――穿界迷宮『YGGDRASILL』、接続枝界『黄泉比良坂』――
――第『肆』階層、『既知外』領域――
太志、錫花さん、磨具奈さん。
満子、真奈美、一二三姉妹、宮子。
俺、リーナ、ルーナ、ニーナ。
と言う感じでグループ分けし、左側に俺のグループ、右に太志グループ、その後ろに満子グループと言う陣形だ。
『ハイグレートスレイヴゴブリン』と『ハイグレートスレイヴブラックドック』の『隷属具象化』はせず、俺のレベリングと連携を高める形で今回は進んでいく。
既に13人居るので更に俺の『スレイヴ』モンスターを足すと流石に過剰だからな……、と言うか普通に狭い。
『蛮鬼剣』を肩に乗せ、ブラックドックの群れに吶喊した俺がヘイトを取り、直後に追いついたルーナの『威嚇咆哮』でスタンによる先制をする。
その後、『隠蔽工作』によって近付いた太志と磨具奈さんがアンブッシュして敵隊列を乱し、真奈美と宮子の遠距離攻撃により隙を作り、錫花さんと一二三姉妹のゴブリンが乱入する。
その隙間を擦り抜けるようにニーナが暗殺を決め、敵リーダーを斬首戦法により始末する。
数瞬だけ乱戦と化したが、此方の戦力が上回っているため大体一撃当てた程度でブラックドックは霧散し、戦闘が終わる。
実に呆気無い戦闘である、非常に戦い応えが無い、噛み終えたガムって感じだ。
「うーん、過剰戦力だなぁ」
「ですなぁ……」
「まぁ、既知外領域つっても肆階層程度だからな。こんなもんだろ」
「それもそうですね。レベルが低いグループを作って、支援する形に陣形を変えましょうか」
と、言う事で錫花さんと一二三姉妹のゴブリンを前に出し、遊撃にニーナが入り、真奈美が援護する形になった。
攻撃手段を今のところ持たない満子は、ゴブリンたちの武器を作り出す事で経験値を得る純支援に回っている。
一応万が一を考えて軽装チェインハンマーを装備して貰ってるが正直過剰防衛だな。
それ以外の俺たちは後方からのアンブッシュを防ぐ要員となり、後ろに下がった。
ぶっちゃけ、満子からチェインハンマーを受け取った俺一人で無双できてしまう様な階層だしな。
かと言ってグループ分けして二手に分かれるのは悪手だ、ダンジョンはそんな甘い場所じゃないからな。
「……漸くゲートかぁ。広い上にゲートもランダムだからマシな方か?」
「ですな、戦力的に順調なので勘違いしそうになりますが、本来なら此処死地でござるよ」
一二三姉妹の『位置』と『自動記述』により、マッピングをごり押しして行き、ゲートに辿り着く事が出来るまで一時間ぐらい掛かった。
電子学生手帳を見やれば時刻的に残り一時間程度と言ったところだった。
玄室の中を覗けば、鉛色をした非常に硬そうな巨大エントがゲートに陣取っており、そのお零れを預かったのか巨大なブラックドックが二匹屯していた。
「太志、
「あいあい、『フルメタルエント』レベル35、『シャドウブラックドック』レベル32と33ですな。能力は『木片針』、どちらも『影潜』。……厄介過ぎる能力でござるな」
「地味にシナジーばっちりじゃねぇか。と言うか、だからあの犬共がエントにしばかれてないのか」
「固定砲台と化したエントが影忍ぶブラックドックを支援する感じですかな。盾役が厳しくありませんかな」
「いや、問題無いぞ、こっちには『落書き師』の満子が居るからな」
「え? 私のじゃ盾は紙と変わらないわよ?」
「捉え方の違いだな。盾は防具じゃない。打たば鎚、振らば斧、突かば短槍、ほら立派な武器だぞ? 棒を武器と認識しないつもりか?」
「……あー、そう言う、事?」
スケッチブックにカイトシールドと呼ばれる先端が尖った盾を描き、上面、側面、先端に丸を付けながら解説していく。
あくまで満子の中では盾は防具の一種と言う認識だったが、こうして新たな概念を外部から持ってくればどうだろうか。
ワンチャン武装としてガントレットや脚部装甲もチャレンジ出来るかも知れないので良いアプローチになる筈だ。
試しに鈍重で重厚な盾を描いて貰い、受け取って振り回して見れば紙の様に破れる事は無く、叩いても頑丈のままだった。
新たな視点を得た事で見事に盾は武器判定されたのだった、やったね。
両手に重大盾を装備した俺がニヤリと笑みを浮かべ、流れを理解した磨具奈さんも盾を受け取ってニヤリと笑った。
力自慢2人によるパワータンク戦法により、前に出た俺たちを視認した『シャドウブラックドック』が警戒に入った。
真正面から吶喊して牙を剥き出した犬共に、タイミングを合わせて重厚な大盾を前方に構えて足腰に力を込めて走り出す。
すると、途中できゃぃんっと悲鳴を上げた二匹が轢かれ、左右に弾かれていった。
自身へと突撃してくる敵を迎撃すべく、『フルメタルエント』の『木片針』と言う名の尖った木片が飛んでくるが、分厚い重大盾がそう易々と貫通する訳が無く肉体強度の補正を受け取り弾く始末であった。
近付いてくる大盾に恐怖を感じたのか、幹の口から咆哮を上げた事で取り巻きの『シャドウブラックドック』たちが俺たちを狙おうと走り出したが、真奈美の『黒弾』により束縛され、太志の『偽装工作』により俺らへ向かう事を忘れさせてヘイトを奪い取った。
『影潜』により囲まれる事を脱した『シャドウブラックドック』だったが、浮上の瞬間を狙われニーナのアンブッシュにより一匹が霧散した。
首への特効のある紅いシミターが『念動浮遊』のアシストも加わり、隙だらけの首裏に突き刺さりそのまま半ばを引き裂いたのだった。
もう一匹の『シャドウブラックドック』は相棒を狩られた事に憤慨し、歯茎を剝き出して威嚇するも『ゴブリンスパルタクス』五体と『グレートゴブリンサーヴァント』三体に囲まれた事で窮地に陥る。
再び陰に潜ろうとするも、八方向からの両刃剣の突き刺しにより縫い留められ、深く突き立てられてから上に持ち上げられ、そのまま引き裂かれた事で哀れ霧散した。
「さぁ、残りはお前だけだ」
「その無駄にでけぇ幹を切り倒してやるぜぇ?」
『収納袋』に仕舞っていた『蛮鬼剣』と磨具奈さんの得物であるごっつい鉞を取り出して握り締め、両側から『フルメタルエント』の幹へと切り付けていく。
リーナの『鼓舞』と『怪力』によりレベルダウンの威力低下をカバーし、上から下へ、下から上へと切り付けて「く」の字に太い幹を削っていく。
反対側では豪快なスイングで同じ個所に叩きつけて切り倒さんとする磨具奈さんの勇猛な一撃が炸裂する。
堪らず悲鳴を上げた『フルメタルエント』が全身に突起を生じさせたのを察知し、重大盾を拾い上げて構える。
「全体攻撃予兆! 即座に防御!」
予兆の段階で声を張り上げて防御を促し、破れかぶれな『木片針』のばらまきへ警戒を発した。
まだ距離のある太志たちの方はゴブリンたちが複数人掛かりで重大盾を構え、重タンクとなったので準備を終える事ができた。
「グゥオォォォオオオッ!」
気合を入れるためか大咆哮を放った『フルメタルエント』の前身からにょっきり出た針が射出され、辺り一面が針の山と化した。
しかしながら事前の予兆警戒により防御が間に合った事で起死回生の反撃は空振った。
即座に反撃へ向かった俺たちを追い払おうと太い枝の腕を振り回して来たが、先んじて懐に入る事で可動域に制限された一撃を回避した。
「新技行くっすよぉ!
「大盤振る舞いよ! 『大紅蓮狐尾』!」
漸く射程内に入り、地面を杖で突いた真奈美が放った『黒鎖』により、地面から飛び出した黒い鎖が枝の腕を縛り付け、そのまま地面に引っ張り込み縫い付けた。
狐耳と狐の尻尾を露わにした宮子が跳躍して空中で前回転すると一尾が燃え盛り、そのまま肥大化して炎の鞭と化し、叩きつけた『フルメタルエント』を大炎上状態に陥らせた。
呪術の火であるからか、はたまた五行による金への火の一撃だからか、枝葉へと燃え移った炎により『フルメタルエント』の絶叫が玄室に響いた。
「今よっ! 楔を打ちなさい!」
「あらほら」
「さっさー」
「どっかーん」
「さぁ、終わり、だよ」
満子の描いた先端が平金のでかい楔を握った『ゴブリンサーヴァント』が走り、俺と磨具奈さんが切り込んだ側面に先んじて固定のために打ち込み、後から大型ハンマーを担いだ『ゴブリンスパルタクス』がその楔を押し込まんと渾身の力で叩き込んだ。
ビーバーなら即座に逃げそうなめきめきと言う破裂音が聞こえ、磨具奈さんに目配せすると得物を構えた。
そして『怪力』を再び発動し、俺と磨具奈さんは気合を込めて全力で獲物を振るった。
「チェェっすぉぞおおッ!」
「どりゃぁああぁあッ!」
同じタイミングで左右から放たれた一撃が『フルメタルエント』の亀裂に止めを刺し、伐採された事で断末魔を上げて霧散していった。
ふむ、さてリザルトは、と辺りを見回すとエント種の通常ドロップの木片が大きな流木サイズで鎮座していた。
手の甲で叩いて見れば見た目の通り鋼鉄めいた木材と言う不思議なアイテムと化しており、俺でもギリ重いくらいの超重量素材だった。
後はフルメタルカラーの宝箱が出現しており、近くに鉛色の果実と一枚のカードが落ちていた。
拾ってみれば案の定『フルメタルエント』のモンスターカードであり、『木片針』の能力持ちだ、やったぜ。
「さて、太志どーよ」
「『欺瞞工作』で処理済みですぞ、何が出るやら」
「おーらよっと」
身の丈以上の鉞の柄尻を器用に使って躊躇い無く開けた磨具奈さんに全員の視線が集まるが、太志への信頼の現れだろうと追求しなかった。
中から出て来たのは木目模様の鋼杖、接近戦用の杖かなと思ったが、磨具奈さんが感嘆の息を吐いて持ち手を引き抜いて見せた。
すらりとした細身の刀が仕込まれた杖であると判明し、その手の造詣が深い磨具奈さんですら惚れ惚れする逸品となると相当な代物か。
「ふむ、『硬化』の能力が付いた銘器ですな。鋼鉄よりも硬くなるので打って良し、切って良しの玄人武器ですぞ」
「分類としては刀カテゴリか。太志使えば?」
「ふむ、宜しいのですかな?」
「……あのな、普通刀を渡されてずんばらりんと切れる奴はいねぇのよ」
「そう言うものですかな」
激しく同意と言う感じで頷いた面々に後押しされる形で太志の受け取りとなった。
普段使っていた短刀はサブウェポンに回し、『硬化杖』をメインウェポンとして使用する様だ。
……なお、錫花さんがサムズアップをしたので、こっそりサムズアップを返しておく。
分かってるよ、同じ和武器で固めたかったんだろ、凄ぇ目力だったからな……。
んな事しなくても刀だなんて技術が必要な得物を扱える奴は、元華族の太志しか居ないっつーの。
若干疲れた気分で『収納袋』に鋼鉄の流木を仕舞い込み、ゲートを潜って伍階層へと進出するのだった。
――穿界迷宮『YGGDRASILL』、接続枝界『黄泉比良坂』――
――第『伍』階層、『既知外』領域――
潜った先は見栄えの変わらない玄室と回廊のまま、劇的に変わるのは確か拾階層からだったけな。
「伍階層のモンスターは何が出るんだっけ?」
「主に鎧を纏った犀ですな、他のモンスターは前階層と変わりませぬが、生存競争に負けて数少ないのだとか」
「そりゃまぁ、こんな直線に適した場所で鎧付けた犀が突進して来たら堪ったもんじゃねぇからなぁ」
ゲート前で安全地帯と分かっているが、一般通過鎧犀が奥の方で走って行ったのを全員で見送った。
第伍階層と言う事で既知外領域である此処のレベル帯は40であるので、第二段階レベル10くらいが指標だ。
……ふむ、案外丁度良い安全マージンだなこの階層。
初見殺しな突進さえどうにかすれば、囲んで叩いて倒せるだろうか。
ゴブリンたちに盾でも持って貰って受け止めるか、もしくは床に槍の柄尻を当てた状態で構えて串刺しにするか。
……あ、良い事思いついたわ。
「リーナ」
「きゃう?」
「地面に『粘性吐息』ぶっかけてくれ」
「……きゃぁう」
直線コースの曲がり角の手前に仕掛けられた滑りの良いローションに蹄の摩擦を持っていかれ、凄まじい速度でダンジョンに激突して壁の染みと化す鎧犀にトドメを刺す。
運良くスピードを緩められても勢いの無い突進は恐るるに足らず、踏ん張りの効かない鈍重な鎧犀にショータイム宜しく一斉攻撃により哀れ霧散する。
ローション撒いただけで護身完了だ、楽で良いなぁ!
勝った! 第伍階層完っ!
「ウァハハハ! 勝てば良いんだ、何使おうが勝ち残ればよぉ! 今は悪魔が微笑む時代だぜぇ!」
「鉄仮面でも用意しますかな?」
「それよかバイクが欲しいな」
「どうなってんだいおめぇらの情緒は……」
磨具奈さんに呆れられつつ、ジャギごっこもそろそろ飽きて来たな……。
これ以上無い嵌め殺しで効率良く狩れているので、生素材を食い飽きた様子のゴブリンたちの虚無顔が半端ない、塩でも掛けさせてくれって顔してるぜ。
食えば微量の経験値になる事は分かっているが、延々と素材の味をゴリ押しされれば飽きも来よう。
普通のエントのドロップ品である木材に着火してフライパンで焼いたら、香ばしい匂いでモンスター釣れないだろうか。
……モンスターを集める臭い袋とか購買部で売ってたりしないだろうか、香とかでも良いんだが。
鎧犀の大体のドロップアイテムは身に付けていた鎧と言うか硬質化して外殻となった外皮部分なので、素材判定なのかスタックできているが使い道どうすっかな。
『鮮血薔薇』の『職人』の子たちにでも投げてみるか、いや、自分よりもレベルの高い素材だから扱い切れないか?
これで全員分の革の防具とか作れたりすると良いんだけどなぁ。
『火具土』の人たちはあくまで武器の研ぎ直しなどがメインなので、文字通りのクラフターな仕事は鍛造オンリーなので微妙っぽいんだよな。
もっとも、その微妙さが故に引き抜く程でも無いなと言う判定を貰っているので、護身としては問題無いんだけどな。
どうせなら『職人』じゃなくてもクラフトできたりしたら良かったのになぁ、と文字通りの皮算用をしつつ、閉門まで嵌め殺しを続けるのだった。
補修レイドは……
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オリジナルレイド
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轟天石榴山