その後結局ゲートは見つからず、リーナたちの連携を見ながら後ろを歩いてアイテムを拾うだけだった。
上位ランクの奴がブロンズ帯に居る様な心地であり、新入りのニーナにあれこれと世話を焼く姿に成長を感じていた。
……にしては強過ぎる気がするけどな。
あのヴォーバルバニーの娘であるからと言ってレベル1で格上の筈のブラックドックを仕留められるものか?
リーナたちモンスター娘は合成の対象外の様で、ユニークレアの立ち位置に居るっぽいな、天邪鬼のお姉さんらしき誰かに頭をしばかれたが。
最初から上限突破された状態で召喚されている様に思えたが、突き抜けた強さではない事からゴブリンたちと同じく2凸くらいの性能をしている様に見える。
……もしや、未だ確立してないスキルがバッググラウンドで動いていたりするんだろうか。
「ご主人様、お肉良い感じっすよ」
「……あぁ、ありがとう。真奈美も食え食え」
「わぁいっす!」
結局星眼鏡をポケットにしまい、オウルベアの右腕と左腕を5スタックして帰って来た。
男子なのに入り浸っている俺により生じたであろう不都合な部分の埋め合わせとして、全て海燕荘の食堂に提供した訳だ。
実家住まいの様なラフな格好をしたい人には迷惑極まりない存在だった事だろう。
しっかりと肩まで残って部位ドロップしてくれたので、美味い部位らしいロースを使った熊鍋にして貰った。
と、言う事で今夜の夕飯として、希望者には豪華な熊鍋が振るわれている訳だ、ありがとうの声が聞こえてくるのは良いものだな。
余った残りは冷凍して小鉢とかで出してくれるらしく良いなぁと羨んだ。
「いや、普通にご主人君も朝ごはん此処で食べて良いわよ? 何なら大浴場も使って良いし。海燕荘の名誉ソロニティにさっき付けで昇格してるわよ」
「へ?」
宮子に促され目線をやれば、若々しい食堂のお姉様方がソロニティの木板がある場所に『名誉ソロニティ 竜胆』と言う木板を掛けていた。
視線に気付いたのか、未亡人めいた大人の色気の籠った投げキッスを向けてくれたので、丁寧に受け取り意味深に頷いておいた。
大人の色気か、前世の風俗振りだなぁとか思ってたら満子につみれを口に突っ込まれた、アツゥイ。
成る程、卒業した後に教師ではなく、こう言うインフラに就職する人も居る訳か。
明らかに『娼婦』や『花魁』っぽい肉体強度してるもんなぁ、現役ソロニティが負けた後に出張ってくる感じな訳か。
「ある程度は寮長の私が決められるけど、一番長く居るのは食堂のお姉様方だから味方に付けると良い事あるわよ。こんな風に」
「美味そうな部位入ったら提供した方が良さげだな」
「……ご主人様の事だから分かってて言ってるっすよね」
「んな事言われてもな、今から一人選べって?」
「……割とマジで死人が出るわよ。と言うか竜胆くんのハーレムは今に始まった話じゃないでしょ」
「おかしいな、つい先日の出来事だと思ったんだが」
「……本当は誰もが一番を狙ってるけど、1人で50連戦しろってなったら話が変わってくるのよ。腹上死しちゃうわよ、もしくは子宮破裂とかでね」
いや、俺そこまで性欲強く無いんだが?
今ならピロートークできるくらいに加減できるが?
と言うか、普通に求められた回数で済ませるが?
何でそんな性欲魔人みたいな扱いされなきゃならんのか、頭常夏性乱島ってか。
「……ふーん、俺そんな風に見られてたのか」
え、違うの、と言う訝しげな視線があちこちから、と言うか海燕荘に住んでる人からも来てるんだが、誠に遺憾である。
そうか……、マジでそう言う風に見られていたのか、場のノリとかではなく、やべー性欲の奴であると。
普通にショックだ、そこらの奴らならまだしもパーティメンバーで裸の付き合いをした仲だってのに。
……そうか、俺はそこらの男子と同じ様な軽薄なヤリチン野郎と見られていたのか。
黙々と熊鍋を食べ始めた俺に、同じ机についていた真奈美たちがやらかした様な表情を浮かべていた。
「ご馳走様でした」
「あ、あの、ご主人様……? なんか首輪からぞわぞわする様な、ピリピリするのを感じるんすけど。お、怒ってます?」
「ははは、俺をキレさせたら大したモンだよ」
「……やっばいわね、何がきっかけだったのかしら」
「あー……もしかして」
「もしかしなくても」
「もしかしますね……」
「貴女たちは……、はぁ。愛しの彼に処女貰って浮かれたままみたいだけど、ご主人君は私たちの要望に応えて抱いてくれてたのよ? なのにご主人君に責任転嫁したらそりゃ怒るわよ、ねぇ?」
この中で一番感情の重い宮子が何か言ってるな、さっき同じ反応してたの忘れてないからな。
ふむ、確かに爛れた性活に浸かっていたのは事実だ、俺も男だからな求められたらそりゃ抱くさ。
だがな、18連戦足して24連戦した日はガチできつかったんだぞ、耐えたぞ俺は。
沸々と怒りが煮えてきたが、鼻から息を吸って長く吐き鎮火する。
……なんで俺が我慢せにゃならんのだ、奥底からどす黒い感情が込み上げてくる様な心地だった。
「お望みならそうしようか?」
戸惑いに揺れる真奈美たちを凍らせる様な随分と低い声が出ていた。
内側で貯めておく筈の言葉がするりと口から出て、自分の口である筈なのに誰かに乗っ取られた様に舌先が動く。
鎮火した筈の怒りが灰の中から生まれ出で、誰かが火かき棒で感情を掻き出したのだと気付けやしなかった。
だから、本来口にするつもりのなかった言葉を勝手に口走っていた事に疑問が浮かばなかった。
何故ならそれは、心の奥底に仕舞い込んだ本音だったからだ、怒りの上昇気流に乗って浮いた言の葉が口から出て行った。
吐き出そうとしたんじゃない、誰かに背を突き飛ばされた様に口にしていた。
「性欲が尽きるまで抱き続けてやろうか? 姫に接する様に甘く、奴隷を虐げる様に辛く。気絶出来ない塩梅で飛ばしてくださいと懇願させる様な、お前らの願いを叶える存在になってやろうか? 邪魔するモノを引き千切り、抵抗するモノを惨殺し、惨たらしく凄惨に踏み躙り、平伏した女を抱けば良いのか? それがお前らの望みか?」
カタカタと震えながら涙目を浮かべ始めた女性陣に問い掛ければ、あまりの恐怖により失禁者が出る始末だった。
畏怖を持って崇めるべき貴様らが我に恐怖を抱くか、ハッ、実に矮小な事だ。
これだから人間は面倒くさい、黙った贄の方がよっぽど楽で良い。
小癪な小娘に邪魔をされかような怪物にさせられたと言うのに、何故そうまでして矮小な人間に与するのか。
いっそ、喰ろうてしまおうか、何もかも怪物らしく。
失望を孕んだ瞳で睥睨した我を、睨み付ける瞳があった。
烏の濡れ羽色の黒髪を怒りで振り乱した零落した神格の残滓の小娘が我を見て嘲笑い、姿を消し――。
――小さな掌で頭を斜め45度で叩かれた、気がした。
呑まれるな、と強い意志で叱られた様な気がした。
そして、何処か遠くから力強い舌打ちが聞こえた様な……?
「……ん?」
正気に返り、違和感の先を見れば『形態変化』を使ってないのに関わらず、右手が竜の手の様になっていた。
鋭い爪に生え並ぶ竜鱗があり、生贄を喰らう怪物めいた禍々しさを感じる。
その悍ましさ、そして先程までの人間性が欠如された思考に呑み込まれていたのだと、後から至る苦味の様な感覚に怖気を抱いた。
机の下での出来事だった事が幸いし、先の発言により顔に視線が向いていた事で気付かれてはいない。
これ幸いと即座に人間の手へ戻し、自身が人であると噛み締める。
「……悪い、多分だがクラスに思考が引っ張られた。確かに青藍島のハメドリ君みてぇな扱いされてイラっと来たが、此処までキレる様な内容ではあるがそこまでじゃない」
「なんて?」
「あぁ、うん、ご主人様自身も大分混乱してるってのはよぉく分かったっす」
温度差で風邪ひきそうだなんておちゃらけた口調で明るく努めてくれたお陰で、冷たい雰囲気は元に戻っていった。
様子を窺っていた食堂のお姉様方が、そう言うのあるあるだしね、と、久々だったわー、と明るく振る舞い、粗相してしまった一二三姉妹の後始末をして貰っている事に申し訳無さを感じる。
手伝おうとすると額に指を当て、めっ、されてしまったので、大人しくしていた。
……久々だった?
床をモップ掛けしてくれているお姉様の溢していた言葉に疑問を感じた。
「あの、クラスに自我を持ってかれる人を見た事があるんですか?」
「ん? あぁ、あるよー。何なら、君の先代だね。ほら木板もさ、名誉ソロニティと君の名前で2枚使ってるんだよ」
見てみれば確かに木板の間に溝が薄ら見え、2枚の木板だった事が分かった。
「因みに、どんな人でしたか?」
「……二代前の『勇者』くんだよ。正義感が強い子でね、2チャンネルで流行ったやる夫ってキャラ居るでしょう? その言動で『勇者』に成り切りしてたのよ。……まぁ、それがロールプレイじゃなくて、『勇者』のクラスに呑まれてたって知ったのは最期の方だったけどね」
太志の兄ことグロンギな2代前『勇者』が海燕荘の先代名誉ソロニティだった、と言う情報は朗報だった。
しかし、言葉の節々から感じる不穏な物言いが、その凄惨な末路を予感させていた。
手慣れた様子でモップの先を専用のバケツに入れて、足でレバーを踏んで絞りながら憂いを見せるお姉様の続きを待った。
「八千夫くんには食材を運搬している時、在校生に目を付けられた所を助けて貰ったのよ。……形から入る人だったのか、ドラクエのロトシリーズを装備してたからダンジョンに向かう時だったのかな。……八千夫は『勇者』だから困った人を助けるのは当然だお、だなんて奇抜な口調だったから笑いを隠すの大変だったわ。まぁ、そのお陰で、襲われた恐怖で震えてると思われて付き添ってくれたのが馴れ初めね」
「……馴れ初め?」
「ふふ、海燕荘の由来知ってる? 海で若い燕を囲うお姉様が住まう荘だからよ。勿論しっぽり頂いたわ、激ったわねぇ、ユニーククラスの子だと知ってからはしょっちゅう粉掛けたわ」
名前の爽やかさからは感じられない肉欲的な由来に一同困惑しつつ、聞き耳立てていた他の寮員も、そうだったの、と驚いているご様子。
「その縁で孤立してた彼は此処を第二の家と呼んでくれる様になった訳。此処へ縛るために名誉ソロニティの木板を作ったの。中々達筆でしょ?」
「確かに、他のと違って気合い入ってる様な……」
「当時のパッションを込めたからね、当然よ。……でも、そんな生活も三年と続かなかった。『闘技場』で復活を待つ魔神の噂、知ってるかしら。あの日、魔神の封印が緩み、彼の全霊を掛けた封印によって学園は救われたと誰が知ってるのでしょうね」
「七不思議の1つですね。まさか本当に居たんですか?」
「居るわよ、彼の言葉を信じてるから。……その時よ、泣いて止めた私を気絶させてでも『勇者』を遂行しようとした彼は、……彼じゃなかったって気付いたのは」
バケツとモップを他のお姉様方に任せて、瞑目してから深い、それはもう深い溜息を吐いた。
「『聖堂』には色んな噂があるけど、その中でも有力なのが龍脈に繋がっている、って噂。『聖堂』は祭壇で適性判断を行い、龍脈のエネルギーを使って人を作り替える。力を持った人は龍脈に溶けて、新たな持ち主の力になる。だからこそ、希少性の高いユニークなクラスには、歴代の力が、似たり寄ったりな気質が、受け継がれていく。……だなんて一説があるの」
「八千夫さんはその兆候があった、と」
「……うん。前に好きだって言ってた物が数日で嫌いになってたり、唐揚げにマヨネーズを付けるのが好きだって言ってたのにレモン掛けてたり、広島風お好み焼きに突然キレてたり、今思えば『勇者』の副作用は色々あったわ」
「嘘でしょ、そこまで人格変わる事あります?」
「まぁ、流石に個人差があると思うわよ。でも、彼は感受性豊かだったからどっぷり染まってたんだと思うわ」
言外に、俺もそうだ、と言われている事に気付いた。
『怪物王』に眠る大いなる意志、矮小な人間である俺が振り回された様に、いずれ乗っ取られる、と。
波瀾万丈が過ぎる未来予想図に頭抱えていると、誰も居ない筈の机側から抱き締められた感覚があった。
――そんな未来にはならない、と鈴の様な綺麗な声で囁かれた気がした。
そして、ポカンと唖然としていた俺の唇に口付ける感触を感じ――。
ごっそりと経験値を持ってかれた感覚があった、体感的に10レベル分くらい、分捕り方がストロングっすね姐さん。
――気力が吸い取られ、先程まで感じていた温もりが感じられなくなった。
「うわぁっ!? だ、大丈夫っすかご主人様!? 顔が真っ青通り越して色白っすよ!?」
「え、もしかして怖がらせ過ぎちゃった? ごめんなさいね、でも貴方は大丈夫だと思うわ。さっき自分で正気に返ったって事は呑み込まれない資質があると思うの。忘れないで、貴方が貴方である事を。……名誉ソロニティの看板が伊達じゃないって知らしめてね」
いやあの、なんか良い話したわって感じだけど何の解決にもなって無いんだが、せめて横たわらせてくれ死んでしまいます。
と言うか今さっきので完全に理解した、俺の『怪物王』が押さえ込まれてるの天邪鬼のお姉さんの尽力だなこれ。
学園の外に居て弱体化なりしてる天邪鬼のお姉さんが、成長して増長する『怪物王』を封じ込めるべく、俺の経験値を積立貯金する様に持って行ってたのか。
弱った天邪鬼のお姉さんと成長した俺とのシーソーゲームで均衡していたから、最近度々意識が呑まれてた訳だ。
んで、今ごっそりと俺の力を削り取って天邪鬼のお姉さんが強化されたから、辛うじて感じていた希薄な感覚も無くなった訳か、寂しくて泣きそう。
……今日はもう疲れたな、自室で静かに療養しよう、そうしよう。
まぁ、極度の貧血みたいな気分で視界がぐわんぐわんしてるんでまともに歩けないんですけどね、うぐぅ。
『隷属首輪』越しにもたれかかった真奈美へ、話とは無関係の要因でくたばってる事をなんとか伝えて、宿直室に救急されるのだった、ばたんきゅー。
補修レイドは……
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オリジナルレイド
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轟天石榴山