※この作品はR-18です。

チャンネル登録者が僕しかいない時から応援してる歌い手が『超人気ネットアイドル』に成長して、最高の恩返しをしてくれるお話   作:花染彩葉@幼馴染ハーレム2巻発売中!

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第3話『突然の誘い』

 サイン会から1週間後のことだ。

 

 ハル界隈を賑わすふたつの事件が起こった。ポジティブな話題ではなく、両方ともファンにとって、なによりハルにとってネガティブな出来事だ。

 

 ひとつ目は、ハルが限定で書いたサインがフリマサイトで複数枚売買された件。ハルがその件を「悲しいです」と生放送で報告したことで、本物であることが証明され、界隈をざわつかせる話題となった。

 

 売買が発生するだけならまだ良かったものの、お気持ちを表明したハルに対しての、世間の反応は冷ややかだった。

 

『限定にした時点でわかっていたこと』

『転売防ぎたいならもっと広く売れ』

『話題作りの自作自演なんじゃない?』

『励まして欲しいだけでしょ?』

 

 そんなような、悪意に満ちた発言が配信中のコメント欄に飛び交った。

 

 擁護する声もあったけど、サイン会に参加できなかったファンの嫉妬が尾を引いていたこともあって、大多数の視聴者がハルに同情的ではなかった。中には法に触れるような過激なコメントもあり、それを目にしたハルが途中で泣き出してしまい、言葉も残さずに配信はブツ切りで終了した。以降、ハルは沈黙を貫いている。

 

 ふたつ目はアンチの執拗な嫌がらせだ。出品されているサインをあえて購入し、それをバラバラに破いたものをSNS上に拡散するという、誰も幸せにならない陰湿な行為が発生した。

 

 これらの件が重なって、ハルの精神は砕かれてしまったらしい。顔出しでの活動を増やしていくと公言してから、結局一度もネット上にその姿を曝け出すことはないままに、公式ファンクラブとSNSの更新は停止してしまった。

 

 フォロワー数はあんまり減らなかったけど、有料会員の方はそうもいかない。1000人弱の会員数は、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月と経過していくうちに激減していき、4ヶ月目の更新日には50人程度まで落ち込んでしまった。

 

 世の中、お金に余裕がある人間ばかりじゃない。たかだか月額500円とはいえ、見返りのないコンテンツにお金を投げ続ける酔狂な人はそう多くないだろう。

 

 音沙汰がないのだから、仕方のないことだと思う。ただ、それでも僕はハルの復活を待ち続けた。死ぬまで推すと、ずっと応援すると口にしたから。

 

 僕にできるのは、ハルの無事を祈るのと、いつまでも復帰を待っているとメッセージで伝えることのみ。だから、毎日欠かさずにお便り欄からハル宛にメッセージを送り続けた。

 

 そんな僕の祈りが届いたのか――なんておこがましいとは思うけど――あの炎上から半年後、ハルはとうとう沈黙を破った。

 

『自分を見つめ直すいい機会になりました。ファンのことをもっと一律に考えるべきだったと思うし、今ではすごく反省しています。私のこと見限っちゃった人もたくさんいると思うけど……でも、待ってくれてる人がいることも知れたから……これからは前よりもっと、もっともっと頑張ろうと思います! だからまた、応援してくれると嬉しいです!』

 

 生配信で前向きな言葉を力強く語り、ハルは再び活動を再開した。

 

 ――そこからの快進撃は凄まじかった。

 

 復帰を耳にしたアンチたちが性懲りもなく突っかかってきたけど、ハルはそれをもろともせず、アンチとの絡みを一種のコンテンツ化することでファンを楽しませる方向に舵を切ったのだ。常に明るくポジティブな姿勢が評価されて、以前にも増してハルは多くのファンを獲得していった。

 

 特に、ネット上での顔出しを解禁して以降、その美貌に魅せられた人たちがこぞってハルをフォローしたことで、影響力はうなぎ登りに上昇した。フォロワー数は瞬く間に50万人を突破し、今までカバー曲しか歌ってこなかったハルが、とうとう有名アーティストから楽曲提供を受けて、夢と言っていたメジャーデビューまで果たすことになる。

 

 そうして――復帰から1年。また1年と月日は流れていく。

 

 僕が大学1年生になる頃には、ハルは日本を代表する超有名ネットアイドルにまで上り詰めた。その人気は個人でアリーナライブを埋めてしまうほどで、僕を含め、ファンの誰しもが世界に羽ばたいていく存在だと確信していたに違いない。

 

 しかし、だ。アリーナでの単独ライブを終えたあと、ハルは歌い手活動の無期限休止を発表した。

 

「私は今年で20歳になり、成人を迎えます。夢だったアリーナライブもみんなのおかげで無事に終えられました。だから、これをひとつの節目にして、今後を考える時間が欲しいんです。みんなの目に触れる時間は減っちゃうと思うけど、定期的に配信は続けていくつもりだから、どうかこれからも温かい目で私のことを見守ってください!」

 

 その日、僕は当然現地にいたけど、突然の発表にペンライトを落としてしまうほどの衝撃を受けた。重大発表があるとは告知されていたけど、それが活動休止だなんて誰が予想できだろうか。

 

 これからという時期にどうして……。

 

 今後を考えるって……まさか病気とかじゃないよな……?

 

 関係者でもない僕がいくら考えたって答えは出ない。結局ハルの意思を尊重するしかなかった。

 

 休止は悲しいけど、活動そのものを辞めるわけではなさそうだし、遠くない未来に今と違ったハルを見られるかもしれない。それを思えば、なにも悲しいことばかりではない。

 

「――――」

 

 鳴り止まぬ拍手と、悲嘆混じりのどよめきの中、ハルはステージ上から去っていった。

 

 

 

          *

 

 

 

 アリーナライブが終わってから2週間が経った日の夜。布団に潜ろうと電気を消した矢先、スマホが通知音を鳴らした。

 

 直にてっぺんを回ろうという時刻に誰だろうと思いながら手に取ると、ハルの公式ファンクラブからの通知だった。ただ、メッセージ欄を開いて、いつもと様相が異なっていることに気づく。

 

 普段は『ファンの皆様へ』となっている件名が、ありえないことに『ショウくんへ』になっている。まだ寝てもいないのに寝ぼけているらしい。目をこすり、もう一度スマホを確認する。しかし、そこには『ショウくんへ』の文字が。なるほど、携帯がエラーを起こしたのかと思い、再起動してもう一度確認するが――何度やっても件名には『ショウくんへ』と記されている。

 

 運営からのメッセージは一斉送信が常だ。公式が個人宛にメッセージを送るなんて、なにかしらの抽選に当たったときとか、よっぽど重要な連絡をするときぐらいしかない。それにしたって、普通なら『sho様』と登録名を用いるはずだ。僕を『ショウくん』と呼称するということは……。

 

 おそるおそる画面をタップし、メッセージを開封する。

 

『突然ごめんなさい。どうしても伝えたいことがあってメッセージを送りました。直接会ってお話がしたいです。もし良かったら下のアドレスに返信ください。待ってます。ハルより』

 

 ん…………んっ。

 

 ハルより。ハルより?

 

 え……?

 

「はっ!? はぁ――ッ!?」

 

 深夜も近いというのに思わず叫んでしまった。

 

「――うっさい!」

 

 隣の部屋から壁ドンと同時に暴言が飛んでくる。妹のアキホだ。高校生なんだから夜更かしするなよ……。

 

 ともあれ、二度見どころか五度見する勢いで画面に表示された文章を再確認する。うん。やはり何度読んでも文面は変わらない。重度のハルオタによる幻覚とかではなさそうだ。

 

 ただ、どうして僕なんかと話を?

 

 ドッキリとかだろうか。会員ナンバー1だし、ファン代表としてやり玉に挙げられる可能性もゼロじゃない……、か?

 

 まあ、理由はなんであろうと構わない。だって、

 

「またハルに会える……」

 

 3年前のサイン会以降、ハルはファンとの直接的な対面をずっと控えていた。だから、配信やステージ上で目にする機会はあっても、あのときのように直接言葉を交える機会は一度もなかった。ドッキリであれなんであれ、ハルと会えるチャンスをみすみす逃す手はない。

 

 記載されているアドレスにぜひの旨を返信したあと、数通メッセージのやり取りを交わして日時を調整する。

 

 そうして僕たちは、今週の土曜日に直接会うことになった。

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