それが自分に飛んで来ることにDSは気づいていた。
自分の背中を穿ち抜こうとする何かが。
あと30メートルいった距離まで詰まると、彼はヴァルド=ムアーリスを抜き、振り返った。
そこで5メートルの距離。
飛来してきたものがどれほどの大きさの何かだと認めると、剣の切っ先を弾道に沿わせた。
飛来物は予測通りにヴァルド=ムアーリスの最も尖ったところに当たる。
それから、ものの見事に中央に入り、真っ二つとなった。
DSはそこで終わらせなかった。
手首をひねって刀身を回転させた。真っ二つになった弾丸は勢いを殺され、刃の上で跳ねて下方へと落ちて行った。
「何奴!」
理由も無く狙ってくるとは。
やはりこの街は悪が巣くう魔都だ。
DSは634メートルある巨大な鉄塔に目を向けた。
狙って来たのはそこからだろう。果たして、何者かが空を飛んでやって来た。
手に猟銃や錫杖を持ち、腰にカラスのそれのような黒い翼を生やした、真っ黒な服の2人の男女だった。
オーガ族のようにのっぺりとした顔立ちだが、整っているように見える。
歳は若そうだ。判別するのは難しいが、20歳かそこらに見えた。
「貴様らは、何者だ!」
DSは『ゴーラ=イシュバーン』も抜く。
臨戦態勢。少しでも下手な動きを見せたら躊躇なく殺すという意思表示だ。
女のほうが口を開いた。
「なんだかんだと聞かれたら」
「答えてやるのが世の情け」
朗々とした響きである。
「我ら、『エドガワ』と『スミダ』を護る『大ようかい』、『白猫御前』様の家来で烏天狗衆」
「俺が『むさしまる』」
「そして私が、『つばめさんじょう』」
「……この世界の言葉はよくわからんぞ?」
通訳のエスカがいなければ『じぱんぐ』の言葉が理解できない。
翻訳術式という便利な技はあるのだが、ある程度の知識が無ければ、この街の者の言葉は理解できなかった。
「……なにを言っているのだ、この『ようかい』は?
「しかし『つばめさんじょう』、こいつ、本当に『ようかい』なのか? 随分と大柄で歳がいっているように見えるのだが?」
烏天狗と名乗った2人は、不思議な言葉でわめくDSを見て首を傾げた。
しかし彼等には主たる『白猫御前』に与えられた任務があった。
『コイワ』の街区を含む『エドガワ』に来た、正体不明の『ようかい』を排除しなければならないのだ。
「『つばめさんじょう』……よくわからんが、とりあえずこの耳長の『ようかい』を倒すことにしよう」
「もちろん。あと、こいつと一緒に来ている、ほかの『ようかい』も速やかに駆除しないとな」
『むさしまる』と『つばめさんじょう』が殺気を見せた。
それをDSは見逃さなかった。
彼は闇属性の死の戦士であり処刑人である。
相手が仕掛ける気を見せた0.3秒後に飛び出し、その0.1秒後に『ヴァルト=ムアーリス』で『むさしまる』の頸椎を右斜め75度の角度で切り落とした。
『むさしまる』の首が切り離され、ゆっくりと胴体から離れていく様を目撃しながら、『つばめさんじょう』は左側頭部に何かが当たるのを感じた。
そして始まってから0.6秒である。
『ゴーラ=イシュバーン』の鋭利な刃は、『つばめさんじょう』の毛髪を周囲にまき散らしながら、頭蓋と大脳の上半分をきれいに裁断した。
「……な」
その短い一言が『つばめさんじょう』の末期の一言だった。
2つの骸が地に落ち、430メートル下にある看板の縁にあたって鈍い音を立てると、DSは二振りを勢いよく振って血を切り、鞘に収めた。
「心置きなく逝ね、悪党よ。お前たちの次に廻る生は、虫けらか忌まわしい畜生のどちらかだ」
闇属性の戦士であるDSは、慈悲の心など持たぬ。
430メートル真下で事切れていた2つの死体には、乾き切った眼差しを向けるだけだった。
(しかし、なんだったのだろう、あの有翼人どもは?)
彼の言う有翼人は、カントニア大陸西部にある山岳地帯・テンモーク地方を根城とする、別種のエルフ族のこという。
有翼人らは魔族であるハーピィらと共存し、仲良く暮らしていた。
テンモークの木々は、彼等が空中で排出した糞小便がかかっていることがあり、うかつに近づくなと言われている。
ついでだがハーピィは、ニンゲンの女の様な肢体を持つが、腕が翼で顔が鳥類だ。モズやヒバリやシジュウカラの頭を生やしている。
(しかし、この世界にも有翼人がいるのだな。よう……なんとかとわけのわからん言葉をわめいていたが、奴らと関係があるのだろうか?)
薄汚い紫色の空気が漂う『トーキョー』の街を見渡しながら、DSは物思いに耽った。
もしかしたら新手がやってくるのだろうか。
あごに手をやり、考えていたところで背後から魔の気配を感じ、振り返った。
「飛んでませんよ! 街の中にいます!」
子供の、どちらかというと男の子の声が頭の中で響いた。念話だろう。
すぐさま、童女に似た響きの声もしてきた。
「降りて来てお話しませんか! わたしたちは『こいわ』の『すてーしょん』のロータリー、あなたがいたところから見える、向かって右手側の商店街のほうで待ってますから!」
それなりに強い魔の気配ではあったが、どうも悪党ではないように思えた。
DSの中にある、闇属性の力が「同類ではない」とささやく。
彼は『すてーしょん』の傍に入口があった、その商店街の中に入った。
『すけべのお店』があり、サキュバス達もうろついていたとエスカが言った商店街だ。
風は蒸していたが、むしろ冷えた感じがする商店街だった。
酒場かシャッターを降ろした店舗ばかりで、あまりにも暗く、どんよりとしていたからだ。
人は殆ど見当たらなかった。
「……俺とは別種の闇を感じる。魔の者というより、虐げられた者ばかりが集う通りのようだ」
辺りを見回し、そう独り言をつぶやくと、DSに見えるよう、大きく腕を振る、可愛らしい栗毛の、尖り耳の男の子と女の子の姿を見た。
しかしどうにも子供が持つ、無垢な気配は感じられなかった。
背格好こそ1メートル20センチそこらだが、どこか、大人じみた気配があった。
「……お前たちは、
ハーフリングはDSが住まう世界では、エルフとドワーフとの間に生まれた者を言う。
しかし様子がちがった。
あちらの世界では子供の様な細い腕とすらりとした脚であるのだが、腕も脚もむっちりとしてふとましく、まるで大根のようで、胴も丸々としていた。
肉付きのよい乳児が、そのまま大きくなったような体型だった。
「俺のもとの世界とは違うハーフリングのようだな!」
男の子にみえるほうがうなずいた。
「そうですよう! 僕ら、魔界のハーフリングですから!」