※この作品はR-18です。

うさぎ獣人になったら人生はっぴ~   作:九条空

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コーザ⑤

 ついに人里にたどりついた。

 口では「わ~い」と言ってみせたが、心から喜んでいるわけではないことくらい、コーザさんには筒抜けだろう。

 ここで別れる約束だ。

 それがいつやってくるのか、自分から話を切り出すのは恐ろしい。

 

 コーザさんは私に、魔法のカバンから取り出したポンチョを羽織らせた。

 

「耳ってしまえる?」

「え、頭の中にですか? そんな、掃除機のケーブルじゃないんですから」

「掃除機のケーブルは知らないけど、ちょっと後ろか下に倒すとかできるかな。フードの中にしまえると目立たなくていいんだけど」

「ああ、それなら大丈夫です。えーと、コーザさんが結んでるみたいな紐をお借りすることは?」

「ん、これ?」

 

 まさにそのものでなければいけないわけではなかったが、コーザさんは自分の髪を縛っていた紐をほどいて私に手渡した。

 わあ、見たことない髪型を見るとどきどきしてしまうじゃないか。突然新スチルを解放しないでくれ――スチルとは?

 

 紐は革製らしい。少し難しかったが、私は耳を髪と一緒にまとめて、後ろでぎゅっと縛った。

 ちょっと窮屈だが、ズボンのなかに無理矢理しっぽを押し込んでいるのと同じくらいの不快感である。

 

 借りたポンチョのフードを被って、コーザさんに聞く。

 

「普通の人間に見えます?」

「うん。もっと深く被っておいた方が良いね。かわいい顔が見られて、誰かにとられそうになったらいやだから」

「きゃあー! コーザさんってば! そんなに褒めてもえっちなことしかできませんよ!」

「うん、後でね」

 

 後でだと? 言質は取ったぞ。

 ここでお別れだとしても、最後のセックスは絶対にやってやる。

 

 何もしゃべらなくていいから、と言われた通り、私はコーザさんの陰に隠れてずっと無言でいた。

 門番らしき人となにやら会話、交渉を行い、スムーズに街へ入ることができた。

 身体検査がなくてよかった。獣人だとバレたら殴られたりするのだろうか。

 

 石畳を歩きながら、コーザさんの隣に並ぶ。

 手を差し出されたので、喜々として手をつないだ。恋人つなぎだ。

 予想以上に指を絡められて驚いたコーザさんは目をまるくしたが、振り払われることはなかった。

 

 声量を落として、コーザさんに話しかける。

 しゃべらなくていい、という指示は解除されていないが、黙っていろとは言われていない。

 

「門番に金子を握らせたりしたんですか?」

「そういう知識はどこからくるんだろうね。上流階級の出なのかな」

「獣人ってヒエラルキー最下位じゃないんですか?」

「オレはそんな風に思ってないよ」

 

 非常に高い人権意識、俺じゃなきゃ惚れ直しちゃうね。

 嘘です、私でも惚れ直しています。かっこいい~。

 

 コーザさんがまず向かったのは宿屋だ。

 すでに期待してしまうな。宿ということは寝床。

 寝床といえばセックスである。ちょっと突飛な連想ゲームか?

 

 宿泊の受付を済ませるコーザさんは手馴れている。

 行商人ならばあちこちで泊まり歩くだろうから当然だろう。

 

 宿屋のおかみさんはちらりと、コーザさんと私の繋がれた手を見た。

 視線に気づいた私はわざわざ繋いだ手をあげ、絡めた指を見せびらかし、どやっとした顔をして見せた。

 おかみさんは笑ってくれた。ノリのいい人だったらしい。

 

 あてがわれた部屋に入ると、コーザさんは繋いでいた手を解いた。

 私は中央にあったベッドにダイブしようとして、ベッドを破壊する可能性を考慮し、腰掛けるにとどめた。

 ふう、ナイス判断だ私。賢いぞ。

 

 コーザさんは立ったまま私のそばにやってきて、ポンチョのフードをとった。

 そのまま髪と耳を結んでいた紐をほどき、自分の髪を再び束ねるために自分の髪をまとめはじめる。

 

 なんかえっちだ。

 しげしげと眺めていると、元の髪型に戻ったコーザさんが私の頭を撫でる。

 

「すぐ戻ってくるから、ここで待てる?」

「もう、コーザさんってば。私のこと何歳だと思ってるんですか?」

「何歳なの?」

「知りません」

「だよね」

 

 ご存じの通り、私は記憶喪失だ。

 名前もわからないし、年齢もわからない。

 

「何歳に見えます?」

「うーん……獣人の年齢はわからないな。人間だと思ったら、15くらい?」

「若っ! 若っ、と思うってことはもっといってるような気がしますけどね」

「直感は大事にした方が良い」

 

 数字をいくつか言われたら、これだ! と思う年齢を見つけられるんだろうか。

 まあ別に何歳でも構わないな。私よりコーザさんの年齢の方が気になる。

 

「コーザさんは何歳ですか?」

「何歳に見える?」

「めんどくさい質問だなあ」

「自分も言ったのに?」

「この街に入るまでコーザさん以外の人間を見たことがなかったのに、人の年齢を推測できるだけの知識の累積があると思いますか?」

「うわっ、凄まじく理路整然とした正論だ。おじさんが悪かったよ」

 

 そりゃあ死体は見たことがあるけれど、たぶん死体は数えちゃいけないだろう。

 

「はぐらかさないでくださいよ、何歳なんですか?」

「……45」

「歳の差30か~。世間的にどうです?」

「貴族の政略結婚なら充分ありうるだろうね」

「コーザさん、実は貴族だったりします?」

「いいえ」

「よかった、許嫁とかいませんね?」

「いいえ」

「別れた妻とその子供とかいます?」

「いいえ」

 

 淡々と回答された。

 私にコーザさんの嘘が見抜けるとも思えないので、コーザさんが私になんと答えたいのかがわかればそれでいい。

 

「一応聞いときますが、今フリーですよね?」

「はい」

「質問は以上です。結果は追ってご連絡いたします」

「なんの?」

 

 私にもわからない。なんか勝手に口から出た。

 行ってほしくないあまりに、随分引き留めてしまった。

 

「いってらっしゃい、コーザさん。もし帰って来て私が部屋にいなかったら誘拐されてるので、助けに来てくださいね」

「嫌な可能性をしれっと言わないでくれるかな……心配になっちゃうだろ」

「そしたらはやく帰って来てくれるでしょう?」

「やるねえ」

 

 もう一度私の頭を撫でて、コーザさんは部屋を出ていった。

 

 ここはダブルベッド1台が置かれた、シンプルな部屋だ。

 恋人アピールしたから、2人で一緒に寝ろということだろう。

 この部屋を見てコーザさんも驚かなかったから、了承済みのはずだ。

 

 ベッドにぽすんと横になる。ちょっと埃っぽい。

 記憶の限りでは、ベッドに横になるのはこれが初めてだ。ずっと野宿だったから。

 街に来て、私は山ほどの初体験をするのだろう。

 

 その傍に、コーザさんはもういないのだ。

 

「うえぇえん……」

 

 思えば、ひとりになるのは随分と久しぶりだった。

 死体を数えて良いなら、水場を探しに歩いたあの瞬間しか、私はひとりではなかったのだ。

 うん、やっぱりたぶん、死体って数えちゃだめだな。

 そうなると、コーザさんに声をかけてもらったあれ以降、私はずっとひとりじゃなかった。

 

 コーザさんと出会ってから、これがはじめてのひとりぼっちだ。

 彼と出会ってから、彼とはなればなれになったことがなかった。

 人生のすべてを喪った気分だ。

 

 顔を枕に埋めて、泣き声を押し殺す。

 ひとりきりの部屋に自分の声だけが響いて、慰めてくれる人もいないのは、あまりにもみじめだから。

 

 さっきのは嘘で、このまま帰ってこないかもしれない。

 コーザさんは嘘が上手そうだ。もし私に嘘をついているのなら、もっともっと前からついているのかも。

 行商人じゃないかもしれないし、名前だって本名じゃないかもしれない。

 

 悪い想像は止まらず、私の涙は止まらなかった。

 

 

 

 髪を梳かれる感覚で目を覚ます。泣き疲れて寝ていたらしい。

 目の前にいるのは、当然コーザさんだ。

 ベッドに腰かけ、私の顔を覗きこんでいる。

 

「……泣いてた?」

 

 コーザさんは私の目元を指でなぞった。

 赤くなっているんだろうか。色白の肌は、そういうのがわかりやすいらしい。

 

「やっぱり奴隷になるのは嫌? やめておく?」

「奴隷はいいけど、コーザさんとはなればなれになるのがいやです」

「ふー……」

 

 ため息だか深呼吸だかわからなかったが、コーザさんは大きく息を吐いた。

 ため息だったらどうしよう。めんどくせえ女、と思われただろうか。

 引き止めるようなことを言わないようにしよう、と思っていたのに、うっかりした。

 寝起きだから寝ぼけていたのだ。くっ、隙を突かれた。

 

 眉を下げたコーザさんが笑う。好きな顔だ。

 

「一生オレのこと覚えててくれるんだろ?」

「でも本物に会いたいじゃないですか!?」

 

 さすがに今の声はでかすぎた。

 自分の声量に驚いて、ちょっと出ていた涙が思わず引っ込む。

 私は自分の口を押さえ、きょろきょろと周囲を見渡した。

 よく聞こえるうさぎの耳で集中すると、両脇の部屋は空いていたので、壁をドンとされることはなかった。

 

「森の中じゃいくら叫んでもよかったけど、街じゃもう少し静かにした方が良いかもね?」

 

 苦笑したコーザさんは、ブーツを脱いでベッドに乗り上げた。

 

「練習しよっか」

「はい。ひそひそ声で喋りますね……」

 

 コーザさんが私の耳に顔を寄せてくる。

 耳はいいのでそんなに近づかなくとも聞こえますよ、と言おうとした。

 しかしコーザさんは内緒話をするわけではなく、私の耳にふっと息をかけてきた。

 

「ぴゃっ!」

「しーっ。静かに。えっちしてるのバレたら怒られる」

「じゃあいたずらしないでくださいよ……!」

「えー? でもこれが最後になるんだよ」

「なんでそんなこと言うんですか……! 泣いちゃうでしょ……!」

 

 今度こそ涙をこらえられた、と思う。

 鼻水は出そうになったので、すんとすする。

 それを見て、コーザさんは他人事のようにつぶやいた。

 

「オレが死んだら泣いてくれそう」

「そりゃ泣くでしょ……!? 何言ってんだろうこの人は」

「あっはっは。ラピちゃんにそんなことを言われる日が来るとは」

 

 あれだけまぐわったのに、ベッドの上でするのは初めてだ。

 体は丈夫だから、硬い地面の上でも平気だったが、こうしてふかふかのベッドに転がされると変な気分になる。

 なんか大切にされている気持ちになるなあ。森の中でも充分感じてたけど。

 

「静かにする自信ないので、キスでふさいでくださいね」

「練習にならないよ?」

「いいですよ、練習なんて。本番ありませんもん。コーザさん以外とセックスする予定もないし」

「そうだったらいいのに」

 

 肩を押され、ベッドに押し倒される。

 私に覆いかぶさったコーザさんを下から見るのは初めてだ。

 それだけで、お腹の奥がずきずきする。

 

 私の顔の横に手をついたコーザさんは、もう片方の手で私の耳に触れた。

 皮膚の薄いところを親指でなぞられて、声を上げそうになる。

 嬌声はコーザさんに飲み込まれた。お願い通り、キスで口をふさがれる。

 それからは、鼻からふにゃふにゃとした声が漏れるだけ。

 

「んむ、んぁ」

 

 気づけば、あっという間に服を脱がされていた。

 そういえば、森の中ではずっと着衣のまま性行為をしていた。

 コーザさんなりの理由があるのだろう。

 突然野獣に襲われてもすぐ着直して逃げられるようにとか、虫に刺されないようにとか。

 

 毎度服や地面に敷いた毛布は、私たちの体液でどろどろになっていたが、気づけば綺麗になっていたんだよな。

 行為の終わりには意識が朦朧としていたので、コーザさんが何をやって片づけをしていたのか知らない。

 魔法のカバンがあるのだし、魔法の洗濯機も持ってるんだろうか。

 

「ラピちゃん」

「……あぇ?」

 

 気持ち良すぎて失神していたらしい。

 コーザさんに頬をぺちぺちされて気がついた。

 キスしてるとつい夢中になり、酸欠になってしまう。

 都会のセックス向いてないかも。田舎に帰りたい。

 

 コーザさんのものは中に入ったままだ。

 眉根を寄せ、余裕のなさそうな顔をしたコーザさんは、吐息交じりに言う。

 

「中に出していい?」

「ん、あかちゃんほしい、はらむ」

 

 回らない舌でも、はっきり伝えた。

 コーザさんは駆け引きが面倒、と言っていたから、ストレートなのが好きなはずだ。

 私も、やろうとして駆け引きができるとは思えない。

 

 性急な動きで数回腰を叩きつけたコーザさんは、私の一番奥に吐精した。

 

 腰を引いて私の中から出ていこうとしたコーザさんの背中へ、足を回す。

 そのまま足に力を入れれば、体勢を崩したコーザさんが私の方に倒れ込んで来た。

 私にぶつからないよう、とっさにベッドへ手をつき、苦笑する。

 

「忘れてた、力強いんだった」

「ふふん。まだできるでしょう?」

「前みたいに、殺す気? って怒られるかなと思って」

 

 シャツの襟をつかんで、コーザさんを引っ張る。

 引き寄せた口に噛みつくようなキスをして、私は自分の言葉を飲み込んだ。

 

 殺してもいいよ、などと言われても、コーザさんは嬉しくないだろう。

 命を預けると言っただけで心配そうな顔をする男だ。

 

 ほら、重い女は嫌われるって、私の頭の中にもあるし。

 これ誰の言葉なんだろう、記憶ある頃の私?

 

 際限なく「もっと」と言いそうになるのを自制して、ほどほどのところでセックスをやめた。

 ほどほどは個人により異なるので、私とコーザさんにとってのほどほどは日が落ちて登るまでだった。

 途中何度か失神したような気もする。もったいない。

 

 コーザさんに濡れた布で体を拭かれ、服を着直している間に、コーザさんによって既にベッドメイキングまで終わっていた。

 さっきまで私たちの体液でぐちゃぐちゃだったはず。手品?

 ベッドメイキング用の妖精さんが働いている? それかコーザさんが魔法使い?

 

 その謎を聞こうかと思ったが、私と共にベッドに腰かけたコーザさんが真剣な目をしていたので、ひとまず彼の話を聞くことにした。

 

「いいかい? 世の中はおじさんみたいにいい人ばかりじゃないから、嫌だと思ったら相手を殴っていいんだからね」

「えー、大丈夫かなー。死んじゃいません?」

「じゃあ、死ぬほど嫌だと思ったときに殴ったら?」

「わかりました!」

 

 最悪相手を殺しちゃってもいい、そのくらい嫌だったらぶん殴ることにしよう。

 わかりやすいラインがあると助かるな。やはり長生きしているコーザさんには様々な知見がある。

 感心していると、コーザさんはカバンからなにか取り出していた。

 

「舌出して〜」

 

 キスを期待して舌を出したのに、コーザさんはポストイットのような紙を私の舌に押し付けただけだった。弄ばれちゃった。

 切手を湿らせるためにでも使われたのかと思ったが、コーザさんははがきを持っていなかった。

 

「それなんですか?」

「妊娠検査薬」

「そんなんあるんだ、すご。してました?」

「どっちだと嬉しい?」

「えー!? そういう質問こそえっちのときに聞いてくれますか? 迷いなく孕みたいって言えるんで」

 

 そういえば、ここは街だ。

 コーザさんは出かけていて、ものを買う時間もあっただろう。

 森の中では追加で入手することができなかった避妊具も、手に入れられたはずだ。

 

 私の意思は関係なく、コーザさんは私を孕ませたいと、思っていてくれたということだろうか。

 コーザさんが見つめていた紙を一緒に覗きこむが、なにもわからない。

 

 長いこと紙を眺めていたコーザさんは、とうとうその紙をポケットにしまった。

 ゴミをポイ捨てしないのはいい男である。

 特に彼からの説明はなかったが、たぶん妊娠していなかったのだろう。

 

「妊娠してたら、無理してでももらってくつもりだったんだけどね」

「えーっ!? もっとはやく言ってくださいよ! 私頑張ったのに!」

「これがハニートラップじゃなくてよかったのか悪かったのか、もうわからなくなってきたな」

 

 いい加減その蜂蜜罠について説明してくれないだろうか?

 私の朧気な記憶の中には、その単語についての知識がない。

 自分の太ももをぺちんとはたいて悔しがる。

 

「くっ……! あんなに孕む孕むって言った私が嘘つきみたいじゃないですか……!?」

「種族をこえた子はできにくいからね。不可能ではないんだけど」

「だからそれも言ってくださいよ最初に! いじわる!」

 

 おざなりに「ごめんごめん」と謝ったコーザさんに、むっとする。

 赤ちゃん一緒に育てよう、とか言ったのは嘘だったのか。

 

 行為中は何言ってるかわからなくなる、というのは私だけでなくコーザさんもだったということ。

 喜んで損した。やはりセックス中における愛の言葉は信じるに値しない。――やはりってなんだ?

 

「おじさんね、これから大事な仕事があるんだ。それさえなければ、ポリシーを曲げてラピちゃんを奴隷にするんだけど、仕事を考えるとそれも難しい」

「仕方ないですね。コーザさんのしあわせが一番ですから」

 

 森の中で、私は散々コーザさんの足を引っ張った。

 森を抜けるのにかかったのは13日。

 9日の予定からは随分遅れてしまった。

 丸一日セックスで潰したりしたからってのもある。

 

「オレが生きて帰って来て、そのときラピちゃんがしあわせじゃなかったら、きみをもらってもいい?」

「……なんか死ぬみたいじゃないですか!? 死なないでコーザさん!」

「あっはっは。そう言われると死ににくいな~」

「死ぬ覚悟決めるような仕事なんですか!? そんなの行かなくて良くないですか!?」

 

 これだけやさしいコーザさんが私を置いていくというのなら、私にとって都合の悪いことがあるのだろうとは思っていた。

 わざわざ口に出して確かめなかったのは、そうでなかったとき泣いちゃうからだ。

 

 でもやっぱり、コーザさんはやさしいおじさんだった。

 これだけで少し寂しさを我慢できそうだ。

 私を納得させるための嘘でも構わない。上手に騙してくれ。

 

「大人には色々事情があるんだよ」

「ひーん、大人の魅力で黙らされるう~!」

 

 コーザさんは優秀だ。

 彼以外の人間をまともに知らないが、あれだけ動けるのは珍しい、気がする。

 少なくとも絶倫ではあると思う。

 

 惚れた弱みだろうか。好きだからかっこよく見えているだけか?

 私はどこかに行ってしまうコーザさんが、モテモテになって誰かにとられるのを心配していた。

 

「じゃあ、待ってますね、コーザさん。絶対生きて帰って来てくださいね」

「うん。いってきます」

 

 胸がきゅーんとした。

 毎日この言葉を聞きたい。ずるいなこの男。

 各地方にこういう女がいるんだろうか。それでもいいか。

 この人の心の一角に住めるなら、他に誰を想っていようが気にしない。

 

「いってらっしゃい。コーザさん、あなたが帰って来なかったら、私寂しくて死んじゃうかもしれませんよ」

「そりゃ絶対帰ってこないといけなくなっちゃうなあ~」

 

 うさぎは寂しいと死んでしまう、というのをどっかで聞いたことがある気がする。

 それは真実である気がした。

 

 部屋から出ていくとき、コーザさんは振り返らなかった。

 

 誰もいなくなった部屋で、私は自分の鼓動を数えた。

 そのまま止まってしまうかもしれないな、と思ったからである。

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