入学から一週間の間は特別実習期間となっており、全てのクラスが登録されるまで羅城門は閉ざされていた。
俺はその間に力加減の練習をこっそりと授業中に練習しつつ、例のシリアルキラー君の鋭い視線を後頭部に喰らいながら日々を過ごしていた。
この学園はダンジョン探索が主軸に置かれているため基本的に午前授業であり、一日毎に通常授業と冒険者講習めいた選択必修の授業を受ける事になっている。
教室の至る所から栗の花と甘酸っぱい匂いを感じるのはクラスチェンジの弊害か、肉欲の鎌首がもたげるのを抑え込むのが大変だった。
やけに鼻が利くのは、視力が格段に上がっているのは、全て聖堂さんのお陰だった……?
成る程、クラスチェンジと言う名の上位職への上限突破的な奴なんだなと勝手に納得しておく事にする。
「漸くダンジョンが解放されましたなぁ。では、先ずは装備を整えましょうぞ。十万銭ポンとくれたでござるからな」
「オーケィ。つっても碌なの無い気がするのは俺だけか?」
種無し猿にはゴムは要らないよね、と購買その他からコンドームを消し去る邪悪な学園だ、手先たる購買部もフレンドリーである筈が無い。
「コンドームスカートの良さを知らないと見える」
「……まぁ、この学園は陽キャの巣窟みたいな所ありますからな。芸術的な情緒と言う物を知らぬのでしょう」
「ハメドリ君放ったらイキイキしそうな学園だよなぁ」
「酷い偏見ですな、同意するハメ」
ディープなオタク同士の会話って何でこう楽しいんだろうな。
道中そんなくだらない事を雑談しながら購買部に辿り付き、様式美として店員さんにコッペパンを要求したら食堂に行けと言われた、解せぬ。
携帯食などは売っているが普通の食事は食堂の方の売店で販売しているとの事で、あくまで此処は雑貨屋としての購買部なのらしい。
……なーんでイチオシ商品にアダルトグッズが販売されてるんですかね、風俗街近くのドン・キかよ此処。
新入生応援セットと言う初心者装備が武器違いで4セット売られていたが、買うべきかと値段を見れば九万銭。
ダンジョンに行かせて元を取り返せと言外に言ってらっしゃるな、小賢しい。
まぁ、何とかなるか、と流行りに乗る様にハンドアックスの付いてるセットを購入した。
太志も此方の意図を理解したのか、非常に嫌そうな顔をしながらスタンダードなショートソードのセットを買った。
そりゃ、THE新入生な俺らが生還組の実力発揮して身一つでダンジョン行ったら外見で浮くっての。
なので陰の実力者的なムーヴを強いられてる訳だ。
「まぁ、その分稼げば良いさ」
購買前ですれ違ったシリアルキラー君パーティーから目逸らして、そそくさと羅城門のある方へと向かう。
……不躾な見定めをしてる先輩方が多いなぁ、暇なのかな。
THE不良って感じの雰囲気で舌舐めずりしてたらそれはもう目立つ事極まりない。
ダンジョンの中のゴブリンと頭身が違うだけだな、放っておこう。
――穿界迷宮『YGGDRASILL』、接続枝界『黄泉比良坂』――
――第『弍』階層、『既知外』領域――
羅城門への入場の際に複数の転移候補がある場合、中央に近い奴のリスポン地点に送られるらしい。
まぁ確定かどうかは知らないが、恐らくきっとメイビーな当てずっぽうだが。
「おほぉー、玄室の中に居る、って感じですな」
「だな。此処でグラマラスな色気したトランジスタ牝ゴブリンとイチャラブックスしてたら時間切れになってた」
「思い出の場所と言う事ですな、スチル回収は大丈夫そうですかな?」
「タブンネ。具象化してみるか、これ」
懐に丁寧に仕舞い込んでいた一枚のカードを人差し指と中指で親指に挟んでドロー。
ドロー、ペルソナカード、オレサマオマエマルカジリ。
引き抜いただけでは使えないらしい、『隷属具象化』と言うスキルを自ら使わないといけないのか不便な。
モンスターカードを握り締める様にして手中にあると自己暗示し、脳裏に浮かんだ言葉を口にした。
「――来たれ、我が下僕よ」
硬い感触が砕け解け、圧縮していたデータを解凍する様に俺を経由して肉体を取り戻す。
細い首に取り付けられた隷属を示す鋼鉄の首輪から伸びた鎖の先を握り締めており、カードに描かれた似姿のまま俺の前に具象化を果たした。
挑発的な前屈みの牝餓姫ポーズで現れたハーフゴブリンプリンセスは、ニヤリと艶かしい色気の孕んだ笑みを浮かべた。
「きゃう」
「……は、犯罪くせぇ」
「首輪に鎖とは趣がありますな? そう言った御趣味で?」
「いや、そう言うのが無いと言えば嘘になるけども、言い訳するなら蛮族の王みたいな立ち位置だからじゃね『怪物王』」
「ははぁ、生捕りにして男は殺して女は辱める的な。あんまり理性的な王とは言えませんな」
「第二段階だしな、第三、第四と成長したら立派になるさ、多分」
「御立派ァっ! と言う事ですな」
ゴブリンプリンセス、なげぇなゴブプリは昨日のトランジスタな牝ゴブリンよりもゴブリン感が薄れており、ブルーフォレスト物語に出てくる混血のゴブリナに近しい感じだった。
ゴブリンの肌色と耳をした幼女と称するべきか、……本当に牝ゴブリンかこいつ?
特徴的な鷲鼻も朧げに名残だけ残して、人間に近い見た目になっているのはどう言う事だ。
此方をじっと見つめる視線には幼女らしからぬ知性の色が見える、産まれながらにして既に成体であると主張している様に。
モンスターを学ぶ授業とかを受講したら理解が深まりそうだが、一から全てを教える手間が無くなったと喜ぶべきか。
手に持っていた鎖を離すとするすると短くなり、胸元の前で揺れる悪趣味なアクセサリーと化した。
良かった、ずっと掴んで戦闘はし辛いからな。
「因みに、戦えるのか?」
「きゃぁー? きゃぅぅ」
「……無理そうだな」
はぁー? 後衛職なんですけどぉ、みたいなニュアンスの答えが返ってきたので天を仰いだ。
つまりなんだ、今から俺は一人で前衛を張らないと行けないわけか。
早く来てー、黄金の鉄の塊で出来た騎士様早く来てー。
「意思疎通が可能なのですかな?」
「何となくだけどな、多分あってる。よな?」
「きゃう」
「成る程、話の内容は聞き取れているようで助かりますな」
「だな、ぼちぼち行くか」
まだ10分程度の時間経過であるが間違ってFOEを呼ばれたら流石にきつい。
入り口何処だっけかな、と壁に手を当ててマリオ64のステージみたく隠し通路になっている場所を探して外に出る。
見つけた入り口からにゅっと顔だけ出して辺りを見回す。
目の前に此方を見て驚愕している二匹のゴブリンが居るんだが、あぁ、今の俺首から先だけ出てる様に見えてるのかそりゃ驚くわ。
だがまぁ、敵の目の前でそんな顔して良いのかよ、戯け。
腰にマウントしていたハンドアックスを握り締め、昨日握っていた粗末な小剣よりも良さげな感じに思わず笑みが浮かぶ。
「チェェすっぞこらぁーっ!」
両手で柄を握り締め、頭上高く持ち上げた凶刃を手前に居たゴブリンの首へと袈裟に叩き付ける。
左肩から鎖骨の辺りまでザックリと突き刺さった刃の鋭さに頼もしさを感じた。
膂力の上がった一撃により致命傷に到ったゴブリンは哀れ霧散。
唖然と目の前の惨劇を見ていたゴブリンが慌てて棍棒を構えるも、トンファーならぬアックスキックをお見舞いすると壁の染みになった。
ただのヤクザキックと言うのに殺傷能力が凄まじく、胸元に靴跡が残る程に陥没させた一撃に自分の事ながらドン引きした。
えぇ、人が出せる威力かよこれ。
まるで仮面ライダーみたいなキック力だ、いつの間に俺はショッカーに拉致られ改造をされていたんだ。
「クラスチェンジやっばぁ……」
戦争とかに利用されてなくて良かったわ、こんなの無双シリーズ宜しく戦いにならねぇよ。
政府が主導でこの場所に此れを隔離してるのは正解だな。
民間だったらマジでショッカーみたいに世界征服狙う奴居ただろ。
……もしや、羅城門の入り口が鳥居みたいなのって、怨霊を鎮めるための鎮魂を目的としてる説ある?
ダークファルス的なのが封印されていて、そこから出る瘴気の転じたモンスターを狩るのが俺らだったりしない?
「つまり俺たちはフォトンの戦士、アークスだった可能性が……?」
「それは流石に我々では荷が重過ぎるのでは」
「きゃう?」
戦闘の音が聞こえていたのか、置いてけぼりにしてしまった太志たちが壁から出てきた。
手に持った小剣をしゃらりと抜いて自然に辺りを見回す姿は、戦闘が苦手と言った人物のそれではない。
来た、見た、勝ったのあの人かよお前。
対して弱肉強食の世界で生きる筈だったであろうゴブプリは、辺りを見る事なく此方に近寄りブレザーの裾をちょこんと握った、可愛いかよお前。
確かこのダンジョンはダメージ比率による分配とラストアタックの二段構えの経験値構造をしていた筈。
この非力な姫様をレベル上げるには養殖が妥当なところか。
「取り敢えず交互にラストアタック取る感じで進むか。ゴブプリ……、いや、ゴブリーナはソロの時に世話しとく」
「恐縮ですな、因みに此処は弐階層の既知外領域の様なのでダメージに期待しないでくだされ」
「……とりま四肢落とせば良いか」
「えぇ……」
「きゃぅ……」
何だそのこいつやばーみたいな扱いは、こっちは君らを守るために頑張ってるんだぞ。
……そう言えばゴブリンを殺した時に何か簒奪した感覚があったが何だったんだ。
試しに電子学生手帳で自分のステータスを見てみるがノービスのままでリアルタイムに更新されていない。
「太志、ちょいと俺のスキルを見てくれないか」
「と、言いますと?」
「『怪物王』のスキルで殺したモンスターの能力を奪い取れるんだよ。さっき何か拾った気がするから見て欲しい」
「ほぉー、それはまた……、やばいですな」
「やばいよな」
理解の及んだらしい太志がクワッと見開き、俺の本当のステータスをチラ見する。
何とも言えない表情を浮かべ、真顔でスンっとした太志の様子に首を傾げる。
「えぇーと、『悪食』と『胃酸強化』、ですな」
「……あの鶏ガラみたいなゴブリンを食べろとな」
「き、きゃぅ……」
既知外領域のゴブリンだからか、既知のスキルを持たないゴブリンよりかは強い、強いんだが……。
両方が揃ってるならまだしも片方だけでは意味が無いのでは……。
食べる所あるのかね、凄い不味そうなんだが。
「ログアウト出来なくなって食糧に困ったら使い道があるな」
「使い道は無さそうですな……」
「きゃう」
何だかなぁ、このままだとしょーもないスキルが沢山集まりそうな気がする。
まぁ、いいか、備えあれば嬉しいなって事で。
ゴブリンとエンカウントしては四肢を抉り取り、時にへし折り、千切り取っては雛鳥へ餌を与える親の如く太志にラストアタックを渡す。
最初の方は小剣がなかなか刺さらないと言う目を疑う現象が起きていたが、太志曰くレベル差で物質の強度が違うのでレベルの上のゴブリン相手だとレベルの低い太志だと威力が下がるのだとか。
「……なら、確実にレベルと言うか存在感の強い玄室の壁に叩き付けたら殺せるのでは?」
「……盲点でしたな、確かにこのダンジョン以上に存在強度の高い物はありませぬ」
小剣ぶっ刺しではなく、何処ぞの吸血鬼婦警の様な紅葉おろしめいた感じで、四肢を捥がれて死に掛けているゴブリンの頭を掴んでから壁の凹凸で磨り潰し、トドメに顔面から打ち付ける。
当然ながらレベル10くらいのゴブリンの方が打ち負け、頭蓋骨を陥没させられて霧散して経験値になった。
小剣など砥ぎ直しが必要な武器のサブウェポンとしてダンジョンの壁は最適解かもしれないな、予備を持ってろって話だが。
補修レイドは……
-
オリジナルレイド
-
轟天石榴山