――穿界迷宮『YGGDRASILL』、接続枝界『黄泉比良坂』――
――第『漆』階層、『既知外』領域――
ゴブリン勢力一強でフロアを占領していた時の様に、第漆階層ではオーク勢力が猛威を振るっている様だった。
小賢しく悪辣な小鬼めいたゴブリンと違い、蛮族と言う言葉が似合う程に暴力が罷り通る生態をしているらしい。
人間がかつて肌色の違いや貧富の差から同胞を奴隷として扱った事がある様に、オークにもカースト制度が見て取れた。
既知領域では防具や武器を持たないオークが散見されるが、此処既知外領域では武装しているのは当然の様でクラス毎に割り振られた格好をしている。
そして、レベルが低いオークは素肌が見える簡素な革鎧を身に付けていて、囮を兼ねた斥候として集団の前を歩かされていた。
相撲体型と言うべき脂質と筋肉を兼ね備えた巨体を覆う金属が何処から調達されたのか疑問に感じるが、こうして整列して玄室を越えて闊歩している姿を見ると何処か組織然としている様に思える。
ゲートキーパーにキングクラスでも居るのだろうか、途轍も無く広大な既知外領域を占領していると言うのは現実的じゃない。
であるならば群雄割拠めいた縄張り争いが起きていると見るべきか、装備の差異で見分ける事は門外漢な俺らには難しい上にどれだけ領土を持っているかも分からない。
そもそもの話、モンスターにおける衣服などの概念は無く、全て魔力で作られた外殻なのだから判別できると思う方が徒労なのかもしれない。
「……駄目です。思念が多過ぎて分かりません」
「そうか、何となくそんな気はしてた」
三美によるニュータイプRTAは不可能の様なので、根気を入れて探索する以外に道は無い様だった。
リーナたちを『隷属具象化』し、スレイヴ軍団も用意して戦闘の準備をゲート前で行う。
此処まで入念に準備しているのは勘であり、やけに洗練され過ぎているオーク軍団を見ての懸念のためだ。
あれは明らかに統制する個体が居て、自由意志を持ってふらついているのではなく警邏していると見た方が良い。
つまり、一部隊と克ち合ったらそのまま連戦に引きずり込まれる可能性が高い、と言う事だ。
「厄介だな……、最悪の場合俺が薙ぎ倒せば良いが、それでも数の暴力と言うのは油断ならねぇ」
三美の護衛として彼女の『ハイグレートゴブリンサーヴァント』を付けているが、どんなアンブッシュが来るかも分からない。
広い広い既知外領域で此処だけが異常であるならばまだ良いが、全ての箇所で同じ様な事になっていると太志たちであっても苦戦は免れない事だろう。
鳴子の様な原始的で汎用性の高い罠が設置されていないだけ有情と見るべきか、けれども概念を知れば模倣をしてくるには違いない、そんな知性をオークたちから感じる。
考えられるのはゲートキーパーに成り得る個体が溢れて戦国時代めいているのか、既知外領域と言う排他的な環境で生き延びた古参の強者が君臨しているのか。
もしくは……、そんな個体を産み出せる存在がワンダリングしているか、だ。
一番最悪なのは言うまでも無く古参個体とマザーモンスターがタッグを組んで王国を築いている事だろう。
今思えば、人型モンスターの居ない階層が続いた事もあり、ダンジョンも本腰を入れて此方を殺しに掛かっている可能性が高い。
チュートリアルは終わりだ、リスクを味わえ、とでも言っている様に思えてくる。
「三美、絶対に俺から離れるなよ」
「承知致しました、貴方様」
「……だからといってぴったりくっつかんでも」
「えへへ」
布陣としては俺を総大将としたモン娘軍団による戦闘配置だ、リーナを後衛に置きルーナが遊撃してニーナが前衛を務める形となる。
各10体ずつの20体と10羽に俺のスレイヴゴブリン10体を加えた小隊を組み、護衛としてブラックドッグとグレイウルフを三美の隣に配置して万全を期す。
……一昔前にゲーセンで流行った大戦系アーケードに座ってる気分だな。
「きゃはは! 負けは、許されない! 気合、入れろ!」
「がぅう! 獣の力、魅せ付けろ!」
「きひひ! 堂々と不意打ち、素っ首を刎ねろっ!」
各クイーンによる応援とバフにより士気が一段階上昇、気合十分と言った空気で出陣を指示する。
ゲートのある玄室から一歩出た途端に、隠蔽が剥がれた様な唐突さで彼方のオークたちは此方を視認した。
どうやらゲートのセーフティエリアは目視すらも欺く仕様となっており、セーブポイントの様な扱いなのだろう。
「ブオゥ! ビギィイィイイ!」
辺り一面に響き渡る咆哮は威嚇のそれではなく伝達のそれ、やはり知能が高い様に思える、厄介だ。
『クイーンズナイトゴブリン』たちと正面から克ち合った『オークナイト』と思われる前衛から戦端が開かれ、互いの武器を叩き付けて優勢を取ろうと気炎が昇る。
その隙間を抜ける様に『クイーンズナイトコボルドライダー』が強襲し横合いから殴り付け、その隙を埋める様に『クイーンズナイトヴォーバルバニー』が跳ねて装甲の隙間を狙う。
……互角、いや、リーナたちのバフデバフのお陰か一応此方が数手優勢か、こりゃ総大将戦が面倒だな。
かつてのイケイケドンドンの雰囲気なぞとっくに薄れ、血で血を洗う様な激戦が繰り広げられている。
幸いな事にオーク側にはメイジ職は居ない様で、盾を持った短槍と長剣が前に出て、長槍が後ろから支援する形でファランクス染みた硬さを誇っていた。
……ダンジョン内で飛び道具が玩具になる仕様で良かった、これで弓兵なんて後ろに控えていたら並みのグループならば全滅必至だろう。
オーク側の全身鎧のせいでヴォーバルバニー隊の必殺が通り辛いのも遅延の理由か。
今思えば特殊な武器などを持たせていないので戦闘に特化しているかと言われれば片手落ちと言わざるを得ない。
しまったな、利益をマジックバックなどに当てて磨具奈さんの作った武器でも持たせておくべきだったか。
既に戦端が開かれているため後戻りはし辛い、せめて目の前のモンスターは狩らねば撤退もできない。
しかしながら、お代わり自由のわんこそばの如く戦闘が長引くにつれて彼方側の応援が到着し続けている。
……いくら何でもこの密度は異常だぞ、彼方側の玄室がみっちりと詰まってるじゃねぇか。
三美のレベリングのために瀕死のオークが送られてくる予定だったのだが、今やそれをしている暇も無い程に圧力を掛けられていた。
「……増援を生み出している奴が居るな、召喚系のメイジが後ろにこっそり居る感じか」
もしくは、その場で産み出す事の出来るマザーモンスターが後方に配置されているか、またはそもそもの総数が桁違いに多い可能性もある。
……オークって豚面だし、美味そうではあるので増殖のための栄養も豊富にあると見て良いだろう。
既知外領域で学生と言う死神に出くわさず、天敵知らずに増えて行ったと言う線が妥当だろうか。
戦利品の回収も追いつかず、落ちているカードだけ拾って足を進めているが進捗はあまり宜しくない。
奴らの全身鎧や部位ドロップなどで此方の足元が酷い事になっており、脇に除けている余裕も無いので日進月歩が続いている。
「パパ!」
漸くと言った様子のリーナが此方に手を差し出して来たので、意図は分からないがその手を握り返した。
途端、ごっそりと俺のSPが持ってかれてリーナへと貯蓄され、手を繋いだまま彼女はプリンセスロッドを掲げた。
パス繋がってるんだからそっち経由でSPを引っ張れば良かったのでは、と思ったが減る速度が段違いだったので無線と有線の違いかと納得した。
「『援軍召喚』!」
成る程、最初に呼び出したのは親衛隊となるメインであり、今呼んだのはその予備か。
全身鎧に阻まれ決定打を仕損じているヴォーバルバニー隊が一度下がり、その開いた隙間に召喚された全身鎧の巨躯なゴブリンたちはその手に大盾とメイスを所持した10体の精鋭であった。
『クイーンズナイトゴブリンウォーロード』たちはその巨体と大盾を武器に、面制圧を仕掛けて盤面を押し上げてオーク側に圧を掛けていく。
その動きは鈍足であるが力強い足音から相当な重量である、押し倒される心配をしなくても良いと思えるくらいに安定した援軍ユニットであった。
コボルドライダーたちが先祖返りした四足歩行の同胞に跨りながら短槍を振るっていたが、彼らの売りである速度を活かせない戦況のため一度下がり後方へと回って殿の位置に就く。
ゴブリンウォーロードたちがブルトーザーの様に面制圧していくお陰で前線と後方に隙間が出来て格段に移動が楽になったので戦利品回収が捗る。
と言ってもオークのカード回収がメインで、彼らの武器や防具を拾ってインゴット加工する暇は無かったが。
既に100体以上倒している事もあり、段々と前からの圧も減って来た事で敵の増援が減り始めているのを感じる。
異常なまでの密度からして、召喚術士が形振り構わずに召喚し続けていたのだろうがSP切れを起こしていると見るべきか。
オークで敷き詰められた玄室と回廊の先、頭1つ高く見えたそこには神輿めいた玉座にどっかりと座る強面なオークの女帝の面が見えた。
此方を睨み付けながらも何かを詠唱している素振りであり、マザーモンスター由来の何かをしでかそうとしているご様子。
「……デカいのこさえようとしてるか?」
質量のうち量はある、故に質を足して前線の反撃に打って出ようと言うところか。
見た感じ歴戦の武闘系に見えるが、マザーモンスターへ昇格でもして方針を変えたのだろうか。
自身で突っ込んでこないあたり戦闘面では片手落ちか、闘争は……楽しめそうには無いな。
……此処は強引にでも前を減らすべきか、押し倒されてから踏み潰されるのは勘弁だからな。
質には質を、量には量を、なので――焼き払う。
「きゃはっ!? 全員たいきゃーくっ!」
「くぅん、ま、間に合えー!」
「き、きひぃ、戻って……っ!」
娘たちから大怪獣が出現したかのような騒ぎ方で退却の指示が飛び交う中、俺だけが前に出て全員の視線を奪った。
竜瞳開眼――竜尾先端解放、根本から二股に分かれた尾の先が両隣から前へと躍り出た。
そして、灼熱の意思を装填する様に圧縮濃縮した我が血を放たんと思考のトリガーを引いた。
瞬間、噴射された血の霧の鉄臭さが玄室へと充満し、オーク共がその臭いに怪訝に思う前にその現象は引き起こされた。
霧の最小単位全てが灼熱の温度を解放し、一瞬にして目の前が赤銅色に染まって阿鼻叫喚を齎した。
1ml以下の大きさのそれに触れた途端、込められた熱により肌が引き裂かれる様に焼かれて焦げるより先に溶けていく。
触れた瞬間に焼け溶けて命が消えて霧散していく光景に、『オークエンプレス』は目を見開いて玉座から転がり落ちる様に飛び降りて後方へと走った。
……目の前に血の霧を噴射しているだけだからな、流石に遠くに逃げた奴までは射程範囲外だ。
水鉄砲みたいに改良すべきか、と思いつつ、オークエンプレス以外のオークを焼き払った。
うーん、このMAP兵器凶悪が過ぎる、そうだよな、玄室みたいな狭い空間で火炎噴射機片手に進んだらそりゃ無双できるわ。
竜のファイアブレスとばかりに、ぶぁぁあ、ぶぁああと噴射してやればこの通り、うーんダンジョン泣かせだ。
俺の魔力が混じってるから飛び道具判定ではなく魔法判定なんですよねぇこれ、物理判定の魔法攻撃みたいなもんだし。
あちこちに落ちた部位ドロップが灼熱の空間に焼かれて良い匂い発してるから少し腹減って来たな……。
こんがり焼かれた太腿らしい部位を拾い上げて噛み千切ると、うん、美味い、程良く脂が乗っていてジューシーな味わいだ。
オークの部位回収部分は太腿が安牌だな、だなんて事を思いつつ、『スレイヴオーク』と書かれたカードを拾い集めながらハイグレードに合成しながら歩いて行く。
対面するオークエンプレスからすれば、秘密兵器を出す前に蹂躙爆撃された挙句、同胞を戦利品扱いして弄ばれている状況である。
怒りで顔を真っ赤にしつつも、その絶望的な戦力差に青褪めるだなんて器用な表情を浮かべていた。
「逆転の一発を許すと思うか?」
「ビギィィッ!」
『軽量鎚』を担いだ俺の姿を見て、逃げ出す事は不可能と判断したオークエンプレスは玉座の裏に隠されていた巨大な戦斧を掴んでその巨体を起き上がらせた。
2m強の出る所が出ている女戦士然とした容姿であり、オークらしい強面の豚鼻と突き出た牙以外はもはや人間のそれに酷似している。
THEオークの女人、と言った様子であり、ダンジョンが人間のイメージの総合知を内包している事を頷ける。
女帝らしい毛皮のマントとフェチズムを感じるビキニアーマーを模した革鎧で身を包んだオークエンプレスが此方を睨み付けながら、戦闘バフらしい何かを発してその威圧感を増していく。
……さて、どうしたものか、久方振りのマザーモンスターなので鹵獲したいんだが加減をミスると殺しそうだ。
最低でも屈服させて『隷属首輪』を嵌めないとそのまま霧散する可能性あるんだよなぁ……。
性的に屈服させる方法もあるが、……三美の手前それを取るのは何と言うか自慰を見られている気分になる。
はてさて、どうしたものか、彼方から諦めて首を差し出してくれれば楽なんだがなぁ。
此方に戦斧を構えて鼻息を荒くして戦闘態勢と言った様子であるし、一当てしないと無理だろうな。
オリジナルレイドは……?
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『王権』
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『付喪』
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『根源』
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『伝承』