※この作品はR-18です。

歪みからの脱出   作:青嘴

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運命的な出会いをして恋に堕ちて、永遠に守ろうと思う相手ができることはあるんだろうか。僕だって恋はしてみたいのだ。一目惚れでも徐々に仲良くなるのでも良い。相思相愛が良いな。片思いはするのもされるのも辛そうだが、それはそれで良いかも知れない。僕を好きになってくれた誰かがいて、その人を僕も愛せたら幸せだろう。勿論、僕が誰かを好きになって、その人が振り向いてくれるのは最高だ。でも僕には、例えばこの夜会にいる女性は、みんな似たり寄ったりに見える。女性の僕に対する反応もほぼ同じだ。公爵家の人に対しては、みんなとりあえず腰を低くする感じだ。中身なんて分からない。外見はなおさら分からない。似たような髪型で、似たようなドレスだ。体型と顔立ちが違うくらいだが、それだってほとんど同じだ。多くの人は痩せ形で、似たような化粧だ。身長も、ヒールの高さと髪型で調整しているから、みんな同じくらい。腰回りは、ぎゅーぎゅーのコルセット。足は見せている人と見せていない人がいる。腕も。見せていない人は、細く見える服で、見せている人は、細い。僕は、太めの人が好きなわけではないが、細い人が好きと言うこともない。ものすごくがりがりとかものすごく太っているとかだったら気になるかも知れないが、普段はあんまり気にしたことがない。後は胸のサイズがちょっと違うくらいか。全くないよりは、あったほうが良いような気がする。しかし巨乳が好きかと言われると疑問だ。僕はまだお子様で、性的魅力に疎いのだろうか。

 

この国では、結婚するまで貴族の女性は処女を貫き通すことになっている。隣国も同じだったと思う。また、婚約しても、性交渉を持つことは禁止だ。隠れて深い口づけをするくらいだ。貴族の男性は逆に、多くの場合、閨の講義を受けて童貞を喪失する。その際の相手は、貴族の未亡人女性となる。下級の貴族の場合は、娼婦を呼ぶ事もあるらしい。十六歳になり飲酒が解禁された後、その講義は行われる。僕も受けた。相手は、侯爵家出身のご婦人で、王家の血を少し引いているとの事だった。侯爵家に出戻った未亡人で、当時は二十七歳だった。一ヶ月程度の講義後、そういった未亡人女性には、見合い話を、講義を頼んだ家が斡旋する。講師と生徒が婚姻する事は無い。結婚しない・結婚を強要しないという誓約書を書いて初めて講師になるのだ。誓いを破った場合、爵位は剥奪される。講義を受けた側は、爵位は剥奪されないけど。講義中は、避妊効果のある薬を飲み、仮に妊娠した場合は中絶効果のある薬を飲む。それでも万が一生まれた場合は、女性側が育てることになる。子供が男子で、講義して貰った生徒にその後男子が産まれなかったら引き取る場合はあるそうだ。それまでの間は、認知されることはない。正式に認知しない限り、子供には父系の爵位を得る権利がないので、例えば愛人の子供などには爵位は多くの場合もたらされない。この国は、一夫一妻制で、余程のことがないと離縁も禁止だから、子が出来ないと愛人を持つ人が多いのだ。離縁の条件は、女性の不貞くらいだ。女性は愛人を作ることが許されないのだ。発覚したら、修道院に入ることになる。仮に男性が性的に不能だったり、子供の出来ない体であっても、女性が他の人間の子種を得ることは禁止なのだ。子供を得る場合は、養子をとることになる。男尊女卑と言う人もいる。ちなみに隣国は、一夫多妻制だ。女性に贈ったら喜ぶ、なんてレクサ殿下は書いていたが、実際に僕が婿にいったら、沢山の側妃も持つことになるだろう。ちなみにウェザークラフト王国の正妃様は、現在三人目だ。第一王子殿下、第二王子殿下の母上が最初の王妃様だが、亡くなった。第一王女殿下、第二王女殿下、第三王子殿下の母上が、二人目の王妃様だった。やはり亡くなった。現在の王妃様は、第三王女殿下の母上だ。第二王子殿下と第一王女殿下は誕生日が近い。つまり国王陛下が公的に浮気したのだ。一人目の王妃様が妊娠中だったから、二人目の王妃様に夜のお相手の許可を出したのだという。勿論王妃様の許可がなくても国王陛下が望めば、愛人を作ることは可能だ。しかしこの国では、王妃様はお一人と決まっている。正妃様と呼ばれる。二人の王妃様の死因はよく分からない。まぁ隣国の前第一王子、つまりレクサ殿下のお父様の死因もよく分からないが。レクサ殿下の弟の第二王子の死因も不明だ。公的には公開されていないのだ。お母様も亡くなっているし。他にも隣国は国王陛下の側妃も複数人が亡くなってしまったのだという。この国でも僕の妹が王妃様になったら、あるいは妹も亡くなる事があるかも知れない。王家はどの国も魔境らしい。だから妹は幼い頃から、王妃になるための教育を受けている。言葉は悪いが、殺されないようにだ。

 

はっきりいって、僕は女性との行為が嫌いではない。面倒くさいとは思うが、いざ始めれば相応に頑張る気力がわく。僕が頑張ったって、たかが知れているだろうけど。僕は清廉潔白な人間ではない。だから講義以外でも、誘われて体を重ねた相手が何人かいる。僕から誘ったことはないが、たまに誘われることがあった場合、僕は据え膳は食べる。勿論相手は、申し訳ないが選んでいる。未経験で未婚の貴族女性に手を出した事はない。平民であっても、未経験ならば、決して関係を結ばない。僕は責任を取れない。また配偶者がいる相手とも関係を持ったことはない。露見した場合、面倒だからだ。旦那様に申し訳ない。僕が逆の、旦那様の立場だったら、絶対に嫌だからだ。それに離縁する事になったら女性にも申し訳ない。修道院は大変だと聞く。僕の経験がある相手は、経験のある未婚の平民女性だ。平民の女性は、結婚前に処女を失っている事がままある。未婚だが子供がいる人もいる。しかし僕は、ここでも誰かの愛人に手を出すことはない。既に愛人関係が切れている場合は除くが。また大変申し訳ないが、僕は避妊効果がある魔法薬を相手に盛っているので子供が出来ることもない。僕が盛らなくても、みんな自分で避妊していたけど。避妊方法は、いくつかあるのだ。ちなみにどうやって相手と出会うかと言うと、腐竜退治で滞在する事になった土地の人間だ。きっと今後二度と会うことはないだろう。兄と一緒に退治にいくのだが、兄も僕と同じだ。兄も据え膳は食べる。ちなみに兄は、貴族専門の娼婦を買うこともよくあるみたいだ。僕は、それはない。僕は結婚後も腐竜退治で各地に出かけると思う。だが、結婚したら、こういう爛れたような関係を女性と持つことはなくなるだろう。結婚相手に申し訳ないからだ。僕は罪悪感をかかえてまで浮気しようとは思わない。跡継ぎが必要な兄は、子供が出来なかったら愛人を持つかも知れないが、僕にはその必要もないのだ。ただ、僕は、自分の子供は見てみたい。欲しいような気がする。だけど僕を誘って上にのってきた全ての女性は、僕を恋愛対象としては見ていなかった。僕の側にも恋愛感情も結婚意識もなかったが、向こうにもなかったのだ。なお、僕が女性と関係を持ったことは、多分家族も知ってる。兄が言ったとか、そういう事ではない。僕に用意される宿泊施設には、母の息がかかった人間がほぼ百パーセント泊まっているのだ。誰がそうなのかも、今では大体見れば分かる。当然、報告される。兄によると、母の考えとしては、あんまり派手に遊ぶのは困るが、女の子に興味がないのも困るという事らしい。その点は大丈夫だ。僕にはきちんと性欲がある。あまり自慰などはしないが、全くしないわけでもない。

 

あらためて会場を見渡してみる。間違いなく一番容姿が麗しいのは、ミレイア殿下だ。

関係を持てと言われたら、出来る。しかし自分から口説いて押し倒せといわれても、その気は起きない。綺麗ならば良いというわけではないのだろう。だが、中身なんて会場中の全員、さっぱり分からない。ふとした仕草などを観察すればいいのかもしれないが、それだってたいていの人は、ならっているマナーの通りだから、大差ない。仮に目立っている人がいたとしても、大勢と違うのが良いとも言い切れない。僕は結局、どうでも良いのだ。興味がないのだ。だったら誰を選んでも同じなのかも知れないし、母の持ってきたお見合い相手を選べばいいのかもしれない。きっと母ならば、それなりに自己防衛力の高い相手を選ぶだろう。それは分かっているのだが、なんとなく気乗りしないのだ。だからそれとなく紹介されるのだろう夜会にデビューする気にもならない。明日のダンスパーティのような、選ばれた貴族が招かれる公式行事は強制参加だからしかたないけど。ほとんどの夜会は、親しい陣営の集合か、貴族ならば誰でも参加可能なものだ。若年層限定などはあるが。一定の階級以上が選ばれて集まる夜会というのは、今回のような行事なのでデビューには当たらない。なにせ、幼い子供も招かれるからだ。ダンスの相手としては、小さな女の子でも良い。ただ、十歳程度の歳の差では婚約者候補になってしまう場合があるので、僕が選べるのは五歳くらいの子だ。そのくらいの子がダンスを完璧に踊るのはかなり難しいので、一曲目には誘わないのが礼儀だ。そうなるとやはり一曲目は遅刻して、その後は高齢のご婦人が無難だ。ちなみに王太后陛下が参加する場合は、そのお相手は兄となる。兄が結婚したら僕になるだろう。だがめったに王太后陛下は参加しない。

僕が一生独身と言うことはあるのだろうか? 今から聖職者になって大聖堂で働き始めたら、ありえるか。

 

「なぁネル、なんでミレイアじゃ駄目なんだ?」

「ミレイア殿下が駄目という事じゃないよ」

 

不意にレクサ殿下に聞かれたので、顔を上げた。するとクラウ殿下が慌てたような顔をした。

 

「それなら、ヒルダでも、マチルダでも、リアでも良いだろ?」

 

ヒルダ第一王女殿下、マチルダ第二王女殿下、リアクーナ第三王女殿下は、クラウ殿下の姉妹だ。この国の王族で、ようするに僕のいとこだ。勿論みんな訓練を受けているし、公爵家に嫁いでくれるし、ミレイア殿下の場合とは異なり、完全なる良縁だ。十八歳、十五歳、十四歳、どの場合であっても年齢的にも釣り合う。特にヒルダ第一王女殿下は、まさに婚期だ。いきおくれと言われてさえいる。救済処置として兄上か僕が強制的に結婚相手になる可能性もある。

 

「勿論、王女殿下達はみんな素敵だと思うよ。僕にはもったいない」

 

しかしクラウ殿下が、ヒルダ王女殿下の名前を挙げたのは意外だ。なぜならば、腹違いの二人は、あんまり仲が良くないらしいのだ。第二王女殿下と第三王女殿下とは仲睦まじいが、ヒルダ王女殿下とは誕生日が近すぎて、浮気相手の子供だという認識が強いらしい。

それでもクラウ殿下としてみれば、僕がミレイア殿下と結婚して隣国に行くよりはマシなのだろう。腐竜退治の事などを考えているんだと思う。

 

「――ユーネリアは?」

 

クラウ殿下が続けた。確か、僕の妹の親友だという侯爵令嬢だ。クラウ殿下の視線が、女性達の方に向く。僕も一瞥すれば、ユーネリア嬢は優雅に笑っていた。

 

「どれだ?」

 

レクサ殿下も視線を向けている。クラウ殿下が位置を説明する。するとレクサ殿下が片目を細めた。

 

「総合的にはミレイアの勝ちだけど、条件的にはユーネリア嬢の方が良いだろうな。ネルとしては。お前は面倒くさがりだからな」

 

確かに家柄も申し分ないし、出会いも見合いじゃなく腐竜退治で学院で会ったのだし、妹の友人だし、彼女を僕が誘えば妹は喜ぶだろう。多分、母も喜ぶ。クラウ殿下が名をあげたと言うことは、婚約者もいないのだろう。さらにいえば、クラウ殿下の陣営なのだろう。

 

「クラウのお相手候補の一人じゃないの?」

「まぁそうだけど」

 

クラウ殿下が顔を背けた。レクサ殿下が小さく笑う。

 

「譲られた女って微妙だぞ」

「別に譲る譲らないという話じゃない」

「だったらクラウ殿下が、彼女を選べば良いんじゃないのか?」

 

レクサ殿下の声に、クラウ殿下が言葉に詰まっている。

 

「私が明日誘わせて貰おうかな」

 

楽しそうに笑いながらレクサ殿下が言う。僕が声をかけるのを阻止する気だ。仮にレクサ殿下に声をかけられたら、ユーネリア嬢は、レクサ殿下の滞在中は、レクサ殿下につきっきりになるはずだ。僕が声をかけたとしても、相手をしてはくれないだろう。あわよくば、皆は二人の婚約を推し進めるはずだ。場合によっては、レクサ殿下は手を出すだろう。彼女はそれを断れない。だがレクサ殿下には結婚する気がないため、ユーネリア嬢は最終的には結婚を断られる。純潔を失った彼女は、侯爵令嬢だが、伯爵令嬢あるいは子爵令嬢と同じ扱いをその後受けることになるだろう。仮に手がつかなくとも、そういう噂が溢れる結果となるから、扱いはそうなる。男爵令嬢よりは扱いが上だろうけど。そうなれば、クラウ殿下の陣営でも立場は弱くなる。侯爵家というのは敵が多いのだ。噂が立てば、ご令嬢はかなり窮地に立たされるし。打開策としては、クラウ殿下が妃に迎えて救済するなどだ。だがクラウ殿下は、斬り捨てる時は容赦がないから、救済しないかも知れない。

 

「レクサ殿下に声をかけられたら本望だろう」

 

ほら、クラウ殿下はこんな事を言っている。あわよくばと思っている側だ。

結婚せずとも手を出した事実が残れば、レクサ殿下と少し親睦を深められるのだ、クラウ殿下の側は。この後レクサ殿下が訪れるたびに、女性を献上することだろう。レクサ殿下もそれが分かっているようで、楽しそうな光を目に宿した。片思い中とはいえ、レクサ殿下は、禁欲中ではない。

 

僕が声をかけるから、お願いだからレクサ殿下は誘わないでくれと、頼んだら回避されるだろう。レクサ殿下は、そのくらいのお願いは聞いてくれる。クラウ殿下はそれを狙ってもいるだろう。しかしレクサ殿下の方は、違う。かわりに、僕にミレイア殿下にも声をかけるように促すのだ。両方に声をかけたら、僕はその場では少なくともお見合いの話を回避できる。だが、ミレイア殿下に声をかけたら、強引にその後話を推し進められる。仮にレクサ殿下とミレイア殿下が、奇跡的にミスをして僕を逃がしてくれても、それからすぐに僕はユーネリア嬢との話を推し進められる事になる。結局の所、僕はミレイア王女殿下かユーネリア嬢のどちらかを選ばせられる。そもそもレクサ殿下がミスをするのは、かなり奇跡的だ。あっという間に外堀を埋められる。場合によっては、物理的に。どちらと結婚する方が楽かと聞かれたら、勿論ユーネリア嬢だ。ウェザークラフト王国に住んだままで良いからだ。なお、ミレイア殿下にのみ声をかければ、ユーネリア嬢を巻き込むことはなくなる。しかしその場合は、レクサ殿下が結局ユーネリア嬢に手を出す可能性が高い。

 

僕は優しさを発揮して、ユーネリア嬢を救うべきだろうか?

 

残念ながら、僕はそこまで優しい人間ではない。優しく作られてはいないのだ。しかし後味も悪い。困ったなぁ。

 

「ネルはどう思う?」

 

ニヤニヤ笑いながらレクサ殿下に聞かれた。

 

 

 

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