僕は襖の隙間から、息を潜めるようにして中を見つめた。
男がいた。
母さんのそばに、ゆっくりとしゃがみ込むようにして。
そして――手にスマホを持っていた。
それを母さんの方へ向けて、何かを確かめるように画面をのぞき込んでいる。
シャッター音は聞こえない。
でも、その仕草から、写真を撮っているのだとわかった。
スマホの位置。指の動き。何より、その視線。
――母さんの写真を撮っている?
僕の胸がざわつく。
なぜ? どうして? それに――母さんは……
上半身を起こして座っていた。
けれど、それは意志を持ってそうしているというより、何かにもたれかかるような、力の抜けた姿だった。
肩が、ゆっくりと――揺れている。
最初は何かに反応しているのかと思った。
でも、よく見ると、明らかに不規則だった。
あれ? もしかして……?
母さん、寝てる?
ぴくりと、背筋が冷たくなった。
母さんはアルコールが入ると、すぐ眠くなってしまう。
昔からそうだった。
晩酌の後、こたつでそのままうたた寝してしまう姿を、何度も見てきた。
でも、今は……
どうして、こんなところで?
こんな格好で?
寝息は聞こえないけれど、肩の揺れ方、顔の傾き方、指先の無防備な落ち方――
どれをとっても、これは母さんが意識を失っている状態にしか見えなかった。
そして、その母さんにスマホを向け続けている男。
怒りよりも先に、言い知れない不安と混乱が押し寄せた。
これは――どういう状況なんだ?
どうして母さんは、こんなふうに……
僕の指が、襖からわずかに離れた。
でも目は、決してその光景から離れなかった。
何が起きているのか、知るのが怖い。
けれど、もう引き返すこともできない。
男の動きが変わった。
スマホを一度下ろし、母さんの肩に手をかける。
何かを確かめるように、その体をそっと――だが迷いなく、横たえさせた。
母さんはまったく抵抗しなかった。
ただ、重力にまかせて静かに倒れていく。
布団の上に、なだらかに沈んでいったその体は、まるで人形のようだった。
男は再びスマホを構えた。
――撮っている。
今度は、真上から。
そして、角度を変えながら、何枚も。
僕の心がざわついた。
冷たいものが、背中を這うように広がっていく。
「なんで……」
声にならない声が喉元まで来たが、押しとどめた。
僕の中にある“理性”が、まだかろうじて働いていた。
だけど、手は震えていた。
膝も。
足の裏が汗ばんで、床に貼りつくように感じる。
母さんの顔は見えない。
でも、その寝顔がどんな表情をしているのか、なんとなく想像がついた。
無防備で、安らかで――そして、何も知らない顔。
男のスマホが、再びシャッター音もないまま、光を反射させた。
これ以上見てはいけない。
けれど、目を逸らすこともできなかった。
まるで夢を見ているようだった。
いや、悪夢だ。
今、自分が目にしているのは、現実ではないと信じたかった。
だが、母さんの体温は、そこにあった。
男の指先も、呼吸も、スマホの小さな動きも。
すべてが現実だった。
僕の中で、何かが静かに崩れていった。
そして、その音を、僕は確かに聞いた気がした。
男は、しばらく母さんの顔を見下ろしていた。
何かを確かめるように、あるいは噛みしめるように。
そして――ようやく、スマホを下ろした。
そのまま、胸元のポケットに、すっとしまう。
その仕草は、あまりにも自然で、無駄がなかった。
まるで仕事を終えた後のように、あるいは、何かの“記録”を収めた満足のようなものさえ感じられた。
そしてミキオは母さんの浴衣の帯に手を掛けた。
何をするのかなんて一目瞭然だ。
止めるべきだ、それはわかっている。
でも、僕は動けないでいる。
母さんの下着姿や裸だって見たことがある。
母さんの性行為も見た。
でも、でも。
知らない男に浴衣を脱がされる母さんの姿を目の前で見るなんて
僕は異常に興奮していた。母さんの性行為を画面越しに見たあの時と同じように
僕の手は無意識に股間をいじっている。
ミキオが帯を解き終わり、母さんの浴衣を両側へと開いた。
白いブラジャーに包まれた豊かに盛り上がる乳房が、秘部を隠す白くて小さなパンティーが露わになる。
ミキオは再びスマホを取り出して写真を撮り始めた。
僕は堪らず股間をシゴく。
こんなことはダメだ、止めさせないと。
頭では思っても身体が動かない。
母さん、ごめん。