迷宮概論と言うファンタジックな授業が終わり、選択式の武器講習授業の時間になると、座学から解放されてテンションが上がっている奴が多かった。
オーソドックスな剣や槍が大人気で、次点でダガーやハンドアックスなどの取り回しの良いのが人気、それと同じくらいで血飛沫の無いメイスが女子に人気だった。
スレッジハンマーや大剣と言った明らかに人を選ぶ武器は人が少ない傾向があった。
この選択授業は大学の単位式の様に規定数の出席日数と実技試験の合格で受講完了となるようだった。
武器一覧のレジュメを眺めていると太志がひょっこりはんしたので、話題を振れば剣の授業を選択するとの事だった。
「奇を衒うよりかは堅実な物を選ぶ方が吉かと思う所存ですなぁ。……まぁ、染み付いてしまったと言う感傷で選んでるだけですが」
「ふむ……」
「して、竜胆殿はお悩みの様子。何と迷っているのですかな?」
「この特殊武器の授業に行きたいなぁ、と思ってるんだがね」
「……それを選ぶとは天邪鬼ですな。その授業はマイナー武器を取り揃えた産廃授業などと唾棄されてる不人気中の不人気と称される授業ですぞ」
「ヨシっ、これにしよう」
「何を見てヨシとしたんですか……?」
「まぁまぁ、考えてみろ太志。必ずしも欲しいレアドロが手に入る訳じゃ無いんだ。むしろ、これどうやって使うんだよ、って言われる様な物こそ一点物として輝く価値が生まれると思わないか?」
「……お主、生粋の天邪鬼でござるな」
お前も逆張りして変な武器を使わないか、と上弦の鬼めいた勧誘をしたがあっさりと振られてしまった。
そこは嫌いじゃないわっ、と着いてくる場面だろうに。
まぁ、太志がそこまで言うのなら流石に止めておくか、と無難に剣の講習を受けた。
よくよく思えば二人組作ってーと言うザラキ染みた言葉を掛けられる可能性があるのだから、初めから知り合いの居る授業に出るべきだな、うん。
先週が座学中心だったのはダンジョン解禁の時期に合わせたからだろうな。
慎重な奴だったり喧嘩もした事の無い奴は今日から始まるこの実習を糧に下積みをしてからダンジョンにダイブする感じだったようだ。
解禁初日からダンジョンに向かうのは初死を忘れていて恐れない好奇心が猫を殺した様な奴らが多く、娯楽感覚で行くのが新入生の恒例であるようだった。
なので、そんな新入生をオナホのパケ買いするかの如く先輩方が見定めをしていると言う訳だ、暇人かな。
太志曰く、彼らはダンジョンに積極的に潜るダンジョン組から外れたエンジョイ組に分類されるらしく、新入生狩りをする様な悪質なのが揃っているらしい。
――穿界迷宮『YGGDRASILL』、接続枝界『黄泉比良坂』――
――第『弍』階層、『既知外』領域――
「へぇ、珍しいペット連れてんじゃねぇか新入生くん。ちょっとこっちに寄越せよ、しっかりと躾けてぐぼぁっ!?」
第壱階層が満員御礼でワンチャンあると踏んで第弐階層に遥々足を運んだのだろう、名も知らないチンピラ先輩がイキっていた。
此方の胸倉を掴んで本格的に強請ろうとしていた所を不意打ち、ブレザーを着ずに白シャツだけの舐めた紙装甲を手刀でぶち破り、臓腑抜きを敢行した。
成る程、レベルが全てだな、手応えはリーナくらいの物理強度なので推定第一段階の『遊び人』あたりのエンジョイ組だろう。
レベル差により彫刻刀めいた硬さに比例した爪先で弛んだ腹を切り裂き、腹部に手首まで入り込んだ瞬間に腸と思われる臓腑を掴んで強引に引き出した。
チンピラによる新入生狩りの嘲笑う様な雰囲気が一瞬にしてスプラッターホラーのそれに豹変し、自身の腹部からまろび出た臓腑に埋もれた先輩の恐慌に塗れた絶叫が玄室に木霊した。
「きゃう」
ペット扱いされたと言うよりかは、名も知らぬ雑魚野郎に飼い主宣言されたのが気に食わなかったらしいリーナが吐き捨てる様に悪態を口にしていた。
開けられた傷口に両手を入れて引き裂いて穴を広げ、葡萄踏みの少女宜しく素足を腹部に踏み入れて無邪気な悪意を浮かべて臓腑を踏み潰した。
レベルアップの理解し辛い弊害の一つ、肉体強度の上昇による肉体の頑丈さにより即死出来ない苦しみを先輩は味わう事になり、出血死あたりで死に至るまで拷問処刑は続いたのだった。
「し、茂雄!? いったい何がぐぁっ!?」
「油断大敵ですなぁ、無理もありませぬが」
先日の深夜にこっそりと聖堂に行き、クラスチェンジを果たした太志が『隠蔽工作』を用いたアンブッシュでグループの一人と思われる先輩を葬る。
小剣による背後からのバックスタブにより致命を取られたその先輩は、運の良い事にそのまま即死できた様だった。
『商人』系規格外クラス、第二段階『悪代官』にクラスチェンジを果たした事でその身のこなしは軽いものだった。
……あの、そんな名前のクラスに就くとか外でナニやってたんですかね。
と不躾に言う事はせず、妨害支援に特化したクラスに就けた事を祝福した。
『悪代官』はパワーオブパワーな『怪物王』とは違い、妨害工作系スキルによる奇襲不意打ち暗殺を得意とするテクニカルなクラスだった。
先程の『隠蔽工作』の効果は、隠し事が上手く行く様になる、と言うものらしく、太志が隠していると自覚している限り発見する可能性を下げるデバフを強いるパッシブスキルだ。
第一段階あたりに『越後屋』がありそうな『悪代官』であるが、太志にはその様な前科は無いとの事なので、『遊び人』と書いてニートと呼ぶ聖堂のシステム側に変な命名プロコトルがあるのだろう。
名前からして『商人』系の資質に『盗賊』あたりの資質があると発現するんじゃなかろうか。
魔眼によるクワッとする異能が鑑定判定になり、回数も多かった事から『商人』の資格を得ていた可能性は高い。
「え、あ、えっ、い、新入生でしょ、何でどうして……」
彼らのパートナーかはたまたダンジョン用の肉オナホか肉盾か、武器を持たずに軽装な格好の女子の先輩も居た。
……まぁ、哀れではある、この学園は悪魔が微笑む時代であるからして、弱き事は即ち罪と言えた。
搾取され、隷属させられ、哀れな傀儡にされたであろう先輩は此方を見て媚びた表情を浮かべた。
いやまぁ、THEモブキャラみたいな目隠れオタクな俺とVIPのやる夫めいた恰幅の良い太志だしな、色気を出したら助かるとでも早計したのだろう。
「じゃ、さようなら」
「ちょ、待っぁ――」
右手に持っていたハンドアックスを無慈悲に振り下ろし、命乞いすらも聞かずに頭蓋をカチ割り先輩を殺した。
先輩方の死体はモンスター同様に霧散したので検分が出来ないのが残念だ、何か有用なアイテムとか持ってたら回収したのに。
学園のデータベースにも無い女体化モンスターであるゴブリーナを見られたからには、問答無用で殺す以外の選択肢は無い、ダンジョンの糞にでもなって寝とけ。
死に戻りの際に記憶を無くすと言うのはエンジョイ組が横行する原因でもあるが、逆に情報を与えない事で因縁を防止する事にも繋がる訳だ。
……それに、彼らに寄生して生きてきたのならば此処で生かすと此方に情けを訴えかけてくる可能性もある、そんな無駄なウェイトを背負って進める程ダンジョンは甘くない。
ゴミカスパーティをジェノサイドパーティーした成果は微妙で、マジックアイテムっぽいダガーと店売りの小剣程度だった。
経験値も入ってるか怪しい微妙さで、旨味の少ない外れでしかなかった。
『簒奪』により能力が手に入ってたりしないかなと半ば結果の分かってる答え合わせをする。
……うん、ないよー、スキル無いよぉ! と煽られた気分だった、ファッキン。
「スキル無いぞクリハラァッ!」
「ついでにクリスタルと銭も無いですな、出会うだけ無駄な存在でしたな。にしても」
「ん?」
「……竜胆殿は一般の出と聞き及んでいましたが、躊躇いも無くよく殺せましたな」
「んー、いやだってさ、魂魄結晶の無い人らって要するに、ソウルジェムを失った魔法少女みたいなもんだろ。殺した時に死体がモンスターと同じで霧散したって事は、そもそもの復活した肉体も生前と同じなのかも大分怪しいぞ」
「……ドラえもんのどこでもドアみたいなものですかな。A地点からB地点へとドアを通じて空間が繋がっているように見えるも、実態は分解と再構築で擬似的なワープを再現しているに過ぎない、と言う」
「あぁ、ダンジョンがそいつの本体持ってるんだ、それを元に蘇生していると嘯いて実はスワンプマンしてる可能性だってある筈だ」
こじ付けと疑いの憶測でしかないがそれなりに良い線行っていると思うんだよな、センター前に飛んだライナーヒットくらいには。
それにまぁ、リーナの存在は俺の立ち位置が安定してからにしたいので、基本的にサーチ&デストロイ安定だろう。
俺らの会話に速攻で飽きたリーナが俺の腹部におでこを当ててぐりぐりしてるのを受け止めつつ、子供ムーヴ上手いなこいつと頭を撫でた。
「邪魔が入ったがレベリング続けるぞい」
「きゃうきゃう!」
「有用なスキルが手に入ると良いですなぁ」
基本的にクラスチェンジの際に資質の現れとしてスキルが手に入るが、それ以降はレベルアップによる取得が必要な訳だ。
アーキタイプ、『剣士』やら『盗賊』などの発現数が多く研究の進んでいるクラスの傾向からして5レベル毎や10レベル毎の節目でスキル取得の予兆があるのだとか。
と、言うのもスキルとはクラスの型に嵌められた俺らの肉体が成長により発現した力であるので、自覚しないと扱う事が出来ないとされている。
SAOのソードスキルの様にガイドがある訳ではないので、何となくの感覚を掴む事こそが取得のコツと言われているそうな。
「チェェすっぞッ!」
ハンドアックスの振り下ろしにより正中線をスッパリと切り裂かれ、左右に別れて絶命するゴブリンは断末魔すら不可能だった。
武器の刃の鋭さによる斬撃ではなく、鋭角の物を力強く押し付けて押し切った打撃となれば、目の前の光景に頬を引き攣る者も居る事だろう。
『怪物王』の第二発現スキルは『怪力』。
シンプルイズベスト、脳筋オブザイヤー受賞スキルと言われそうなスキルであるがその真価は肉体強化である。
膂力と書けば腕の力の事だが、怪力となると全ての筋肉に対してバフが掛かるので、プルスウルトラなフルカウル染みた戦闘能力の軒並み上昇を得られる。
無論、視力や聴力などの五感にもばっちり作用するので、自分の身体を俯瞰する様に操れており、そのタイミングで最適な動きを人力TASする事が出来る訳だ。
薙ぎ払いが途端に直角に急上昇し、凶悪な振り下ろしになるだなんて恐ろしいフェイントに引っかかったゴブリンは粗末な盾の無い頭へと落ちた刃により断殺された。
素の力でもやれなくはないが此処まで鮮やかにはできないだろうな。
『怪力』のパッシブをオフにするとドッと疲れが押し寄せてくるのが難点だが、パッシブをオンにしてからの運動量と時間に比例するのが検証で分かっているので必要経費と割り切る。
隣に居たゴブリンへ懐かしのアックスキックをお見舞いして再び壁の染みリターンズ、そもそもの筋力のステータスが高まっているので今の階層だと過剰かもしれないな。
「うーむ、そろそろ次の階層に向かうか?」
「ふむ、……竜胆殿が『怪物王』レベル14、ゴブリーナ殿がレベル8、拙は『悪代官』のレベル11ですからな。安全マージンを取るなら既知領域の弐階層から既知外へ向かうのが安牌ですかな」
「あー、そうか。既知外領域ってだいたい上限個体だから参階層だと20か。慣らしも兼ねて既知領域に一度戻るか」
今後の事を決めつつ、革袋に戦利品を詰めて持って来たリーナの頭を撫で回す。
シャワーとか浴びてないのに常にさらさらなのなんでなんだろうな、匂いも香ばしくないし謎だ。
リーナはされるがままに嬉しそうに頬を緩めるので、いつか子供ができたら子煩悩な父親になりそうだなと微笑ましく感じた。
「……で、既知領域ってどっち? あっち?」
「うーむ、そっちかもしれませんな。あっはっは」
既知領域のマップデータは壱階層が無料で、弐階層以降は小銭程度の値段で買えるのだがそもそもの位置が既知外領域なせいで、登山で遭難しているのと変わらない現況である。
太志の兄ノートに書かれていたそうだが、既知領域と既知外領域のそれぞれに次階層への階段もとい門があるらしいので既知外領域の門で降りてしまうともれなくハードモードスタートになってしまう訳だ。
そうなると安全マージン云々が意味を成さなくなるので、最初からもう少しこの階層でレベルを上げて安全マージンを調整する必要が出てくる。
「よくよく思えば既知領域の方に二年の先輩らへんが居る可能性あるんじゃないか?」
「……それもそうですな。では竜胆殿と拙がレベル15以上、ゴブリーナ殿も最低でもレベル12くらいは見積もりたいですな」
「なんかもうそこまでいくとすぐに肆階層へ向かう流れになりそうだな」
「まぁ、参階層次第ではそれも良いかもしれませんな。荷物の問題もあるので、新しいパーティメンバーを探すのも目途に入れた方が良いかもしれませぬ」
「……ゲームで重量制限のあるタイプのがあって、いちいち整理面倒だなーとか思ってたけど、リアル重視なら大量の銃とか持ち運べる訳無いもんなぁと今更に理解したよ」
「心で理解した、ってやつですな、分かりますとも。拙の背嚢も結構重いので正直インベントリ的なのが欲しいところですな」
「かと言って荷物持たせるためだけに仲間増やしてもアレだよなぁ」
「『文官』なら問題無いですぞ、モンスターに運ばせれば良いですからな」
今のパーティの後方に居る立ち位置のリーナは戦闘では動かないので、戦果のクリスタルを拾う役目を任せているので似た様な感じか。
革袋に詰まったビー玉程度のクリスタルを自信満々に見せつけてきたが、それ俺ら全員の手柄だからなクリスタル拾いガールよ。
「因みにアテはあったりしないの、華族だった頃の伝手とか」
「あるにはありますが、その……女子なのです、大丈夫ですかな?」
「なんで? ……あぁ、俺がお前に嫉妬するって話か。え、そんなサークルクラッシャーなのその人」
「……その、かつての婚約者なのです、口約束の」
「もげろ」
「ほらー、言ったじゃないですかー……」
「冗談だ、俺にはリーナが居るから大丈夫だ。むしろ、今太志に負担掛かってるようなもんだろ、声掛けて来なよ」
「……かたじけない。実は既に何度か接触してましてな、その、大分勢いが強いので顔合わせしてからで宜しいですかな」
「あぁ、つっても俺別にパーティリーダー気取る気は無いんだがね」
「それなりに通す筋ってもんですぞ。この学園で気兼ねなく交友を深められているのは奇跡に近い状況でしょうしな。お主が思う以上に救われているのでござるよ、拙」
「……そうかい、なら最後まで走り抜けなきゃな」
「ですな、一狩りの続きと行きましょうか」
負ければ死ぬだなんて当たり前の事なのだから、常に常在戦場と心掛けるが吉だろう。
太志の気の合う人物なのだろうから性格もまぁ大丈夫だろうしな。
先程の俺の言葉で顔を真っ赤にして、嬉しさをハグで表現しているリーナを背に引っ提げて回廊を進むのだった。
補修レイドは……
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オリジナルレイド
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轟天石榴山