牧場の者を連れて見に行ったところデッドマンティスは、黒こげになったまま土の上に突っ伏し、しくしくと泣いていた。
「ああ、これはひどい……」
そう呟くミレイユの顔は、大変気まずそうだった。
牧場の者らがデッドマンティスを担架に乗せて去っていくのを見かけると、うなだれている
「この、
もう一発ひっぱたく。
痛いよ姉ちゃん、と泣き言をもらす今のDSには、あの娘たちを救った時の冷ややかな、といった風情は無かった。
「有無を言わさずぶん殴ったというのか! あいもかわらず早とちりの乱暴者だな、お前は!」
「すまん、姉さん。てっきり野生のデッドマンティスだと思っていたのだが……」
「野生のあれは、ニンゲンのガキンチョにも怖がって逃げるだろうに!」
全く馬鹿な弟だ。
ミレイユは格好つけてDSと名乗る弟を、常々馬鹿だと思っていた。
「だいたい、家宝の『ぐにゅぐにゅ丸』を『ヴァルド=ムアーリス』とかいう、わけわかんねえ名前で呼びおって!」
睨む姉を前に、DSは口をとがらせて抗弁する。
「だってー、俺が読んだ絵巻物でそういう名前の剣があったんだもーん。かっこいいからつけたんだけどなー!」
娘たちに放った、よそよそしくも威厳のある、冷たい声色ではなかった。
実家と知り合いの前では1オクターブ声が高くなる、それがDSだ。
「かっこつけんのはなあ、女にちんぽを食わせてやる時にだけにしろずら!」
それがエルフの里の者の流儀だ。
エルフ男のそれは、ドワーフやオーガのものと比べれば粗末だが、それでも、もって生まれた美男子ぶりと涼やかな風情で、大抵の女をぷしゃああ、と濡らすことができた。
ただし、女のエルフ以外は、である。
「あと、紫電砲をまとわせるあの剣技、『天雷剣』とかいうおかしな名前で呼ぶのはなんなんずら?」
紫電砲とは、雷霆を起こすエルフ得意の魔法だ。
これを喰らえば大抵のニンゲンの戦士は、黒い塵となった。
「『びりびり斬』なんて名前でよびたかねーよー。そっちこそださいじゃんけ?」
「たわけ。おらたちカイロネイアの褐色エルフは、名前でかっこつけるよりも態度でかっこつけろ、という格言どおりに生きるんずら。どこぞの転生人が描いたような『少年絵巻物』の影響なんぞ受けんでもええわい」
姉は頭半分背が高い弟の額をぽこんと叩く。
DSはちぇっ、と舌打ちした。
彼は今年2000と数歳。
エルフ族の中では、まだ少年のハートから卒業しきれない年頃であった。
「で、おまん。本業はちゃんとやっておるけ? ここんとこ、ぐにゅぐにゅ丸片手にぶらぶらとしている姿しか見たことねえけど?」
「ああ。やってるよ。『聖母の愛し児商会』のゲーム開発部門から頼まれたやつだろ?」
DSの本業は絵巻物作家である。
転生人の著作家達が書いたご都合主義満載な創作英雄譚みたいな作品を創作したり、あるものの絵巻物版をやって5巻目ぐらいで打ち切られる、という大変ハードな作家生活を過ごしていた。
しかしなかなかに『ちゅうにごころ』をくすぐられる設定とキャラクターを作るので、『聖母の愛し児商会』のゲーム開発部門の総指揮者が彼に目を付けた。
「こんど『たぶれっとぱっど』用に『あーるぴーじー』をつくりますの。それゆえにディミトリウスさんにシナリオとキャラクター造形をやって欲しいですの!」
『プリンセスコネクション:ReFuck』という題名がそれである。
とある幻想の世界を舞台に、いろんなクエストやストーリをこなし、サキュバス美少女たちを育てていく、
プレイヤーは『チン騎士くん』と呼ばれる男の子として、悩みを抱えているいろんなタイプのサキュバスの女の子冒険者達と仲良くなる。
友好度をあげために、相手の女の子とセックスをするイベントを、たくさん盛ることになっていた。
総指揮者が出した設定によれば、『チン騎士くん』は精嚢が無尽蔵な魔族の少年だ。
一緒に旅する冒険者の
「一応は、第一部の最後にあたるところまでシナリオの素案を提出したよ。ReFuckというのがどういう意味なのかがわからんで書いているが……」
「そこまで進んでいたずらか。そういや、ツックイーのパオレッタさんとマリアさんは、『ブルーフィルムアーカイブ』っちゅう作品の脚本と人物画を任されているずらな」
『ブルーフィルムアーカイブ』。
それもまた、『聖母の愛し児商会』のゲーム開発部門が制作している、『たぶれっとぱっど』向けのゲームである。
学園都市とかいう奇妙な街を舞台に、いろんな鉄砲を持ったちみっこい女学生サキュバス達が、ちまちまとしてかわいい敵と戦うという。
プレイヤーは『淫行教師』となり、サキュバス女子生徒達の戦いの指揮を取る。
また、彼女たちのお手伝いや悩みを「じゃあ、そろそろ挿れるね?」とインして、友好度を深めるそうだ。
「でも、出てくるサキュバスのほとんどが、ちみっこだったり貧乳美脚だったりで、エルフにしたほうがいいと企画の席でマリアさんが吠えてたずらなあ……」
「同感だ。デカ乳巨尻属性はサキュバスのような下品な奴らに押し付ければ良いのだ」
サキュバスは子どもでも、乳房がこんもりと育つことが多いから、控えめなのにはモデルとして適していない。
「そういや、どっちも
こうした『たぶれっとぱっど』向けのゲームには、エルフの動画制作工房が参加していた。
「ツックイーの『あにめーしょん工房』に巨額の資金が注ぎ込まれたそうだが?」
「ただいま大忙しらしいずらよ。でもあの連中の中でもびみょーなのしか集まってねえずら。ほらあの、『ツックイー動画』の下請けでもあんまり評判のよくねえ、『サガミニア堂』が担当ずら」
『サガミニア堂』がつくる『あにめーしょん』がよろしくないのはDSも知っている。
女性キャラクターの乳揺れや髪がふぁさっと動くのには定評はあるが、中身が無いに等しかった。
エルフ達の初めてのアニメーションムービー『イズムィコ~空を見上げる全裸中年男性の瞳に映る世界』で、「ここだけがひどくて残念」と評論家たちから言われる始末の場面を担当したのが『サガミニア堂』であった。
「そういや。姉さんこそ仕事は順調なのか?」
DSが問う。
ミレイユは本業の築城技師がここのところ廃業状態だったので、エルフ達のゲーム会社で背景画を担当していた。
ハードな世界観のものから、ゆめかわいいアイドルものまで彼女は自由自在であった。
「うーん。悩んでいるところなのよ。『エルフィーリズム』の今度の『いべんとくえすと』で、なんだけど……」
ミレイユはプロデューサーからこのようなイベントになると聞いた。
「アイドルエルフたちが異世界に転移し、セメントの尖塔がごまんと立つ巨大な都市でライブを行ったり『セレブな宿屋』でおまんこをするという話にする」
聞いたDSは思わず、なんだそりゃと首を傾げた。
ミレイユはプロデューサーがとある人物から、そのような異世界があるのを聞いたらしいと答えた。
「『聖母の愛し児商会』のあのガキンチョの相方から、そこの世界についていろいろと聞いたらしいずらな。それを面白がってやってみたいと思ったそうずらよ」
『エルフィーリズム』のプロデューサーこそが、北にあるミナッカミニア山地を治める、金髪エルフ達の女王だ。
今のウマヤーノを管理社会の国にした支配者、『ビッグ・シスター』でもあった。