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同棲が始まって、早くも2週間が経過しようとしていた。僕の一日は、ハルの存在をすぐそばに感じながら始まる。
「…………」
隣から規則正しい寝息が耳に届く。左腕はハル専用の枕と化しており、ハルは身を丸めるようにして僕の胸元にすり寄っていた。
幸せだなぁ……。
起こさないように細心の注意を払いながら、枕にされている左腕をそっと引き抜く。僕はベッドを抜け出して、寝室の扉を開けた。
「――――」
最初に飛び込んでくるのは、この1週間で劇的に様変わりしたリビングダイニングの光景だ。ダイニングテーブル、ローテーブル、ソファに大型テレビ――その他諸々の家具が、絶妙な一体感で配置されている。
がらんとした空間は一転して、ゆとりのある空間へと仕上がっていた。
ちなみに家具の購入費用は軽く3桁を越えている。まあ、それを支払った張本人は、なんてことないとばかりに満足そうにしていたけれども。
窓際に向かい、開けるのも一苦労な長いカーテンを引っ張っていく。リビングが朝日に照らされると、寝起きの脳内が覚醒へと向かっていった。
「さて――」
冷蔵庫を開けて、中身を確認しながら朝食の献立を考える。ありがたいことに食費はハルが負担してくれているので、巨大な冷蔵庫の中には食材が山のように入っている。
ご飯作りは僕の担当だ。ハルの口に入る物だし、下手な物は作れない。
「よし――」
鮭の切り身が余っていたので、今日の朝食は和食にすることにした。味噌汁と卵焼き、ほうれん草のお浸しも添えるとしよう。
ハルの「美味しい!」が聞けるように、腕を振るわなければ。
「――――」
食材を台所に並べて、僕は手際良く調理を進めていく。
魚を焼く傍ら、熱湯に味噌を溶かしていたところで寝室の扉が開いた。
「んぅぅ……いい匂い……」
パジャマ姿のハルが、瞼を擦りながらぼんやりとした足取りでキッチンに来る。
「おはよう。もうすぐできるから顔洗ってきたら?」
「ふぁぁーい……」
同棲を始めてわかったことだけど、ハルは意外と朝に弱い。というか、私生活は全体的に抜けている印象があった。
ふらふら歩いていくハルを横目にしつつ、僕は料理を再開する。
鮭の切り身を2枚焼く。茹でたほうれん草を醤油と化学調味料で味付けして、仕上げに白ごまを振りかける。
焼き魚、味噌汁、お浸し――なんだか物足りない気がしたので卵焼きも作ろうと思う。
「ほわぁぁ……」
卵を溶いていると、ハルが洗面所から帰還した。顔は洗ったようだけど、まだまだ眠たそうにしている。
「なにか手伝おっかぁ……?」
「大丈夫。ハルはテーブルに座ってて」
「んー……」
うとうとしながら椅子に腰を下ろし、自分の腕を枕にするようにハルはテーブルに突っ伏した。
「ふふっ……」
微笑ましい光景をカウンター越しに眺めてから、卵焼き専用のフライパンにIHの熱を通す。ついでに沸騰しない程度に味噌汁を温め直して、フライパンが温まったら油を引いて溶き卵を流し込む。
砂糖で甘味をつけて、焦げないようにさっと卵を巻いていく。全体が固まったらまな板に移して、包丁で6等分にして皿の上に盛りつける。
焼き魚、お浸し、味噌汁、お米はそれぞれ別の器に入れて、これで朝ご飯の完成だ。
「できたよ、ハル」
テーブルに朝食を並べ、ハルの向かいに腰を下ろす。
「んぅぅぅっ……」
伸びをするように体を起こすと、ハルは薄く瞼を開いた。食卓に並ぶ料理を前にして、ぱっとその目が見開かれる。
「わぁっ……! 日本の朝って感じだね!」
眠気が吹き飛んだのか、途端に声を弾ませるハル。
今日も喜んでもらえたようでホッとした。
「冷めないうちに食べよっか」
「うんっ!」
「それじゃあ――」
ふたりで目配せし合い、「いただきます」と両手を合わせる。
ハルが最初に手に取ったのは、味噌汁のお椀だった。猫舌のハルは、ふーふーと息を吹きかけてからゆっくりとそれを口に含む。
「んぅぅっ……、寝起きの体に染み渡る~」
「朝の味噌汁って美味しいよね」
言って、僕も味噌汁を啜る。赤味噌とわかめの塩っ気が利いてて美味しい。
「さすがショウタくんだね! お母さんが作るやつより美味しいかも!」
「ありがと。でもまあ、味噌汁なんて分量調整が大半だから、誰が作っても一緒だと思うけど」
「謙遜しないの! それに他のおかずも美味しいよっ」
「そう?」
「うん! 卵焼きもふわふわで世界一美味しい! ショウタくんは天才料理人だね!」
「大袈裟だって」
とは言いつつも、悪い気はしなかった。ハルに褒めてもらえるのはかなり嬉しい。
その後もハルは、僕への賞賛を口にしながら朝食を平らげていった。