その年の秋は、ちょうど“シルバーウィーク”と呼ばれる連休があった。
街は少しだけ静かになり、電車は空いていて、季節はやっと夏の熱を手放しかけていた。
友達の多くは帰省しなかった。
「だるい」「家帰ってもヒマだし」「親と話すことないし」
みんな口々にそう言っていたけれど、僕は逆だった。
理由があった。
それは、「会いたかったから」でも、「休みたかったから」でもなかった。
ただ――確かめたかった。
この胸の奥に張りついている“違和感”の正体を、自分の目で、手で、心で、知りたかった。
父さんも母さんも、僕が帰ってきたことを本当に喜んでくれた。
夕飯の席では、母さんが唐揚げを揚げてくれた。例の、少し焦げたやつ。
父さんはくだらない冗談を飛ばして、母さんは「やめなさいよ」と笑って。
“いつも通り”の光景がそこにあった。
でも、その温かい空気の中にいる自分だけが、どこか浮いていた。
笑っているふりをしながら、心の奥では冷たい靄がかかっていた。
この違和感は、もう誤魔化せなかった。
だから、やるしかなかった。
スマホと、パソコン。
前回は“たまたま”見つけてしまった。でも今回は違う。
――意図的だった。
家に帰ってきてから、僕はずっと“その時”を待っていた。
父さんがゴルフに出かけ、母さんがスーパーと美容室に行くと言った、連休2日目の昼間。
家に、僕ひとり。
静寂が家の中を満たしていた。
――機会が、来た。
僕はリビングに足を踏み入れた。
カーテン越しに差し込む光が、空気を埃の粒ごと照らしていた。
母さんのノートパソコンは、前と同じ場所にあった。
コードが挿さったまま、まるで“使って”というように静かに佇んでいる。
僕は手を伸ばし、そっと開いた。
電源は入ったままだった。
ディスプレイが明るくなる。
デスクトップの壁紙は、いつかの家族旅行の風景――どこかの湖の前で撮った写真だった。
その笑顔が、やけに遠く感じた。
パスワードはなかった。
前と同じ。
ピクチャ。
ドキュメント。
ダウンロード。
順に開いていく。
フォルダの数は、確実に前より増えていた。
「MyPicture」内に、新しいフォルダがひとつあった。
「Private」
僕はためらいながらも「Private」を開いた。
その瞬間、心臓がひとつ大きく跳ねた。
見覚えのある写真が、3枚。
けれど、前に見たものとは違う写真が。
構図も、衣装も、角度も、そして表情も。
もった過激な
もっと……“意図”があるように見えた。
誰かに“向けられた”視線。
笑顔の裏に潜む、何か別の感情。
その時、僕は初めて理解したのかもしれない。
あの写真は、偶然じゃなかった。
そして、これはきっと――まだ“始まり”にすぎない。