エカさんの震える身体が静まり、浴室の湯気に溶ける彼女の白い肌が、桜色に火照っていた。
ボクの心は、彼女の温もりと快感に満たされたまま、時間の流れに急かされる。
浴室で余計な時間を過ごしてしまったので、ボクたちは急いで浴室を出て、汗とオイルを拭き取る。
エカさんがバスタオルで素早く体を拭き、濡れた金髪を軽く整える姿が、なおも艶めかしい。
北欧美人の輝く肌が、浴室の照明に照らされ、ボクの視線を絡め取る。
なんというか、おおげさな表現になるけど、お人形さんのような美人さんが、日常的なビジネスホテルの洗面所という背景でごく自然に着替えている様というのが、逆に非日常感を強烈に感じる。
急いでベッドを片付け、ボクも服を着直す。
まぁ、ボクは急いで着替える必要なかったし、本当は片付けを手伝う方がよかったかもしれない。
部屋を訪れたときの落ち着いた色合いのロングワンピースに着替える。
体のラインが美しく浮かぶデザインが、彼女のしなやかな肢体を際立たせ、着替える仕草さえ流れるように優雅だ。
部屋のドアを開け、去り際、エカさんが振り返り、碧い瞳でボクを見つめる。
彼女が近づき、赤い唇で軽くキスを交わす。
柔らかな温もりが一瞬でボクを包み、甘い香水の残り香が漂う。
「イェカチェリーナ・バグラチオーニ、ミェニャー、ザヴート。ナヂェーユス、ムィプラドールジム、 ハラショーアプシシャーッツァ」
と、彼女がロシア語で囁く。
言葉の意味はさっぱりわからないけど、彼女の声の柔らかさと、微笑みの温もりに、ボクの心が震える。
「エカさん、今日はありがとう」
と、ボクは言って、付け加えるように「すぱしーば」と言った。
この言葉はどこかで聞いたような気がする。
エカさんも微笑んで、「ありがとう」と返してくれた。
エカさんは軽く手を振って部屋を出ていく。
ロングワンピースが揺れ、歩くたびにしなやかな肢体が浮かび上がり、ドアの向こうに消える。
「イェカチェリーナ…」
エカさんの言葉をボクは反復する。
ボクは閉じかけたドアを押し返して、廊下に身を乗り出す。
「エカチェリーナ!」
めいっぱい叫んでみると、エレベータフロアに立つエカさんが振り返る。
最初は突然大声で呼ばれてびっくりしたんだと思う。
でもすぐに柔らかい表情に変わっていくのが分かる。
ボクはその変化を嬉しく感じたのだけど、その感情を彼女に伝える言葉を持っていない。
それでもボクはとにかく何かをエカさんに伝えたくて、叫んだ。
「サカオツじゃないから! さかもつだから!」
エカさんはきょとんとした感じだったけど、「ボジェ・モイ…」と呟いて頭を抱えた。
エレベーターが到着したメロディが鳴って、扉が開いたけど、エカさんはずんずんとこっちへ歩いてくる。
結局、ボクとエカさんは連絡先を交換した。