特別教室棟の地下フロアに位置する『工作室』、本来なら『職人』のクラスの者しか来ないような場所に来ていた。
窓の無い廊下を歩き、無駄にごっつい扉を開いて中へと入ると衝立に区切られた光景が広がっていた。
基本的な工作台から鉄板を敷かれた机などがあるが、目に付くのは足元の2メートルはある直径の複雑な魔法陣だった。
成る程、スキルを使える様にするための魔法陣なのだろう、ぶっちゃけ漂ってる瘴気の具合からして収束する感じの奴だなこれは。
外でクリスタルを経由してスキルを使えるように、クリスタルの代わりに設置されている訳だ。
なんかファンタジーして来たな、面白くなってきたぜ。
奥の方の、それでいて手前側のスペースを選び、『文官』である一二三姉妹を作業台にぐるっと囲む様に設置する。
そして、使用料だなんて言われているらしい魔法陣を起動するクリスタルを所定の位置に放り入れた。
監視カメラっぽいのが見えたので、念のため衝立で四方を囲って見えなくしておいた。
「実は、此処だけの話なんだが、モンスターカードは合成できるらしいんだ」
「ほうほう」
「初耳ですね」
「寝耳に水です」
先程の気付きの応用として、詳細を語らず隠しスキルと言う体で存在を仄めかす。
何か言いたげな宮子の視線が背中に突き刺さるが、検証の後にしてくれ。
作業台に余ったゴブリンのモンスターカードを置き、それっぽい事を宣う。
「両手に1枚ずつ持って、合わせてがっちゃんこするんだとさ。合体って感じで」
「えいえい」
「うーむ」
「むむむ、なんか、出来そう?」
三美の両手の上でくるくると独りでに回りながらカードが浮かんでおり、掌を合わせた事によりそれは1枚のカードになった。
皆してカードを覗いてみれば『グレートゴブリン』の名を冠した物になっており、なんなら描かれたゴブリンが一周り程大きくなっていた。
感嘆の声が漏れ、私も私もと一美と二美が真似してみれば、三美のお手本があったからか同じ事を成功させていた。
3枚の『グレートゴブリン』のカードを目にした宮子が驚愕で口元を抑えていた。
『文官』の新たなスキル『具象合成』がこの世に爆誕した瞬間だった。
「嘘でしょ……、『文官』の常識が一変するわよ……これ」
「そんなに凄い事なんですかこれ」
「教科書に載ってないって事は成功した人が居ないって事なのよ。『文官』の弱さの原因の1つに使役するモンスターの弱さもあるの。浅い階層ならゴブリンで事足りるけど、参階層以降はパワー不足に悩む場面も出てくるわ。……けど、それが解消されたなら『文官』の価値は跳ね上がるわ」
「我ら歴史の開拓者」
「学園の歴史にまた1ページ」
「私が最初にやりました、えっへん」
「いやはや、マジで上手く行くとはなぁ。……お前ら絶対変な奴に騙されてついて行くなよ」
先程のアホみたいに簡潔な内容で成功させたのは、一二三姉妹が俺の言葉を全く疑わなかった結果であり、嬉しいが騙されやすそうで心配が勝った。
『グレートゴブリン』と『グレートゴブリン』を合成すると『ハイグレートゴブリン』となり、絵柄は五頭身から六頭身に伸びていた。
『ゴブリン』と『グレートゴブリン』では合成は起こらず、同じ名称のカード同士でなければならないらしい。
……多分、違うカードを混ぜるにはまた別のスキルが必要になるんだろうな。
もしくはカードの召喚に適した上位のクラスにならないとキャパと言うか出力とかが足りないのかもしれないな。
試しに『スレイヴゴブリン』レベル17に『スレイヴゴブリン』レベル1を両手に持ち、合成を意識すると2枚のカードが浮かび上がり交差するように宙を飛んでから戻って来た時には1枚のカードになっていた。
『グレートスレイヴゴブリン』レベル17、と書いてあるのを見て思わずガッツポーズをした。
五頭身になった『グレートスレイヴゴブリン』のレベルが同じな事から、レベルが高い方に低い方が引っ張られる形なのだろう。
『収納袋』から取り出した『スレイヴゴブリン』レベル17のカードとレベル1のカードを置いて、悪魔合体宜しく景気良く合成していく。
計10枚の『グレートスレイヴゴブリン』レベル17が出来たので、レベル1のカード群とは別にして混ざらない様にしてから、グレートの合成していく。
レベル1の『グレートスレイヴゴブリン』が12枚出来たので、レベル17の10枚をグレードアップ出来るな。
「……待て、そんな簡単に行くか? なんか落とし穴、デメリットあるだろ絶対」
「考えられるのは、基礎の上限が上がってる場合っすかね。ゴブリンってノービスに当たるレベル10までっすけど、上限突破的な感じならレベル20とか上がったり?」
「つまりコストの増加。5刻みか10刻みなのかが分からんな。コストオーバーで暴走する可能性が上がる訳か、妥当だな」
「明らかにそれじゃないの、学園がこのスキル隠したのって。使役する『文官』よりも上限が高くなって暴走。『文官』がレベル上がらないと再使役出来ないって普通にデメリットよ」
ふむ、真奈美と満子の考察が正しければレベル上限が『グレート』の時点で+5か+10、ノービスにあたるゴブリンは最大15と20、第一段階も同じ仕組みなら35と40になる訳か。
『文官』が順当に上位にクラスチェンジすれば10+20+30の60コスト、ゴブリンが第二段階になってレベルが60越えたら暴走域だな、とんでもねぇ時限爆弾じゃねえか。
サブクラス取得で+10なり+20なり上がるならギリ耐えられるかもしれんが、そこまで上がるものなのかね、分からん。
今のエンジョイ組なんかが居る環境で使ったら大惨事だな、そりゃ秘匿と言うか無かった事にされるわこんなもん。
「……取り敢えず、零から教えて貰えるかしら?」
「あっ、はい、お話しますぅ……」
宮子が魅力的なあすなろ抱きをしてきたが、声色が全く笑ってないので変な声が出た、怖い。
改めて辺りを見回して誰も居ない事を確認して、電子学生手帳で適当な動画を大音量で流す。
……あっ、これ『鮮血薔薇』の面々が撮った昨日のハメ撮りじゃねえか。
宮子の腕の力が増したが、ふ、不可抗力だ、ランダム再生だぞ。
後で自分たちも撮るって? 女性側から言われる事なんてあんのこれ?
「いや、そのだな。元々スキルに関して疑問があったんだよ。んで、さっきの話で、スキルは似たような現象であって同じ規格のものではない、ってのがあっただろ。あくまで『クラス』の印象と学園の授業での刷り込みで、『戦士』だから『強打』が使えると言う思い込みで、無意識に『強打』と言うスキルを作ったから使えてるんじゃないかと思ったんだ」
「……どう言う考えの飛躍なのそれ?」
「要するに固定観念でスキルを作ってるから、教科書通りのスキルが使える様になる。個人差の体感とされていた誤差こそが、どれもが見た目が同じスキルで厳密に同じスキルじゃない証明になっていた訳だ。田中の『強打』、山田の『強打』、みたいに確かな差異があったんだよ実は」
「……成る程、続けて?」
「誰もが『クラス』の範疇でスキルを作り出せる、つまりは本来スキルはフリースタイルな所を、学園は型に嵌めたんだ。変な規格外が出て制御し辛くならない様に」
「……だからこの子たちに嘘八百嘯いた訳ね」
「信頼があっての事……?」
「騙されやすいって事……?」
「でも旦那様が幸せなら、大丈夫です」
「健気可愛いかよ。いやうん、君らの純粋さに賭けたのは確かなんだが、説明したらしたで型に嵌ったスキルになりそうだな、と。……ごめんなさい」
一二三姉妹は許してくれたが、揃ってスカートを捲って来たのでそちらは許してくれなかったらしい、トミーガンかよ。
辺りに誰も居ない事を良い事に『グレートスレイヴゴブリン』を1体『隷属具象化』する。
見慣れた姿が若干成長しているようで、当人も大きくなった身体が嬉しいのか喜びを露わにしていた。
「聞きたいんだが、精神的に変化はあるか?」
「ギヒ? ……ギヒィ」
「ふむ、なんも無いのか。普通に身体が強くなっただけ」
「ギヒ」
「そしたらもう一段階強くなれるんだが――」
「ギヒヒッ!」
「お、おぅ、圧が強いな、分かった分かった。1つだけ聞いておくが、叛逆とか考えてねぇよな?」
「ギ、ギヒ」
魔力を眼鏡に込める様な感じで、威圧して『スレイヴゴブリン』の本音を聞き出す。
嘘を吐けば確実に惨殺されると理解しているのか、欠片もありません、と重圧による冷や汗を浮かべながら膝をついて臣下の礼を取ったので一応信用する事にした。
「あぁ、良かった。そうだよな、万が一があったらカードを引き千切るつもりだったが、大丈夫そうだな」
「ぎぇっ、……ギヒィ、ギヒヒっ!」
「あぁ、分かってるよ。期待、しているぞ」
「ギヒッ」
圧迫面談も終わったのでカードに戻し、手にした『グレートスレイヴゴブリン』を『ハイグレートスレイヴゴブリン』に合成し始めると、後ろから恐る恐ると言う感じで皆が集まってくる。
……成程、威圧した時に普通に拡散していたらしい、若干震えていらっしゃる。
素人が慣れない事をやるもんじゃねぇなと思いつつ、10枚のグレードアップを完了する。
試しに『ハイグレートスレイヴゴブリン』を両手に持ち、合成しようとしたら弾かれてしまったので小首を傾げる。
通常の『スレイヴゴブリン』をクラスの規定に沿うならば零段階であり、グレート、ハイグレート、と二段階上がっているから2凸状態の『スレイヴゴブリン』の筈だ。
ドラクエのキングスライムを作るみたいな遣り方で合成できるんじゃないかと思っていたのだが、3凸目は出来なかったとなると問題は何処にあるのか。
レベルが17上がっていると言う事はその分、個体の情報も入っているので、意識がある同士では不可能なパターン。
クラスチェンジの様にレベルが足りなくて上限突破が出来ないパターン。
そもそもがハイグレートまでの上限突破しかできないパターン。
と、色々あるがゴブリンのノーマルカードが集まれば判明する事なので追々だな。
「取り敢えず、一二三姉妹が使うのは1凸で止めておくべきだな。コストが+5なのか+10なのかを確かめてからグレードアップした方が良いな」
「分かりました」
「了解です」
「承知しました」
「後は『文官』の第二段階後に取得するサブクラスで得られるコスト上限次第だな。横這いだとしたら二段階はコスト60が限界だからな、グレートアップは諸刃の剣になるかもしれん」
……あ、と言うか既に『ゴブリンサーヴァント』になってるから、もう一枚育てないと駄目なのか。
ただ、もう1枚のゴブリンをクラスチェンジしたとして同じ『ゴブリンサーヴァント』になるもんなのだろうか。
だなんて思っていたら、二美が『ゴブリンサーヴァント』のカードと『グレートゴブリン』のカードを持ち、サーヴァントの方を上に、グレートの方を下にして合成を試していたらあっさりと成功していた。
二美が手にしていたカードは『グレートゴブリンサーヴァント』と書かれており、レベルも11と継承も出来ていた。
目をぱちくりさせた一美と三美も似たように真似すれば、同じように成功したカードを掴んでいた。
『具象継承』のスキルの爆誕の瞬間であった、呆気無さ過ぎる。
「……因みにどうやった?」
「えぇと、ジョグレス進化?」
「……成程なぁ、別概念をぶち込んだのか。その手があったか」
「えへへ、見事やってやりました」
……成程な? 結局は使い手の考え次第と言う事か。
スキルのイメージを何処まで信じられるかが問題になる訳だ。
確かにジョグレス進化は素体となるデジモンに他のデジモンを組み込むジョイント&プログレスだもんな。
同じ世代の2体のデジモンで一段階上のデジモンになる進化だもんな、大正解だよ。
ただ、俺としてはペルソナやメガテンみたいに別々同士でも合体できる方が良いんだけどな。
……あぁ、そうか、複数のやり方を思いつくからこそ、1つに絞れないから発展が生まれないのか。
まだこの合成に対しての名付けはしていないから、まだ挽回のチャンスはある筈だ。
……しまった、唯一干渉できるスレイヴカードはゴブリン一択で工夫どころの問題じゃなかった。
え、同じカード同士を組み合わせて合体事故を起こせってか、無茶をおっしゃる。
せめて新月か満月の時にやるべきだなそれは、と一旦検証は諦める事にした。
「えー、取り敢えずこの技術は一旦封印と言う事で。後々にまた検証をしようか」
「賛成です」
「了解です」
「承知です」
「……何と言うか私の中での『文官』の定義が、壊れ始めた気がするわ」
「お、良い傾向ですね。スキルを本当の意味で扱っていくのであれば、固定観念の破壊は必須ですので。クラスチェンジした時の戦術の幅が広がると思いますよ」
何とも言えない表情を浮かべている宮子であるが、それならいっそクラスチェンジしてしまった方が楽になれるんじゃなかろうか。
『娼婦』で戦闘の役に立とうとしている時点で間違っているので、違うクラスになれば考え方も変わるだろう。
と、言う事で更なる固定観念の破壊のために『聖堂』へ向かう事になり、二年生と言う事もあって隠蔽も必要無いからさくっと入って貰う事にした。
そして、『隷属首輪』によるランダムクラスガチャの引き直しをしようと思っていたのだが――。
――ランダムクラスチェンジ結果、GR『妖狐娘』。
――変更を確定しますか?
――Y / N
――1発目でこれを引き、瞬時にYを押していたあたり、俺の性癖はきっと業が深いんだろうなと思った。
ひゃっほい、狐耳美少女とか最高だぜ、ケモ度2って感じだ。
出て来た宮子はふさっと盛り上がった狐耳とスカートから垂れ下がるもふもふな尻尾がついており、容姿も肉付きが良くなり美乳を残しつつ傾国の美少女と言った肢体に変貌していた。
てくてくと歩いて来た宮子は俺の肩をがっと掴み、顔を真っ赤にした状態で恥ずかしそうな声色で言った。
「絶対これ貴方の趣味でしょ……っ。聞こえてたわよ首輪越しに……っ!」
「……てへっ」
「まぁ、良いわ。やっと私もちゃんとパーティの役に立てるからね。責任、ちゃんと取って貰うんだから」
ふわふわな尻尾を揺らしながら普段閉じられた瞼を開いて見つめてくる。
ジト目なあたりが非常にポイントが高い、思わず抱き締めて唇を交わしてしまうぐらいには可愛かった。
尻尾が揺れ動いてから左足に巻き付かれたのは一種のセックスアピールだろうか、表現が増えて良い感じだ。
段々と冷静に戻ったのか、狐耳とふわふわ尻尾を消した宮子は薄っすらと開いた狐眼で肉食獣らしい笑みを浮かべたのだった。
……成程なぁ、狐だから化かすイメージで『容姿変化』みたいな感じなのを取得したなこりゃ。
早速スキルを使いこなしているご様子で何よりだ、あの、此処から入れる保険ってありますか?
海燕荘へ向かう方角に引き擦られているんだが、あの、ダンジョンで試運転とかなさらない感じで?
行き先に気付いたらしい真奈美たちがニンマリと笑みを浮かべたので、あぁ、もう今日はダンジョンに行けないなと諦めたのだった。
補修レイドは……
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オリジナルレイド
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轟天石榴山