今日も無事に一狩り終えたのでそそくさとクリスタルを銭に変え、拾った小鬼シリーズと呼ばれているらしいゴブリンからのドロップ武器を換金した事で合計30万銭ちょっとになった。
太志による異能鑑定により、何の価値も無いゴミ以上の銘器と呼ぶには格の低い低級品を選んで拾った結果が実を結んでいる様だった。
『蛮鬼剣』の様な能力持ちの中級品と言える銘器は中々ドロップせず、大体が下振れて百本に一本あれば良いなってレベルで、能力は無いものの素材の質がそこそこな低級品を拾えるだけまだマシなんだろうな。
……でもなぁ持ちきれずに、そして大量に持ち歩いてたら確実に怪しまれるから、後半の殆どをその場に捨ててるんだよなぁ、ファンタジー系の学園物なんだからインベントリ標準装備させておいてくれよ。
ゴブリン由来の生素材なんかもあったが、錬金術みたいなクラスが居れば有効活用できるのだろうか、たーるっ。
パーティメンバーを6人くらいに設定しているのも、何人かは荷物持ちとして機能する様にしているのかね。
それともそもそものドロップ率が悪いから持ち帰れる分くらいしか出ないのが常なのか。
と言うかそもそも正午から入って閉門までレベリングを兼ねたハクスラしてるのが可笑しいのか。
教室で話を盗み聞く限りだが、閉門の一時間前くらいに入ってるみたいな話も聞いたし。
いのちをだいじに、の作戦でやってるんだなぁと思うくらいだった、無駄なのにな。
「……普通って何だろうな、平均値じゃないだろうしなぁ」
ダンジョンが解禁されてから5日経った訳だが、他の同級生の進みも気になってくるものだ。
最初の特別実習で死に戻りした人たちは既知壱階層スタートらしいし、そろそろ弐階層に上がるグループも出てくるのだろうか。
相手が仮初の生き物であると気付ければ然程忌避感無く殺せる相手だと思うので、追いつかない程度に頑張って貰いたいものだな。
……教室内で情報収集すれば良いだろって?
HAHAHA、シリアルキラー君こと叶馬氏が居るのに不用意な事できないっつーの、怖いよあいつ存在が。
せめて別のクラスだったならそう言う事をするために動いても良かったかもしれないが、アンタッチャブルな扱いをされている叶馬氏の挙動に全員が胃を痛めている現状だ。
彼の機嫌を損ねる事は十三階段の先にある、絞首台に自ら向かう様なものだ、嫌だ、まだ死にたくない。
なので、太志とオタトークしてる以外は机に突っ伏して秘儀寝てますよ状態でこっそりと盗み聞きをして何となくの情報を得るのが精々だ。
新入生への洗礼と言うか、先輩方が段々とヒャッハーを含めて動き出しているようなので、面倒を避けていきたいものだね、本当に。
まぁ、出会ったら殺すけど、ダンジョンで他の冒険者と出会ったら殺し合い不可避だし。
けどなぁ、流石に同級生は……どうだろうな、殺したくはないが死んだらごめんねの精神で行こう。
「おーい、戻ったぞ」
自室の鍵を開いて戻って来たら既に『隠蔽工作』と共に防音カーテンが閉まっていた。
……あぁ、レベルアップのムラつきを解消してるのか、お盛んだねぇ。
後ろ手で鍵を閉めてから自分のベッドに座り、電子学生手帳を開いて電卓機能で割り勘してから太志と錫花さんに分け前を送金する。
一人頭10万銭と端数って感じではあるが、順調に貯蓄を見据えられる額になっているので一安心と言ったところか。
この学園は贅沢をしようと思えば思う存分にできてしまう強気な価格設定のため、上流階級みたいな生活をしたいなら日々の銭集めは必須となる事だろう。
武器と防具を揃えたら、死に戻り対策にポーションなどを買い揃え、全員生存を目指すのが王道な感じだろうか。
そこまで至るために生活費をどうするのか、それが問題になってくる訳だ、自身の欲との闘いだからな。
……まぁ、俺は欲に負けたけども、喜んでくれる笑顔はプライスレスなので実質無散財だ。
新調した横長のふわふわ枕の調子を整え、ブレザーを脱いでハンガーに掛ける。
リーナとルーナを具象化し、服を脱ぐなと厳命した上で両隣にベッドの淵に座らせておく。
折り畳み式のやや低いサイドテーブルを展開し、ちょっとしたコーヒーブレイクを楽しむ準備を進めた。
そして、衝動買いしたコーヒーミルでこだわりのブレンドとPOPで謳っていた豆を手動で挽いていく。
ステンレスフィルターを差し込んだサーバーに粉をセットし、備え付けの電気ポットからお湯を少量流して蒸らしてから、数回に分けてぐるぐる渦を描く様に淹れて抽出。
ベッド脇に置いたビニール袋から道中で買ってきた牛乳を取り出して、リーナの緑色のカップとルーナの茶色のカップに半分ずつ入れていく。
前世から飲み慣れたブラックを楽しむために、残った牛乳はそのまま飲み干した。
二人のためのシュガースティックをテーブルに置き、抽出を終えた珈琲をカップに入れていく。
先んじて入れていた牛乳によってやや温度が下がって飲みやすくなった珈琲を二人の前に差し出す。
まぁ、少し齧った程度のなんちゃって珈琲だが、それなりに上手く出来ている事だろう。
「きゃぅぅ」
「わふぅぅ」
ほほぅ、これが珈琲ですか、と若干評論家っぽい事を宣いつつ、事前情報で伝えておいた苦さを警戒しているのか直ぐに口に付ける事は無かった、可愛いやつめ。
牛乳によって大分マイルドになっている筈なので、一口飲んでからそこのシュガースティックの中身を入れて飲むのだ。
恐る恐る一口くぴりと舐める様に飲んだ二人だったが、苦味に強かったのか一本だけシュガースティックを入れるだけでくぴくぴと飲み始めた。
黒いカップに入れた自分用の珈琲を楽しみつつ、理由を考えてみたが幾つか思いつくものがあった。
その中でも一番可能性が高い理由は、俺の精液を飲んでいるからでは、というものだった。
毎日常飲する程の珈琲派であるので、当然精液にもその苦味は継承される。
ダンジョン内で二人のレベルアップ酔いを鎮めるために口淫をさせているのだが、二人とも俺の精液をごくごくと美味しそうに飲み干しているし、何ならおかわりも要求してくるくらいに貪欲なぐらいだ。
精液の苦さと珈琲の苦さでは、青臭さなども含めて前者の方がきついので、それに慣れているから珈琲を普通に飲めているのではなかろうか。
「と、思うんだが実際どうなん」
「きゃう」
「わふ」
「何で精液に喉越しのレビューが入るんだよ、グルメ気取りかお嬢さん方」
濃厚で喉に絡みやすいのにそれでいてコクがあって飲み干す時の喉越しが最高、じゃないんだよ、ビールかよ。
精液の苦味はビールのポップじゃなくて海のにがりとかそう言う感じのえぐみだろうに。
口淫した後に登って来られて好き好きちゅっちゅっとキスされたので、その時知る羽目になったんだよなぁ。
「んで、珈琲はどうだ?」
「きゃぅ」
「わふぅ」
「ん、なら良かった」
満場一致の美味しいを頂いたので勝手に☆3つを掲げておこう、やったぜ。
一家団欒めいた平和を享受してほっと一息吐いて、ベッドに寝転がるとダンジョン帰りの疲れか少し眠い。
珈琲を飲んだし十数分くらい仮眠でも取るか、と目を瞑り――。
ふと瞼を開けて見える視界は薄ぼんやりとしていて、ピントが合っていないようだった。
寝足りないと寝がえりを打つとえらく肌触りの良い生地に頬を擦り付ける事になり、仄かに香る香の匂いが心地良い。
……とても、懐かしい光景を見ていた。
自室でコカインを鼻から吸引してハイになって痙攣している父親が微かに開いたドアから垣間見え、視線をずらせばかつて夫婦の寝室だった場所で見知らぬ男と媚びる様に性行為をする母親の姿が開いた襖から見えていた。
酷く歪んだ家庭に産まれた物だと思ったし、基本的にネグレクトだった事もありどうやって生きるかが日々の悩みだった。
スーパーの試食コーナーを複数梯子してなんとか腹を満たし、公園の水で喉を潤す、そんな子供だったんだ。
森林が生い茂る自然公園の一角にあった、誰も居ない小さな祠を見つけて、世界から人が居なくなり自分だけしか居ない様な心地に浸って心を凪いで居た。
……そう言えば、あの頃に誰かに会っていた気がする。
こうして膝枕をして貰って頭を優しく撫でて貰っていた、そんな長閑な心の平穏を享受していたような……。
『へぇ、随分と可愛いのが居るじゃないか、使わせてくれよ』
ふと酔っぱらった母親の客が襖の先から此方を見て何かを言っていた、言葉にもやが、ノイズが掛かって聞こえなかった。
そいつは止めようとする母親を押し倒し、平手打ちを繰り返してから腹部を蹴って遠ざけた。
此方に千鳥足で歩いてくるそいつは先程まで母親に挿入していたのだろう泡立った陰茎を揺らしていた。
幼い子供を見て真っ先に性欲が浮かんだ様な外道は下卑た笑みを浮かべて、外出できずに飢えて死に掛けている俺に手を伸ばしていた。
それを払い除ける力もその日は無く、汚い脂ぎった手を俺に向けて――。
「……本当にそれで良いの?」
凛とした可愛らしくも挑発的なその声が脳裏に響いた、されるがままで、そうあれとされたままで良いのか、と問い掛けてきた。
そうありたい訳じゃない、そうせざるを得ないからそうしているだけだ、と言えたらどれだけ楽だろうか。
此方に向けられた巨大な手をじっと見つめ――、相手の思う通りにさせたくないと反抗心に火が点いた。
それは、短い果物ナイフだった、枕の下に隠したちっぽけな殺意の現れ。
もしも父親がDVをするような人物ならばと飢えていない時に用意した、本当に小さな殺意の形だった。
『ひっ、ひぃっ!? ち、血がっ……。痛ってぇっ、このクソガ――』
相変わらず、何を言っているのか分からないが、どす黒い決意の果てに握り締めた果物ナイフは血に染まっていた。
指と指の間を切り裂いた果物ナイフはてらてらと赤く、真っ白な蛍光灯と相反した黒に染まっていく。
手を押さえたそいつは酒の回りで赤らんだ顔を赤提灯の様にして此方を怒鳴っていたが、その途中で胸元から飛び出た刃先によって遮られた。
ビール腹に重心を取られたその男は畳にどたりと倒れ込み、その先に居た過呼吸気味の母親の姿を露わにした。
色に狂っていたとは思えない理性のある表情で、薬のオーバードーズをキメたかのような状態でありながら正気であろうとする、そんな必死な母親の顔をしていた。
「……あはっ、よくできました。親子揃って魅せてくれるわね。お片付けしなきゃね」
くすくすと笑う童女の顔はのっぺらぼうの様でいて、裂けていると思ってしまう程に口角を上げた口だけが印象的だった。
薄汚い裸の男が何故か霧散し、撒き散らされた血の跡が綺麗さっぱりに消えていく。
まるで最初から誰も居なかったかのように、果物ナイフを握る死に掛けの俺と頭を抱えて発狂する包丁を握り締めた母親の絶叫だけがその場に残った。
それは栄養失調が見せた幻覚と幻聴か、けれども未だに掌に残る切り裂いた肉の感触が本当の事だと嘯く。
――『
そうして、気が狂った母親の絶叫が原因で通報された事で、警察が介入する事となるが地元ヤクザの影響力かそれは握り潰され、死に掛けた餓鬼だけがぽつんと社会に取り残された。
「……ねぇ、折角此処に戻ってくれたんだから、早く此方に来てよ」
瞼の瞬きの間に場所は移り変わり、黒鵜寮の自室のベッドに俺は居た。
先程から視点移動が激しく目巡るしい、公園に居たりかつてのアパートだったりして、過去を巡って今に辿り着いた様だ。
烏の濡れ羽色と称するべき美しい黒髪をベッドに散らし、淡い濃淡で波が描かれた着物に身を包んだ少女に膝枕をされていた。
近くに居た筈のリーナとルーナの姿が無い、加えて言えば防音カーテンも太志のベッドも無くなっていた。
そして、膝枕されている場所もベッドの上ではなくて、畳に敷かれた布団の上に変わっていた。
あの日、見る事のできなかった美しい
悍ましい程に美しい童女の顔が近付くにつれて、ふわりと香る椿の匂いと磯の臭いに感覚が可笑しくなっていく。
ぴくりとも動かない身体に、金縛りにあっているのだと直感的に感じた。
つまり、そう、これは――。
「きひひっ! 現は夢、夢は現、そこにある筈なのに無い、無い筈なのにあるだなんて、とても不思議ね?」
嘲笑の様に親愛を示す矛盾した笑みが降ってくる、柔らかな唇と触れ合った瞬間に全てが弾けた。
びっしょりと白シャツを濡らす汗が気持ち悪い程に、俺は今悪夢を……夢を……、見て、いたのか?
分からない、俺は何を見て、何を言おうとしたんだ。
声にならない叫び声と激しい動悸に襲われながら、上半身を起こして転寝をしていて目が覚めた、筈だ。
心配そうに此方を窺うリーナとルーナの姿を見て、何故だか怖気が走る心地だった。
……シャワーを、浴びてこよう。
心配してくれる二人を抱き締めてから、カードに戻して仕舞い込み、ふらりと立ち上がったのだった。
補修レイドは……
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オリジナルレイド
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轟天石榴山