※この作品はR-18です。

母の写真   作:松田義和

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これから僕が書こうとしているのは、小説として読んでほしい。
だけど――これは嘘じゃない。
90%は、実際に僕の身に起こったことだ。信じるかどうかはあなた次第だけれど、できれば、頭の片隅にそれを置いて読んでほしい。


第一章 始まりは、静かだった

物語の始まりは、何の変哲もない、曇った朝だった。

静かで、少し肌寒い。まるでこの先に待ち受ける出来事を予感していたかのような、そんな空気だった。

だけどそのときの僕は、ただ眠そうな目をこすりながら、いつものようにコーヒーを淹れていた。

まだ何も知らなかった。

この日を境に、自分の中の“何か”が音を立てて崩れていくことも。

そして、長く封じ込めていた過去が、じわじわと姿を現してくることも。

 

この物語は、僕自身の記憶の旅だ。

そして、もしあなたにも似たような傷や、似たような思いがあるなら――

この物語のどこかに、自分の影を見つけてもらえるかもしれない。

 

 

 

僕の家庭は――特別裕福でもなければ、苦しかったわけでもない。

いわゆる「ごく普通」の家庭だったと思う。

父さんと母さんと、僕の三人暮らし。

日曜の昼間は父さんがテレビを見ていて、母さんはその横で洗濯物をたたんでいた。

ときどき小さな口げんかはあったけど、結局いつも、夕飯の頃には元通りになっていた。

 

なぜ、そんなことを過去形で書くのかって?

それは、もう僕がそこにいないからだ。

 

2年前、大学に合格した僕は、某学園都市で一人暮らしを始めた。

電車一本で東京には戻れる。距離にすれば、たいしたことはない。

でも「一人で暮らす」というその事実が、母さんを少しだけ不安にさせたらしい。

 

最初のころは、ちょっとした用事を作っては僕の部屋まで来てくれた。

「ちゃんと食べてる?」「風邪ひいてない?」「洗濯は?」

あまりにもしょっちゅう来るので、ちょっと面倒に思ったこともある。

でも今思えば、それはあの人なりの“愛し方”だったのだろう。

 

大学の課題や人間関係に追われて、なかなか帰省できなかったけれど、夏休みの一度だけ、実家に戻ったことがあった。

そのときの母さんの顔を、僕は今でもよく覚えている。

あんなふうに嬉しそうな顔、いつ以来だったろうか。

 

「ご飯、あんたの好きなやつ作ってあるから」

台所から聞こえる母さんの声は、昔と変わらなかった。

 

父さんも、その横で新聞をめくりながら、どこか嬉しそうな顔をしていた。

無口な人だったから、言葉ではあまり何も言わないけれど、それでも、僕にはわかった。

 

あのときの母さんは、43歳。

息子の僕が言うのもなんだけれど――なかなかの美人だった。

少し茶色がかった髪、きれいな横顔。

子どもの頃に撮った写真を引っ張り出せば、その雰囲気は今でも伝わると思う。

もちろん、見せるにはちょっと勇気がいるし、身バレが怖いから加工はしてあるけれど。

 

 

あの頃の写真の中で、母さんはいつも笑っていた。

それが、当たり前だと思っていた。

――その笑顔が、どれだけ貴重なものだったのかに、気づいたのは、もっとずっと後のことだった。

 

 

 

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