真奈美さんを心配しているであろうご友人を安心させるべく、予備のスウェットを貸して海燕荘に送り届けた日の翌日。
世は正に大ダンジョン時代、と言った感じで羅城門周りが賑やかだった、流石は日曜日誰もが笑顔だ。
今回は太志たちに一言断りを入れて、第弐階層に戻って『スレイヴゴブリン』を育成しようと画策していた。
突然のソロ行動に何か言われるかなと思ったが、特段そんな事はなくピクニックに行く様な気軽さで手を振られた、信頼の裏返しと思っておこう。
あの後、背嚢からモンスターカードを改めたのだが、通常のモンスターカードは二枚しか無く、残りの全部が『スレイヴゴブリン』だったと言うオチがついた。
流石にこの規格外のカードを売り払う訳にもいかないので、錫花さんに試して貰ったがやはりと言うべきか『スレイヴゴブリン』は『具象化』出来なかった。
恐らくながら既にこのカードは『隷属』に縛られた『隷属者』なのであり、それ故に『隷属具象化』と言う専用スキルでの呼び出しが必要になるのだと考えられる。
朝一番に羅城門へ来たからか、はたまた一人で潜るから珍しかったのか、割と視線を受けていた。
武器を仕舞っていたロッカーから『蛮鬼剣』を取り出し、階下のエントランスに向かうと丁度良い事に前の組が行った後だった。
後続も無いので並ぶ事無く二重円に入り、羅城門へとログインを果たす、ワクワクしてきたぜ。
――穿界迷宮『YGGDRASILL』、接続枝界『黄泉比良坂』――
――第『参』階層、『既知』領域――
取り敢えずリーナとルーナを具象化し、ぴょんぴょん跳ねているのを可愛いなぁと微笑ましく思いながら、ポケットに入った十枚の『スレイヴゴブリン』のカードを取り出した。
一枚、二枚、三枚、四枚……と具象化していくと、十枚全てを使い切り具象化する事に成功した。
『スレイヴゴブリン』は第一段階にある筈なので、最低でもコストは10の筈、総コスト100な筈なのだが暴走する素振りを見せない。
それどころか、貴方様こそが我らの王、誇り高き怪物の王よ何なりとお申し付けください、と言った感じで膝を折り曲げて臣下の礼をし始めていた。
全員に『隷属首輪』が嵌められている事でその事がはっきりと伝わってくるので、新たな見解を得たのだった。
つまりこれ、三国志みたいに強い将の下にどんどんと配下が付く様な形で階級が上がって行った感じか。
戦果を上げて領地を得て階級を上げるのが正規ならば、そんな領地を奪い取り物資を分捕り覇を宣うのが『怪物王』の在り方なのだと実感が湧いた、黄巾党かよ俺のクラス。
「……君たちの忠義、しかと受け取った。これより我らは第弐階層に降り、君たちのレベリングをする予定だ。各員奮闘努力せよ、俺たちの群は有象無象ではないと思い知らせろ」
「ギヒィッ!」
なお、『スレイヴゴブリン』の口調がギヒヒなので、何をしても嘲笑っている様に聞こえるのまんま悪の組織だなこりゃ。
前に五、後ろに五、その間に俺とリーナとルーナと言う陣形で弐階層のある方角へと歩き始めた。
当然ながら道中でゴブリンたちと出くわす事になり、流石に荷が重いだろうと『蛮鬼剣』で仕留めようと前に出ようとしたら、前列の五体が速やかに近付き得物を掴んだりして動きを止めてから鋭利な爪で仕留めていた。
そして、彼らは此方を見て、下に落ちている生素材を指さして言った。
「ギヒヒ、ギヒっ」
「え、食いたいのそれ。あー……、埃とか汚れを取ってから食べて良いぞ。と言うか普通に倒せるのかよ、なら弐階層に行く理由ねぇな」
「ギヒヒッ!」
「あぁ、うん、心配しなくて良いぞ。だって、君らがレベル10になるまで只管に狩り続けるからな」
「……ギ、ギヒィ」
全員に分配するだけの生素材が落ちてくれる事だろう、何せ数百は仕留める予定だからな。
それぞれに若干の好みがあるのか、手にした生素材を分配してからむしゃむしゃと食べ始めた。
参階層に出てくる既知領域のゴブリンは精々がレベル15くらいなので、基礎ステが高い様に見える『スレイヴゴブリン』たちにとっては苦にならない強さだったらしい。
有難い事に参階層は群れてゴブリンたちが現れてくれるので、数匹をプチプチするよりも効率が良い。
そして、我が軍は圧倒的ではないか、と言いたくなるぐらいに『スレイヴゴブリン』たちは強く、統制が取れている、素晴らしい限りだ。
「ギヒヒィッ!」
「グギャギャッ!?」
長い得物を持っている『ゴブリンランサー』が慌てて構えるも、するりと懐に入った速度の速い『スレイヴゴブリン』が鋭利な爪を振るい腕の筋を切り裂く。
続いて粗末な槍を落とした事でそれを拾い上げて串刺しにし、近くに居た小剣を持った『ゴブリンファイター』へと蹴り飛ばして牽制し、体勢が崩れたところを他の『スレイヴゴブリン』が参戦しそっ首を切り裂く。
ドロップアイテムの『小鬼剣』が幾つか分配されてからは持っていない個体に止めを譲る様に互いに尊重していた。
最終的に前10、後ろ3の陣形になり、後ろでイケイケドンドンと『スレイヴゴブリン』たちの奮闘を眺めるだけになっていた、成程これがボスの視点かぁ。
バックアタックが発生しようとしても耳の良い個体が即座に検知し、警戒を口にするため全て不発となり、よくも奇襲しやがったな糞ったれが、と苛烈に殲滅される光景がしばしばあった。
最終的に『小鬼小剣』4つ、『小鬼槍』2つ、『小鬼手斧』4つを装備した『スレイヴゴブリン』の軍勢が出来上がった。
全員が武器を装備した事で殲滅の速度は早まり、途中偶然出くわしたらしい先輩パーティが居たがエンジョイ組だったのかあっさりと始末されていた、とても頼もしい。
面白い事に『スレイヴゴブリン』たちが倒しても『隷属』したモンスターカードは生まれるらしく、追加で2枚程手に入れてしまっていた。
だが俺が直接倒すよりかは確率が低いようで、『隷属』モンスターではないノーマルカードの方が遥かに多かった。
「時間的にも午前中の後半戦だ。諸君らの強さは分かっているが、慢心を抱いてしょうもないミスをしないようにな」
「ギヒヒッ!」
『スレイヴゴブリン』の一枚を戻してレベルを確認すればレベル5になっていたので良い感じの進捗だな。
その一枚を『具象化』して戦列に戻し、再びレベリングを続ける。
武器を持ち殲滅速度が上がった事で、慢心への戒めのために効率性を説いた。
それにより、相手の得物を速やかに処理し、遊びの無い殺意により無駄の無い殺しを覚えた『スレイヴゴブリン』は逞しく成長していた。
そんな最中、玄室の中央でにゅっと飛び出たそれなりの木製宝箱が出現したのを見て心が躍った。
全員を後ろに下げ、予備の『小鬼手斧』を掴んで投擲し、爆発系の罠じゃないかを確認する。
左右から『小鬼長槍』で蓋を開け、正面に立たない様に厳命して開封処理を終える。
何も罠が無かったらしい宝箱を代表して中を探れば、昭和的な臭いのする瓶底眼鏡が掌に収まった。
……この前のモノクルといい、今回の瓶底眼鏡といい、眼鏡系多くね、と思ったが別の物も入っていた。
出っ歯の付け歯だった、歯茎と唇の間に挟み込んで使用するのが見て取れる。
「……ジョークグッズじゃねぇかっ! やんすキャラでもしろってか!」
宝箱にゴーホームさせたくなる衝動を抑えつつ、一応太志に見て貰うかとマジックアイテムを仕舞い込む。
深い溜息を零し、もう帰りたくなってきたなと電子学生手帳で時間を見れば後一時間はありそうだった。
まぁ、いいか、一心不乱の大周回をしよう、次の周回のために。
レベリングを再開し、結局買った第参層のマッピングデータを見ながら既知外領域を目指して足を進めていく。
一軍予定の『スレイヴゴブリン』たちのレベルもレベル10まで秒読みと言った進捗なので大変宜しい。
再びイケイケドンドンと大進撃を進めていると、ふと後ろ髪を引かれる様な感覚があった。
か細い違和感と言うか、そこに何かがあるのに見えてない様な、そんな変な直感だった。
足を止めた俺に合わせて『スレイヴゴブリン』たちが停止し、何事かと此方を向いていたので、直感に従って進路を変える事にした。
俺を先頭に歩き続けると違和感が強くなり、玄室にある石壁からそれが発せられているのだと理解できた。
罠を警戒しつつ壁に触れるとするりと手が抜けて、上半身が飲み込まれてしまった。
マザーモンスターの居た隠し部屋のそれに似ているな、と思って中を見れば……。
質素な御座を敷いた昔ながらの露店スタイルなお店があった。
編み笠に法衣姿の店主と思われし人物が顔を上げ、此方に不機嫌そうな強面を向けた。
「こ、こんにちは?」
「……ふむ、面白い事もある事だ。酔狂でやっていた商売に、まさか客が来る日が来るとはな……。良かろう、お客人此方へ」
「あっ、はい。……えぇと、何を売ってるお店なんですかね」
「くっくっく、偏屈爺が並べる商品なんざ埃の被った骨董品が精々さ」
耳の長い老成した様子の店主は目元を編み笠で隠していて表情が口しか見て取れない。
アレか、確か教室で噂になっていた七大不思議の一つ、玄室と玄室の間に現れる『ショップ』。
……あれ、この場所普通に玄室の中にあった気がするんだが、まぁ、噂だし些細な違いはあるか。
御座に並べられたそれらはどれも錆のひどい有様で辛うじて武器である事は輪郭で分かるが、値打ちのある物にはぱっと見では見えない。
しかし、一つ一つから恐ろしい気配がしており、こうして錆び付かせているのは封印のためであるとも感じられる。
「ほぉ、坊、面白い物を持っているな、すまんが見せて貰えねぇか」
「えーと、どれですかね」
「そのカードだ、お前さんの匂いが染み付いているそれだ」
「あっ、はい、分かるんですねそういうの」
『スレイヴゴブリン』のモンスターカードだと気付き、ポケットにしまっていたそれを手渡してみる。
年季の入った職人らしさがある掌に置かれたそれを、物珍しいと言った様子でくつくつと上機嫌で見ていた。
「くっくっく、分かるさ、それがしはこれが専門だからなぁ。スケの字はやたら新しい物ばかり好んだが、それがしは古き良き時代こそが好ましい。良かろう、こいつで商品を一つくれてやろう。それだけの価値があるものだ」
「え、良いんですか? と言うか釣り合ってます?」
「知らぬは本人のみか、くっくっく、面白い坊だの。確かに此処に並んだこいつらよりかは遥かに性能が劣る。ふむ、であるならば、一つ布教と言うものをしてみようじゃないか」
店主さんが徐に右手を此方に差し出したので、良く分からないがその手を握り返した。
途端、繋いだ手を有線ケーブルの様にして何かが俺の身体に、いや、魂へと送り込まれて来た。
――
何故だか知らないが、それを使えると心が理解していた。
「い、インベントリぃ!?」
「おうよ、スケの字は
「なんつーウィザードリィライクな……。でも、嬉しいです、これこそ求めていたお宝だ!」
「くっくっく、嬉しい事を言ってくれるなぁ坊。ふぅむ、本来すべきではないが、唾付けておくってのもまた趣があるか」
そう言って店主さんは再び此方に手を差し伸ばしたので、今度は両手でしっかりと握った。
店主さんはそんな現金な俺の行動に含み笑いをしつつ、力を込めて沈黙した。
繋いだ手を通して送られて来たのは……、スキルではない、何かだった。
今の俺では感じ取れないというか、見る事ができない類のものである、何もないがそこにある事が分かった。
しかし、意識して見れば目の前の店主さんにそれは繋がっているように思える、細い糸のような道標だった。
「それがしの加護をほんのりと与えた。露店精霊は移ろう者である。坊がそれがしを求めるのならば、その縁を手繰れ、さすらばそこで商いの真似事をしている事だろう」
「ありがとうございます。因みにどういう感じのを売りに来た方が良いですかね」
「ふぅむ、そうだな。それがしは坊らがモンスターカードと呼んでいるそれが好きでな、収集をして無窮を慰めている。物珍しいカードなら何でも良いぞ、見るだけでも楽しめるし、手元に入るなら喜びもしよう」
「分かりました。いつか店主さんのコレクションを見せてください」
「……くっくっく、良かろう。我が名はニザヴェリル、しがない鍛冶屋を営む露店妖精よ。鍛えて欲しい武器があるならば次は持ってくるが良い」
そう言い残して古めかしい御座の露店は消え去り、店主であるニザヴェリルさんの姿も居なくなった。
彼に隠れていた場所にあったのだろう鍛冶のための簡易炉があった場所がほんのりと温かい。
『収納袋』を意識すると計十個の空のスロットがあり、そこに仕舞い込めるのだと感じられた。
試しに余ってる『スレイヴゴブリン』のカードを一枚二枚と収納してみると、一つのスロットにストックされたのが分かった。
地味に運搬の危険性を感じていたリーナとルーナのカードを此処に仕舞えるのは本当にありがたい事だった。
……にしても、ニザヴェリルって北欧神話の地名じゃなかったっけ?
色々と混ざり過ぎじゃないかねこのダンジョン、もしや奥底でアカシックレコード的なのと根源接続されてたりしないだろうな……。
補修レイドは……
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オリジナルレイド
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轟天石榴山