※この作品はR-18です。

母の写真 日常の向こう側   作:松田義和

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第十一章 決定

旅行は、七月上旬に決まったようだ。

ちょうど学校の夏休みに入る直前で、世間的にもまだ混雑のピークには早い時期だ。

そのおかげで、希望していた宿もすんなり予約が取れたらしい。

 

行き先は、長野のわりと有名な温泉旅館。

山の中腹にあって、静かで落ち着いた雰囲気の宿だという。

母さんは嬉しそうに、スマホの画面を僕に見せてきた。

 

「少し古いけど、料理がいいのよ」

「露天風呂も評判なんだって。星が見えるらしいのよ」

「駅から送迎バスがあるから、移動も安心だしね」

 

そんな母さんたちの会話が、昨日から家のあちこちから聞こえてくる。

夕食の支度をしながら、洗濯物を畳みながら、電話越しに笑い声が弾んでいる。

 

どうやら、あのユイママ――ユウナさんが中心になって、しっかり計画を進めてくれているらしい。

段取り上手なユウナさんの主導で、四人の“女子旅”は着々と現実になりつつある。

 

宿の詳細だけじゃなく、道中の立ち寄りスポットや、お土産の候補、服装の話まで。

LINEのグループチャットも作られたようで、通知音が鳴るたびに、母さんがにやにやしながらスマホを覗いている。

リビングのローテーブルには、旅行パンフレットや口コミ記事があれこれ広げられていて――

まるで修学旅行前の中学生みたいだな、と内心苦笑した。

 

でも、そんな母さんを見ていると、なぜだか悪くないと思える。

この何年か、家族のことばかりで、自分の楽しみなんてほとんど口にしなかった母さん。

そんな母さんが今、友達とわくわくしながら旅の準備をしている姿は、たぶん初めて見るものだった。

 

正直なところ、少し寂しい気持ちもある。

僕の知らない場所で、母さんが誰かと笑っていることに、ぽっかり穴が空いたような感覚がする。

だけど――それと同時に、どこかでほっとしている自分もいる。

 

ようやく母さんが、“母”じゃない時間を持てるようになった。

それは、僕が心の奥でずっと望んでいたことだった気もする。

 

ずっと僕を支えてきてくれた分だけ、母さんにだって“自由”があっていい。

誰かと笑い合える時間、誰かに頼れる瞬間、それを母さんが持てるなら、僕はそれでいいと思う。

 

……とはいえ。

内心では、少しだけ心配している自分もいる。

 

旅先で何かあったらどうしよう。

例えば、変な人に絡まれたら?

あるいは、母さんが不用意に誰かに親切にしすぎたら?

――なんて、考えすぎだとわかっていても、そんな思考がちらつく。

 

心配し過ぎなのはわかっている。

 

でも、前回のこともあって

旅館にマッサージサービスがあるかどうか、こっそり調べたりもした。

パンフレットにもネットにも情報がなかったから、思わず電話までして確認した。

「ありません」と言われたとき、ほっとした自分がいたのも、ちょっと情けないけれど事実だ。

 

それでも、母さんには思いっきり楽しんできてほしいと思う。

七月上旬の、そのほんの二日間だけの旅。

でも、そこには小さな“変化”が、確かに生まれている気がして。

 

僕は、それをちゃんと見届けたいと思っている。

 

とはいえ、僕の妄想は暴走する。

 

長いこと母NTR作品群を見過ぎだせいだろう。

 

 

やっぱり僕はおかしい。

 

 

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