そこにあったのは――
ブラジャー一枚で、大きな胸を露出している写真だった。
下から煽るように撮られたアングル。鏡の前で、カメラを見つめる目。
ただの記録じゃない。誰かに「見せるため」の構図だった。
次の写真は、短いスカートを穿いて脚を組んでいた。
肌が、白く、なまめかしい。
膝の角度、手の位置。意識的な「見せ方」が、そこにはあった。
極めつけは、スカートを捲り上げて、白いパンティを見せつけるようにした一枚だった。
顔は映っていなかった。でも、誰がどう見たって、それは“母さん”だった。
――なんで、こんなものが……?
まさか、誰かに送っている?
その可能性を否定したくて、僕は必死で他の手がかりを探した。
LINE、メール、Instagram、Facebook――。
履歴はどれも、普通だった。
地域のスーパーのチラシ、同じ町内のグループLINE、親戚への連絡、父さんとのやりとり。
怪しい人物との接触は、どこにも見当たらなかった。
だけど、“写真”は、そこにあった。
確かに。
誰にも見せていないのなら、なぜ撮った?
なぜ、削除しなかった?
「もしかして……他の誰かとのやり取りは消した?」
そう考えたとたん、心がざわついた。
どこまで疑っていいのか、自分でもわからなかった。
いや、わかっていた。
もう、疑うことを止められない自分が、いちばん怖かった。
それでも、僕の中にもう一つの声があった。
――もしかしたら、本当にふざけて撮っただけなのかもしれない。
――誰かに見せるつもりなんて、なかったのかもしれない。
――僕が勝手に、想像を膨らませているだけかもしれない。
信じたい気持ちと、見てしまった現実。
その両方のあいだで、ずっとぐらぐらと揺れていた。
だからこそ、夕飯のとき。
母さんの顔を見た瞬間、僕は言葉を失った。
エプロンをして、台所で笑っていた。
「今日の味噌汁、ちょっと濃いかも」なんて言いながら。
テレビからはバラエティ番組の笑い声。
父さんは相変わらずくだらない冗談を言って、母さんに軽くどつかれていた。
全部が、いつも通りだった。
全部が、ちゃんと「日常」だった。
でも、僕だけが、もう元に戻れなかった。
なぜなら――
ポケットの中に、母さんの写真を入れていたから。
あの下着姿を。
あの、絶対に見てはいけなかったはずの“女”としての姿を。
自分でもわかっている。
これは、踏み越えてはいけない線だった。
なのに僕は、自分の手でそれを保存して、持ち帰ろうとしていた。
罪悪感よりも先に、なぜか鼓動が速くなっていた。