※この作品はR-18です。

母の写真   作:松田義和

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第五章 白昼の静寂

その年の秋は、ちょうど“シルバーウィーク”と呼ばれる連休があった。

街は少しだけ静かになり、電車は空いていて、季節はやっと夏の熱を手放しかけていた。

 

友達の多くは帰省しなかった。

「だるい」「家帰ってもヒマだし」「親と話すことないし」

みんな口々にそう言っていたけれど、僕は逆だった。

 

理由があった。

 

それは、「会いたかったから」でも、「休みたかったから」でもなかった。

ただ――確かめたかった。

この胸の奥に張りついている“違和感”の正体を、自分の目で、手で、心で、知りたかった。

 

父さんも母さんも、僕が帰ってきたことを本当に喜んでくれた。

夕飯の席では、母さんが唐揚げを揚げてくれた。例の、少し焦げたやつ。

父さんはくだらない冗談を飛ばして、母さんは「やめなさいよ」と笑って。

“いつも通り”の光景がそこにあった。

 

でも、その温かい空気の中にいる自分だけが、どこか浮いていた。

笑っているふりをしながら、心の奥では冷たい靄がかかっていた。

 

この違和感は、もう誤魔化せなかった。

 

だから、やるしかなかった。

スマホと、パソコン。

前回は“たまたま”見つけてしまった。でも今回は違う。

――意図的だった。

 

家に帰ってきてから、僕はずっと“その時”を待っていた。

父さんがゴルフに出かけ、母さんがスーパーと美容室に行くと言った、連休2日目の昼間。

 

家に、僕ひとり。

静寂が家の中を満たしていた。

 

――機会が、来た。

 

僕はリビングに足を踏み入れた。

カーテン越しに差し込む光が、空気を埃の粒ごと照らしていた。

母さんのノートパソコンは、前と同じ場所にあった。

コードが挿さったまま、まるで“使って”というように静かに佇んでいる。

 

僕は手を伸ばし、そっと開いた。

電源は入ったままだった。

 

ディスプレイが明るくなる。

デスクトップの壁紙は、いつかの家族旅行の風景――どこかの湖の前で撮った写真だった。

その笑顔が、やけに遠く感じた。

 

パスワードはなかった。

前と同じ。

 

ピクチャ。

ドキュメント。

ダウンロード。

 

順に開いていく。

フォルダの数は、確実に前より増えていた。

 

「MyPicture」内に、新しいフォルダがひとつあった。

 

「Private」

僕はためらいながらも「Private」を開いた。

その瞬間、心臓がひとつ大きく跳ねた。

 

見覚えのある写真が、3枚。

 

 

けれど、前に見たものとは違う写真が。

構図も、衣装も、角度も、そして表情も。

 

もった過激な

 

もっと……“意図”があるように見えた。

誰かに“向けられた”視線。

笑顔の裏に潜む、何か別の感情。

 

その時、僕は初めて理解したのかもしれない。

 

あの写真は、偶然じゃなかった。

そして、これはきっと――まだ“始まり”にすぎない。

 

 

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