その夜、布団に入ってもなかなか寝つけなかった。
天井をぼんやり見上げながら、昼間の会話を何度も思い返す。
まさか自分が、母さんたちの旅行に同行することになるとは――。
(冷静に考えて、これはけっこう変な状況なんじゃ……)
そんなふうに考えていたら、ふと脳裏に映像が浮かぶ。
どこかで見た、あの設定。
そう、AVのやつだ。
「ママ友旅行についていった息子が……」という、あの非現実的すぎるストーリー。
(いやいや、あるわけないだろ)
自分でツッコミを入れながらも、妄想は勝手に動き出してしまう。
旅館の薄暗い部屋。
浴衣姿の母さんの友達たち。
くつろいだ空気と、ほんのり香るお酒の匂い。
笑い声が重なり、ふと誰かの浴衣の裾がはだけて――。
(……やめろ)
頭を枕に押しつけて、妄想を打ち消そうとする。
でも、浮かんでしまったイメージはそう簡単に消えてくれない。
(ユキさん、ああ見えて寝るときは無防備なんじゃ……)
(イクミさんは酔うと陽気になって距離感が近くなったり……)
(って、何考えてんだ俺!!)
思わず声が出そうになるのをこらえ、布団をぎゅっと握りしめる。
みんな、ただの母さんの仲の良い友達で、それ以上でも以下でもない。
しかも、幼なじみの親だ。
それなのに、こんなくだらない妄想をしている自分が、本当に情けなかった。そういう設定は嫌いだったはずだ。
(……本当に俺、行って大丈夫か?)
布団に潜り込み、目を閉じても妄想は止まらなかった。
「ああ、もうダメだ……」
頭の中の映画はフルカラー、音声付きで勝手に再生される。
宴会の席はすでにいい感じに酔いが回り、イクミさんの豪快な笑い声が響く。
「もう、今日は飲みすぎちゃったわよ〜」
ユキさんはテーブルの端でくすくすと笑いながら、僕に「あなたって本当に優しいのね」としっとりと話しかける。
母さんは目を細めて、微笑みながら僕の肩にそっと手を置く。
「大丈夫よ、ここはみんなの場所なんだから」
部屋は薄暗く、障子の向こうからは柔らかな月明かりが差し込んでいる。
そして、なぜか僕の布団の横には浴衣をはだけたユキさんが寝ている。
「暑くて眠れなくて……ね?」
そんな声が囁かれて、僕の心臓はバクバクと高鳴る。
襖の向こうからはイクミさんと母さんの声。
「ねぇ、彼をどう思う?」
「いい子よね。でも……」
「ほら、あの浴衣のはだけ具合を見て」
「ふふ、もう限界かしらね」
そんな怪しい雰囲気が漂い、僕は思わず布団をかぶってしまう。
「いや、そんなことありえない」
と自分に言い聞かせるが、妄想はますます膨らむ。
温泉の湯気の中で、3人が僕を囲みながら笑いかける。
「大丈夫よ、リラックスして」
「今日はあなたのための旅行よ」
「さあ、こっちへおいで」
僕は逃げ出したい気持ちでいっぱいになる。
でも、どこかでこの非現実的なシチュエーションに少しだけ興奮している自分がいることも否めない。
「こんな妄想、絶対やめよう」
と何度も心の中で叫びながら、結局最後までその映像は消えることなく、僕は眠りに落ちた。