セクハラしてたらメイドハーレムが出来ていた 作:上り坂は下り坂
抱く予定の無かったメイドを抱いたら契約破壊して再契約しちゃった系貴族のヴィクトルこと俺は、何はともあれ王都でのやるべき事を全て終えて王都邸に別れを告げた。
つい数日前に王都に到着した空っぽの馬車を運んで来た騎士達と蜻蛉返りの帰還。しかし不思議な事に同行者が増えているではありませんか。
数にして十一名。なんとも困った事だ。
馬に騎乗する騎士達の後ろに可憐なメイド達を乗せるように言い、ヘクトル家一行は王都の門から速やかに出ると、俺に全てを乗せて運んで見せろと父上が言った。
要は責任取って責任を取れと言われているのだ。ちょっと自分でも何言ってるかわかんない。
俺は必死こいて新たなサイキックを編み出した。
腕を重ねられるなら、壁だって重ねて強固にも出来んべ!
と言う事で、より強固なサイキック壁を作り上げ、馬を切り離した馬車ごと乗せる。
そこに俺と契約を交わした十一人のメイドも乗せて、騎馬と騎士を残す。
「ちょちょ! ヴィクトル様ぁぁ!! 俺達はぁぁ!?!?」
「すまん! 馬が空を怖がって暴れられては敵わん! 節度を持って遊びながら帰って来てくれ!!」
「そんなー……」
出荷よーってな。いやほんと申し訳ない。
「よし、はしゃげお前ら。守るべき看板はどこにもねえぞおお!!」
『うおおおおおおお!!』
「節度守れって言っただろがあああ!!!!」
空から怒声を飛ばした後、俺はサイキック高速運送を開始した。
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大勢の人の運送にも慣れたもので、どれくらいの速度を出しても良いのか。どんな形状で、どんな配慮が必要かを徹底しておけば、最高速度でぶち抜いても問題は無い。
よって、行きの時間を上回る速度で駆け抜けた俺達はヘクトル領の領都へと、たったの二日で帰り着いていた。
魔法の長時間行使と神経を削る高速大量運送によって俺だけがヘトヘト。馬車の中でウィノに膝枕をして貰っていた。
「ウィノ、王都ではあんまり構ってやれなくて、すまん……」
「だいじょぶ。こっちでいっぱいイチャイチャしよ? ウィノは聞き分けの良い良い子だから。……ハルラと違って」
「なんで私を引き合いに出したの!?」
「ハルラは向こうでエッチしてるの知ってる。ヴィクトル様のおせーしお腹で揺らしてたよね? ねぇ?」
「ウッ……だって、ヴィル君が王女様に無邪気な顔見せるから……」
頭上で交わされるメイド女子トーク。話題の中心が俺なのが少し座りが悪いが、グロッキー過ぎて何も言えん。
「そう言えばウィノちゃんだけ相手して貰って無いのね? ヴィル? そう言うのダメよ?」
「あの、トリアーナ様……襲ったの私達ですぅぅ……」
「いいえグリナ。ヴィルが襲わせたのよ」
「ひょえぇぇぇ……」
「あい、とぅいまてん……」
とりあえず謝っていると、馬の声と蹄鉄の音が聞こえてきた。馬車を引く為の馬を呼ばせていたのだが、到着したらしい。
十一人の引き抜いてきたメイド達には悪いが外を歩いて貰い、ついでに領都がどんな場所かを知って貰おう。
馬車が動き出して暫く。外が騒がしい。
やれ『メイドの行進』だの、やれ『ヴィクトル坊ちゃんの趣味だろう』だの、『メイドさんきれー』と言う可愛らしい声だの。
「すごく、すみません……」
「想像以上に貴方の事が広まっているわね。空を飛び交う姿はやはり衝撃的。それも領主の息子が魔物退治がてらの飛行。仕方の無い事ね」
「流石にちょっと、外出ます。挨拶の為と、半信半疑な声を黙らせておきましょう。疑いの種はどんな形で発芽するか分からない」
「良いと思うわ。行ってきなさい」
動く馬車のドアを開けて胡座をかきながら飛行して外に出る。
凱旋でもパレードでも無いが、俺がヴィクトル君ですよと今一度示しておくとしよう。
「おおっ!? 本当に飛んでるぞ!!」
「ヴィクトル様だー!」
「ぼっちゃーん! またうちの料理食いに来てくれよー!」
「ヴィクトルさまかっくいーね!」
俺は馬車の近くを漂いながら手を振り返し、ちっちゃい子には目の前まで寄って、胸ポケットから一輪の花を取り出しプレゼント。
実は今着ている服は、ジルベルトが着ていた執事服と同様の仕掛けが施された服なのだ。
要は胸ポケットの内部空間が拡張されている。ちなみに、胸ポケットにはハンカチとクッキーとお花が詰め込まれている。超便利だね。
そうしてファンサービスっぽい事をしながら馬車と並走し、十一人のメイド達も乗せて空を飛んだりもした。
いずれ俺は騎士爵を貰い、ヘクトル家を寄り親とする。そうなった場合に俺はヘクトル領の戦力だ。同時にヘクトル家の子どもでもあり、兄や父の指示の元で行動している事を示せば、よりヘクトル家の株が上がるだろう。
ヘクトル領の顔になる積もりは無いが、ヘクトル領の無視出来ない存在になるべく雑でもこうして愛想を振り撒いておく事に意味はある筈だ。
ようやっとの思いでヘクトル邸へと帰還した頃には完全に魔力が尽きていた。
どうしようもない気怠さに精神が支配されるが、ハルラとウィノを支えになんとか立つ。
「ヴィクトル、先程は悪くない立ち回りだった。帰りも馬車ごと運ぶなどよくがんばったな。今日はゆっくり休むと良い」
「はっ。お言葉に甘えます……失礼します。姉上、申し訳無いのですが……」
「シャオ達の事ね。任せなさい」
「はは。頼らせて頂きます、姉上」
姉上ならば間違い無い、安心して任せられる。
安心感によって、俺はそこで意識を飛ばした。
*****
「魔力の欠乏と精神的疲労による気絶ね。二人とも、今日はヴィルを休ませてあげなさい」
「「はい」」
トリアーナがハルラとウィノへ指示を飛ばし、ヴィクトルを送らせる。
その後は、ヴィクトルに頼まれた以上、新たにやってきたメイド達にこの屋敷の事などを教えていく必要があるのだが……誰が適任か。
「ティル、ジニアを呼べるかしら」
トリアーナは最もヴィクトルに入れ込んでいるメイドであるジニアを呼ぶようにティルに言い付けた。
ティルは下腹部で手を重ね、美しい作法で頭を下げると、次の瞬間に姿を消していた。
戦闘メイドにおける序列三位。その実力の一端はいつ見ても凄まじい。
もっとも、一番驚いているにはシャオのようだった。
(嘘……今、見えなかった。予備動作も無い。気配も無い。一瞬魔力がグッと集まった気がしたけれど……もしかするとご主人様以上に、上手い……!)
身のこなしの恐ろしさ。暗殺者のような気配遮断の巧さ。土埃を立てない配慮。そして何より魔力の制御力。
戦闘民族の端くれであるシャオはその技量を感覚で見抜いていた。
「良いですね、貴方」
「うひゃっ!?」
そんなシャオの後ろから突如声を掛けたのは、真っ黒な髪を長く伸ばした怜悧な緋色の瞳が印象的な美しいメイドだった。
「新参者達の全てがヴィクトル様と契約されている事は耳にしておりましたが、いやはや、空恐ろしいお方です。二週間外出したらこれですか。一ヶ月外出した時と同等の増え方ですね、まったく」
「ジニア、挨拶なさいな。ヴィクトル様との契約と言う面では先輩よ?」
「…………。こんな事をしている場合ではありませんね。ヴィクトル様を叩き起こしてきましょう」
「焦るジニアを見てヴィクトル様は喜ぶと思うのだけど」
「クッ……万事休しましたね。致し方ありません」
消えた位置にいつの間にか戻っていたティルからの言葉に、ジニアの行動が全て制される。
如何せんヴィクトルが絡むと阿呆になるのがジニアだ。ティルにとってこうまで御し易いジニアは珍しくも面白く、また同時に少し羨ましかった。
そんな気持ちはおくびにも出さず、平静を貫くティル。そんな彼女の影にもう一人の戦闘メイドがするりと入り込む。
「んー? ティルってば、ちょっと妬んでる?」
「っ……ラヴィ。引き千切るわよ」
「何を!? 怖いよ!?」
ラヴィには嘘は通じない。脈拍、呼吸、声の震え、嘘の音を聞かれて全てが筒抜けになる。虚の判定の成功率は七割だが、細かなニュアンスすらも汲み取る場合があるのが厄介か。
ラヴィは自慢の青い兎耳を抑えて後ろに跳ねると、瞬きの間に一歩で十メートルは下がっていた。
(……バケモノ。なに、ここ。なに、これ)
戦闘メイドにおける序列トップの三人のやり取り。その一手一手に滲む超絶技巧と研ぎ澄まされた身体能力がシャオには恐ろしく映っていた。
ティルによるラヴィにのみ向けた魔力威圧。ラヴィの反応速度。それを見て驚きすらしないジニア。
少し後方でトリアーナとグリナが苦笑している姿を見て、これはあまり珍しい事では無いのかもしれないとシャオは察した。
「んん。改めまして、筆頭戦闘メイドのジニアと申します。私が皆さんにヘクトル邸をご案内致します。どうぞ、こちらに」
恐ろしさが分かるからこそ、見抜かれている事も分かる。
シャオは獅子に睨まれた子兎の気分を味わいながらジニアによる案内を受けた。
今だけは、そういった戦闘勘を身に付けて居ない他のメイド達を羨むシャオを責める事は出来ないだろう。……いや、恐らく今後も。
なにせ、シャオは一度でもヴィクトルを手に掛けようと動いた身。自らの立場などシャオが最も理解している。許されようとも己を赦せない。
例え側に居られなくなったとしても、この家の為に働く事を胸に誓ったシャオは獅子の瞳を受け止め歩きだした。
ヘクトル邸に到着したのは昼頃。
案内が終わったのは昼を大きく過ぎた頃だった。
最後に案内されたのはメイドの為の宿泊棟。
ヘクトル邸に勤めるメイドは、宿泊棟にて住み込みか、契約を交わした上での通いのどちらかになる。
執事やメイドが使用人同士で結婚するなどした場合には、当主からの祝いとして住まいが贈られる事が多く、その場合に通いになる事が多い。
逆に独り身の者などは基本住み込みだ。ヘクトル家の場合は孤児や拾い子を引き取り育てる事が多いからこそでもある。
シャオ達も同様に部屋を与えられる訳だが、部屋は基本二人部屋。
今回はいつの間にか増えて居たヴィクトルシンパが七人居るので、合わせて六部屋使う事になるのだが……。
「やはり二部屋足りませんね。つい数日前にヴィクトル様のメイド候補が到着したのでしたね。……ヴァン様に許可を頂いた後、四人には屋敷の客間を使って頂きます」
そこでピックアップされたのは、シャオ、レイン、ユーラ、リンナ。
間者として潜伏し、ヴィクトルに、延いてはヘクトル家に楯突いていた四人を選んだジニアに、四人は無意識に目を伏せた。
ジニアに連れて行かれた先は当主であるヴァンの執務室。
ノックの後、入室したジニアは淡々と事実を説明した。
ヴァンは何も気にする事無く部屋を貸し出す許可を与え、それどころか部屋数が足りないと言う不手際をヴィクトルに変わって言葉だけとは言え謝罪すらして見せた。
恐縮し切った四人は深々と頭を下げ退室すると、ジニアによって客間へと通される。
「何か勘違いしておられる様ですが、私が貴方達を選んだのは信用しているからですよ」
「へ……?」
それは理解の及ばぬ言葉だった。
ジニアが、あれだけの戦闘力を有し、慧眼を持つ者が、元間者を見て信用するなど有り得ない。シャオの感覚を真っ向から否定する言葉の方が、信用に値しない。
「話はティルより聞き及んでいます。間者で、命を奪おうとし、既成事実を作ろうとし、情報を幾度も売り渡した事。そして……それら全てをヴィクトル様が許し、受け入れ、貴方達を可愛がった事も」
「「「「…………」」」」
「私はヴィクトル様を信じております。彼の方が信じたのであれば、それは信用に値する。……それで裏切られた時は、ヴィクトル様と共に愚者となり、報復を果たしましょう。それが私の在り方です。故に、信用しているのですよ、貴方達を」
敵わない。そう思わされる不動の精神にして、固い忠誠。
ジニアと言うメイドの事を今一度深く理解した四人は、改めてヘクトル邸で働くことの重みに気付き、気を引き締める。
「ジニア様。安心、していい、よ。私たち、後無いから。ここ、追い出され、たら……お終い。命を賭けて、お仕えする、の。それに……ヴィクトル様、大好き、だから。私達」
衰えた筋肉を魔力で補う事で運動能力に問題は無いリンナだが、話し方は未だ辿々しい。
それでも、事情を知るからこそジニアには意味が伝わった。リンナの言いたい事、リンナ達の立場と想い、だからこその忠誠。
ふっ、とジニアが笑う。
「お見事です。裏切れない……そう思わせる忠誠があるとは。リンナでしたね、貴方の魔力はとても多い。戦闘メイドに興味があれば言ってください。いつでも稽古をつけましょう」
「うん。あり、がと。ジニア、様」
その後、ジニアは客間の使い方を一通り教えると、ヘクトル邸でのメイド規則や、風呂場の使用時間、早朝の起床時間や掃除場所の割り振りなどを記した紙を置いて去って行った。
「お姉ちゃん、私戦闘メイド、なってみたい、かも」
「リンナが望むなら、私も付き合うわ」
「技量次第では職場が変わる事もある様ですね。庭師やパティシエとして起用されたメイドも居るみたいですよ」
「仕事時間が最長でも半日だ。休み時間を成長に当てろって事なのかな……凄い場所だね、ココ」
絶望の只中を漂っていた者はもう居ない。
明日どうやって生きるか、では無く、明日何をして生きようか。
何処までも明るい光の中で、四人のメイドは明日へ向かって歩き出した。