男どもとの青姦祭りに「おほほっ♡」と喜び続けていたエスカとダフネを無理やりちんぽから引きはがすと、DSはハーフリングの2人がやっている店に引っ張って行った。
指名された店は、まことにきったない構えの店舗だった。
外観はツタが這いまくっていて、もじゃもじゃとしていた。
店の入り口には虫の死骸がびっしりとついた看板が置かれていた。
『リリカルララフェル』という名前の喫茶店だ。
その中はもっと汚かった。
壁は煙草のヤニだらけ。
テーブルと椅子に至っては、どこの粗大ごみ置き場から引っ張り出したのかわからない、ぼろっちいもの。
出されたコーヒーは苦く、酸っぱかったが、風味がよかった。
味にうるさいDSとミレイユを満足させた。
エスカとダフネが注文した、カレーライスを運んで来た女ハーフリングにDSは尋ねてみた。
「なかなかにうまいコーヒーだな。店を開くのもよくわかる。魔界の監視官というのは、こういう副業をやっているのか?」
「そうです。魔界の監督官はこうした商売をやって、素性を隠して、街の中に溶け込んでいるんですよ」
そうして一般市民として過ごし、この世を乱そうとする政治勢力や市民運動を監視する。
例えばピンクのチラシを配る頭あっぱらぱーな感じの女ばかりがいる政治政党とか、間違いだらけの歴史と科学の知識を堂々とご高説したりする、オレンジ色のカルト集団などだ。
度が過ぎればレッドカード。
魔界の監視官は『こくれん』にとって上位存在みたいなものだから、赤い札を突き出せば必ず動いた。
「しかし、天安門や911テロを防げなかったわけですし、我々の監視もどこまで有効なのかは、疑わしいものですけどね」
「……そうか」
DSはハーフリングの女に目を向ける。
ふわふわの帽子をかぶって耳を隠していた。
彼女は、出されたカレーを勢いよくパクつくエスカとダフネを見て笑っていた。
刺激的なにおいを嗅いで、ミレイユがじゅるりとよだれをたらした。
「うまそうな匂いだ。ここの名物ずらか?」
「そうです。食べ物はカレーライスしかお出ししませんけど、お客さんには好評です。これを目当てに毎日通うお客さんも、中にはいますから」
ここで2人のハーフリングは自分達の名を告げた。
男のほうはプリンプリン=カワイイヤッター。
女のほうはモッチモチ=カワイイヤッター。
夫婦であった。
へんてこな響きがする名前なのは、位が低い魔族だからである。
「割とデキそうな魔力を感じるが……おまんらは下級魔族ずらか?」
「異世界の監視官は、我々の様な者が選ばれますからね」
「主人も私も、もとは魔界の税関職員だったのですが……魔王様の行政府からお達しが来ちゃいまして」
やって来たのは10年前。
ダフネよりも先にカレーを食べ終えたエスカが、店にかかったカレンダーに目を向けた。
「つまり、西暦2038年に来られたんでチュウ?」
2人はこの『ジパング』をつまんねー国にしてしまった原因に冷たい視線を送りながら、ゆっくりとうなずいた。
「そうです。エスカさんがやらかして逃げてから15年ぐらい後にですよ」
エスカは口をぽかんと開け、「わかんにゃいでチュウ~」と言ってとぼけたふりをした。
大体、サキュっ子料理を出す店を構えたのも、魔界のフェアリーであるウラクジョアンに頼まれたからだ。
そもそもが、あのゴキブリ羽妖精のせいである。
大体アイツ、どこにいやがるんだと心の中で毒づいた。
「ところで、ウラクジョアンしゃんは?」
カウンターでコーヒー豆を挽く、プリンプリン=カワイイヤッターが答えた。
「とっくに魔界に帰りましたよ。私たちは後任の方と一緒に来たのです」
「今の監視官長はタヌキの獣人のポコリーヌ嬢です。とはいえ彼女は今、『ナスシオバラ』から出られません。この国の政治家たちとやり取りをしておりますからね」
「そこ、どこでチュウ?」
今の『ジパング』の首都だ、とプリンプリンは答えた。
『トーキョー』は暑くなり過ぎ、象徴たる『テンノー』は内陸部へと居を移した。
国の省庁や大企業の本社も、そちらにお引越しとなった。
しかし『ナスシオバラ』とその一隊には、大金持ちしか家を持てないように法整備がなされ、庶民層は農民と設備屋と一部のサービス業以外、全てが『トーキョー』や『チバラギ』に追い払われたそうだ。
更に、農産や技術者以外の低所得者層は、暑さが増している地域に押し込められていた。沿岸部にである。
「無理やり移住させるなんて、ひっどいことをするもんでチュウ」
「でないと、人が内陸部に移住してしまいますからね」
沿岸部はとても暑い。しかし内陸部に行くと途端に涼しくなる。
エスカの時代、暑さで天下一を競い合っていた『クマガヤ』と『キリュウ』の内陸部の2つの街は、今ではトーキョーよりも肌寒く、8月の暑い盛りになっても最高気温が30度を超す事は、あまり無いという。
世に知られる気候変動の仕組みだと、到底考えられなかった。
これには自然の奇妙な変化ではなく、人為的な力が働いていたのだ。
「その理由が……DSさんが蹴散らしてしまった、烏天狗の親玉たちなのです」
つまりは、『ようかい』とよばれる存在がそうさせたのだ。『ジパング』を。
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エスカとアニーが『この世界』を去った後、彼女たちを幽閉して『サキュっ子ミート』をばらまいた者どもの身にも変化が起こった。
まずは『都知事のおばちゃん』。
「まあとってもかわいい♡ あなたたち、私と養子縁組をしない?」
などと誘うぐらい、エスカとアニーにたいへん執拗な好意を寄せていたあの女は、都知事の任期を終えると国会議員になるための選挙に出た。
しかし遊説中に発砲テロに遭い、非業の死を遂げる。
犯人は彼女の都知事選での仇敵だった、とある弁護士のシンパと名乗っていた。
「殺した理由か? あんな糞みてえなプロジェクションマッピングで都民の血税を費やしやがったからだよ! 『でんつう』と『毛唐文化人』どもの手先の犬だっただよあのババアはッ! しかも開示請求は黒塗りばっか! 血税チューチュー勢力にも手を貸したアイツを殺して、気分がハレバレとしているぜ! がっはっはっはっ!」
しかしこの男も拘留中、謎の死を遂げた。
心不全だか首吊り自殺だかはっきりしない。
それから、『妖怪ハンター』でエスカの娘の実の父親である三田二郎も、既にこの世の人ではなかった。
エスカが捕らえられた時から数えて丁度8年後、彼は新進気鋭の『妖怪ハンター』に因縁をつけられ、『妖怪ハンター』同士の全面戦争を起こす事となってしまった。
その相手は足利誠といった。
『ジパング』の西側、『オーサカ』を根城とする天才ハンターだった。
三田二郎が喧嘩を吹っ掛けられたのは、こういう理由でだった。
「都知事のババアどもとつるんでわけわかんねえことやりやがってて、しかもガキみてえなかっこうの『ようかい』どもに赤ん坊を産ませてやがる。気持ち悪いったらありゃしねえっ。ペド豚は、死ねっ!」
足利は20歳ぐらいの若さだったが、西のハンターたちに祭り上げられていた。
何故なら『ジパング』をかつて支配していた『ショーグン』の末裔でもあったからだ。
それから、彼が引き連れていた妖怪というのがとんでもないいわくつきのもので、『ジパング』どころかその周辺の国々の妖怪にも勝てるのがなかなかいない猛者ばかりだったのだ。
足利は名家ブーストと天才ぶりに自信をもって、三田二郎に宣戦布告を仕掛けた。
三田もまた、東日本では相当大きな派閥を持っていた。
そうして両者は激突。
しかし足利は若すぎて血の気が濃すぎた。
陣頭指揮での乾坤一擲の戦いを好む彼は、あろうことかいきなり三田の本拠を襲撃。
三田もまた、
「これは早期決着の絶好の機会だよねえ。グシシシ…」
と、愛刀・碧血剣を抜いて応戦した。
結果、両者相討ち。
そして、この戦いでは彼らの手持ちの妖怪だけが生き残り、遺されたのである。