迎えた。

 

 己の最後の価値である容姿すら中途半端だったのか? 優れてはいてもそれだけ? 優れているに過ぎないのか?

 スティアの最後の寄る辺が崩れ落ちていく。ぽろり、ぽろりと剥がれ落ち、流れて落ちてベッドに染みを作る。

 

「お前、泣いてるのか……?」

「……え? あれ、なんで……? あぁ……限界でしたか。最後まで駄目ですね、わたくしは……」

 

 とめどなく溢れる涙は、月明かりを反射してシーツを濡らした。

 顔も声も泣いていないのに、目から涙だけが溢れていた。

 

 スティアは自己分析を済ませ、己の内側で折れてしまった心を看取る。

 

 ヴィクトルはその姿を見て考えを改める。そう言えば、まだたったの十五歳の少女だったじゃないかと。

 そしてこの泣き方は本当に心が疲弊し切った人の泣き方である事を知っている。ヴィクトルの前世は平和で娯楽に溢れて豊かだったのに、こんな泣き方をする人がそこら中に居た世界だったからだ。

 

 ……ヴィクトルは居た堪れなかった。

 ……スティアは全てに見切りをつけた。

 

 そして、スティアが胸元の隠しポケットの場所について口を開くと同時、ヴィクトルがスティアの拘束を解いて優しく赤子を綾す様に抱きしめる。

 

「俺には分からない事だらけだが、よくがんばった。良くやった。お前は立派な侯爵令嬢だと俺は思う。人様を傷付けたり利用するのは俺は好きじゃないが、貴族としては立派だった、と思う」

 

 疲弊した心には、慰めでも言葉が要る。人肌が要る。ヴィクトルはそれを知っているから、なんとか寄り添おうと強く抱き締めた。

 

「………………ほんと、ですか」

 

 スティアの雫がヴィクトルの肩を濡らす。

 ヴィクトルの硬い手がスティアの髪を丁寧に撫でる。

 

「ああ。身体を見ればかなり鍛えられてる事が分かる。腕を掴んだ時に少し硬くなった手の平が見えた。魔法の技術も凄まじい。知識も俺を凌駕していた。隠密技術も、女としての魅力も、科の作り方も、全て努力して身に付けた技術だと見受ける。純粋に凄いよ、お前」

「…………ほんとぅ……ですかぁ……?」

 

 震える声。小さくなる身体。

 確かな声音。包み込む温かさ。

 

「正直、柵が無ければ抱いてた。条件有りとは言え、魔法で負けた。知謀ではそも負け続けてる。スティア嬢、よくがんばった、えらい、すごい、かわいい、きれい」

「……うぅぁぁ……雑ぅ、なのにぃ……あぁぁぁ……」

「この部屋で起きた事は、秘密にしてやる。だから、今は泣け。目一杯、沢山、満足するまで涙を流せ。……俺が受け止めるから」

 

 スティアはこの日、初めて声を上げて泣いた。

 侯爵令嬢と言う立場を捨てて縋り付いた。

 褒められ、認められ、人の温もりを知り、思い遣りを知り、子どもの様に泣いて疲れて、そしてヴィクトルの膝で眠った。

 

 泣き腫らした目。穏やかな寝息。呼吸に合わせて揺れる大きな乳房。

 ヴィクトルは眠るスティアの乳房に手を沿わせ、何度かスティアの視線が移ろいだ場所を探る。

 ドレスの縫い目に偽装されたポケットがあり、その中を弄って二枚の羊皮紙を取り出し、中身を改める。

 

「ミッション()コンプリート、だな……。でもどうすっかな、これ」

 

 視線の先には泣き腫らした目に涙の粒を光らせる熟睡したスティアがあった。

 懐に四枚の羊皮紙を納めたヴィクトルは、とりあえず藍色の髪を撫でながらスティアの目覚めを待つ事にするのだった。

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