※この作品はR-18です。

母の写真   作:松田義和

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第七章 アプリの中の真実

 アプリを開いた瞬間――息が止まった。

 

 画面には、ずらりと見知らぬ男たちの顔が並んでいた。

 笑っている者、真顔の者、どこか企んだような目をした者。

 年齢も、職業も、雰囲気もバラバラだった。

 それぞれの写真の下には、短いコメントと「♡」のアイコン。

 まるで誰かに評価されることを前提とした展示場のようだった。

 

 ……これは、マッチングアプリ?

 

 理解するよりも先に、指が勝手に動き出していた。

 スクロール、スクロール――その中で、僕の目は、ある“見覚え”に吸い寄せられた。

 

 青いビキニ。

 あの写真だった。

 いや、それだけじゃない。黒い下着、手で胸を隠すあの写真――どれも、見覚えのあるものばかりだった。

 

 そして、それらは母さんのプロフィール写真として、堂々と画面に掲げられていた。

 

 思考が真っ白になる、という感覚を初めて知った。

 いや、まさか。

 あの母さんが、こんな……?

 

 否定の声が、心の中で何度も響いた。

 でも、それらの声は、画面の中の“事実”に踏みにじられていった。

 母さんはここで、男たちと“繋がろう”としていた。

 僕の知らない場所で、僕の知らない顔をして。

 

 胸が痛かった。

 喉の奥が熱く、詰まるような感覚があった。

 

 でも、目は離せなかった。

 もっと見なければ、何が本当で、何が偽物なのかすらわからなかった。

 

 やがて、画面の中に「メッセージ」というタブを見つけた。

 指が止まった。

 

 これは、越えてはいけない一線じゃないか――

 でも、すでに僕は、その一線を遠く超えてしまっていた。

 

 確認したい。知りたい。でも、知りたくない。

 その矛盾の間で引き裂かれながら、僕は震える指でタブを開いた。

 

 そこには、予想をはるかに超える現実が待っていた。

 

 複数の男たちとのメッセージのやりとり。

 「今度会えるの楽しみ」

 「次はもっと大胆な写真が見たいな」

 「あなたは本当に魅力的だ、年齢なんて信じられない」

 

 下にスクロールすると、母さんの返信が並んでいた。

 

 「ありがとう、そんなふうに言ってもらえて嬉しい」

 「あなたとの時間、とても楽しみにしています」

 

 心臓がドクンと跳ねた。

 母さんは、はっきりと応じていた。

 一時の気まぐれなんかじゃない。何度も、繰り返されていた。

 親密な言葉、時に甘えるような表現。

 画面の向こうで母さんは、たしかに“誰か”と心を通わせていた。

 

 呼吸が浅くなっていく。

 見続けてはいけない。そう思うのに、指は止まらなかった。

 

 そして――

 

 決定的なメッセージが目に入った。

 

 「夫とはもう冷えきっているの。あなたとこうしている時だけ、女でいられる。」

 

 ……その言葉は、脳の奥にじかに焼き付いた。

 

 それは僕がこれまで信じていた“家族”という像そのものを、否定する一文だった。

 母さんは、母親であり、妻でありながら――その裏で、“女”としての自分を生きていた。

 僕が知っていた家庭の輪郭が、砂のように崩れていった。

 

 そっと、スマホを閉じた。

 音すら立てたくなかった。何も触れたくなかった。

 

 ただ、ひとつだけ確かなことがあった。

 

 もう、僕は元の自分には戻れない――ということだ。

 

 

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