身体を洗う段になると、どちらが先かで奇妙な押し問答が始まった。
私から洗ってあげる、いやいや俺から――互いに全てを晒した姿のまま、滴る水にほんのりと汗が滲み始めても一歩も譲らない。
結局じゃんけんで決着がつき、男は得意げにピースサインを掲げ、女は自分の広げた掌を見てがっくりと肩を落とすのだった。
ボディスポンジの泡を、彼女の鎖骨へとそっと滑らせる。肌がしっとりと水気を含み、女の頬に仄かな朱が滲んだ。
「手、上げて?」
言われるがままに腕を広げると、彼は脇から指先まで丁寧に泡を行き渡らせる。
指を洗う途中、彼女が不意に指を絡めてきた。まるで遊ぶようにぎゅっと握り、ふふんと笑う。そのやりとりがどこかくすぐったくて、男も思わず笑みを返していた。
両腕まで一通り終え、次はいよいよ胸の豊かな二つの膨らみと対峙する。こうして改めて見るとやっぱり大きい――息を呑み、その丸みに沿って泡を伝わせていく。
膨らみの下は、その重みの圧がのしかかって手を覆い隠してしまうほどだった。
そこから谷間まで、手探りで念入りに洗っていく。その度に、それは男の目の前でたゆんと悩ましく揺れていた。
「…おっきしてる」
彼女がふと呟く。驚いて視線を落とすと、いつの間にかそれは熱く欲を主張してしまっていた。
「あっ…ご、ごめん…なさい…」
慌てて腰を引くが、最早隠しようがない。
女がためらいがちに尋ねる。
「安心おっき…?」
その言葉に男は顔を赤らめ、申し訳なさそうに床に目を向けながら答えた。
「これは多分、えっちな、ほう…」
「そっか、えっちなほうかぁ…」
ふふ、と彼女は含みのある笑みを浮かべる。
この後に自分が洗われる時にきっと――と、男は察し、心なしか自分のものがさらに熱を帯びるのを感じた。
「はい、じゃあ後ろ向いてください」
振り向いた彼女の背を撫で、腰へと泡を滑らせる。さらにその下を洗おうと跪くと、むっちりと張り出した白い膨らみが男の視界いっぱいに飛び込んできた。
胸の果実に劣らない程の大きさ――重力に負けてほんのり下を向くそれは、泡に塗れるたびに静かに揺れて、男の下腹をまた刺激させてしまう。
奥歯を噛み締めながら、悩ましい膨らみをやっと洗い終えると、さらにその奥。腿の隙間へと目を向けた。
「ごめん。脚、開いてもらっていい?」
促されて彼女は脚を開く。しかし、心なしか控えめな開き具合。手が入るかな、と少し心配になりながらも、男はその隙間にそっとスポンジを差し入れた。
突然、彼女の身体が小さく震える。反射的に手を止めると、手首にぬるりとした感触が触れた。明らかに水じゃない、これは――。
「こらっ!」
顔だけこちらを向き、彼女が制した。その表情は怒っているようで、瞳はどこか潤んで切ないものだった。
男はその表情で、脚の開き方が控えめな理由を咄嗟に理解した。慌てて手を引っ込める。
「ご、ごめん…つい」
叱られたこともだが、それ以上に自分の行動の無遠慮さに反省し、しゅんと視線を落としてしまう。
女は、自分の身体の反応に戸惑っていた。
先程彼の熱を目にしてしまってから、そこが疼いてしまっている。それ自体は仕方のないことだと割り切っていたけど、直接触られてこんな反応をしてしまうとは思っても見なかったのだ。
これまで男性に触れられて快感を覚えたことなどは一度もなかった。拒絶しか知らなかったはずの自分が、今は――彼の手を受け入れていた。
だからこそ、あのとき思わず声を荒げたのだ。恥ずかしくて、怖くて、それでもどこか嬉しくて。
いつの間にか、彼の存在を身も心も自然に受け入れるようになっていたのかもしれない。肌けた姿をこうして見せることにあまり抵抗がなかったのも、きっとそのせいだったのだろう。
浴室に、換気扇の低い音だけが響いていた。
彼は気まずさをごまかすようにスポンジを持ち直す。すると、背を向けた彼女がぽつりと呟いた。
「そこ…洗って、いいよ」
その声は小さく、どこか震えていた。
「え、でも…」
「大丈夫、だから…」
彼女はそう言って、静かに脚を開いた。彼は少し迷った末、そっとスポンジを滑り込ませる。
先ほどよりも広がった隙間に、丁寧に泡を行き渡らせていく。
ときおり、彼女の腰がぴくりと震える。だが拒絶の気配はない。
――この人も、自分と同じように反応してしまうことがあるんだ。
それはもしかしたら当たり前のことなのかもしれない。でも、なぜかとても嬉しいことだった。
いつも癒してくれる彼女を、今度は自分が癒せるのかも。ふとそんなことを思いつく。
もしかしたら本当に拒絶されてしまう可能性もある。それでも、この後に彼女が自分の身に施してくれることを考えると――。
男は意を決し、スポンジを置いた指先をそっと伸ばした。
柔らかな感触に触れ、指先が突起に添えられた瞬間、彼女が小さく息を呑む。
「んっ…」
指先から、わずかに震える彼女の反応を拾う。男は表情を窺おうとしたが、彼女は背を向けたまま何も言わなかった。
代わりに、彼女はそっと腰を曲げ、双丘を彼のほうへと差し出していた。視界いっぱいの膨らみがさらに大きく主張し、男は圧倒されてしまう。
それが彼女の答えだった。拒む理由などなく、むしろ真逆――それを察した男は、そっと突き出された膨らみに手を添え、もう片方の手で、指先を蜜の滴る泉の奥へと差し入れていった。
「あっ…あぁんっ…!」
艶やかな声が弾ける。浴室に響いたその声に、彼の胸が高鳴った。
彼女は咄嗟に口元を押さえるが、荒くなる吐息まで抑えることが出来ない。中を撫でる湿った音が女の耳にも響いていて、かあっと顔が火照っていくのを感じる。
「気持ちいい…?」
いつもは彼女から投げかけてくれる言葉で、男はそっと問いかける。彼女は答えず、腰をくいくいと振って、指先に身を委ねてくる。その仕草が答えなのだと、男はそっと動きを深めた。
彼女を喜ばせてあげたい――いまの男の望みはそれだけだった。
男の指が内をなぞるたび、彼女の身体は静かに、そして確かに反応していく。
――ああ…恥ずかしいのに、止まらない…!
やがて彼女は浴槽の縁に手をつき、甘い衝動に突き動かされるように腰を揺らし始めた。
目を伏せ、頬を赤らめながらも、自ら求めるような動きを抑えられなくなっていく。
「あっ…んっ。いっちゃ…う…」
震える声で告げられたその言葉に、彼は真っ直ぐ答えた。
「いっていいよ。…大丈夫だから」
不意に視線が交わる。潤んだ瞳が、確かに彼を見ていた。そのまま彼は、彼女の中を奥まで優しく、それでいて激しく、刺激し続けた。
「あっあっ…!くぅっ…んぅぅうっ…!」
甘く艶やかな声が響いた瞬間、彼女の身体が大きく跳ねる。
指先に感じる熱と収縮――そして、腿を閉じて脚を突っ張るその姿を、男は息を呑んで見守った。
絶頂の余波に包まれ、彼女は彼の指を、名残惜しげにきゅっと締めつけたまま、腰を震わせてしばらく動けなくなってしまった。
男がその手をそっと引くと、全身の力が抜けたように、床にへたり込んでしまう。
「気持ち、よかった…?」
控えめにかけられたその問いに、彼女はゆっくり振り向く。今にも崩れてしまいそうな儚げな表情――視線を落としながら頬を一筋光らせて、うん…と静かに頷いた。
泡立つ肌をふるわせながら、彼女はそっと腕を伸ばす。小さく震える手が彼の背に回され、その胸元に息を詰めるように、ぎゅっと、しがみついた。
それは、縋るような抱擁だった。
男はその全てを包み込み、静かに受け止める。そして何も言わず、愛おしげに髪を撫で続けた。
――少しずつ、彼女から伝わる震えが落ち着いていく。
不思議なことに、先ほどまで昂っていた彼自身の熱は、もうどこにもなかった。ただ、今こうして身を寄せ合って彼女の温もりを感じているだけで、嬉しさと安らぎが溢れていた。
心と身体は必ずしも一致してくれない――そんなことを今、男は痛感している。
「お返しね…?」
そう言って、彼の欲望を懸命に扱く女の姿がそこにあった。先程萎んでいたはずのそれは、泡で塗れた彼女の手に包まれて洗われているうちに、敢えなく息を吹き返してしまっていたのだ。
「ちょ、ちょっとまっ…んぅっ…」
ただでさえ仕事の疲労が溜まっていた上に、一度彼女の柔肌に触れて熱くなってしまっていたからだろうか。恥ずかしさに反して腰は動いてしまい、なんとも情けない気持ちにもなってくる。
「あ…もうっ…でるっ、ぅううっ!」
それでも、その快感に抗うことは出来ず、刺激に敏感になってしまっていたそれは、あっという間に彼女の豊満な果実に向けて欲望を噴き出してしまった。
「きゃっ!」
あまりに唐突だった為、女は一瞬何が起こったかわからなかった。
胸元のぬるりとした感触にふと視線を落とし、自らの胸の膨らみに白い雫が滴っていることにようやく気づく。
「もっとしてあげたかったのに…」
そう呟く彼女の顔はちょっぴりむくれていた。
「ごめん…とまら、なくて…」
男は情けなさも相まって、顔を真っ赤にさせながら、今にも泣き出しそうにうぅ…と俯いてしまう。
そんな顔を覗き込むように彼女は言う。
「気持ちよかった?」
それはとても優しい響きだった。
「うん…すごく」
「そっか、よかった」
「ごめん、こんな姿、情けない…よね」
「そんなことないよ。気にしないで?」
全てを赦してくれるようなその微笑みは、心もそっと包み込んでくれる。
「…いつも、ありがとう」
男は自然と言葉を溢していた。
「こちらこそ、ありがとうね」
二人は胸を温かくさせながら、静かに笑い合った。
男が一人、洗面所で身体を拭きながらぼんやりと鏡を見ると、そこに映る人物がどこか別人のようにも思えてくる。
湯気と二人の熱気とでなんだか少しぼやけた記憶になっているような――それでも、肌の奥には確かに温もりの跡が残っている。
彼女はというと、先に身体を拭き終えて、「ご飯用意するね」と言って洗面所を後にしていた。やっぱりここは彼女の家なのだな、と今更になって実感する。
夢現にぽーっと居間のドアを開けると――そこには、頭にタオルを巻き、下半身に下着一枚だけを穿いたあられも無い姿でぱたぱたと歩き回る彼女の姿があった。
「あ、焼けたから食べよー」
トーストの香ばしい匂いの中に響く惚けた声。振り返るその胸には、包むものが無く自然のまま晒された豊かな果実がゆさゆさと揺れていた。
「ちょ、ちょっと。せめて隠して!風邪ひいちゃうから」
男は視線を泳がせながら、しどろもどろに言葉を漏らした。
「えー、だって暑いんだもん」
ふふ、と無邪気に笑ってみせる。
「てゆーか、君だって同じようなもんだぞう?」
彼女の視線を追うように自らの身体に目をやると、首からタオルをかけて下半身を包む下着のみを着た、彼女とほとんど同じような格好をした自分の姿が飛び込んできた。
「…うぐ、すみません…」
これは分が悪い…と、苦笑いした顔を向ける。
彼女は、にししと歯を見せて笑いながら、テーブルにトーストを並べていった。
もしかしたらさっきの出来事は夢だったんじゃなかろうか――。
男はそんなこと考えながら、香ばしい匂いに腹の虫を小さく鳴らし、朝日が煌々と差すその部屋へと足を踏み入れるのだった。
対等に生きるって、案外難しいですよね。
頭ではわかっていても。
「ありがとう」は
それを確かめ合える魔法の言葉だと思います。