新しい写真は、さらに露出が大きくなっていた。
それは、ただ肌の面積が増えているというだけではなかった。
そこに写る母さんは、確かに「誰かに見せるため」にその姿を撮っていた。僕の知っている“母親”という存在の枠を、はっきりと踏み越えていた。
3枚目の写真では、青いビキニを身にまとった彼女が、まるでグラビアのようなポーズでこちらを見つめていた。
目線の強さに息を呑む。これが本当に母さんなのか、何度も疑った。
4枚目では、彼女は背中を向け、こちらにお尻を突き出すような姿勢をとっていた。
挑発、としか言いようがない。
その体勢のまま、首だけこちらを振り向いている。その視線が、刺さるように僕の胸に突き刺さった。
5枚目、6枚目と進むごとに、下着の色が変わっていった。
黒いレース、紫のサテン――どれも、生活感の欠片もない。普段の彼女が選ぶはずのない衣装だった。
色気というより、計算された演出の匂いが濃厚に漂っていた。
7枚目には、彼女がブラを下ろし、両手で胸元を隠している写真があった。
隠しているのに、まるで「見せている」ように感じた。
意図的な角度。手の形。そういう細部が、否応なく僕の理性を揺さぶった。
そして、8枚目の写真。
そこには、左のブラを外し、右手で自分の胸を揉んでいる母の姿があった。
視線は虚ろで、どこか恍惚としているようにも見えた。
何よりも衝撃的だったのは、彼女が下半身には何も身につけていなかったことだった。
脳のどこかで、「見なかったことにしろ」と警報が鳴っていた。
けれど僕は、その警報を無視した。
多分、あの瞬間の僕は――人生でいちばん、混乱していた。
体が熱を持ち、喉が渇き、背中に冷や汗が流れていた。
それが興奮なのか、恐怖なのか、もはや自分でもわからなかった。
何が正しくて、何が間違っているのか。
世界の境界線がぼやけていく。
目の前の現実は、あまりにも鮮烈すぎて、もう後戻りできない場所に僕を引きずり込もうとしていた。
母さんの写真は、僕の中に、ひとつの明確な“分裂”を生んだ。
画面に指を滑らせるたび、心の奥で何かが壊れ、何かが生まれていくような感覚――それは僕の輪郭を、静かに、しかし確実に歪ませていった。
もっと見たい。
そう思ってしまう自分がいた。
その衝動は、強く、どうしようもなく、理性を突き破ろうとしていた。
でも同時に、胸の奥で膨らんでいく感情があった。
――これは、誰のための写真なんだ?
誰に向けて、この姿を撮ったのか。
なぜ、僕が知らない“母さん”が、そこにいるのか。
その疑問は、やがて鈍い痛みとなり、気づけば“嫉妬”に変わっていた。
自分でも認めたくなかった。
けれど、たぶん僕は……母さんの中にある「誰かのための顔」に、取り残されたような気持ちになっていたんだと思う。
母さんが、僕の知らない誰かにだけ向ける笑み。
その表情を知らない自分。
それが、どうしようもなく悔しかった。
その後、再び母さんのスマホを手に取る機会が巡ってきた。
あのときとは違う――今度こそ、冷静に見るつもりだった。
自分にそう言い聞かせていた。でも、実際には指先が震えていた。
写真ホルダーの中身は、以前と変わっていなかった。
増えてもいなければ、消されてもいない。まるで何もなかったかのように、静かにそこにあった。
ただ――そのとき、ホーム画面の片隅に、ひとつ見覚えのないアイコンが目に留まった。
聞いたことのない名前。見たことのないロゴ。
SNSでも、写真加工でもない。どこか匿名性の高い、メッセージアプリのようだった。
“〇〇◯”
アプリ名の意味も機能もわからない。
けれど、なぜか直感的に悟った。
――ここに“答え”があるかもしれない。
開いてはいけない。そう思う気持ちと、開かなければいけない。そう感じる衝動とが、頭の中でぶつかり合っていた。
心の中で、何度も迷った。
けれど――迷いは一瞬だった。
気づけば僕は、そのアプリに指を伸ばしていた。