――穿界迷宮『YGGDRASILL』、接続枝界『黄泉比良坂』――
――第『弍』階層、『既知』領域――
今日も今日とてダンジョン日和、三日連続で正午の開門から入り浸るレベリングがはーじまるよー、と見せかけて今回はボス戦に挑む。
今回は新メンバーの錫花さんを中心にし、既知領域の弐階層にログインする。
錫花さんがマッピングデータを丁度良く持ち合わせていたので、参階層へ続く門へと足を進めるためだ。
昨日の様にエンジョイパーティと遭遇する事を懸念されたが、錫花さんと言う一応『文官』系のクラスが増えた事でリーナに『偽装工作』をバフする事で問題を解決した。
遠目のパッと見だと杖を持ったちっこいゴブリンなので、ゴブリンシャーマンあたりと誤認させられる事だろう。
まぁ、逃した時の対策なので基本的に殺すんですけどね、初見さん。
運悪くと言うべきか、カスの流儀が故の定められた邂逅か、ボス部屋へと向かう手前でエンジョイパーティとエンカウントした。
左から雑魚、ざこ、ざぁこ、肉壺さんお二人。
エンジョイパーティさんいらっしゃーい、じゃ、死のっか。
「死んだゴミカスだけが良いゴミカスだぁッ!」
「塵は塵に、灰は灰に、ゴミカスはゴミカスに。実にお似合いの姿ですなぁ」
新入生お薦めセットのハンドアックスが見るも無残にぶっ壊れたので、『簒奪』で手に入れていた『伸び爪』『巻き爪』『爪砥ぎ』のコンボにより、バグナグめいた凶悪な鉤爪を伸ばす。
テンションが上がり獣と化していた俺は残虐な笑みを浮かべ、『簒奪』した『威圧』のスキルで自分よりもレベルの低い先輩方を足止めした。
気分はハガレンのグリード、もしくは爪の長さ的にワンピースの抜き足のクロか。
ダンジョン内では物理的な硬さはレベルに比例するので、こんなところで漁夫の利しようとしてる奴ら程度なら十二分に切り裂く硬度になる。
『怪力』によって底上げされた四肢を用いて、玄室の壁を蹴って立体軌道で近付く。
此方に視線を向けたせいで太志にアンブッシュされ、関節を砕かれて倒れ伏す先輩を尻目に無事な奴の身体を態と死なない程度の八つ裂きに処す。
痛いと喚いて激痛に苛まれ逃げ出そうとした先輩三人の前には、虚ろな表情を浮かべたゴブリン五匹が長盾と槍を構えており、これまた悪趣味な事に致命傷を避ける位置に穂先が突き入れられた。
死因があるとすれば出血死のみ、中途半端なレベルで居た自らの怠惰を呪うが良い。
「ひっ、ひぃぃっ、こ、殺せっ、殺せよぉっ!」
「痛ぇっ、痛ぇよぉ、止め、止めてくれぇ……っ」
「なんで、こんな、残酷な事が出来るんだよっ」
「お前らの存在が路傍の石と同じくらい邪魔だから、そのミソッカスな頭に教え込んでやろうかなって」
「知らなかったのですかな、悪はより大きな悪に踏み潰されるのですぞ。……あれ、何時の間に拙ら悪側に立っているんですかな」
「きゃうきゃーう」
「やっちゃえ、リーナちゃん」
汚物は消毒だー、と『ハーフゴブリンプリンセス』の第二発現スキル『粘液吐息』により、粘性のある強アルカリ性の溶解霧を吐いたリーナにより、絵面がどんどんと酷い有様になっていく。
肉体を構成するタンパク質が強アルカリにより損傷し、霧で吹き掛けられている事もあり着用していた制服に染み込んで二次被害めいた惨状を引き起こしていた。
なお、本来の使い方は霧にせず弱アルカリ性の粘液を口からとろーっと出す、いわばラブローション精製の唾液変換スキルなのだが、粘度の変化などができると検証されたので恐ろしいスキルと変貌した。
スキルには隠しパラメータが存在しているようで熟練度によって効果をある程度曲げる事ができるらしく、俺の『怪力』も全身付与ではなく部分付与が可能だったり、『隠蔽工作』の概念的拡張により部屋に作用させるなど色々と興味深い性質を持ち合わせているようだった。
まるでスタンド能力、いや、Hunterの念の様だ。
なお、これでもかと酷い殺し方をしているのは記憶の損耗率を上げ、混濁化を強めに引き起こすための致し方の無い作業だ、ホントダヨ。
先日のファースト特別実習の際に身体を震わせていた女子が居たように、ダンジョン内の死に方次第で蘇生された後の後遺症を誘発できるらしく、酷い事をしたんだから酷い目に遭って無様に震えて死ね、してるのはそれが理由だ。
心的ストレスなどは何故か持ち越すケースが多いらしく、ゴブリンに捕まり輪姦パーティを開催された新入生徒が緑色の物を見て発狂した事例があるくらいに刻み付けられるらしい。
玄室の端っこで目の前の惨状を見て心底青褪めている先輩方の肉オナホっぽい人たちは比較的優しめにサクッと殺して、道中の掃除は完了した。
「これからボス戦だってのに横槍入れられたら堪ったもんじゃないからな」
「ですな。変な霧で入れなくなったり物理的に門が閉じたりなどしてないと安心できませんものなぁ」
こうして念入りに殺しているのはボス戦を始める間に後ろからアンブッシュされないように湧き潰しするためだった。
何でも異界アーチと呼ばれている次の階層へのゲートに居るボスは三日に一度リポップする感じのモンスターらしく、これを倒さないと次の階層への資格を得られないシステムになっているらしい。
なので、これを倒そうと意気込んで来たパーティを異界アーチの前で待ち伏せして、頑張って用意したアイテムを強盗し、メンバーを人質に取るなど非道を行う輩が一定数居るらしい。
ついでに青田買いと称して隷属レイプしたりするくっそ悪質なエンジョイ組が居るとの事だったので、それを一掃したのだった。
態々弐階層に逆張り、いや、強さ的に人気度の高い壱階層から溢れたから此処に居るのだろう。
念入りに害悪エンジョイ組をぶち殺して軽いアップを済ませた俺たちは、ついに異界アーチのある閉ざされた玄室へと足を進めた。
一応リーダー扱いされている俺が玄室の扉を開き、フロムゲーみてぇだなと思いながら中へ進む。
外からの見た目以上に広い玄室の中央には既知領域第弐階層ボスである『ゴブリンナイト』とその従者ゴブリンたちが此方を迎え討たんと待ち構えていた。
小鬼シリーズと称されるゴブリンのドロップ武器の中には、『ゴブリンナイト』の持つ重厚なグレートソードは存在せず、見るからに一回り大きいその体躯からしてパワータイプと読み取れた。
……あれ、おかしいな、曲刀じゃなくて刀に変更されているような違和感。
事前に調べた『ゴブリンナイト』の得物は小剣より長い長剣、つまりはロングソードだった筈だ。
目の前のあいつは何を持っていると俺は思ったんだ?
「武器が違う! 太志、
「応とも、『グレートゴブリンナイト』レベル15、取り巻き『ゴブリンランサー』レベル10! 属性は土、能力はグレートの『筋力強化』のみ! あっるぇー!?」
「凄い、昔よりも磨きが掛かってる、見た目がアレだけど」
「きっちり情報抜いてくれたな、助かるぜ太志。見た目はアレだけど」
「きゃうきゃーう」
「泣いて良いでござるか? 一応立役者でござるよね拙」
格好つけたものじゃない素の口調で太志が喚いた。
だって連続でクワックワッ見開いてんだもの、緊張感に欠けるわ、はよ異能も進化してもろて。
と言うか、今しれっと『ゴブリンナイト』じゃなくて『グレートゴブリンナイト』って言った?
超越個体と呼ばれる彷徨うFOE、その場に一時間程留まると現れる『天敵者』とは違ったFOEであり、それがボスでポップしてるのは色々と反則なのでは?
真顔で思いつつ、脳裏ではレアモンスターだぜ、レアドロ祭りだわっしょいと砂浜を走って歓声を上げていた。
と、言うのもこのボス個体は比較的レアドロを落とす確率が高く設定されているようで、最低でもレア武器が、最大で概念付与付きのマジックアイテムやモンスターカードが手に入るのだとか。
そのため、モンスターカードの欲しい『文官』の人が居るパーティでは壱階層のボスを周回するダンジョン組も居たらしく、地味に独占による問題になったと兄ノートに書かれていたそうな。
もっとも、深い階層であればある程モンスターカードのドロップ確率が上がると言う噂が流れた事で事無きを得たのだとか。
「グレートは俺が仕留めるから、周り頼めるか!」
「応、錫花!」
「ん、『傀儡操り』、囲んで、潰せ」
「きゃうきゃーっ!」
革鎧に身を包んだ『グレートゴブリンナイト』に突進し、巻き鉤爪を振るうもグレートソードにばっさりと爪が迎撃され、半ばで切り裂かれたのを見て思わず舌打ちする。
まぁ、形がそれっぽくなっただけでただの爪だからなぁ、流石に武器相手には無理無茶だったな、一敗。
腰元にマウントしていた小鬼小剣と購買で予備に買ったダガーを引き抜き、ダガーを逆手持ちして即席の盾にし、小剣を右手のメインウェポンとして握り直す。
俺がボスを牽制してタゲ取りしている間に、取り巻きの『ゴブリンランサー』に錫花さんの傀儡ゴブリンが長盾を構えて槍を向け、ファランクス陣形で前進を始めていた。
その合間を縫って『隠蔽工作』にて隠形を成した太志が肉薄し、ヒット&アウェイのスタイルを押し付けに参る。
リーナはこっちに向かってチアリーディング宜しく、腕を振ってパパ頑張ってぇーと応援を始めた。
……せめて『鼓舞』で応援してくれよ、抜けてんのか可愛い奴め。
グレートソードの肉厚な攻撃を避けながら、革鎧の隙間を縫って左関節にダガーを突き刺して左腕を使い物にならなくしてやると、両手持ちが出来なくなった『グレートゴブリンナイト』は力強く舌打ちをした。
この手の脳筋の敵は筋や腱を断ってしまえば、自己修復を持たない限り嵌め殺せる。
ましてや自身の大きさに見合わない巨大なグレートソードを『肉体強化』で無理矢理振り回しているだけだ。
同じ筋力、それ以上を持ち合わせているのであれば脅威になり得ない。
両手持ちにすると筋力1.5倍の物を持てるが、片手では筋力不足で威力が下がる。
目の前のグレートゴブリンはその手の類いだった様で完全に武器の重さに遊ばれていた。
片腕で大振りに薙ぎ払われた鈍足なグレートソードの腹を下から打ち払う様に払い除け、剣パリィを行なう。
グレートソードを頭上に跳ね上げられ、その重さに重心を崩した『グレートゴブリンナイト』の無防備な腹に小剣&ダガーキックをお見舞いしてやる。
壁に叩き付けられ、体勢が完全に崩れた所にダメ押しの『怪力』を発動しフィニッシュムーヴッ!
「きゃぁう!」
小剣の柄をしっかりと握り締め、リーナからタイミング良く送られた『鼓舞』によって更にブーストの掛かった肉体によって肉薄し、革鎧の中央へと突きを放って心臓を抉った。
小剣の素材が悪いからか貫く事は容易な事では無かったが、パワーオブパワーとばかりに筋力で全てを解決させた。
砂利に杭を打ち込む様な切れ味の悪い手応えを感じつつ、早急に良い武器を手に入れる必要があるなと思案する。
相手が初めてのフロアボスであるが故に警戒を外さない、刺されて動きが止まった所でダガーによる首への追撃を放つ。
正面から胸元に突き刺さる小剣により、もずの早贄めいていた『グレートゴブリンナイト』の素っ首にダガーを突き刺して内側から脊髄を砕いた。
此処まで殺れば充分だった様で、断末魔を上げる事無く事切れた身体が霧散した。
玄室の硬い床に転がるグレートソード、そして部屋の中央からにゅっと現れた木製の金縁宝箱の出現に脳汁が沸いた。
宝箱の見た目により中のレアリティが分かると噂だったが、質素な木製に金縁と言う何とも低レアっぽい見た目に何とも言えない表情になった。
真顔でスンっとしていると、取り巻きを二人と五匹で倒した太志たちが合流した。
「ふぅ、何とかやれるもんですな。ボス個体を単独討伐するとは、竜胆殿の益荒雄っぷりに磨きが掛かりましたなぁ」
「よせやい、太志たちがしっかりと取り巻きをしばいてくれたから集中出来たんだ」
太志とピシガシグッグッと喜びを分かち合い、異能による罠判定で罠無し宝箱と判明したのでいざご開帳。
……ふと思ったがミミックだった場合って罠判定なんだろうか、それとも敵判定なのだろうか。
そんな事が脳裏に過ったが幸いそんな事は無く、難無く宝箱は開いた。
全員で中を見やれば、モノクルっぽいのと鎖っぽいのが入っているのが見えた。
「おぉ、これは拙らにぴったりなマジックアイテムでは無いですな」
「……なんて?」
「このモノクルは『職人』の『鑑定』を劣化付与したマジックアイテムで、アイテムの名称が分かるだけの産廃アクセサリーですぞ」
「……太志の魔眼がある、要らない」
「きゃあう……」
太志の手にしたモノクルに対して全員が可哀想な物を見る視線になった。
おお、なんたる不運か、哀れなモノクルはただのファッションアイテムと化していた。
「太志の異能が便利過ぎて喜べないアイテムだな……質に流すか?」
「レンズに度は入ってないようなのでファッションに使える程度ですな。流して宜しいかと」
「需要無し、がっかり」
「執事服にモノクル」
「――閃いた。これ、貰って良い?」
「何故でしょうな、背筋に悪寒が走ったのですが……」
他の面々は底にあった鎖には気付かなかった様なので、これもまたアクセサリーか何かだろうと拾い上げ――。
ガコンッと小気味良い作動音が聞こえた。
――拾ったのではなく、引き上げたのだと理解した時には既に遅かった。
まさかの二重箱型のトラップとは恐れ入るぜ、流石ダンジョンだ、殺意高いなぁおい。
宝箱が乗った迫り上がった台座が急落下し、脱出不可と察した瞬時にリーナをカードに戻して懐に加えた。
何故ならジャンプして逃げようとしたものの、地に足付いた部分が剥がれず、確実に落としてやると言う殺意が窺えたからだ。
リーナを回収しながら台座付近に居た太志を突き飛ばし、玉突きで錫花さんも穴から離した。
「ゲート先! 閉門後に合流! 探索不要!」
「了解ですぞ! ご武運を!」
さて、セオリー通りに階下へ落ちるのであれば参階層の筈だが、ゲートによるワープ移動で階層を移動するので物理的に下にあるかは未知数だ。
既知領域から既知外領域に向かってひたすら歩いても終わりが見えない、だなんて過去の検証がされているダンジョンだ。
物理法則に従っていない可能性の方が高い。
言うなればメガテンの異界の様な、現実を捻じ曲げて作られた場所であると認識している方が良いだろう。
直下堀りで真下に空洞があったかの様に、真っ直ぐに急降下する台座に足を噛みつかれたまま落ちていく。
あれ、これ衝撃を逃すの無理じゃねと察して顔が青褪め、両脚が使えなくなる可能性に頬を引き攣らせた。
が、台座がいきなり霧散し、真下に落ちていた筈なのに何故か落ちた先は壁穴で、真横の慣性に従い投げ出されて床を転がる羽目になった。
「痛ってぇ……、マジで物理法則どうなってんだこのダンジョン」
「わふ?」
「……ん?」
真横にゴロゴロと転がった先で何かに当たって止まったが、その壁らしき何かは何故かもさっとふわふわしており、そして何処かクールな声色の綺麗な声が降ってきた。
見ればそこには獣っぽい女性の顔があり、その太腿に後頭部をフィットした状態だった。
そうはならんだろとツッコミたいが、なってるやろがいと言わざるを得ず、非常に作為的な何かを感じる出会いだった。
補修レイドは……
-
オリジナルレイド
-
轟天石榴山