放課後、自室に戻って様子を見れば太志は腰をやられたらしく、磨具奈さんが申し訳無さそうな表情を浮かべていた。
……もっとも、なら動かなければ良いよね、と錫花さんが上に乗っかったところで、肩を竦めて俺は自室を後にしたのだった。
太志の割とマジな悲鳴は黙殺した、あれは俺には救えない者だ……。
砥蘭さんが謀った顔をしていたので多分そう言う事なのだろう、今日は来られなさそうだなぁ。
――穿界迷宮『YGGDRASILL』、接続枝界『黄泉比良坂』――
――第『肆』階層、『既知外』領域――
気を取り直して、羅城門前に残した真奈美たちを拾って早速ダンジョンに直行する。
今回は主に性能の上がったゴブリンたちの変化と、宮子のクラスチェンジ結果をパーティプレイに反映させるための試運転の様なものだ。
『隷属具象化』した『ハイグレートスレイヴゴブリン』たちが大柄な六頭身となった筋肉質な身体を震わせながら喜び勇んでいる様子を眺めつつ、リーナにルーナ、そして『ハーフヴォーバルバニーガール』ことニーナを召喚する。
「きゃう」
「わふ」
「きひ……」
早速パパの番としての在り方を説き始めたリーナの頭をこつんと窘めつつ、白いバニースーツに身を包んだニーナはやる気なさげに溜息を吐いたのを苦笑せざるを得なかった。
と、言うのも辺りに居る屈強なゴブリンたちにより、過剰戦力なのを見抜いてサボろうとしている様子だった。
支援に秀でたリーナ、タンクに秀でたルーナ、そして遊撃のニーナ、と言う三人で既に戦術が完成している。
その上で満子から受け取った両刃剣でブラックドックを三枚に下ろすゴブリンズの活躍からして歩くだけだった。
群れたブラックドックの脅威は素早い連携であるが、そんな事は知った事かと粉砕するゴブリンズのせいで全く役目が無い。
ぶっちゃけ、元々のステータスが高いのに上限突破で更に強化されているのだから、牙や爪が肌に刺さらない事もあり、もはや弱い者虐めである。
「今はこいつらの慣らしも兼ねているから君らの出番は後でだ」
「きひぃ……」
「面倒臭いって言われてもなぁ、ちゃんとレべルは上げないと駄目だぞ」
手持無沙汰で手にした母親の形見である紅いシミターをジャグリング宜しく投げて遊ぶニーナだったが、暇潰しを思い付いたのか『念動浮遊』によりその手にあった得物を投げ放った。
空中をクルクルと豪速で放たれたシミターが回避行動を取ったブラックドックを嘲笑う様に、直角に軌道を変えて鼻っ面に切っ先がぶっ刺さる。
そして、シミターがサマーソルトの様な弧を描いて引き抜かれ、そのまま柔らかな首を切り裂いて手元に戻って来た。
呼吸の手段を失ったブラックドックが泡を吹いて死に絶えて霧散したのを見て、お見事と素直に褒めたらニーナはむふぅと自慢げな笑みを浮かべた、成程そう言うタイプか可愛い奴だな。
通常では武器を投げただけでは手元を離れた判定で補正を受けられなくなり、武器はただの物質として扱われるが、『念動浮遊』によってSPを纏ったシミターは念動糸により繋がっているため本来の威力を発揮できる。
これの何が恐ろしいって、種族的に素早い連撃にこれが混ざり込むのだ。
ただでさえ首を刈る軌道なのに、それを捌き切ったと思ったら死角から得物が飛んでくるのである、えげつない。
「あー……、これがエントか」
「うわぁ、真下が石造の床なのに樹木があるって普通に違和感あるっす」
「むしろどうやって栄養を取ってるのかしらね」
「あそこにわざとらしく果実があるでしょ? あれを取るために木の幹を登る時にパクって行くのよ」
「へぇ、となると今は擬態した状態なんですね」
「えぇ、獲物が掛かるまであのままね」
無言で杖を構えた真奈美と人差し指と中指だけを伸ばした手を向けた宮子が各々の遠距離攻撃を展開し、『黒弾』が足になるらしい根っこへ着弾し束縛、正体を表したものの動けないところを呪術の火である『狐火』が幹に炸裂し炎上。
後は藻掻きながら燃えていく様を眺めるだけだった、ドロップアイテムだった林檎っぽい果実は焼き林檎状態で美味しそうな感じになっていた。
太志が居れば毒があるかを確かめられたのだが、ナイフでちょっぴり切ったのを舌に乗せて痺れなどが無いかを確認してから噛み潰すと香ばしい焼き林檎の甘さが広がった。
毒見が済んだので等分したのを口にした女性陣の美味しそうな表情を眺める。
どうやらエントは疑似餌をちゃんと美味しく作っている真面目な一面があるようで、ただキャンキャンと喧しいだけのブラックドックとキモイ見た目のオウルベアに飛び跳ねるだけのマタンゴよりも人気が出た。
……まぁ、肆階層の既知外領域だからレベル30、つまりは此方で言うところの第一段階のカンストレベルなので、第二段階に至っている今の面子では正直脅威にならない。
参階層では群れが、肆階層からは『彷徨う魔物』の出現率が上がっているのか、時折見た目の違うモンスターが歩いているところを見つける事ができた。
ゲーミングカラーに光るマタンゴがヘッドスピンしながら回廊を進んでいるのを見つけた時は変な声が出たっけな。
「……ヘッドスピンで辺りに胞子を振りまいて、自己増殖からの辺り一面ゲーミングディスコ状態になるのは卑怯だろ流石に」
「幸いな事に攻撃手段が乏しかったから良かったっすけど、あの量はもはやモンスターハウスっすよ」
「『狐火』が火属性で良かったわ……」
「うぅ、目がぁ、目がぁ」
「さ、三分間待ってください……」
「もはやポリゴンショック」
確かに、ミサイルの爆発のエフェクトを赤と青の激しい点滅で表現したせいで、視聴者の一部に光過敏性発作を引き起こした有名な事件のそれに似ていた。
何処も彼処もゲーミングカラーでビッカビカ点滅しやがったので目が痛ぇ……。
ゴブリンズも目元を抑えているあたり、凶悪性と言えば割と上位に当たる妨害であった。
数分程休憩を余儀無くされ、ドロップアイテムを見ればゲーミングマタンゴが掛けていた星型の眼鏡が落ちていた。
拾い上げて耳に掛ける事はせずに覗いてみればサングラスの様で、手からSPを流して見れば正面側がゲーミングカラーにビッカビカ輝き始めた。
どうやらサングラス型のライトになるらしく、星形の2つのゲーミングライトが前方へ照射されている様だった、なんだこの産廃。
……いや、対人戦では意外と初見殺しじゃなかろうかこれ、これをオンオフで点滅させれば数分は目がチカチカする事になるだろう。
取り敢えず雑多な背嚢に入れると割れそうなので『収納袋』に仕舞い込み、『マタンゴエレクトロ』と書かれたレアっぽいモンスターカードは背嚢に仕舞った。
「大丈夫そうか?」
各々が頷いたのを見て一二三姉妹にマッピングして貰いながら既知外領域を進めていく。
途中で見つけた宝箱は太志が居ないので開ける事ができない、と言う事は無く、ニーナの『念動浮遊』により上蓋を抉じ開けられ、罠の範囲に誰も居ない事で被害が零で手に入れる事ができた。
肆階層の宝箱と言う事で参階層よりかは良い物が出るのか、青銅製っぽいガントレットや木製の丸盾の様な防具が手に入った。
装備するのは太志に鑑定して貰ってからだな、と拾ったものを背嚢に仕舞い込んでいく。
「ミギャァアア!」
「威嚇声めっちゃうるせぇなっ!?」
「わふぅっ!」
「きゃうきゃう!」
「……きししっ」
首から下の熊の部分で二足歩行による体格を大きく見せる両腕を上げた威嚇ポーズから、梟の顔から発せられた威嚇の咆哮にげんなりする。
何故ダンジョンに出てくるモンスターとしてオウルベアだなんて合体事故めいたモンスターが生じたんだか。
タンク役であるルーナが前に出て『威嚇咆哮』により抱き着こうとしたオウルべアに瞬間のスタンを取り、リーナの『鼓舞』によって身体能力を強化されたニーナが紅いシミターを遊ばせその首を泣き別れにした。
……あー、TRPGのダンジョンズ&ドラゴンズに居たなオウルベア、抱き着いて嘴で襲ってくるんだっけ。
ルーナに抱き着こうとした姿を見て一文を思い出して元ネタに合点がいった。
ドロップアイテムは恐らく熊の生き胆だろうか、色んな意味でレアなアイテムだな……。
ちゃんと胆嚢も付いてるあたり非常に生々しい、背嚢に入れられないので『収納袋』に仕舞う。
『収納袋』には1番2番3番にリーナ、ルーナ、ニーナのカードが、4番に『ハイグレートスレイヴゴブリン』のカード枠、5番に『蛮鬼剣』、6番に赤POT、飛んで10番が推定天邪鬼のお姉さんが住んでいるので、自由枠の7~9の3スロットしか空きが無い状態だ。
今はゲーミング☆眼鏡と生き胆で埋まったので、残り一枠しか入らないな、割とカツカツだ。
「荘に戻ったら熊鍋にでもするか」
「良いっすね! お肉のドロップアイテム持って帰らなきゃっすね」
「待って、今の肝何処に行ったの?」
「あれ、言ってなかったっけ。10スロット空いてる空間収納できるインベントリのスキルを持ってるって」
「つまりマジックバックのスキル? ……はぁ、しれっととんでもないレアスキル持ってるわね。スキル宝珠で手に入れたの?」
「あー……、学園七不思議のショップに出くわして、カードと交換した」
再び沈黙した宮子は直ぐに首を振って正気に返った様だった。
まるで、こいつには常識が通用しないんだから早く受け入れないと、と言う感じの様子である、誠に遺憾。
「今の所五ヵ所はカードで埋まって、『蛮鬼剣』と回復ポーションで7枠、フリーは3枠だな。さっきのマジックアイテムっぽい眼鏡と生き胆で2枠埋まったから残り1枠だな」
「……オウルベアのお肉を入れましょうか」
「保冷バックとか持ってくる事考えた方が良いかもなぁ」
「本来なら手強さに撤退を考える様なモンスターなんだけどね……。そうね、私も未確認のクラスになってるんだから覚悟を決めるべきよね……」
「あ、因みにうちのクラスに俺よかやばいの居るんで慣れた方が良いですよ今のうちに」
「……そっかぁ」
そして宮子は考える事を止めた、と言う感じでスンっとハイライトをオフにして、後ろから抱き着いて額をぐりぐりと押し付けて来たのでされるがままに受け止める。
いや、うん、筆頭問題児な叶馬君であるが、その取り巻きと思われる誠一君たちもやべぇ感じするんだよなぁ。
学年最強格として認定して良いパーティだろうな、チームアンタッチャブル。
「にしても……見つからないなゲート」
「既知外領域は広いらしいっすからねぇ」
「一度入ると道順を覚えてないと迷子確定だなんて言われているしね。だからこそマッピングデータのある既知領域が人気なのよ」
度々ブラックドックの群れに出会し、動かないエントと歩きが遅いオウルベアは次点のエンカウントで、戦闘能力が乏しいからかマタンゴは食われてるのか稀に出会う感じだった。
幸い『文官』が3人も居るので、道を辿って戻る事も容易なので最悪を想定しなくて良いのは楽だな。
ピクニック気分で鎧袖一触に道を進み、生素材をゴブリンたちの餌にしつつ、たまにエントの果実を食べて先へ向かう。
ブラックドックを倒した母数が多い事もあり『スレイヴドック』が4枚、ノーマルが8枚。
オウルベアやエントにマタンゴは『隷属者』の資質が無いのか、エンカウントも低かったのでノーマルが2、3枚手に入るくらいだった。
まぁ、戦力的にも素早い『ブラックドック』のカードが多い方が良いか、手持ち無沙汰で『ハイグレートスレイヴドック』に合成しつつ、番犬がてら『隷属具象化』する。
牛サイズの毛並みの良い黒犬が現れ、此方に振り向いた瞬間に腹を見せて降伏したあたり、格付けは野生の判定の様だった。
真奈美や一二三姉妹にお腹をわしゃわしゃされてきゅぅんきゅぅん鳴いてるあたり、媚びる相手をちゃんと理解しているらしい。
……と言うか俺の匂いか、彼女らの下腹部あたりからするんだろうな多分。
『ハイグレートスレイヴドック』を斥候役のゴブリンに引き渡すと、搭乗せずに猟師と猟犬めいた感じになったのはクラスの関係だろうか。
第二段階でゴブリンライダーとかになるとユニット化するんだろうか、その場合は合成が必要なのか、はたまたクラスチェンジ時に融合する形なのだろうか。
もしくは『文官』宜しくゴブリンライダーにカードを手渡して召喚させる形になるのだろうか、疑問が尽きない。
後で検証を手帳にメモらないとなぁ、と思いつつ、アンブッシュ可能なら吠えずに主人に伝え、出会したら『咆哮』により相手の戦意を即座に挫く動きは猟犬として非常に有能だった。
「……もしかして上限突破したモンスターは知能も上がるのか。ステータスの高かった『スレイヴゴブリン』もある程度受け答えする知能があったし」
明らかに先程倒した『ブラックドック』の群れに居た個体よりも機敏かつ頭を使って動いている様に見える。
……ゴブリンの頭身が1凸ごとに増えてる事から、一般的な体格である八等身になると知能も人間並になったりするんだろうか。
そうなると4凸が最大か、はたまた折り返しなのか。
……今から楽しみになって来たぜ。
「そう言えば、倶楽部の名前って決めてるんすか?」
「ん?」
「いやほら、太志くんの知り合いが倶楽部に入ってくれるって言ってたじゃないっすか。そしたら、ご主人様、私、満子ちゃん、一二三姉妹に宮子先輩。そして太志くん、錫花ちゃん、知り合いの人で10人っすよね」
「あー……そうだな、将来的にカードショップと邪教の館組み込んだ倶楽部にするつもりだから、『
「モーキンとかモンキンって呼ばれそうね」
「または『
「赤サブって略されそうね」
モンスターカード合成の邪教の館要素がアングラだから、地下に潜ると言う意味でも『鮮血望鏡』で良いかもしれない。
『魔物王国』も分かりやすいが、ハーレム自慢してるみたいでちょっと恥ずいしな。
羅城門が閉門したら太志たちと相談してみるか。
補修レイドは……
-
オリジナルレイド
-
轟天石榴山