※この作品はR-18です。

歪みからの脱出   作:青嘴

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さて、部屋を出ると、階段の下に兄が待ちかまえていた。他のみんなは客室で待っているらしい。女性が一人で立っていたら危険だし、祖父や父よりは兄が外に出る方が普通だ。兄に手招きされるがままに、僕はその部屋に入った。

 

「事情は義父様と旦那様にうかがいました」

 

入ってすぐに、母が言った。姉妹もだが、三人とも、満面の笑みを浮かべている。すごく嬉しそうだ。僕は妹を一番よく見た。いなくなったら寂しいと言っていたが、今はそう言う感じではない。帝国ならば、大歓迎だという顔だ。祖母は僕をじっと見ている。兄もだ。こちらの二人は、どことなく僕に同情的に見える。別に同情して欲しいわけではないが、二人の対応の方が、なんとなく僕は嬉しかった。祖父はと言えば、腕を組んで僕をじっと見た後、空間魔術で小箱を一つ取り出した。僕にそれを差し出したので、静かに受け取り開けてみる。すると蓋の裏に、古代上位魔術語で説明文が書いてあった。小瓶が七つ入った箱だ。一つ目は、サザーカインツ家の血を絶対的に残すための、受胎率をほぼ十割にする薬だ。男性の側の力を増すのだ。二つ目は、女性の側が不妊体質の場合に、一時的に体を受胎可能に変化させる薬である。相手が避妊薬を飲んでいても受胎させる。基本的に一つ目、最低でも両方用いれば、子供は確実に出来る。それが、サザーカインツ家が古く長く直系長男の相続により続いている秘訣だ。三つ目が、必ずサザーカインツの血を引く事が分かるようにする薬である。これを用いると、生まれた子供の体に特有の痣が出るのだ。成長に伴い消失する。ちなみにこれは使わなくても、サザーカインツ家の血をひく子供は、独特の魔力を持っているため、受精後一ヶ月程度で見れば妊娠しているか否かまで分かってしまう。他にも利点があって、これは流産を防止するのだ。堕胎薬を飲んだ場合でもだ。そして四つ目が、仮に自分の子供ではない場合に、堕胎させる薬だ。これは、三つ目の薬を服用した後でも効果を発する。子供がサザーカインツ家の血を引いていれば、これを飲んでも流産することはない。しかしそうでない場合は、自然流産する。母胎に影響はない。五つ目は、女性の体に男性の魔力を受け入れる下地を作る薬だ。これを服用しないと、男性側の魔力が強すぎる場合、自然妊娠は絶望的である。僕が子供を作るためには、必須といえる。なお性交渉すると女性の体の魔力には、男性の魔力が混じる。だから初めてかどうか、魔力を見ると、僕などは分かるのだ。混じれば一生消えない。複数の肉体関係を持った場合も分かる。それから六つ目は、子供の性別を操作する薬だ。使用時に、男子にする魔法陣か、女子にする魔法陣を想起すると、その通りの性別に生まれる。最後の七つ目は、性交時に苦痛や痛みを和らげ、少し気分を盛り上げるというか、快楽を煽る薬だ。これは、男性が用いた場合は、緊張やプレッシャーが消えることが多い。勃起しない場合も治る。依存性はない。特製の香油である。これは普通、長男にしか渡されない。僕は次男だ。それなのに渡されたのは、子供を作れという事なのだろう。あるいは子供が出来なくて僕が辛い立場になるのを回避してくれているのかも知れないが、どちらかと言えば、祖父の意図あるいは公爵家の意図としては、帝国皇族にサザーカインツ家の血を残せと言うことなのだろう。結構、鬼畜的な所行だと思う。まぁこんなものが存在するため、最低一回関係を持てば、子供を意図的に作ることが可能なのだ。そして結婚時には、初夜の儀式があるため、その一回は必ず機会がある。僕は空間魔術でそれを収納した。その後姉が、僕に分厚い封筒を渡してきた。大きな長方形の封筒だ。中を見ると、帝国の皇族関係者と貴族の一覧、政治家などの文官一覧、騎士一覧、魔術師一覧、他の正式な夫候補をはじめとした後宮関連の情報一覧が入っていた。この短時間で集めたのはすごい。義兄の宰相閣下がまとめてくれたのだろう。写真までついていた。

 

「健闘を祈る」

 

ポンと父に肩を叩かれた。何とも言えない。

 

「特務塔の指輪はそのまましていける。これは、そう言う意味だ」

 

ようするに、万が一の場合、ウェザークラフト王国が帝国の情報を得られるようにという意味だ。この指輪は、色々と記録したり、通信傍受まで行えるからだ。

 

家族としては、まったり僕が後宮で、空気になって生活することを回避したいようだ。

ありがたい配慮なのだろうし、こういうものは、後宮に入る人は大体手に入れるようだからサザーカインツ家が独特というわけではない。逆に例えば僕は、自分の子供が出来た時、流産させられないように気をつけたりもしなければならないのだ。まぁ帝国皇族として生まれるのならば比較的安全だが、生まれた後は命も守らなければならないだろう。特に第二子と年齢が近く父親が異なる場合は、長子存続の帝国では暗殺の可能性が高まる。僕の子供が長子の場合だけど。さらに、長子だからと言って安心できないのは、第一皇女殿下にはご兄弟妹がいるからだ。そちらを皇位につかせたい場合も暗殺の可能性は高まる。ようするに僕の理想としては、第二子以降に子供を設けることなのだが、初夜あるいは最初の期間に子供が出来なければ、僕がその後相手になる可能性は激減するので、最初の内に努力しなければならない。現在ご子息ご息女が皇女殿下にはいないから、今頑張るとようするにその子は長子となるのだ。そう考えると、すごく微妙な気持ちになってしまう。

 

「ウェザークラフト王国から派遣する騎士と魔術師、侍従侍女は、後日選定して送ることになる。急だからな。なにぶん皇女殿下は、付き人もつけずにいらっしゃっている。二人で帝国まで行くことになる」

 

父が続けた。僕は溜息をつきそうになった。まぁ誰がついてきても、僕自身としてはあまり心境に変化はない。別にいてもいなくても変わらない気がする。むしろ、そう言う人たちは、諜報員ともいえるため、僕の手足と言うよりは、ウェザークラフト王国の手足として動き、場合によっては僕にも何らかの指示を出すはずだ。僕を監視する人々であるともいえる。面倒くさい。さらには、二人で帝国に行くとは、結構道中がきつそうだ。どうやって行くのだろう。ここから帝国には、馬車と徒歩と船で半月以上かかる。どこかで移動魔法陣を使うのだろう。しかし一度も足を踏み入れたことのない場所への魔法陣を使うと大変体に負担がかかるのだ。だから普通は、魔法陣を使用する前に、二カ所とも物理的に移動して、場所を把握するべきなのだ。王都内同士のような近距離の場合は平気なのだが。僕は一度も帝国に行ったことはない。不安しかない。

 

その後は家族に別れの言葉を言われ、何度も抱きしめられた。しばらくは会えないし、あるいは一生会えないかも知れない。それは分かっているのだが、あまり現実感が沸かなかった。それからその日は王都の邸宅に泊まることになり、僕は帰って眠った。この家ともお別れだ。やはり公爵領地の家に戻ることはなかったのだなとも考えた。一人暮らしの部屋ともお別れだ。翌日僕は、家族に見送られて、王宮へと向かった。この後、国王陛下達や一応レクサ殿下達にも挨拶をするのだが、その前に特務塔に向かうことにした。まだ朝の早い時間だったが、キースの姿があった。当然グレンさんの姿はない。

 

「えっ、帝国!? リリーストより遠いじゃん! け、結婚おめでとうだけど!」

 

キースに驚かれた。呆然とした顔をしていたから、僕は苦笑してしまった。

 

「寂しくなるよ……うーん……何か……そうだ! これ、持っていって!」

 

そう言うと、キースが雑誌に挟んであった栞を手に取った。何の変哲もない紙で出来た栞だ。押し花がしてある。まさか何かもらえるとは思っていなかったから、嬉しさと驚きを感じた。受け取って僕は思わず頬を持ち上げた。

 

「ありがとう」

「またきっと会えるよね! 元気でね!」

「うん。キースも元気で」

 

頷きあってから、僕らは別れた。多分もう会うことはないだろうけど、できるならば会いたいとは思った。その内手紙でも書いてみようと思う。

王宮に行くと、最初にクラウ殿下に腕を引かれた。玉座の間に行く途中で声をかけられたのだ。

 

「今度会いに行く。帝国に外交官としてな、お前をだしに。良いところに行ってくれたな」

「待ってる」

「……ああ。なんていうか、まぁ、寂しくなるな。思いの外寂しくて我ながら吃驚だ」

「ありがとう」

 

クラウ殿下は苦笑していた。振り返ってみれば、クラウ殿下はいい人である。

その後、レクサ殿下が玉座の間の前で僕に声をかけてきた。

 

「やられたな。帝国が相手じゃ分が悪すぎる。今度は帝国皇族として会おう。サザーカインツ陛下か」

 

帝国では皇女殿下が皇帝陛下になってからだが、僕は家名に陛下をつけて呼ばれることになるのだ。近しい人はその限りではないようだが、僕に近しい人が出来るのかは疑問である。僕はレクサ殿下に大きく頷いた。全く実感はわかないが、離縁しない限りはそうなるだろう。なお帝国の後宮には離縁は基本的にない。はいったら一生後宮で過ごすのだ。配偶者の皇女殿下が亡くなった場合は、僕は臣下の人に贈られる事になる。時には、存命中でも功績を挙げた臣下には、後宮から誰かを渡されることがあるそうだが、正室が贈与される例は、配偶者の死亡以外では無いようだ。勿論、男女ともに後宮に入った人間は、配偶者以外とは一切性的な接触をしてはならない決まりだ。特に女性は皇帝陛下の許しがある場合でも、子供が王位を継ぐ可能性が高いから、絶対駄目らしい。男性の場合は、子供が配偶者以外に出来ても絶対に認知できないようだ。男女ともにばれたら処罰される。殺されることを覚悟しなければならないという。別に僕には浮気をする気はないんだけどね。だけど侍女や騎士などに扮して、わざと浮気をさせて、後宮から追い出そうとする人々は結構いるらしい。やはり魔境としか言えない。

それから国王陛下達に挨拶をした。国からのお祝いと、陛下個人からのお祝いは、後ほど公爵家の婚姻道具と共に届けられるそうだ。レクサ殿下も着いてきて、リリーストからも後ほど祝いの品を贈ると言われた。僕はお礼を言った。持参金があるのは有難い。後宮にはいったら、金銭を得る手段が無くなるからだ。給料などでない。支給される服や配偶者からの贈り物以外に何か欲した場合、みんな家族からの仕送りでやりくりするそうだ。一応衣食住が困ることはないし、僕だったら王女殿下にお会いできなくとも手紙などで欲しいものや金銭をお願いする事は可能だが、必ず要求が通るとは限らないのだ。とはいえ僕はこれまでも自分で何かを欲しいと思って買ったことはほとんど無いし、服だって家の人に選んで貰ったのを着ていたから、あまり変化はないと思う。手紙を書く時の切手代や、誰かにプレゼントを贈る時に、ちょっと困るくらいだろう。

挨拶が終わった時、ジェーン皇女殿下が丁度やってきた。

 

「行くか」

 

僕は頷いた。すると足下に、見慣れぬ魔法陣が広がった。驚いて咄嗟に解読して息を飲んだ。これは移動魔法陣だ。持ち運び可能の移動魔法陣など初めてみた。瞬きした次の瞬間には、僕は見知らぬ場所の魔法陣の上に立っていた。魔力が五分の一も持って行かれたが、体に不快感はない。すごい、影響の制御までしてあり、体のダメージが緩和されている。流石は帝国だ。ぜひこの魔法陣を僕は自分のものにしたい。今術式は見て覚えたから、どのような場所に移動できるのかだけ、後で教えて貰おう。

 

「少しこれからについて説明する」

「はい」

「今後敬語はやめてくれ。それと私のことは、ジェーンと呼び捨ててくれ。親密度をアピールすることは重要なことだ。公的な場は除く」

 

何度も頷いておいた。しいていうなら公的な場以外ではあまり会わないのが理想だ。公的な場もお役ごめんになることを祈る。

 

「そして悪いのだけど、結婚式は暫く行わない。ただし今日、結婚してもらう」

 

皇女殿下はそういうと、一枚の紙を取り出した。帝国式の婚姻形態だ。紙に名前を書いて魔法陣の元で夫婦になるのである。戸籍の管理も同時に行っているらしい。僕は静かに署名した。これだけで、もう僕はお婿さんになったのである。名前は、ネルレイン・ラ・サザーカインツ・ヴァル・ウィンドリー・ヴェンスレイとなった。ヴァルはヴェンスレイ帝国の侯爵位を指す。僕には侯爵領が与えられたのだ。ウィンドリー侯爵が僕である。ウィンドリー侯爵領地は、ジェーン殿下が生まれた時に与えられた土地のはずだ。配偶者を將爵するために与えられていると言える。今後彼女がさらに夫を迎えた時に、このウィンドリー侯爵領地の中に、伯爵家が沢山出来ていくのだ。名前に入っている領地の侯爵位を貰ったと言うことは、僕が一番初めの正式な夫という事だ。今後第二第三の正式な相手が出来ても、侯爵になることはない。それらは側室同様伯爵位をあてがわれるのだ。だが沢山伯爵家が出来た場合や、広大な土地を任せられた伯爵家が出来た場合、侯爵は位は高いが権力はさほど無くなったりする。だから侯爵だからと言ってすごいという事はないのだ。ただ単に、最初の旦那さんというような事だ。名目上だけ他の家をまとめる位置になる。

 

「今後は落ち着くまでの間、はっきり言ってしまえば子供が出来るまでの間は、ここで暮らしてもらう」

 

それは珍しい形式だなと思って、僕は首を傾げた。子供が出来なければお払い箱という事だろうから、現実的ではある。

 

「貴方が殺されては叶わないからな。未来の国父になった段階で、正式な夫であることを公表する。そうであれば誰も文句は言えない。それまでの間は、悪いがウェザークラフトとの交流は一切絶ってもらう」

「うん、分かった」

「その口調で良い。さらに申し訳ないが、母国だけでなく、この帝国内でも外部……他者との接触は控えてもらう。使用人もつけない。悪いな」

「大丈夫だよ」

 

何せ僕は一人で暮らしていたのだし。だけどいよいよ珍しい。完全に秘匿されるのか。

 

「既に貴方は私の正式な夫となった。私が自分の意志で選んで連れてきたのは貴方だけだからな、ネル」

 

頷きつつ、僕はこの言葉は政治的な意味合いなのか、それとも夫婦として気を遣って言われたのかちょっと悩んだ。喜ぶべきなのかも知れないが、喜び方もちょっとよく分からない。嬉しいですと言っておけばいいのだろうか? そう考えている内に皇女殿下が続けた。

 

「他に、私の正式な夫候補が四人いた。いいや、いると言ってしまっても構わない。悪いが場合によっては、その四人を迎えることになるかも知れない」

 

僕はその事を、姉から資料を貰った時に、ちらっと見たので知っていた。しかし言わないでおいた。面倒だったからだ。

 

「一人は、エーフェルランド聖皇国のハインリッケン第二皇子殿下だ」

 

確かお祖父様も名前を出していたな。僕より絶対正式なお相手に相応しいと思うんだけど。

 

「二人目は、この国の有力な貴族の息子で、イストバル侯爵家のディアハルトだ。祖父はローロルド元侯爵。彼は母が私の祖父の側妃だった。彼の祖父は現在の帝国宰相、父は魔術騎士団の団長だ」

 

帝国は、魔術師団と騎士団が一つなのだ。また帝国の公爵位は、代々皇帝の両親に贈られるので、実質侯爵家がもっとも位が高い扱いになる。公爵は慣例の名誉称号なのだ。長い歴史を持つ有力者は皆侯爵家なのだ。全部姉に貰った資料の情報だけど。貰った時に魔術で頭に入れたのだ。サザーカインツ家の人間は、紙に触って中身を記憶に焼き付けることが出来る。一読すればさらに確実なのだが、急いでいる時は読まなくても大丈夫なのだ。ちなみに皇族の配偶者の侯爵と、昔からの侯爵では権威が違う。同じ侯爵でも格が違うのだ。ヴェンスレイ帝国の旧家といえる侯爵家は八つ。文公家、武公家、商公家、農公家、東西南北それぞれの将軍家だそうだ。イスバルト侯爵家は武公家だ。ローロルド侯爵家が文公家らしい。今名前が挙がった彼は、文武両道なのかも知れない。ちなみに武は剣技だ。魔術の一番の名門は、帝国皇族なのである。皇家だ。皇家と、帝国国教会の教皇家を会わせて、十氏族というそうだ。帝国皇家の権力は絶大だから、他の追従は許さないらしいが。

 

「三人目は、第一の側室だ。すでに長く後宮にいる。ミフェルドという。マーセルド侯爵家の次男で、私の婚約者として帝国皇宮で共に育った。乳母兄弟でもある。誰とも婚姻しないのは外聞が悪いという事で迎えた。正妃の座を精力的に狙っている」

 

マーセルド侯爵家は、商公家だ。帝国の商業をほぼ全て握っているようだ。帝国のお店は全てマーセルド侯爵家の管理下にあるらしい。その下で、様々な伯爵家や男爵・子爵家が商売を行っているようだ。ウェザークラフトでは貴族は商人にならないから、ちょっと珍しいなと思う。

 

「四人目は、第二の側室だ。最近後宮に入った。ガイセルドという。イシリア王国の第三王子殿下だ。停戦時に人質の意味合いも込めて側室にする事になった」

 

イシリア王国は、帝国の隣の隣の国だ。帝国とイシリア王国は、昔から仲が悪く、ずっと戦争をしていた。停戦したのは、ごく最近である。イシリア王国もかなり巨大な国だ。勿論帝国が一番すごいのだが、エーフェルランド聖皇国とイシリア王国は良い勝負の規模だ。ただしイシリア王国は、敗戦こそしなかったが帝国に負けたような形で停戦したので、現在大陸では少し立場が弱いのだ。少なくとも、帝国にはもう逆らえないらしい。とはいえ、いくら人質とはいっても、イシリア王国の王族は、大変高貴なのだ。帝国の皇族と同じような扱いを国際社会では今も受けているはずだ。無碍には出来ないだろう。それに停戦したとはいえ、より親交を深め平和な関係を築くには、正式な結婚はかなり利点がある。勿論帝国のことに口出しされては叶わないから、恐らく子供を作ることは許されないだろうけど。国際結婚の場合は、他国の王家が祖父母になるので、口出ししてくる場合があるのだ。帝国がイシリア王国から指図を受ける事はあり得ないだろうから、事前に回避行動をとると考えられる。大恋愛でもしない限りは、人質と子供を作ることはないのだ。可能性が0ではないが。

 

「ネルを五人目として紹介する気はない。すでに貴方は私の正式な夫だからな」

 

確かにそれはそうだが、一番立場が弱いのは、僕で間違いない。特に皇女殿下が皇帝陛下になるまでは、正式な夫とはいえこの国、はっきりいって中でも後宮に置いては、さっきの四人の足元にも及ばないだろう。彼女が皇帝陛下になり、僕の子供が立太子すれば、ちょっと状況が変わるかも知れないというレベルだ。四人全員といわずとも、一人でも他に正式な夫になれば、僕は公的な場にも呼ばれなくなる可能性が高い。ダンスパートナーやエスコートなどは、おそらく他の人がする。幸せな家族風景を国民に見せ、ニコニコ笑って手を振るのも、他の人の役割になるだろう。本音を言うなら、早く皇女殿下に他の正式な夫を迎えてもらいたい。僕には荷が重い。そもそも僕は、側室の方が良かった。

 

「私自身の考えとしては、可能な限り貴方以外は正式な夫にしない。他の四名は側室にしておきたいんだ」

 

なんということだ。それでは確かに僕の命の危険は格段にあがる。ただ少し新鮮だ。僕はこれまで、どちらかというと腐竜退治など危ないところに沢山行くように言われたし、ここのところは自分で自分の命を守ってきた。このように秘匿され、誰かに守って貰ったことは、全くない。幼い頃は祖父に守ってもらったが、こういう形式ではなかった。また人間関係を考慮して守られたこともない。僕はどうやら大切にして貰えるようだ。少なくとも今のところは。

 

「ここは一番の正室が住まう塔だ。皇位継承権第一位のものの部屋から、この部屋まで直通の魔法陣がある。悪いがそれ以外の出入り口は封鎖してある。塔というかこの部屋から出てもらうわけにも行かない。騙したようで悪いな」

 

軟禁生活といって差し支えはない。まぁ別に良いけど。元々僕はひきこもり願望が強く、狭いところが好きなのだ。それにこの部屋は十分広い。僕の公爵領地の部屋よりも広い。さらに寝室と御手洗いとお風呂とキッチンとダイニングとリビングと書斎と物置部屋と衣装部屋と、さらには魔術結界がはってある訓練部屋、図書室、移動魔法陣部屋、なんでもある。無いものは、窓くらいだ。外のことは何も分からなくなる。きっと皇女殿下が途中で飽きて来なくなったら、孤独に一人でここにいることになるのだろう。飽きる前に子供が出来るか、外に出してもらえることを祈るしかない。さすがに外を全く見られない孤独な生活は寂しいと思う。せめて天気の変化でも見られたら気分が変わるはずだから。

 

「早速子供を作ろう」

 

響いた言葉に、僕はポカンとしそうになってしまった。まぁ確かに僕はそのためにいるようなものだし、それは現実的な選択でもある。ぱちんと皇女殿下が指を鳴らすと、清浄化魔術が広がった。僕と皇女殿下の体が、一瞬でお風呂上がりよりも綺麗になったのだ。

 

「寝室へ行こう。本来は入浴して香油でも肌にすり込み、薄いナイトドレスにでも着替えるのだろうけど、色気が無くて悪いな。それを行って、周囲に露見するわけにはいかない」

「そういうのは気にしないけど」

 

僕は彼女の後について、寝室へと向かいながら、気づかれないように溜息をついた。なんだかなぁ。こういう結婚初夜を迎えることになるとは、考えてもいなかった。時計を見ると、現在は午後三時半だった。

 

「では何を気にするんだ? 私が相手では不満か?」

「そんなことはないよ」

「だったらさっさと服を脱いでくれ」

 

僕は首もとに手をかけた。本音を言えば、多分少し寂しいのだ。なんだかんだとはいえ、やはり彼女も僕に恋などしていない。恋愛対象としてみているのかも怪しい。これまでの女性との違いは、快楽や一夜の情交を求めているのではなくて、子種を求めているという点だ。それこそ僕は種馬という事になる。皇女殿下も僕の家族も、子供を望んでいるのだ。今、僕はそれ以外の理由では必要とされなくなった。腐竜退治の必要もないからだ。

 

 

 

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