※この作品はR-18です。

母の写真 日常の向こう側   作:松田義和

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第十二章 僕の中で、勝手な“旅のシナリオ”が出来上がってしまっている

僕の中で、勝手な“旅のシナリオ”が出来上がってしまっている。

もちろん、それはただの想像にすぎない。

……のはずだった。

 

母さんたちが長野の温泉旅館に到着して、チェックイン。

仲居さんに案内されて部屋に入って、「わあ、きれい!」なんて声をあげて。

荷物を置いたら、ひと息ついて浴衣に着替え、露天風呂に向かう。

湯けむりの向こうで、談笑しながら体を沈めていく四人。

湯上がりの冷たい瓶牛乳に、「懐かしいねえ」なんて笑い合って――

 

そこまでは、平和な想像だ。

むしろほほえましいくらいで、僕も安心して見守れる。

 

けれど。

もし、そのあとだ。

 

夜、旅館のロビーや中庭、あるいは自販機の前なんかで。

たとえば、ひとりで外の風に当たっていた母さんが、ふと誰かに声をかけられる。

 

「こんばんは、いい夜ですね」

――なんて、気さくな雰囲気の年配男性。

宿に長く泊まってる常連で、人懐っこくて、話の腰が軽い。

「よかったら、ロビーで一杯どうですか?」

そんな誘いを、母さんはどう受け止めるだろう?

 

母さんは断ると思う。……思いたい。

でも、少しだけ寂しい気持ちになっていたら?

ひとりで座っているよりも、誰かと会話した方が楽しいと思ってしまったら?

もしかしたら――たった10分だけ、と思って行ってしまうかもしれない。

 

もちろん、それ以上のことがあるなんて思いたくない。

でも、その先を、僕は勝手に想像してしまう。

 

イクミさんが「お、飲んでる飲んでる!混ぜて〜!」なんてテンションで合流して。

ユキさんも「ほんのちょっとだけね」と、隣に座る。

ユウナさんはきっと空気を読んで、お水を取りに行ってくれたりする。

そんな空気の中で、誰かのグラスに何度もお酒が注がれて――

気がつけば、母さんが頬を赤くして笑っていて。

 

……その表情が、あの温泉旅館の部屋に仕掛けられたカメラに映っていたら?

 

いやいや、さすがにそれは妄想がすぎる。

AVの見すぎだ。自分でも笑えてくる。

 

けど。

あのとき、母さんが“ああいうこと”を受け入れてしまったという現実が、僕の中にはまだ、引っかかったまま残っている。

それがあるから、僕は安心しきれない。

 

「母さんが他の誰かと話しているだけで、なんでこんなに気になるんだろう」

自問しても、答えは出ない。

でも、気になるのは事実だ。

 

こんなとき、連絡でもくれればいいのに。

「ごはん美味しかったよ〜」とか、「お風呂、最高だった」とか。

でも、旅先でスマホをいじるような母さんじゃない。

きっと今ごろ、布団の上でイクミさんとトランプでもしてるか、ユキさんと明日の予定を立ててるか――

 

……あるいは、本当に知らない誰かと、何かが始まっていたら?

 

想像が暴走していく。

自分でもバカだと思う。

でも、それくらい、僕は母さんのことを気にしてるんだ。

 

気にしすぎて、胸が苦しいくらいだ。

 

ああ、早く帰ってきてくれないかな。

何事もなく、笑って「楽しかったよ」と言ってくれたら、それでいいんだ。

 

たったそれだけのことが、今はとてつもなく遠く思える。

  

 

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