ちゃぶ台のまわりには、すでに空になった缶チューハイやワインの瓶がいくつも転がっている。
グラスが重なるたびに軽い音が響き、笑い声が交差する。
旅館の畳の部屋、浴衣姿の母さんたち四人と、中年の男たち三人が輪になって座っている──そんな妄想が、僕の中で勝手に膨らんでいく。
男たちは、同じ宿に泊まっていたというだけの顔見知り。
食事のあと、ロビーで軽く言葉を交わして、そのまま「少しだけ一緒に」と部屋飲みに発展したらしい。
そんな想像は、荒唐無稽なようでいて、妙にリアルだった。
浴衣の襟元をゆるめて、団扇で首筋をあおぎながら、「たまにはいいよね」なんて笑ってる母さんたちの姿が、頭の中で動き出す。
イクミさんは酒に強く、もうすっかり打ち解けて、男たちと肩を寄せて笑っている。
大きな声でツッコミを入れたり、「あんた面白いわね」と腕を軽く叩いたり、空気をどんどん盛り上げていく。
ユキさんは少し頬を赤くして、でも笑顔は崩さず、ひとりの男と控えめに会話を交わしている。
時折、言葉に詰まっては目を伏せて、グラスを口元に運ぶ仕草が妙に色っぽく思える。
ユウナさんは「ちょっと飲みすぎちゃったかも」と笑っていたが、それでもグラスを置こうとはしない。
まわりに気を配りながらも、男たちの軽口にはうまく乗っていて、器用に場をやりくりしているように見える。
そして、母さんは──
浴衣の袖がすこし落ちかけて、肩のあたりが無防備に見えていた。
笑顔はあるけれど、どこかぽやんとしていて、すでに少し酔いが回っているのがわかる。
男のひとりが、さりげなく近くに座って、母さんのグラスに酒を注ぎ足す。
「ちょっとだけね……ほんとに、もうこれで最後……」
母さんの声は少しだけかすれていて、その語尾に柔らかさが混じっていた。
それを聞いて、男がふっと微笑む。
それだけの仕草が、僕にはひどく危うく見えた。
……もし、誰かがその手を取ったら?
もし、誰かがそっと背に手を回しても、母さんは抵抗しないんじゃないか?
酔いに任せて、何も考えずに、されるがままになってしまったら──
そんなことまで考えてしまって、僕は急に胸がざわざわと騒ぎ始めた。
いや、違う。そんなことはない。
母さんは、そんな軽率なことはしない。
でも、酔いって、気持ちのハードルを下げる。
旅先の開放感、夜の魔力、そして誰かの視線。
全部が重なったら、ほんの少しのきっかけで、線を越えてしまうことだって……
イクミさんがいつの間にかいない
そして隣の部屋から甘い声が
誰かの指が、そっと肩に触れる。
母さんもそれを拒まない。
ふと前を見るとユキさんの浴衣の帯が解かれ
ユウナさんも浴衣から剥き出しの美脚に男の手が掛かっている
母さんの浴衣も肩から脱がされ
――想像はそこまでで止めた。
自分でもバカみたいだと思う。
ただの妄想だ、そう何度も言い聞かせる。
だけど、頭のどこかでは、その妄想を止められない。
酔いに浮かされた母さんたちの姿が、まるで現実のように鮮明に浮かび上がってくる。
どうか、何も起きていませんように。
僕の中で繰り返されるその祈りは、いつのまにか切実な願いになっていた。
なんて妄想で僕がモヤモヤしている間に
母さんたちの間で大問題が起きていた。