※この作品はR-18です。

チャンネル登録者が僕しかいない時から応援してる歌い手が『超人気ネットアイドル』に成長して、最高の恩返しをしてくれるお話   作:花染彩葉@幼馴染ハーレム2巻発売中!

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第1話『初配信』

 高校1年生の夏休み。友達も彼女もいない僕は、ひとり寂しく自室のベッドに寝そべりながら、動画サイトで暇を潰していた。

 

『あっ! えっ!? これ、ひとり来てくれたんだよね!?』

 

 だらーっと画面を流し見していたら、たまたま[初めまして]というタイトルのライブ配信が関連動画に表示され、何気なくそれを開くと、明るい声がスマホのスピーカーから飛び出した。

 

 チャンネル登録者数はゼロ。現在の視聴人数は僕ひとり。画面に映るのは、首から下の上半身と、肩まで伸びたミディアムの黒髪だ。生活感のある部屋を背景にした、見るからに初心者感が漂う女の子。 

 

『まずは自己紹介しなくちゃ!』

 

 透き通った声は聞き取りやすい。ただ、緊張しているのは明らかだった。

 

『私はえざっ……、じゃない!』

 

 本名でも言いそうになったのか、すぐに誤魔化して、

 

『あたしの名前はハルって言います! 16歳で……う、うっ……、歌い手目指してるんですっ!』

 

 やや言い淀みながらも、彼女は元気に宣言した。

 

『ご、ごめんなさい急にこんな話して! でも、ネットで調べたら、自分の目標は視聴者の人に伝えた方がいいって書いてあって……』

 

 顔こそ見えないけど、身振り手振りであわあわしているのが伝わってくる。微笑ましい姿だ。

 

 歌い手志望のハル。そして、僕と同じで16歳。

 

 初々しさに惹かれたのが半分と、同年代と知って親近感を抱いたのが半分。応援したい気持ちが湧いたので、コメント欄に文章を打ち込む。

 

『頑張ってください! チャンネル登録もしました!』

 

『わあっ! えっと……Shoだから、ショウさんでいいのかな? ありがとう!』

 

 Shoは僕の登録名だ。ただ、ほとんど本名みたいなものだから、名前を呼ばれてドキッとした。

 

 ちょっと嬉しい。お互い顔も本名も知らないのに、心が通じ合ったような気にさえなってしまう。

 

『ショウさんは普段なにしてるの?』

 

『今は夏休みなんで家でグータラしてます』

 

『ってことは学生かな?』

 

『高校1年生です』

 

『わっ、まさかの年下!? じゃあ、ショウくんだ!』

 

 と言うのであれば、年齢は同じでもひとつ上の先輩ということか。

 

『そっかぁ。今の時期って、そういえば夏休みか』

 

 他人事のような反応に、もしかしてという疑問を抱く。

 

『ハルさんも高校生じゃないんですか?』

 

『あたしは色々あって5月に辞めちゃったから!』

 

 余計なことを聞いてしまったかもしれない。とはいえ、中退の事実を語る声に重苦しさは感じない。

 

『大変ですね』

 

『そうでもないよ? 親には申し訳ないけど、学校辞めたおかげで夢を叶えるための時間ができたんだから。今はポジティブに考えてる!』

 

「へえ……」

 

 思わずつぶやきが漏れる。

 

 すごいなこの人。友達がいなくて卑屈になっている僕とは大違いだ。

 

『応援してます』

 

『うん! パソコンもね、お母さんに土下座して高いやつ買ってもらったんだぁ。声の加工とか覚えたら歌ってみたの動画も投稿するから、良かったらそれも聞いてね!』

 

 楽しみにしておこう。僕にできるのは応援することぐらいだけど、それが少しでも励みになるなら、彼女のコンテンツには駆けつけようと思えた。

 

『あっ、ふたり目まで来てくれた! 初めまして! 私は――』

 

 

 

         *

 

 

 

 それからというもの、ハルの活動をチェックするのが僕の日常となった。

 

 ハルは地道な配信活動とカバー曲の投稿によって、着実とその知名度を上げていった。視聴者数が一桁しかなかった雑談配信は、安定して三桁の人数を集めるようになり、歌ってみたの再生回数も万超えは当たり前に。

 

 ハルの成長していく姿を見守ることが、毎日の楽しみになっていた。

 

 ちなみに、しばらくしてから設立された公式ファンクラブには、いの一番に入会して会員ナンバー1の座をゲットした。

 

 また、ハルのおかげで僕自身にも良い変化があった。推し活のためにスーパーでアルバイトを始め、棚ぼたではあるものの、苦手だった人付き合いが少しずつ改善されていったのだ。

 

 2年生に進級してからはクラスにも馴染めるようになり、今では同級生ともそれなりに上手くやれている。まあ、さすがに彼女ができるとかはなかったけども。

 

 月額500円の会費と、毎週の定例配信で送る3000円の投げ銭。バイトをしているとはいえ、月に諭吉が飛んでいくのは痛い出費ではある。ただ、それに見合うだけの楽しみはもらえているし、あの日、ハルを見つけていなかったら、僕は今も孤独な高校生を続けていたに違いないから、それを考えたら安い出費だ。

 

 そして、ハルが活動を始めてから1周年――その日の記念配信で、とうとうハルはチャンネル登録者10万人を突破した。ハル自身も今回の配信で10万人突破するのを見越していたのだろう、配信で特大情報が告知される。

 

『――初の顔出しイベントやります!』

 

 これまで首から下と声しか出さなかったハルが、今後の活動では露出を増やしていくとのことだ。

 

 最初の顔出しは、ファンクラブ会員限定の対面サイン会。それが一番早くハルの顔を拝めるイベントになる。初期から応援してくれているファンの方に報いたいという趣旨のもと、参加権が与えられるのは『会員ナンバー300』までの人間のみらしい。

 

 しかし、サイン会の告知後、これはかなり界隈で炎上した。問題になったのは参加権の部分だ。

 

『ファンに優劣をつけるな』

 

『300番と301番にどれほどの違いがあるのか』

 

 そんな旨の批判が相次いだ。もっとも、炎上後のライブ配信でもハルは頑なにその姿勢を崩さず、結局サイン会は限定で開催される運びとなった。

 

 日程は8月9日。会場は都内にあるビルの会議室。チケット等を買う必要はなく、入り口でスタッフの人に会員証の画面を見せることで中に入れるようにするらしい。しかも、なんと参加費は無料である。ビルの一室を借りるのは決して安くないだろうに。

 

 ファンに優劣云々の意見はともかくとして、報いたいという気持ちが本心なのは間違いなさそうだった。

 

 ……対象外の人には悪いけど、幸いにも僕は枠内の人間だ。家も埼玉なので、交通費を気にする必要もない。

 

 行かない選択肢など僕にはなかった。

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