――穿界迷宮『YGGDRASILL』、接続枝界『黄泉比良坂』――
――第『参』階層、『既知』領域――
さて、今回はどうしたものだろうか、リーナとルーナの札は下げて『スレイヴゴブリン』だけを展開して『文官』ムーヴをするべきか。
『蛮鬼剣』を肩に担いで辺りを見回し群れたゴブリンが居ないかを確認してから、『収納袋』から『スレイヴゴブリン』レベル10を10枚引き抜き、『隷属具象化』する。
……なんか遊戯王みたいな事してんな、次のクラスは決闘者あたりか?
辺りに散開し、後ろの6人を守る護衛として展開する。
……なんか黙ったままだな、と振り返って見れば奥歯をガタガタさせて恐怖に慄いている5人が居た。
そして、天を仰いで静かに絶句していた宮子さんが、此方にツカツカと歩いて肩に手を置いた。
「どうしました?」
「いや、その、君が規格外だとは思ってたけど予想以上だったよ。……因みに此処何階層?」
「参階層の既知領域ですね、大体レベル15くらいの数が多いだけの狩場ですね」
「……参階層って一年の二学期の後半くらいに来る様な場所なんだけど」
「はぁ、そうなんですか。んで、彼女らは何故震えてるんです?」
「……はぁ、階層が下がる毎にダンジョンから発せられる瘴気が強まる傾向にあるのは知ってるかな」
「そう、ですね。なんかそんな感じでしたね」
「だから、慣れてない階層、しかも二段階も下の場所に来たら普通ああなるの」
「成る程、解決策ってのは」
「……黙って抱き締めて来なさい」
「了解です」
真奈美さんたちに近付くと、わっと雪崩れ込む様に抱き着いて来たので押し競饅頭の様になりながら宥める。
うーむ、役得ではあるが参階層に降りて毎回これやるの面倒なんだが、初回の一回だけだったりするのだろうか。
都合10分程抱き付かれたまま過ごすと、歩いて来た群れに発見された様で下卑た声が玄室に響いた。
「狩って良し」
「ギヒ!」
前回に教え込んだヒット&アウェイの殺法により、懐にするりと入り込み自慢の鉤爪で喉笛を切り裂いて行く。
敵ゴブリンの武器を鹵獲し、消え去る前に拾い上げて次の標的に突き刺す者も居た。
常に連携を意識し、難無く敵ゴブリンの群れを全滅させた『スレイヴゴブリン』ズは戦利品である生素材を分配し、むしゃむしゃ食べ始めた。
「次の群れは生け取りにしろ。四肢を潰しておけ」
「ギヒヒッ!」
「いや、ちょっと待って本当に待って、モンスターカードのゴブリンがこんなに強い訳無いじゃない!?」
「当然、プロですから。なぁ?」
「ギヒ」
「と言うか何でそんな高度な意思疎通取れてるのよ、擬似的な会話も出来てるとか意味が分からない……」
慄く宮子さんだが、一番ツッコむべき具象化数の事に気付かない程、余裕が無い様子だった。
それからの養殖作業に特段特筆すべき事は無く、床に押さえ付けられたゴブリンの首元をギコギコしながら切り落とす、それだけを繰り返した。
最初は中々切り落とせなかった事で、泣き喚くゴブリンの断末魔を聞く羽目になり、段々と目が淀んでいく6人。
しかし、わんこそば宜しく四肢を手際良くサブミッションで関節破壊された呻く経験値が次々と目の前に置かれるため、逃げ出そうにも場所が場所なので逃げられない。
段々とレベルが上がった事で刃が入る様になり、効率が良くなるとレベルアップ酔いに苦しみ始めたが心を鬼にして続けさせた。
正直、レベルアップ酔いくらい呑み込めないとこの先やっていけないだろう。
戦いの最前線で敵を殺しました、レベル上がって発情しました、戦闘続行不可です。
>>突然の死<<
では困るのだ、いや本当に。
ある程度この感覚でも殺し続ける気概が無いとこの先進めないし、壁に打ち当たりアヘる未来しか見えない、対魔忍かよテメー。
今のうちにがっつりレベルアップ酔いを慣れさせた方が彼女たちのためだ。
「なので、適宜移動しながら殺しますロボを量産する必要があったんですね」
「予想以上の鬼畜の所業でワロえないですぞ……、人の心とかもう無いでござるか?」
「そこに無ければ無いですね、知らんけど」
「混ぜるな、危険」
「失敬な。むしろ俺以上に彼女らの事を思って心を鬼にしている奴は居ないぞ」
「言ってる事は正しいのに、やってる事が正しくないんでござるよ、人力TASさんあたりが親戚ですかな」
閉門後、出てくる広場で予め待ち合わせをしていた太志たちと合流し、クリスタルを銭にする作業の間、未だに何も持っていない手で床を突く動作をする6人の面倒を見て貰っていた。
今回の養殖により5人はノービスのレベル10、宮子さんも『娼婦』のレベル30になり、晴れて『聖堂』でクラスチェンジが可能になった。
それに、養殖のために用意したゴブリンたちを下準備する過程で『スレイヴゴブリン』たちのサブミッションの熟練度はかなり伸びた事だろう。
小柄かつ俊敏な動きで近寄り、見た目からは計り知れないパワーにより関節をキメて、無慈悲な鉤爪フィニッシュムーヴ、良いね格好良い。
取り敢えず、10本の武器を解決するまでのサブウェポンならぬサブミッションを会得したので人型相手には有利を取れる事だろう。
「はいはい、養殖はもう終わりですよー」
「夢を、悪夢を見ていたような」
「終わらない、いつ終わるのこれ」
「まだ、まだだ、まだやらなきゃ」
「……スパルタが過ぎないかしら」
「……これまだ序の口なんですよぉ満子ちゃん」
「……全賭け早まったかなぁ、けどメリットがなぁ」
未だに悪夢に囚われている一二三姉妹を正気度チェックしてから精神鑑定し、割とタフだった真奈美さんたちの抗議をリーダー権限で却下した。
「まぁ、無理なレベリングは今回だけだよ。次回からは各員奮闘努力して貰うからさ。……まぁ、『聖堂』ガチャの結果次第だけど」
「お願いします『職人』、『職人』系統でお願いします」
「いつ就くの、今でしょ私」
「かっとピングですよ、私ぃ」
「凄い一体感を感じるわ、吹いて来てるわよ確実に……ッ!」
「ご主人様の御意向に従うっす、でもやり直しは嫌だやり直しは嫌だやり直しは嫌っすぅ……!」
「……えーと、私はまだしなくて良いわよね?」
「そうですね、相手方にパートナーの権限云々宣われると面倒なので後日です」
やる気に燃えている5人を連れて『聖堂』に向かい、太志に『隠蔽工作』を打って貰い一人ずつ送り出す。
トップバッターは一二三姉妹の長女こと一美さん。
『聖堂』の中へと進んで行き、ピカっと中が光ったのでクラスチェンジ出来たらしい。
……のだが、とぼとぼと歩いてきたので『職人』では無かった模様。
「すみません、『文官』でした……」
「あぁ、モンスターカードの事なら大丈夫。今回ので何枚かあるから戦力になるよ」
「良かった、いぇーい一抜けぇ!」
「おのれぇ姉の分際でぇ!」
「負けてられるかぁ! 二美GO!」
「いや、私かよ、いや行くけどさ……」
ちょっと日和ったらしい三美さんに背中を押される形で二美さんが『聖堂』へ入りピカっとする。
そして、エアー勝訴の紙を掲げる様にして帰ってくると、途端にしおしお顔になり悲痛に告げた。
「『職人』にはなれませんでした……」
「敗訴の方かー……、因みに結果は?」
「『文官』でした」
「……あれ、まさか、そう言う感じの流れかこれ」
「…………三美、逝っきまーす!」
さながら自爆特攻のヤケクソ感のある口調で向かった三美さんがピカっとする。
そうして奥から帰って来たその姿は自信満々としたものだった。
そして『文官』に就いた姉達の前で踏ん反り返りながらニッカリと笑った。
「わりぃ、『文官』だった」
「知ってた」
「だろうと思った」
「似た様な性格で同じ生活してたら結果は似るよねって言う」
それはそれとしてドヤ顔ムカつく、と言う可愛い理由でぽかぽかにゃーにゃーとキャットファイトが始まってしまった。
やり過ぎない感じの戯れの様なので横槍は入れないでおこうか。
まるで子猫のケージの中みてぇだ、ケモノは居ても除け者は居ない様子、ただし漬物テメーは駄目だ。
「因みに何を所望で?」
「んー、磨具奈さんが入らなかった事を考えて『職人』系かなぁって。後方支援枠の予定だったけど、『文官』ならまぁ良いか」
「あぁ、竜胆殿を主軸に、拙、錫花、真奈美氏と満子氏を一軍に、彼女らを二軍に置く予定だったのですな」
「まぁ、数の暴力が甘美な事は知ってるし、多少増える程度なら誤差だな」
「戦争は数だよ兄貴、って事ですな」
一二三姉妹は全員が『文官』にクラスチェンジしたので、今回拾ったゴブリンのモンスターカードを一枚ずつ進呈した。
スキルはそれぞれ『咆哮』『爪研ぎ』『逃走』と見たことのあるラインナップだった。
そう考えると俺用の『隷属者』カードと大別できて良かった様に思える。
「取り敢えず3人は後方からゴブリンを繰り出しつつ、既知外領域のマッピングをして次回のクラスの方向性を絞って貰う形で構わないかな? 異議があるなら具体的なビルド構成を教えてもらうか、――もう一度クラスチェンジして貰うが」
3人共全力で首を振ったのでボブルヘッドみたいになっていたが、レベルアップ酔いの余韻と言うか疲れによりくったりしていた。
「んじゃ、次は満子さん行ってみようか。因みに希望は?」
「勿論前衛職よ、この子達を護らなきゃならないもの」
「気合いはバッチリですね、ご武運を」
「負けられない闘いがあるのよ女の子にはぁ……ッ!」
覇気のある小さな背中を見送り、問題無くピカったので一先ずは安心だ。
そうして戻って来た満子さんはデコを輝かせながら、ニッと笑みを浮かべてサムズアップ。
此方もサムズアップを返し、ピシガシグッグッと喜びを分かち合い、クラスを尋ねた。
「して成果は」
「前衛ではなかったけれども……多分『文官』系のレア、かしらね。『
「ありがとう、本当にありがとう。君が唯一無二の完璧で幸福なMVPだ」
「な、なによ、そこまで拝まれる事なんてまだしてないわよっ!?」
計13体のゴブリンが握る武器問題を解決に導いてくれた満子さんの小さな手を取り、ぶんぶんと上下に振って喜びを伝えた。
現在大量の資材を入れられるマジックバックを持ち合わせていないので、最悪持ち歩きか現地調達しか望めなかった。
だが、今は違うっ、ぎゅっ。
満子さんの腋に手を差し込み、わっしょいわっしょいと一人胴上げをして喜びを発散してから、真正面から抱き留めてくるくるする。
物欲しそうな目で見ている真奈美さんに顎で『聖堂』に行けと指示した。
「扱い雑じゃないっすか!? いやでもこれぐらい雑の方が良い感じかも……」
「はよいけ。『術士』系なら大逆転ホームランだぞエロ同人ハーマイオニー」
「ウィンガーディアム・レヴィオーサァ!」
近くに落ちてた小枝を拾い、杖に見立てて『聖堂』に向かった真奈美さんを満子さんを抱き留めながら見送る。
ペシペシと下ろす様に催促されたので渋々下ろした、もう少しだけ余韻に浸りたかったぜ。
そして、真奈美さんが入口のサークルに足を踏み入れてピカっとした瞬間、脳裏に浮かぶ文字列があった。
――所有者権限によりゲストIDを付与。
――『隷属』対象への干渉があります。
――『隷属者』安達真奈美のクラスチェンジを実行しますか?
――Y / N
「……なぁにこれ」
取り敢えずYESの意であろうYに意識を傾けると、沈黙していた『聖堂』からまたピカッと光る感じがした。
――ランダムクラスチェンジ結果、SSR『奴隷姫』。
――変更を確定しますか?
――Y / N
……まじか、と言うか『聖堂』のクラスチェンジってランダムだったのかよ。
成る程、道理でクラスにレアとかSSRとか付いてる訳だ、マジでガチャ産だったのか。
って事はこれ経験値を糧に回るクラスガチャかよ、無駄に壮大な仕様だなぁ。
Nに意識すると、手前の祭壇から伸びていたラインが戻り、再びピカっと次の祭壇へ移動した。
――ランダムクラスチェンジ結果、SSR『人形姫』。
――変更を確定しますか?
――Y / N
……成る程ね、Nを押してチェンジを繰り返す。
丸々姫系が大半で本来ならそれに就く予定だった様だが、欲しいのは『術士』系だ、チェンジチェンジチェンジ。
リロールを繰り返し、目当ての物を見逃してやり直す事しばしば数分程リセマラを繰り返す。
――ランダムクラスチェンジ結果、SR『黒魔術師』。
――変更を確定しますか?
――Y / N
何となく真奈美さんの黒歴史の方向に当たりが付いたが、あるあると思いつつYで確定した、だからハリポタ好きなのか。
ポカン顔の真奈美さんがトテトテ歩いて来たので、迎え入れる様に両腕を開けば、パァっと笑みを浮かべてダイブして来た。
……此処で梯子を外して避けたら面白そうだなと思ったが、後ろに満子さんが居たので止めた、二球付き事故になっちゃうぜ。
胸元にずっしりと来る柔らかさを受け止め、満子さんにやった様にくるくると回転して衝撃を流す。
「や、やったっすよご主人様!」
「あぁ、うん、詳しくは後でな。お口ミッフィーさんだ」
「むむ、むもっ、むぐぐ」
声高々に自分のクラス名を叫びそうな真奈美さんを『隷属首輪』で黙らせつつ、久方ぶりにクワッと見開いた太志にアイコンタクトを取り撤収の段取りだ。
独占していた『聖堂』の入口を解放し、そそくさとメンバーを海燕荘へと移動させていく。
流石にこの人数を黒鵜荘の自室に連れ込めないからな……。
補修レイドは……
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オリジナルレイド
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轟天石榴山