浴室の湯気がまだ肌にまとわりつく中、絶頂の余韻が体を震わせる。
さかおつさんの手がお尻を握る感触に、温もりと安心が心を満たす。
でも、ふと現実に戻る。
二人でシャワーを浴びて時間を節約しようという思惑が、さかおつさんの焦らしプレイでご破算になってる。
そんな私も自分で「焦らしプレイ」って勝手に表現して、勝手にぶるっと身体を反応させてる。
ヤバい、ハマっちゃったかも。
って!
そうじゃなくて、コース時間をオーバーしてるのは間違いないから、とにかく帰る支度をしないと。
さかおつさんも察してる様子で、浴室のドアを開けて私の様子を伺っている。
私たちは、急いでタオルで体を拭き、部屋に戻る。
バスタオルやオイルボトルを手荷物に詰め込んで、手早く着替える。
身支度を済ませた私は、部屋のドアを開け、去る前にもう一度彼を見る。
90分くらいの間にいろんな事があって、全然整理できてない。
抑えきれず、そっと近づいて、軽く唇を重ねる。
柔らかい感触に、またドキッとしちゃう。
「私の名前はエカテリーネ・バグラティオニ。これからも仲良くできたら嬉しいな」
とにかく何か伝えたくて言ったんだけど、たぶん通じてないんだろうな。
通じてないって分かってるけど、また会えるって、信じたい。
それでもさかおつさんは、私の名前を読んで「ありがとう」って言ってくれた。
……そうか。
言葉が通じないなりに、それでも何かを伝えたい気持ちは、さかおつさんも一緒だったんだ。
私は手を振ってさかおつさんに「ありがとう」って答えてドアを閉める。
言葉が通じなくても何かしら伝わるモノってあるんだなって、気持ちを切り替えてエレベータの下りボタンを押す。
根っこの部分で、さかおつさんと気持ちは通じたのかもしれないけど、結局ずっと二人で勘違いを繰り返してたんだなって、つい寂しい気分になってしまう。
「エカチェリーナ!」
引っ叩かれるような、さかおつさんの叫び声が響く。
私はびっくりしてさかおつさんに顔を向けるけど、彼が私の名前を呼んでくれた事が奇跡みたいな気がして泣きそうになる。
言葉が分からなくても、気持ちはちゃんと伝わるんだ。
こんな事ってあるんだ、そう思うと心が打ち震える。
「サカオツじゃないから! さかもつだから!」
さかおつさんが叫ぶ。
日本語なんだけど、でも、意味は分かる気がする。
さかおつ……、じゃない、さかもつさんの渾身の叫び。
「え、ええっ!?」
私は頭を抱えてのけぞった。
さかもつさん、そういうことは早く言ってよ!
エレベーターが到着したメロディが鳴り響くけど、複雑な心境を内包した私は、そんなの無視してさかもつさんに向けて歩き出した。