退屈な中学レベルの通常授業を終えた俺たちは、倶楽部棟のある広場の方で錫花さんの待ち合わせをしていた。
一応見た目は可愛い系の地雷ギャルなので太志が迎えに行かなくて良いのだろうか、と思っているとその答えが判明した。
目を虚にした夢遊病めいた様子の哀れな男子二人が犠牲になった様で、此方に合流した途端に近くのベンチに腰掛けて突然の瞬間移動に驚いていた様だった。
『傀儡操り』により哀れな男子生徒を文字通りの肉盾にして教室から歩いて来た様だ、こっわ。
その非道行為を直ぐに気付いたらしい太志が据わった目で溜息を吐いた事で、本日の夜の営みの上下が決まったらしかった。
……確定的に明らかな錫花さんの作戦勝ちだなぁ、それを見越してかまちょしてるんだろうし。
「お待たせ」
「今日のまぐわいは無しでござる」
「……くっ、策士策に溺れた……」
訂正、太志の方が一枚上手らしかった。
まぁ、今日はまぐ姉とやらに会う以外は自由行動の予定なので、レベルアップによる性欲増加も無いので太志の独壇場だな。
「……やはり、とら姉。巻き込むも、やむなし」
だなんて非常に太志にとって不穏な事を呟いてる錫花さん、据え膳の二段重ねかよ禁じ手では?
場合によっては三段重か、生きて帰って来いよ太志。
……まぁ、部屋に居ないでくれると俺としては助かるが。
錫花さんは右耳に付けたピアスを擦る様に触れ、何かしらの波長を発信した。
すると倶楽部棟の奥の方から返答する様に同じ波長が飛んでくる。
「今のは?」
「感じ、られたの? 凄い、空間認識能力」
「今のは山彦と言う共鳴する石を用いた原始的な通信方法でしてな。共鳴石特有の空気の震えを竜胆殿は感じ取れた訳ですぞ、本当に人間ですかな?」
「まだ辞めたつもりは無いかな……」
「まだって事は何かしら予兆は感じてるのですな。……次のクラスチェンジが楽しみのような恐ろしいような」
「……取り敢えず、行かなくて良いのか?」
「はぁー……っ、逝きたくはありませぬが、行くしかありませんなぁ」
「ニュアンスェ」
錫花さんの案内に従い、倶楽部の並ぶ場所へと向かい、布でぐるぐる巻きにしたグレートソードを右肩に担いでいく。
途中、俺のこれを見て強請ろうと下卑た笑みを浮かべた先輩が近付こうとしたので、牽制に片手で明らかに超重量なグレートソードを持ち上げて見せたら青い顔をして回れ右して逃げて行った。
随分と見た目通りの小物が居るもんだなと思ったが、倶楽部の外見からしてFランクの弱小倶楽部が集まる場所であると気付けて納得した。
華組以外は武器の帯刀を許されていないが、ドロップ品を運ぶ事は日常的であるし、見た目からして郵送物然としているからか注意をされる事は無かった。
……そう、注意は、無かったのだ。
「おい、そこの新入生。そいつを寄越しな、てめぇみてぇなヒョロガリオタクには荷が重いってもんだ」
「即決五百万銭で良いですよ先輩」
「……聞こえなかったか? 寄越せって言ったんだ。痛い目遭いてぇのかてめぇ」
危機感知能力が危篤なアホ面な先輩がヘラヘラと近寄って来てしまった。
えぇ……、見た目のパワフルな容姿ぐらいしか取り柄が無さそうな奴に?
だなんて内心の呟きを察してか、舐めた真似しやがってとブチ切れた名前の知らない三年生っぽい先輩は此方に指差して高らかに言った。
「
「……なんて?」
「あー、学園に取り締まる警察的機関などが無いので、私闘などを管理する決闘システムの事ですな。基本的に掛け金はフラット、釣り合う物を互いに決闘委員会の取り決めに従い賭け合うのですぞ」
「今、学生決闘と聞こえたぞ! 双方の主張を聞いた後、学生決闘を執り行う!」
白い頭巾を被った面々が何処からか現れ、俺と先輩を囲うように円陣めいた整列を行った。
……あぁ、これプライベートを守るためとかじゃなくて逃げ出させないための囲いか。
チラッと目隠れ髪の隙間から白い頭巾の方々を見やれば、今の俺には勝て無さそうな強さを滲ませていた。
三年以降のダンジョン組あたりがバイトとか内申点か何かでやってるんだろうか。
と言うか拒否権無いのかなこれ、と思っていたら太志がこっそりと、格下からの学生決闘の申し出は基本的に拒否できないらしかった、ガッデム。
白い頭巾の一人が場を仕切っている人に耳打ちし、何かしらの動揺を与えたらしい。
「……『文官』の派生先には人物鑑定を行うスキルを得るクラスもあるのだとか。それで情報を抜かれたかもしれませんな」
「思考盗聴の親戚か何かかよ、無法が過ぎるだろ。何処に行ったプライバシー」
「双方静粛に! 申し出を行った者よ、名乗りを上げよ!」
「三年申組の石成だ。そこの新入生の持つでけぇ武器を賭けて貰う」
決闘委員会の人が此方を見たので、此方の番らしい。
……これ、拒否してもしなくても実力がバレるよな、だっる。
ならまぁ、それ相応の責任を取って貰うか。
――このゴミカス野郎に。
「……一年丙組、竜胆です。あー……、そこの人のメインウェポンを賭けて貰います。一応これ、自分のメインになる予定でしたので」
「はっ、ぎゃはは! そのなりでかよ! 鏡見て来た方が良いぜぇ、保健療養棟のなぁ!」
「……双方の主張を受理し、此処に学生決闘を執り行う! 両者掛け金を提出せよ」
仕切りの人の両側から各々に白い頭巾の人が来たのでグレートソードを手渡す。
それ、五十キロくらいあるけどな。
片手で手渡したから軽いとでも思ったのだろう、受け取った小柄な人は思わず落とし掛けたので、仕方が無く途中で掴み直した。
渡し方が悪かったな、と抱き抱えられる様に縦に渡した。
その遣り取りを見ていた一部の野次馬が口笛を吹いたが、吹聴しないあたり学生決闘を楽しんでる人が多いようだ。
まぁ、ダンジョン内では使えるスキルは、外では使えないのが彼らの常識だからな、仕方が無いと言えばそうなのだろう。
「委員会の人、自分初めてなんですがルールはどうなってますか?」
「はっ、当然バーリトゥード、だ! 何でもありのな!」
「……学生決闘におけるルールは、挑戦を受けた者のルールを採用する。彼の申し出を受けるかい?」
「えぇ、了承します。……なら殺しても罪にならないなラッキー」
「……ッ、例えどんな重傷を負おうとも保険療養棟での治療により一命は取り留めるだろう。それを念頭に置くように」
ボソリと呟いた言葉を委員会の人は律儀に拾ったらしかった。
言外に殺した方が面倒になるぞ、と助言してくれた訳だな。
つまり、殺さずにきっちり潰した方が後腐れないぞ、と言ったのだ彼は。
やはりと言うべきか、目の前のイキってる先輩との実力さを見抜いているらしい。
初めての学生決闘が、委員会による簡易的な結界の元、仕切りの人の手下ろしにより始まった。
「ヒャアッ! 『貫通撃』ィ!」
「……は?」
サブウェポンらしい店売りの物では無いFPSの課金スキンみたいな見た目のダガーを突き刺しに来る先輩。
え、なに、この結界の中だとスキル使えるの?
なんだその凄い技術、もっと別な事に利用しろよくだらねぇ。
見た感じ第二段階レベル10くらいの先輩の一撃を手首を横から叩いてスカらせ、懐に入って肘打ちを肝臓の位置に叩き込んだ。
何か潰れた感覚があったが、痛みに悶えて愚かにも棒立ちを晒した先輩のダガーを持つ利き手っぽい伸び切った右腕を取り、肘に膝をぶち当て逆関節にしてやった。
右肘からぷらりと垂れ下がる自身の腕を見て再び絶叫と驚愕を口にしたのを冷めた目で見つめ、徹底的に壊すか、と方針を決めた。
「お、俺様の腕が反対側にぃっ!?」
あぁ、こいつ格下狩りしかしてこなかったタイプか、馬鹿だなぁ。
喚き苦しむ先輩に肉薄し、垂れ下がった右腕の手首を掴み、筋肉と筋を断裂させる様に捻り切った。
内出血でぶくぶくと膨れ上がる右肘に観客が、良いぞもっとやれ、と歓声を上げた。
さぁ、残虐ファイトの鐘が鳴ったぞ、先輩?
降参を口にしようとする先輩の首に手加減した拳による一撃を加え、空いた口に指を突っ込み煩わしい舌を摘んで引き千切る。
あーぁ、もう降参って言えなくなっちゃったねぇ、可哀想だなぁ。
両手を上げようとしたのを見切り、再び懐に入り込み左腕を掴んで背負い投げて背中を強打する。
無論、左腕を引っ張って頭を強打するのを止める事はせずに投げっぱなしにする。
意識が混濁しているらしい先輩にマウントを取り、左腕の指を一本ずつへし折り、壮絶な痛みで意識を飛ばそうとするのを痛みで叩き起こす。
指、手首、肘、肩の順で関節を破壊し、残るは痛みで失禁したであろう汚れた下半身くらいだ。
仰向けのまま必死に残った両足で逃げようとする先輩だったが、膝関節を横合いから蹴り飛ばして曲がらない方向に曲げてやり、ついでにもう一本も逆関節にしてやった、アーマードコアかな?
完全に痛みにより意識を飛ばした先輩は哀れ無様な姿を晒しておねんねだ、すやすや眠れよベイビー。
「……そこまで! 戦意喪失及び決闘復帰不可と見做し、一年丙組の竜胆を勝者とする! ナイス、メンズーア!」
泡を噴いて死に掛けている先輩のズボンで黄色い水溜まりを踏んでしまった靴裏を拭い、解かれた結界から出るとギャラリーの温度は二極化していた。
何あいつこっわ、と言う冷めた者と、学生決闘はこうでなくちゃなぁっ、とナイスメンズーアと連呼して和気藹々と笑っている者。
エンジョイ組とダンジョン組の隔絶した溝が可視化されているような感じだった。
委員会の人たちから掛け金であるグレートソードと、玉無し先輩のメインウェポンだったらしいミートチョッパーを受け取った。
面倒だなぁって感じで先輩を片付ける人たちと助言をくれた仕切りの人に一礼してから、太志たちの所に戻ったら推定まぐ姉らしき褐色肌が眩しい痴女みたいな格好の黒ギャルが居た。
金髪を靡かせて豊満な胸をサラシで覆い、白シャツの胸元を大きくはだけさせた挙句に、しゃがめば見えそうなミニスカートにルーズソックスと言う感じである、目の保養かな。
「いやー、あの先輩は強敵でしたなぁ」
「いや何処がだよ、おいおい太志。見ねぇ間に朦朧したかぁ?」
「ネタを解説させるとか止めてください、死んでしまいます。……とまぁ、こう言う人でござる」
「よぉ、飛び切り活きの良い新入生、アタイは三年の磨具奈だ。倶楽部『火具土』で鎚を振るう『鍛冶師』で『巨匠』をやってる」
「あー……、これはご丁寧にどうも。太志と錫花さんが居るパーティのリーダーを押し付けられてる竜胆と言います。クラスは内緒です」
「アッハッハ! 内緒か! まぁ、まだ新入生だからなぁ隠してぇよな。まぁ、無駄な足掻きだけどな。『人物鑑定』を握ってるとこは今回の件でお前にその眼を向けるだろうよ」
「……っすよねぇ。だってあの人殺したら駄目だって言うんですよ」
「あぁん? ……あぁ、ありゃ、後始末が面倒だからそう言ってんだよ。態々そのためだけにダンジョンに投げに行くとか面倒だろ」
「……えぇ、そんな感じなんですか?」
大分機嫌の良いご様子の磨具奈さんは俺を横から首に腕を掛けて近寄らせてから、その豊満な乳房を恥ずかしげ無く押し付けながら耳打ちした。
柔らかいし良い匂いもしてくる、さてはこのギャル無敵だな?
「一応手順はあるにはある。保険療養棟で診察だけされて、そいつの貯蓄か家の金で支払えるならそれなりの待遇で治療して貰える。んで、支払えなかったらギリ蘇生だけしてダンジョンにドボンだ。あそこで死に戻りすりゃ最低限の治療された状態で生き返るからな」
「……マジです?」
「ははは、んな訳ねぇだろ」
「ですよねー……」
「『闘技場』と違って簡易結界じゃ面倒が多いからな。ポーションで治ると言っても死体に掛けてもしょうがないからな」
だから一度も死ぬんじゃねぇぞ、と手元を隠した状態で俺にしか聞こえない声量で呟いた。
どうやら磨具奈さんも生き残りを隠した人の一人らしい。
錫花さんが俺らと引き合わせたかった本当の理由が見えて来た。
どうやらこの地雷ガール、俺と身内を引き入れて生存者の倶楽部を樹立させようとしてやがる。
俺、太志、錫花さん、磨具奈さん、暫定でとら姉さん。
残り5人集めれば最低限の倶楽部活動が可能になる。
しかし、それなら磨具奈さんの『火具土』に参加させて貰った方が楽なんじゃなかろうか。
と、錫花さんを見やれば、此方が意図を察したのを理解した上で首を振った。
「……まぐ姉、部員を、隷属した人で、揃えてる。無理」
「あー……、成る程ね?」
「お、なんだ、引き抜きかぁ? 今のお前じゃ駄目だなぁ。最低でも第三段階まで来てから声掛けな」
「うっす、精進します」
要するに倶楽部の規則で磨具奈さんに隷属状態にある奴しか部員として認めてないから、入るとなると隷属させられるので太志を取られるから嫌なのね。
だから、こっちで倶楽部を作って磨具奈さんを引き入れる事を画策してんのか、一抜けしちゃ駄目かな?
嘘でしょ、そんな理由のために後5人集めろって言うのかよこいつ。
態々俺をリーダー扱いにしたの、太志に向かう羽虫を払いたいからか、なんて奴だこの地雷ガール。
「宜しく、リーダー」
きゃるんっとお願いされてしまったので、仕方が無く、それはもう仕方が無く引き受ける事にした。
……決してその白魚の様な手にこっそりと握られていた包丁が怖かったからでは無い、無いったら無いんだ、誰か助けて。
突然の真顔ジャパニーズホラーは禁じ手だろ、教えはどうなってんだ教えは。
補修レイドは……
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オリジナルレイド
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轟天石榴山