※この作品はR-18です。

母の写真 日常の向こう側   作:松田義和

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第十五章 大問題勃発

僕が毎晩のように、母さんたちが旅先でどんなふうに過ごしているのか――

酔って口説かれて、もしそのまま流されて……なんて、

想像と不安と欲望がごちゃ混ぜになった妄想の中に溺れていた頃。

 

現実では、もっと直接的な“大問題”が起きていた。

 

「……ユイちゃんが帰ってくるんですって。九州から、急に」

 

ある日の夕方、母さんが食卓の端に麦茶のコップを置きながら、そう言った。

僕はちょうどスマホを見ていて、あの旅館の露天風呂の写真を拡大していたところだった。

一瞬、意識が現実に引き戻された。

 

「……ユイちゃんって、ユウナさんの娘さん?」

 

「そう。九州の大学に行ってるでしょ。来月の初めに帰省するって、急に連絡があったらしくて……」

 

「それって……旅行の日とかぶってる?」

 

「うん。ばっちり重なってるのよ」

 

母さんの声には、明らかに困った気配がにじんでいた。

それもそのはずだった。

今回の旅行は4人での計画。すでに宿も電車も、4人分まとめて予約してある。

 

「急なことだから、ユウナさんも困っててね。娘が帰ってくるからって、さすがに旅行に行けないって……」

 

そりゃそうだ。

何ヶ月ぶりかの帰省に、母親がいないなんてありえない。

 

「キャンセルできないの?」

 

「それが、もうキャンセル料がかかる時期に入っちゃってて……。しかも4人部屋でとってあるから、1人欠けると他の人にも影響が出るみたい」

 

「他に代わり、って……」

 

母さんはため息をついた。

 

「そう簡単に見つからないのよね。女友だちって限られるし、まして泊まりの旅行となると……」

 

旅行まであと2週間ちょっと。

これまで盛り上がってきた分だけ、ここにきてのつまずきは、母さんたちにとって相当な打撃だったらしい。

 

「ユキさんは、“ユウナさん抜きじゃちょっと寂しいわよねえ”って言ってるし、イクミさんは“私たちだけでも行こうよ”って言ってるし……」

 

母さんは話しながらも、どこか決めあぐねているようだった。

楽しみにしていたはずなのに、その気持ちが揺らいでしまっているのがわかる。

 

僕は一瞬、なぜかホッとしている自分に気づいた。

――行かないなら、それはそれでいい。

あの妄想に苦しむこともなくなるし、なにより、母さんが“誰かに”触れられることもなくなる。

 

けれど、そんな感情にすぐさま自己嫌悪を覚えた。

なにを考えてるんだ、僕は。

 

母さんが、ようやく手にした“自分のための時間”。

それを妨げて、ホッとしてるなんて。

どこまで歪んでいるんだろう。

 

「……誰か、代わり、いないのかな」

 

僕はふと、そう口にしていた。

母さんが驚いたようにこちらを見た。

 

「え?」

 

「ほら、誰か。近所でも、親戚でも。ユウナさんの代わりに、参加してくれるような人。……せっかくだし、もったいないしさ」

 

母さんは少し考えるような顔をして、それから苦笑いをした。

 

「そうねえ……でも、泊まりがけってなるとね……なかなかね……」

 

「でもそれもありかもね、みんなで集まって話してみる」

 

 

早速LINE会議が始まったようだった。

 

 

 

 

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