※この作品はR-18です。

母の写真 日常の向こう側   作:松田義和

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第二章 トシマサのこと

昨日の夜のこと。

 

照りつける日差しの下をずっと歩き回って、さすがにへとへとになった僕は、駅前のマクドナルドでひと休みしていた。

冷たいコーラを飲みながら、ぼんやり外を眺めていたら、目の前の席にすっと誰かが座った。

 

「……義和、だよな?」

 

声をかけられて顔を上げると、そこにいたのはトシマサだった。

懐かしい――それ以上に、心のどこかがざわっとした。

「うわ……トシマサ! 何年ぶりだろ」

思わず笑って、手を伸ばす。

僕たちは小学校から中学まで一緒だった幼なじみだ。

 

でも、よく覚えているのは中学2年のあの日のことだ。

授業中に突然、校長先生がやってきて、トシマサを教室の外に呼び出した。

何か話をして、そのまま彼は荷物をまとめて帰っていった。

戻ってくることはなかった。

 

その後、先生が僕らに伝えた。

トシマサのお父さんが急に亡くなった、と。

 

彼の家は蕎麦屋だった。

お母さんが店を引き継ぎ、トシマサは中学を卒業するとすぐ、銀座の有名な蕎麦屋で修行に入った。

そして、僕たちが大学に入った頃、彼は地元に戻って店を継いだ。

 

そう聞いたとき、まぶしすぎて、直視できなかった。

同じ年なのに、彼はちゃんと前を見て、進んでいるのに。

 

それに比べて、僕は。

 

……僕は、母さんに――してしまった。

言い訳はいくらでも浮かぶ。流されただけだった、とか。あれは一度きりだった、とか。

でもそんなもの、何の意味もない。

 

母さんがあの夜、黙って目を伏せたまま、言葉を選びながら笑おうとしたのを、僕は忘れられない。

 

自分でも、どうしてあんなことになったのか、未だに答えが出せない。

ただ、あのとき僕は間違いなく――母さんを、ひとりの女として見てしまった。

 

それ以来、何もなかったふりで過ごしているけれど、ふとした瞬間に、その空白が顔を出す。

母さんは、何も言わない。

 

僕はいまだに母さんの世話になりながら、どこかで心がくっついたままになっている。

 

トシマサが母を支える側にまわったのに、僕は、母に甘え続けたまま。

違う意味で、母に寄りかかっている。

 

彼がまっすぐに自分の道を進んできたことが、ただ羨ましいんじゃない。

僕がやってきたこと、そしてそれをなかったことにして生きている自分の姿が、彼と並んだことで、はっきりと浮き彫りになってしまった。

 

「今度、店に来いよ。母ちゃんも元気にやってるから」

トシマサは、少し照れたように笑って言った。

僕は「うん」と返したけれど、どこかで逃げたくなっていた。

 

帰り道、夜風が思ったよりも冷たくて、歩きながら何度も自分に問いかけていた。

 

僕は――母さんに、何をしてしまったんだろう。

そして、これからどうすればいいのか。

答えは出ないまま、ただ、胸の奥に小さな痛みだけが残っていた。

 

 

 




リアルタイムノンフィクションだったりします

昨日はマジでおどろきました。
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