※この作品はR-18です。

母の写真 日常の向こう側   作:松田義和

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第十四章 旅館の夜

ちゃぶ台のまわりには、すでに空になった缶チューハイやワインの瓶がいくつも転がっている。

グラスが重なるたびに軽い音が響き、笑い声が交差する。

旅館の畳の部屋、浴衣姿の母さんたち四人と、中年の男たち三人が輪になって座っている──そんな妄想が、僕の中で勝手に膨らんでいく。

 

男たちは、同じ宿に泊まっていたというだけの顔見知り。

食事のあと、ロビーで軽く言葉を交わして、そのまま「少しだけ一緒に」と部屋飲みに発展したらしい。

そんな想像は、荒唐無稽なようでいて、妙にリアルだった。

浴衣の襟元をゆるめて、団扇で首筋をあおぎながら、「たまにはいいよね」なんて笑ってる母さんたちの姿が、頭の中で動き出す。

 

イクミさんは酒に強く、もうすっかり打ち解けて、男たちと肩を寄せて笑っている。

大きな声でツッコミを入れたり、「あんた面白いわね」と腕を軽く叩いたり、空気をどんどん盛り上げていく。

 

ユキさんは少し頬を赤くして、でも笑顔は崩さず、ひとりの男と控えめに会話を交わしている。

時折、言葉に詰まっては目を伏せて、グラスを口元に運ぶ仕草が妙に色っぽく思える。

 

ユウナさんは「ちょっと飲みすぎちゃったかも」と笑っていたが、それでもグラスを置こうとはしない。

まわりに気を配りながらも、男たちの軽口にはうまく乗っていて、器用に場をやりくりしているように見える。

 

そして、母さんは──

浴衣の袖がすこし落ちかけて、肩のあたりが無防備に見えていた。

笑顔はあるけれど、どこかぽやんとしていて、すでに少し酔いが回っているのがわかる。

男のひとりが、さりげなく近くに座って、母さんのグラスに酒を注ぎ足す。

 

「ちょっとだけね……ほんとに、もうこれで最後……」

母さんの声は少しだけかすれていて、その語尾に柔らかさが混じっていた。

それを聞いて、男がふっと微笑む。

それだけの仕草が、僕にはひどく危うく見えた。

 

……もし、誰かがその手を取ったら?

もし、誰かがそっと背に手を回しても、母さんは抵抗しないんじゃないか?

酔いに任せて、何も考えずに、されるがままになってしまったら──

そんなことまで考えてしまって、僕は急に胸がざわざわと騒ぎ始めた。

 

いや、違う。そんなことはない。

母さんは、そんな軽率なことはしない。

でも、酔いって、気持ちのハードルを下げる。

旅先の開放感、夜の魔力、そして誰かの視線。

全部が重なったら、ほんの少しのきっかけで、線を越えてしまうことだって……

 

イクミさんがいつの間にかいない

 

そして隣の部屋から甘い声が

 

誰かの指が、そっと肩に触れる。

母さんもそれを拒まない。

 

ふと前を見るとユキさんの浴衣の帯が解かれ

ユウナさんも浴衣から剥き出しの美脚に男の手が掛かっている

 

母さんの浴衣も肩から脱がされ

 

――想像はそこまでで止めた。

 

自分でもバカみたいだと思う。

ただの妄想だ、そう何度も言い聞かせる。

だけど、頭のどこかでは、その妄想を止められない。

酔いに浮かされた母さんたちの姿が、まるで現実のように鮮明に浮かび上がってくる。

 

どうか、何も起きていませんように。

僕の中で繰り返されるその祈りは、いつのまにか切実な願いになっていた。

 

 

なんて妄想で僕がモヤモヤしている間に

母さんたちの間で大問題が起きていた。

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