※この作品はR-18です。

母の写真 日常の向こう側   作:松田義和

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第二十四章 最後の部屋

僕は、廊下の突き当たりにある最後の部屋の前に立っていた。

 

さっき通ってきた二つの部屋――そこには、僕が知らなかった“母親”たちの姿があった。いや、正確には“母親だった女性たち”というべきかもしれない。

 

そして僕は、それを目の当たりにしたとき、自分の中の何かが静かに軋むのを感じていた。

 

ここだ。

この部屋。

今、僕の目の前にあるこのドアの向こうに――母さんがいるのか。

 

息を呑む。

何度か手を伸ばそうとしては、やめた。

 

「前の二人のように……」

僕はつぶやく。問いかけるように、あるいは、自分に言い聞かせるように。

 

もし、この扉の向こうにいる母さんが、あの二人と同じように男に好きにされていたら。

 

もし、あの時のように淫らな姿をしていたら。

 

僕は――どうしたらいい?

 

心の奥で何かがざわついている。

怖いのだ。

でも、見なければいけない。

 

ここまで来て、背を向けるわけにはいかない。

 

ゆっくりと、ドアノブに手をかけた。

 

 

カチリ。

 

ドアノブが音を立てた。

その小さな音が、やけに大きく響いた気がした。

 

ゆっくりと、まるで時間が引き伸ばされたかのように、ドアが開いていく。

 

中は薄暗かった。

 

そして襖が一枚。

ぴたりと閉じられている。

 

 

僕は無意識に息を潜めた。

襖の向こうに何かがいる。

そんな気配が、じんわりと全身に広がっていく。

 

音がした。

 

小さな音だった。

耳を澄まさなければ、気づかなかったかもしれない。

 

――すれる音。

 

布のような、肌のような、何かやわらかいものが擦れ合うような音。

それが、襖の奥から微かに聞こえてきた。

 

僕の心臓が跳ねる。

何の音だ?

誰かがいるのか?

……母さんか?

 

僕は襖の前まで歩み寄った。

足音を立てまいとするあまり、呼吸すら浅くなっているのが自分でもわかる。

 

もう一度、音がした。

今度は、わずかに息づかいのようなものが混じっていた。

 

襖一枚を隔てて、確かに“何か”が動いている。

 

僕の手が、自然と襖へと伸びていた。

震えていた。

けれど、それを止めることはできなかった。

 

開けるべきか。

それとも――見てはいけないのか。

 

自分の中で、声なき問いが繰り返される。

 

 

僕はそっと、襖の縁に指をかけた。

 

 

指先が触れるだけで、ひんやりとした感触が伝わってくる。

心の中で何かが、ゆっくりと固まっていくような感じがした。

 

ゆっくり。ほんの少しだけ。

 

襖を開ける。

 

ギィ…というかすかな音とともに、隙間が生まれた。

数センチだけ。

それでも、僕には充分だった。

 

僕は驚いた。明かりが煌々とついていたからだ。

 

そして・・・

 

最初、僕は目の錯覚かと思った。

でも違った。

そこに、確かに“人”がいた。

 

柔らかな動き。

布の揺れ。

髪の毛がふわりと揺れたように見えた。

 

そして、その中心に――見慣れた背中。

 

母さんだ。

 

声は出なかった。

喉の奥で名前を呼ぼうとしたけど、息すらうまく吸えなかった。

 

母さんはまだ、こちらに気づいていないようだった。

その背は、誰かに向かって静かに動いている。

 

母さんの体に半ば隠れて、男がいた。ミキオだ。

 

僕の心臓が、再び強く脈を打った。

胸の奥で、何かがこみ上げてくる。

 

それでも、僕は目を離せなかった。

 

まるで、この隙間から見える光景が、

僕の人生の何かを決定づけるような、そんな気がしたから。

 

 

 

 

 

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