日本のビジネスホテルの無機質なドアが並ぶ中、部屋番号を確認して、立ち止まる。
スマホのカメラでメイクとか髪の様子を最終チェックする。
今日も楽しくマッサージしていきましょう、と気合を入れる。
深呼吸して軽くノック。
日本に来て1年、セラピストとして半年。
まだこの瞬間は緊張する。
日本語は「こんにちは」や「ありがとう」くらいしか話せないけど、身振り手振りと笑顔で、なんとかお客さんを満足させてきた、と思うし、今日も大丈夫、なはず。
ドアが開き、Tシャツにショートパンツ姿の男性が現れる。
少し緊張した顔の、優しそうな日本人男性。
黒い髪と、控えめな笑顔が、なんだか安心感を与える。
「コンニチワ、エカです。ニホンゴ、スコシ……デモ、マッサージ、ガンバリマス。ヨロシク、オネガイシマス。」
私は挨拶し、にっこり微笑む。
彼が少し目を丸くして、私を見つめる。
ちょっと物珍しさのまじった視線。
いつものことだけど、やっぱり慣れない。
こういう反応、お客さんによくあるから慣れてるけど、でも、彼の視線はどこか純粋で、嫌な感じがしない。
「さかもつ、よろしく」
と、彼もなんだか、たどたどしい日本語になってて、内心微笑ましく感じる。
「さかおつ……サン?」
私が呼び返してみると、彼はきょとんとした表情になるので、さっきの自己紹介の感じが思い出されてつい笑ってしまった。
「エカ……さん?」
さかおつさん、まだ緊張してる感じだったので、ちょっとテンション高めに「ハーイ、エカ!」って答えてOKサインでイエーイみたいに、はしゃいで見せる。
すると、ちょっとさかおつさんが和んだ感じがした。
部屋に入ると、シンプルなビジネスホテルの空間。
ベッドと小さなデスク、シャワールームのドアが見える。
言葉は通じないけど、コースと料金は事前に決まってるから、ジェスチャーで確認。
さかおつさんがお金を渡してくれて、私は「アリガトー!」と元気に言う。
彼が紙パンツを受け取って、シャワールームへ向かう後ろ姿を見ながら、準備を始める。
バスタオルをベッドに広げ、オイルボトルを並べる。
彼の優しい雰囲気、なんかいい感じ。
日本語が話せない分、彼の表情や仕草をよく見ちゃう。
さっきの視線、胸元にチラッと行ってたよね? メンズエステだから、そういうの嫌いじゃないよ。
むしろ、楽しんでもらえるなら、私も嬉しい。
シャワーの音が聞こえてくる。
さかおつさん、どんなマッサージが好きかな? 私のバレエ仕込みの施術が、ちゃんと彼を喜ばせられるといいな。