翌日、海燕荘で過ごすのが日常になりつつあるなぁ、と思いつつ真奈美たちと別れて教室に入る。
相変わらず窓際の奥に人が居ないなぁと思いつつ、悪目立ちしている叶馬君から視線を外す。
瓶底眼鏡で視線は見えていない筈だが、目が合った気がするのは何でだろうな、ホラーだよ。
自席に座ると、錫花さんを送ってから情報収集のために隠形していたらしい太志がにゅっと現れ、眼鏡をくいっと持ち上げていた。
「なぁ、太志。あそこのアンタッチャブルパーティってダンジョンログイン率どんなもん」
「二日に一度みたいですぞ」
「ふーむ、規格外クラスでも引いたんだろうな、もしくは主人公だったりしてな」
「おや、そうなると主人公が最低でも2人は居るクラスなのですなぁ、魔境ですかな此処」
あそこの叶馬君、そしてお前か? いやまぁ、自分は違うと言うんだろうけどもな。
「HAHAHA、しばくぞ。まだそこまで人間辞めてないわ。主人公だなんて罰ゲーム誰が受けるかよ」
「近年の若者の人間離れは顕著ですからなぁ、拙らの学園が筆頭な訳ですし」
「それはそう」
主人公の器ではねぇよ、精々が二次創作のモブだろうよ俺は。
迷宮概論などの非一般教科漬けの午前中を過ごすのも慣れてきたものだな。
我らが叶馬君に喧嘩を売ってしまったセクハラ体育教師が処されたがいつもの事だな、うん、見なかった事にしよう。
と、さっくりと授業はなぁなぁでやって放課後だ、いざダンジョンだ肆階層だぞ、肆階層。
太志を連れて錫花さんを拾い、一二三姉妹を拾い、途中で合流した宮子も加わって、ややがらんとしている申組に真奈美たちを拾いに行く。
「うぃーっす、HIHIHI、拾い者~っと?」
「あ、竜胆君、丁度良かったわ。例の同盟の件で話したい事があったのよ」
何処ぞの谷口宜しく声優ネタを擦ってドアを開くと、此方を見た満子とドリルヘアーが特徴的な……、えぇと……、確か申組の女子代表だった子だったか。
駄目だ、名前が思い出せない、取り敢えずドリ子で良いか。
「わたくしは玲子、申組女子18名で組んだ倶楽部『
「逞しい様で何よりだ、知っての通り丙組の竜胆だ。倶楽部はもうちょいで作れる予定。まぁ、宜しく」
「改めて感謝を伝えますわ、止めきれなかったわたくしの責ですので」
「そうなのか? ……あぁ、取り巻きが暴走したパターンだったのか」
「その、良い子たちですのよ、ちょっとやり過ぎる悪癖があるだけで……」
そう何とも言えない表情を浮かべる玲子さんに何処か苦労臭を感じた、中間管理職は大変だよなぁ。
玲子さんは金髪ドリルヘアーではなく黒髪ドリルヘアーなので何処か庶民的な雰囲気であり、お嬢様を目指す庶民な御嬢様見習いって感じの様子である。
「孤児院の時からついてきた子たちなので、どうもわたくしを持ち上げ気味で……。っと、本題に入りましょうか。満子さんから同盟の提案を受けたのですが、気になる点がありまして」
「ふむ、如何に?」
「ど、どうして私たちが『文官』希望を集めた倶楽部であると知っていたんですの?」
「……いやだって、君ら揃いに揃って殴る蹴るに適さない子たちじゃんか。『術士』は資質だろうし、『職人』って感じでも無いだろうから『文官』だろうな、と」
「成程、確かにそうですわね……。実際、わたくし以外にも3人程『文官』になれた子たちが居るので、行く行くはといった感じなのですわ」
「まぁ、本当は昨日の試合でエキサイトしてた子たちのグループだからだよ」
「はぅあ!?」
玲子さんは非常に困った顔を浮かべて満子を見たが、首を振って否定していた。
ははぁん、もしや既に書いているな、生ものを。
生きた人間を題材に書く同人誌の事を生ものと呼び、その新鮮さから鮮度は良いが話題が無くなれば腐るのも早い、そう言うマニアックと言うかグレーゾーンを行くジャンルだ。
負い目はちゃんとあるようで健全な方だな、と思いつつずれた話題を戻すべく口開く。
「で、だ。後々で俺らの倶楽部と同盟を結んでくれるのなら、色々と支援する用意が此方にはある」
「支援、ですか。ある程度の概要は満子さんから聞いているのですが眉唾物ですわね?」
「……成程、中々に強かだな。と言う事で、話の途中だがラッキーカードだ、前金代わりに持って行くと良い」
と、『収納袋』から適当にゴブリンのカードを18枚引き抜いて玲子さんの手に乗せた。
それを見た玲子さんは冷や汗が浮かび、二度見三度見してから恐る恐る1枚手に取って確認した。
……あぁ、もしかしてオークションサイトとかで売りに出されているモンスターカードの値段を知っているのか。
そうなると大金を一度に一括でキャッシュされた様なものか、随分と惨い事をしてしまったぜ。
「あ、あの、あのあの、こ、これは……?」
「詳細は語らない、俺は『文官』系のクラスでな、訳合ってカードが出やすいんだ。それを元手に『文官』倶楽部としてレベリングしてくれ。あ、なんなら養殖を手伝っても良いぞ。その場合は後のケアは要相談だな。人には誰しも好みがあるだろうしな」
「……ほ、本当によろしいですの? こ、こんな、大金の塊みたいな物を……」
「あぁ、大丈夫だよ。数ヵ月には大暴落してただのカードに成り下がる予定だからな。そのためにも君らの力を借りたい訳だ」
あくまで協力者が欲しいのであって、暴力や圧力で言う事を聞かせる方針ではいかない。
何より、格付けは既に昨日の学生決闘で済んでいるからな、自分に降り掛かったらと思う頭はあるだろう。
未だに掌の上にずっしりと乗っかっているゴブリンのカードを見て、玲子さんは意を決した様にそれをポケットに仕舞い込んだ。
そして、流れる様な綺麗な土下座を披露した、誰がそこまでしろと言ったドアホ。
「待て、顔を上げてくれ。俺は別に君らの身体やらなんやらを求めてんな事してる訳じゃねぇんだ」
「それでも、ですわ! 足長おじさんにはめいいっぱい媚びておけとは院長の言葉ですわぁ!」
「おい、要らん事も言ってるぞ。その土下座を止めろぉっ、下手な脅迫よりも脅してるぞそれは!」
「へへっ、あ、靴でもお舐めしましょうかオーナー様」
「くそぅ、この似非御嬢様卑屈な態度がめっちゃ似合うな、地味に癖に来る……」
手枷を付けて襤褸布を着せて少し汚してやると良い感じに映えると思うんだよな、見た目は良い方だし。
だなんて考えているのがバレたのか、真奈美と満子から声が飛んだ。
「ちょっとぉ!?」
「それはどうかと思うっすよご主人様」
「ご主人様……、メイド服を着る事も辞さないですわぁ!」
「だからお前はその変な暴走を止めろ、ったく」
「ぁあんっ」
似非御嬢様を一本釣りして土下座対策として椅子に座らせ、加えて机も拳半分程の近くで設置したので土下座る事は無いだろう。
そんなギャグみたいな光景を見ていた申組女子たちが何やら俺に向ける視線を変えていたが、何だろう、尻に危険性を感じるような……。
まぁ、それは兎も角として、同盟を受けたのかを確認しておくべきか。
「えぇと、同盟の件は受けてくれると見て良いのか?」
「えぇ、勿論ですわ。部長権限で誓約書にもサインしますわよ」
「うわぁ委員長の目が$の形になってるっすよ、なんて現金な」
「因みに裏で転売したら学生決闘な」
「失礼な! 飢えて木の根を齧った事のある身ですが、誇りまで捨てたつもりはありませんわ!」
「魂だけは気高いなこいつ……。まぁ、いいや。レベリングの件はどうする?」
「お恥ずかしい話ですが、宜しくお願いできますでしょうか。御代は……、その、わたくしで?」
「あー! ズルいよ委員長! 私も私も!」
「汚名挽回のためにあたしも!」
「名誉返上だっけ、あれ、それって返上して良いやつ?」
「い、いけませんわ! お姉様がそんなっ、……いやでも竜胆様ならお姉様を任せられますわね」
「と言うか最適解じゃありませんの? お姉様に相応しい相手ですわよ。財力、胆力、
昨日の件のやらかしをしたであろうウェーブの掛かった御嬢様っぽい取り巻き二人もうんうんと頷いている様だった。
それでいいのか取り巻き、せめてもうちょっと粘れよ、明らかに駄目だろこんな怪物モブ。
……あー、昨日の学生決闘の件で俺の性格がある程度周知されているのか、それとも真奈美や満子経由で知れ渡ったのか。
多分後者だろうな、首輪の鎖を指先で弄りながら惚気る場面が見える。
だとしても意外と好感度は高いようだった、何故に。
露骨なセックスアピールを繰り返す『鮮血薔薇』の女子たちの猛攻を受けつつ、小首を傾げて太志を見やれば、肩を竦めてからサムズアップを返した。
磨具奈さん及び砥蘭さんに関する助けはぜってぇ出してやらねぇ、絞られながら吐精されてしまえ。
もみくちゃにされながら、教室の端っこで一二三姉妹がぺったんこな胸をぽむぽむしていたので、別にそう言う趣味は無ぇとツッコミを入れたかった。
なお、何とも言えない表情を浮かべた真奈美たちの様子で養殖の大変さを察した人は居なかったようだった。
「取り敢えず、『文官』になりたいってんなら俺の考える『文官』の講義でも軽くしようか」
「おぉ、先駆者様ですものね。普段はどう言った戦い方をされますの?」
『鮮血薔薇』の面々はノリが良いようで、教壇に押し込まれたかと思えば18人が前の方の席に座り、ちょっとした講座を始める事になってしまった。
……無言で太志を見やれば、既に準備は終えているとサムズアップを返されたので、教室の扉を閉めて鍵も落とした。
「さて、それでは俺なりの『文官』のビルド、戦い方を講義しようと思う」
「宜しくお願いします!」
「……教師になるのも良いかもな。さて、まずはそれぞれのアーキタイプをざっくりと解説していこうか」
黒板に『戦士』『盗賊』『術士』『文官』『職人』『遊び人』の6タイプを書く。
そして――、『戦士』脳筋、『盗賊』素早い鍵開け、『術士』遠距離魔法、『職人』鍛冶師、『文官』探索補助、『遊び人』攪乱、と付け足した。
「えー、ぶっちゃけると『戦士』『盗賊』『術士』以外の『文官』『職人』『遊び人』はクラスの補正が戦闘向けじゃないので劇的に強くなると言う事が無い。端から筋力、素早さ、魔力、と得意分野を伸ばすステータスになるが、他の3つは知性、器用、性的要素のステータスが上がると言うのが学園の定説だな。教科書にも似たような事が書かれてるが、まぁ……、統計だろうから信じても良いだろう」
『職人』の下に、武器、防具、アイテムの製造及びゴーレム作成。
『文官』の下に、マッピング、モンスターカードによるモンスターの使役。
『遊び人』の下に、場の雰囲気を乱す攪乱役、性欲処理。
と、付け足した。
「と言うかだな、一階層に居るゴブリンやらコボルトの身体能力はぶっちゃけ弱い、そこらの女児並みだ。どうして死に戻る様なのが居るかと言うと、結局は見た目だな。もしもこれがスライムなら死人は少なかった筈だ。人型、どうしても人間を幻視してしまうが故に元々生き物を殺す事に慣れてない人が多い」
見渡してみればうんうんと申し訳無さそうに頷いている女子が多い。
玲子さんやその取り巻きも、まぁ確かに、と言う感じだ、随分と逞しい。
太志と錫花さんは苦笑いをしていた、そう言う家系だもんな。
真奈美と満子に一二三姉妹は何とも言えない表情を浮かべている、まぁ、殆ど養殖だしな。
宮子は大分実感の籠った頷きをしていた、一年生の頃を思い出しているのだろうか。
「で、だ。此処に居る君たちにそんなゴブリンを簡単に、そして安全に倒す術を授けたいと思う」
「え、本当ですか!?」
「あるんですねそんなやり方!」
「あぁ、期待している者も多いみたいだな。良し、教えて進ぜよう」
教壇に居る俺へ期待の視線が集まり、今か今かと申組女子たちは答えを待った。
なので、俺はそれはもう良い笑顔を作ってぶっちゃけた。
「数で囲んで棒で叩け、以上だ」
「……へ?」
「だから、一体のゴブリンに対して6人で、何なら18人で囲んで棒で殴って殺せ。数の暴力は個の質が貧弱であれば確実に効果を発揮するからな。足を叩け、腕を叩け、背中を叩け、頭を叩け、股間を叩け。同じ場所を狙う必要は無い、分散して死ぬまで殴れ。長槍でも良いぞ、突いて突いて突きまくれ、出血部位を増やせ、血塗れにして失血死させてやれ。君らが生き残るために、な」
えぇ……、と引き気味であるが、割とマジな必勝法である。
何故なら此処に居る子たちは一対一で殴り殺せなかったから死に戻っているんだからな。
女児の力ってどれだけ弱いと思ってるんだ、特別実習で渡された謎の棒でリーチを活かせば殺し切れた筈だ。
「この学園は『文官』を含めて『職人』や『遊び人』を戦えないクラスとして嘲笑っている者が多いが、そんなもの戦い方が下手くそなだけだ。長い武器を使えばリーチの短いゴブリンなんて一方的に殺せる。……が、普通の人は人型のゴブリンを殴り殺せと言っても難しいのは仕方がない。だからこそ、一人じゃなくて複数人で罪の意識を分散して叩け、と言ったんだ」
「……赤信号、皆で渡れば、怖くない、ですわね?」
「ニュアンスとしてはそう言う事だ。多分この戦法なら正午に入っても閉門まで一階層で死に戻りする事は無いだろう、ゴブリン相手ならな。6人組を3つ作ってローテションすれば疲労も少ないだろう。んで、『文官』の強みはそこだ。ダンジョンを探索するスキルを獲得できるからマッピング担当になる定めではあるが、重要なのは共通スキルで『具象化』を持っている事だ」
「……っ! モンスターを使役する事で手数を増やせる、のですわね!」
「そう言う事だ。俺が渡したのはゴブリンのカード、つまり相手がゴブリンなら戦力は同等となり、その上で使役する『文官』分の戦力が足される訳だ。ゴブリンに足止めをさせて、リーチの長い武器で殴れば優位に立てる。『文官』の具象化の注意点はコストがある事だ。自身のクラスレベル以下の使役しか出来ないから、『文官』になった時点でコスト11まで、レベル2のゴブリンを5体扱う事も出来るし、レベル5を2体と言う遣り方もできる。だがまぁ、コストオーバーの暴走と経験値効率を考慮して1体運用が安定だろうな。人数も居るし1体でも十分過ぎるだろうしな」
黒板に(1人+1体)×18と書き、=に18人+18体と締める。
別Verとして6人組の6人+6体も書いておく。
ついでに、手前にゴブリンのデフォ絵を書いて、反対側に計36の人影を書いて何処ぞのショッカー隊員vsライダーみたいな構図の分かりやすい絵を描いておく。
それを見た事で申組女子たちの理解も深められた様で、圧倒的物量さに踏み潰される個の末路を知る事だろう。
「戦闘弱者と呼ばれている『文官』だが、カードさえ持ち合わせていれば、戦いは数だ、を相手に強いる事ができる。俺らとの同盟により、君たちは1人に1枚ずつゴブリンのカードが支給されている訳だ。スタートダッシュとしては十分だろうな」
「だからこんな高価な物を……」
「『文官』成り立てならレベル1のゴブリンを壱階層でキャリーしながらレベル10まで上げるのが良いだろうな。大人数でそのまま行くなら弐階層でレベリングしても良いだろう。戦法自体は同じだ、数で囲んで棒で殴り殺す、それ一択だからな」
「……ごくっ。も、もしや、オーナー様の戦い方と言うのは……」
「10体のゴブリンと俺自身を加えた1対11に加えて、パーティメンバーの戦力が足された質を兼ね備えた物量戦だ」
「10体!? す、凄いですわね」
『スレイヴゴブリン』10体に俺、リーナ、ルーナ、太志、錫花さんと『ゴブリンスパルタクス』5体、一二三姉妹とゴブリン3体、真奈美、満子、宮子。
計ゴブリン18体とモン娘2人に9人なんだけどな。
『ハーフヴォーバルバニーガール』ことバニーナはまだ召喚してないので戦力には含めない。
……普通に過剰戦力だな、数の暴力って感じだ。
「ぶっちゃけ参階層まではソロでも余裕だ、肆階層以降はまだ分からんが」
「いや、普通に通用すると思いますぞ。ただでさえ竜胆殿自身がお強いのですからな」
「……まぁ、ゴブリンを『具象化』して敵の脚にしがみ付かせて追撃し、押し倒してぶん殴ると言う戦い方もできる。ゴブリンから小鬼シリーズだなんて呼ばれている、あいつらが持っている武器がドロップしたらゴブリンに持たせるのも手だ。何なら全員で長槍を持って突き殺すのとかお薦めだな、血を見るのが嫌だからってメイスを選ぶよりかは長得の武器を持つ方が安全だ」
段々と『文官』クラスの利点に気が付いた様で、上手くやれば怪我すらなく無傷で完勝できる可能性に気付けたらしい。
……まぁ、そもそも学園側がカードを安めに卸してないのが問題なんだけどな。
『文官』の生徒が出るのは分かってるんだからコボルトなり低価格で購買部に置いておけと言う話だ。
数が少ないので希少性があり、値段が高くなるのは分かるが、変なエンチャントとかで使われる前に学園側でそれなりの値段で買い取れば良かった話だろうに。
浅い階層のゴブリンやコボルトのスキルなんてどれもこれもしょーもないのだから。
実際、ダンジョン組の倶楽部室あたりに死蔵されてるんじゃなかろうかゴブリンとかのカード。
他のクラスと違って専門的なてこ入れが必要なんだからちゃんと教育しろよ、なんのための学園なんだか。
……まぁ、まだ授業があるだけ有情と思うべきなんだろうか、学園に期待はしない方が良いだろう。
銭の吐き出し口が学園にしか無いってのが面倒な所だよな、買い取りを考えると頭が痛くなってくるぜ。
補修レイドは……
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オリジナルレイド
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轟天石榴山