安らかに眠りに付いた日の翌日、ネクタイにピンバッジが増えていたのであの後玲子も来た様だった。
この埋め合わせは放課後にすべきか、と思いつつ食堂で朝食を食べていた。
あの後貸し切りの時間に大浴場へ連れ込んだらしく、覚えは無いが髪先から足の爪先までしっかりと洗われたらしく目覚めはさっぱりとしていた。
熊肉の肩ロース特製丼を4回お代わりし、ぼんやりと今日の予定を立てる。
取り敢えず昨日出来なかった倶楽部に関しての話を全員を集めてするべきか、今後の動きの事もあるしちゃんと話し合うべき議題だ。
倶楽部の登録をしてから正式に『鮮血薔薇』に同盟を持ち掛けて学務課に提出もしておくべきだろう。
その後は時間があればダンジョンに行っておきたいな、昨日の件でごっそり経験値持ってかれたのでその補充をしなくちゃならん。
可能ならばソロで潜って経験値を独占したいところだが、昨日の今日で単独行動はよろしくないだろう。
そう言う点でも次の階層へのゲートを見つけておきたいところだ、可能なら複数欲しいな。
肆階層のフロアボスとなると、強化された犬、梟熊、樹木、茸のどれかだろうし、特にエントの強化種なら強靭な木製の武器が手に入る可能性があるので素材として手に入れておきたいところだ。
折角『巨匠』の磨具奈さんが仲間に居るのだから、巨大な武器を得物にしたいと思うのは当然の事だろう。
作って欲しいのはツルハシだった、頑強な木柄に鈍重で重厚なピックの付いた決戦仕様なのが欲しい。
……無いと思うが、強靭削り的な効果があったら良いなとは思うのは、フロムリスペクトだ。
その時には重量を変更できる『蛮鬼剣』も素材として提出したいところだな。
能力を持つ銘器を素材にモンスターカードを混ぜて固有武装を作れたりしないんだろうか、と画策している訳だ。
普通に凄い武器を作ってモンスターカードをエンチャントするよりも、最初から組み込んでしまった方が成功率は上がると思うのはゲーム脳だろうか。
何なら能力を付けたインゴットを複数使って作った方が効率良いんじゃなかろうか、聞く話によればトンテンカンと言うよりもぐにゃっとして成形って感じらしいし。
「あー……、駄目そうっすね。頭の中をダンジョンの事でいっぱいにしてる顔っすよ」
「それでもちゃんとご飯粒残さずに食べているあたり偉いわね、行儀は悪いけど」
「私たちと同じで孤児院育ちって話だし、そういう教育方向だったんでしょうね」
「つんつん」
「えいえい」
「怒った?」
先日の一件を反省し、ダンジョンやエロい事以外の事もお喋りしようと言う事になり、色々と話す事が増えた。
乳児の頃からネグレクトされて、両親が地元ヤクザにコロコロされて、孤児院で婆にこき使われてた、だなんて事は言わないが。
それとなく孤児院育ちだったよー程度で済ましておいたが、それで十分の様だった。
真奈美や満子は借金苦から口減らしに、一二三姉妹は双子を忌み嫌う風習のある村に産まれた事で村八分にされてしまった事で紆余曲折あって孤児院に入ったのだとか、地味に重いなエピソードが。
宮子は一般の出で普通な生活をしていたそうだが本当だろうか。
普段目を閉じているのは一年生の頃に、眼に射精されて苦しむ姿を笑い者にされていたからその時のトラウマで、との事だったので次に出会うエンジョイ勢の先輩方は楽に殺さない事を決心した。
四肢を引き千切ってから脊髄を引き抜いて尻穴にぶっ刺した写真を撮ってBBSに流してやろうと思ったが、肆階層の既知外領域でエンジョイ勢と出会う事が無いなと内心舌打ちした、と言うか引っこ抜いた時に死んで霧散するか。
「太志、人間を死なせずに残酷に殺す方法、出して」
「わ、分かんないっ、でござる……。朝っぱらから随分と殺伐してますな」
「ちょっと思い出しちゃってな」
真奈美たちと別れて教室の自席に座ると湿布の匂いのする太志が待っていたので、モーニングトークに勤しむ。
何でも倶楽部棟で野生のなまはげが出て1つの倶楽部が物理的に破壊され、供物として2名の女子が生贄に捧げられたとかなんとか。
ちらりと後ろを見やれば誠一君に呆れられている叶馬君の姿があったので、多分そう言う事なのだろう。
「倶楽部の件だが、名前の候補とかあったりする?」
「うーむ、因みに竜胆殿は?」
「鮮血の潜望鏡と書いてレッドサブマリンとかどうかと思うんだが」
「元ネタはイエローサブマリンですな? 鮮血のせんと潜望鏡のせんを組み合わせる形と見ましたぞ。……『鮮血薔薇』との関係も示唆できるので良いと思いますぞ」
「んじゃ、放課後に集まってその方向で話し合うか。んで、学務課に倶楽部登録と同盟の登録もしに行こう」
「リーダーですし、そのまま決定しても良いと思うでござるが」
「あ、そうだ。お前のグロンギでロトの『勇者』な兄の話なんだが」
「待つでござる、なんつー悪魔合体してるでござるか。と言うか兄の情報を掴んだのですかな?!」
「海燕荘の先代ソロニティでユニークレアな『勇者』だったらしくて『闘技場』の魔神と相打ちにあったらしいぞ」
「簡潔ぅっ!? 助かるけど助からないでござるよ!? せめて生存報告が欲しかった……っ!」
取り敢えず情報量で押し潰して悲壮感を減らしてみたが、ううむ、茶化し過ぎたか。
八千夫さんの事は海燕荘の御姉様方に話しを聞けばある程度情報が手に入る事を伝えると、何とも言えない表情を浮かべてうーむ顔で唸ってしまった。
「そもそもの話、うちの兄の名は八千夫では無いでござる。細志と言う名でござるし、何がどうなったらそう繋がるでござるか」
「宮子が二代前の『勇者』やる夫がグロンギ語使ってたって言ってたからなんだが」
「うちの兄は、キマリは通さないアルベド語使いでござる」
「……つまり?」
「『勇者』パーティに居た可能性はありますな。恐らく同好の士としてその八千夫殿と組んでいた可能性は高いですぞ。兄はどちらかと言うとやらない夫の方でござるよ」
なんてこった、グロンギ語の印象が強過ぎて勘違いしていたな。
と言うか、もっと太志から兄である細志さんの事を聞いておくべきだったな。
細志さんの見た目はやらない夫であり、眼鏡を掛けた中二病患者で魔法使いを目指しているタイプだそうだった。
太志がオタク趣味に走ったのは全て細志さんの遺産と言える品々のせいであり、暗黒魔術系がお気に入りなんだそうな。
「……まぁ、芽が潰えた訳じゃないから良いか」
「そうですな。その八千夫殿からも探せる様になったので進捗は良い方向に進みましたぞ、感謝するでござる」
「無事な姿で見つかれば良いんだけどな」
「……そうでござるな、しかし、我が兄の事ですから案外ひょっこり帰ってくるかもしれませぬ」
少ししんみりとした雰囲気をしてから、笑顔を作った太志に頷いておく。
さて、金曜日だから非一般授業の日か、今日は何が聞ける事やら、と教科書を準備し始めた。
座学多めの授業が終わり放課後、太志が錫花さんと磨具奈さんに砥蘭さんを回収し、真奈美たちを俺が回収して海燕荘の食堂の一角をお借りして今後の展開を話し合う事にした。
「と、言う事でうちの倶楽部は『
「賛成ですぞ」
「じゃ、賛成、する」
「良いと思うよ」
「おっけーっす」
「良いわね」
「賛成です、と一美は思います」
「二美もそう思います」
「三美も同じくです」
「賛成、じゃあ決まりね」
磨具奈さんだけ黙っていたが、表向きは『火具土』の部長なので、この倶楽部の一員じゃないからだろうか。
けどまぁ、頷いているので問題は無さそうだ。
学務課から貰って来た倶楽部設立用紙に十人分の名前を書き連ね、後程提出する事にする。
「続いて、『鮮血望鏡』との同盟を『火具土』と『鮮血薔薇』にお願いしたいんだけど大丈夫ですか?」
「あぁ、良いぜ。何なら解散して合流しても良いが、砥蘭のホモ癖のせいで面倒になるから同盟で済ませんぞ」
「くふふ、酷いなぁ、これでもセーブしてる方だって言うのになぁ」
「おほほ、委細承知ですわぁ! 『鮮血薔薇』の18名は本日よりオーナー様の指揮下に入りますわ。末長いお付き合いの程をお願いいたしますわね?」
続いて同盟を周知するための用紙に記入したので、倶楽部を受理されてから提出すれば締結だ。
玲子以外の『鮮血薔薇』の人たちは今もダンジョンの弐階層を攻略中の様で、首輪に似せたチョーカーの甲斐あってか今のところ変な虫は付いて来てないらしい。
と、言うよりも養殖の時の事が鮮明に残っているらしく、有無を言わさずに殺すムーヴにより被害は出ていないのだとか。
……むしろ、エンジョイ組の男性の先輩方はスケッチブックの参考のためにゴブリンとサせるために生け捕りしているらしい。
四肢を圧し折り、赤ちゃん紐宜しくゴブリンチンポケースベルトな状態で肉盾にも役に立つらしく、その逞しさに成長を感じる今日この頃である。
来年から大丈夫かなこの学園、一年後には成長したこの子らが先輩になるんだろ。
……俺は何も見なかったし、思いつきもしなかった、そう言う事にしておこう。
「さて、今後の動きですが、カードショップを始めるためにも部室が欲しいので、倶楽部対抗戦で最低でも部室が貰えるC評価を目指します」
「あん? 別にうちの倶楽部の軒先を使って良いぞ。武器受け取って裏で直すだけだからな」
「……はい、と言う事で対抗戦は適当で」
「掌ドリルでござるか、いやまぁ、多くあっても仕方がないでござるが」
「それによぉ、砥蘭の竿共が居るから防犯もばっちりだろ。楽で良いぜ」
「くふふ、磨具奈は倶楽部に殆ど興味無いからなぁ、部長なのに実は幽霊部員だしね」
「え、そうなの? 『火具土』と言えば下級倶楽部の装備の下請けで有名なのに」
「出る杭は打たれるけど地面に埋まった杭は打てないんだよ。誰にでも良い顔しとけば勝手に秩序を守ってくれる寸法でね、上手く行ったよ本当に」
「浅く広く、下級倶楽部を対象に浸透する方向で進めていく感じで」
「意義無ーし」
『火具土』が許可を得て作った部室の軒先を借りられる事になったので、モンスターカードショップ『
玲子たちが参階層に進出すればゴブリンの在庫は大丈夫だろう、ある程度集まれば壱階層の浄化も兼ねたコボルト狩りに精を出す感じの運営になる。
初動次第では俺も参階層に出張して乱獲する日も作らないとな。
「電子学生手帳で『文官』であるかの確認を取ってから、下級生への販売を主軸に、転売対策としてオークションの方にも格安で流してそもそもの価値を暴落させる。スキルの無いN品をストレージ価格で、スキルのあるR品をジャンル別でショーケース売りだな」
「鉄格子の対面式販売所にして安全面もばっちりですわね。仮に面倒を起こすならオーナー様が出張ってくる、と」
「拉致監禁だけが面倒だから必ず複数人での移動と緊急用のクリスタルを忘れないように」
「承知しましたわ」
まだ準備段階であるがある程度構想が練れているので経営方針の擦れ違いも無いだろう。
先日のスキル効果の変容の考察に従い、『簒奪』の効果をモンスターカードへの確率を上げるものへと変更してスキル奪取能力をカード生成能力に専用化した、奪った能力をモンスターの残滓に戻してカード化確率を上げる訳だ。
『スレイヴ』付きのカードは俺自身のみに対象を限定し、『隷属者』によるカードドロップ判定を引き上げる事で調整を加えた。
これにより『隷属具象化』したモンスターでも『スレイヴ』カードは出なくなったが、カードのドロップ率は上がったので取り回しは良くなった。
『隷属者』にしたいモンスターが居れば俺自身が狩れば良いので、『収納袋』の圧迫の懸念も解決できる訳だな。
……やはりカードホルダーを買って首に掛けた方が良いだろうか、またはデッキケースをベルトに付けるか。
リーナたちは『収納袋』入りは確定だが、今後増えるであろう『スレイヴ』モンスターは持ち歩きでも良いかもしれない。
「……いや、無法が過ぎるのでは? スキルってそこまで自由でござったっけ?」
「規格外クラスだからこその荒業だねぇ。アーキタイプのクラスと違って規格外クラスは概念の固定化が済んでないから動かしやすいんだと思うよ。実際、ボクの『傾奇者』も大概なスキル改造してるしねぇ」
「キスするっていう一工程と限定した効果に狭める事で、複数の状態異常を与えるスキルとかえげつねぇもん作りやがって」
「ちゃーんと男性専用だから、効果もばっちりって訳だねぇ」
「安心できませんなぁ……、いやほんと、無法が過ぎるでござるこの界隈」
カードショップの提携により、『火具土』には収入の一部を場所代として支払う契約とし、用心棒代わりにお弟子さんたちを借りる事を締結。
『鮮血薔薇』の方には商品搬入と売り子を担当して貰い、収入の一部を給料として払う契約とし、ついでに俺の生もの本の公認をおまけに与えた。
「よ、宜しいのでしょうかオーナー様? と言うかバレてましたのね……」
「裏でこそこそするぐらいなら真正面から話に来てくれた方が俺としては好ましいな。と、言う事で先んじて公認化します。自分の本ってのもちょっと興味あるから出来上がったら一部頂戴、それを公認代にしようか」
「は、恥ずか死しますわよ!? しかし、推しの公認は涎物……、えぇい、女は度胸ですわ!」
「はい、と言う事で売り子の方宜しくね」
「イエス、マジェスティ! 一生付いて行きますわぁ!」
と、言う感じの遣り取りを経て実りのある同盟を結び、学務課に怒涛の書類ラッシュをしたのだった。
俺を見て、磨具奈さんと玲子を見て二度見三度見していた受付嬢だったが、長い息を吐いて書類を受理してくれたので漸く俺たちは倶楽部を結成し、同時に同盟を締結したのだった。
Cランクの倶楽部の部室は入れ替わりが多い事もあり、管理もそこまで重視していない様で『火具土』でのカード販売にも認可が下りた。
と言うか別に届け出は要らない様だが、管理をする学務課としては事前通告は有難い様だった。
「はい、と言う事で銭カード用の磁気売買機器のレンタルカタログは此方ですね。月々のレンタル料はこの程度で、別途取引毎に使用料が引かれる形ですね。銭収入が減ると不人気ですけども、売買時のトラブル回避には学園製機器をおすすめしています。電子学生手帳での遣り取りが主流ではありますが、学生間の金銭トラブルに発展する事が多いので」
「ありがとうございます。準備が出来次第用意しようかなと思います」
「分かりました、それではまたのご利用をお待ちしております」
銭の動きでも倶楽部の動きを見張っているのだろうか、貨幣の形をしていない銭と言う電子通貨だからこその横槍だな。
……まるでペイペイだな、とか思いつつ学務課を後にした俺たちは時間を確認し、三時間程ダンジョンに潜れそうなので向かう事に決めた。
海燕荘の食堂に居る太志たちを回収し、第肆階層へと向かうのだった。
補修レイドは……
-
オリジナルレイド
-
轟天石榴山