※この作品はR-18です。

母の写真 日常の向こう側   作:松田義和

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第二十七章 帰還

「一緒にやらないか?」

 

その一言が、あまりに唐突だったから、僕はすぐには返事ができなかった。

 

彼の目はまっすぐだった。冗談ではない。本気なのだと、すぐにわかった。

 

僕は口を開いた。でもすぐには言葉が出てこなかった。少し考えて、それから静かに言った。

 

「……僕は、そういうのが“最後に来る”作品は、好きじゃないんだ」

 

彼は眉をひそめた。意味がわからないという顔だった。

 

「それに僕には近親相姦願望はない。母さんは好きだし大切だけど。」

 

僕は息を吐いて、首を横に振った。

 

「そういうの無理だ」

 

それ以上、言葉は必要なかった。

 

彼はしばらく黙っていたが、やがて小さくうなずいた。そして、どこか納得したように視線を外した。

 

「息子くん、やっぱり面白いな。思いっきり勃起しながらそれを言うところなんか気に入ったよ!いいよ、連れて帰りなよ」

 

 

僕は母さんに下着を履かせて、ブラジャーは付け方がよく分からないからポケットに入れて、浴衣の前を合わせた。ミキオが帯を巻いてくれた。

 

「息子くん、お母さんおぶってやらないと」

 

と言って手伝ってくれた。

 

あれ?この人意外といい人なのかも、女癖悪そうだけど。

 

 

そしてドアを開けて

 

「息子くん、お母さんを大切にな」

 

お礼を言うのも変だから

 

「ミキオさんはこれからどうするんですか、寝るんですか?」

 

と反射的に聞いてみた。

 

「そうだなあ、他のやつに混ぜてもらうかな」

 

とニヤリと笑った。

 

混ぜてもらう?何を?え?

 

 

僕は、混乱の中で母さんを背負っていた。

 

母さんの体は、驚くほど軽かった。

けれど、その重さが僕の背にのしかかるたび、胸の奥にじわじわと痛みが広がっていく。

 

今さっき部屋で見た光景が、背中の温もりを通して何度も蘇ってくるようだった。

 

振り返ると、ミキオが無言で手を振っていた。

 

「じゃあな」

 

ドアが閉まる音が、やけに大きく響いた。

それが区切りの合図のように感じられて、僕は無意識に唇を噛んだ。

 

長い廊下を歩く。

 

肩にかかる母さんの髪がふわりと揺れるたびドキっとする。

 

ノーブラの胸の感触が背中に伝わってくる。

 

 

コウジとリクオの部屋の前を通る。

扉は閉まっていたが、その向こうに潜む空気までもが肌をなぞる気がして、思わず視線をそらした。

 

やっと、自分たちの部屋にたどり着く。

 

静かにドアを開け、灯りもつけずに母さんを布団に下ろす。

彼女は目を覚ますことなく、静かに寝息を立てていた。

 

その寝顔は、あまりにも穏やかで――僕はただ、立ち尽くすしかなかった。

 

さっきまでの現実が幻だったようにも思える。でも、それが願望でしかないことは、自分が一番よくわかっていた。

 

母さんは、何も知らない顔で眠っている。

 

その姿に、僕は救われた気もして、同時に突き放されたような気もした。

 

背負っていたあの温もりだけは、きっと忘れられないと思った。

 

 

僕は布団の脇に腰を下ろし、しばらくの間、ただ黙っていた。

 

今日一日の出来事を順に思い返そうとするたびに、頭の中はぐちゃぐちゃになって、どこから手をつければいいのかわからなくなる。

 

朝はいつもと変わらなかったはずだった。

でも今、こうして母さんが何も知らない顔で眠っていることすら、どこか遠い世界の話のように感じる。

 

心も身体も、もう限界だった。

 

疲れた――そう思った瞬間、まぶたが重くなった。

どっと眠気が押し寄せてくる。身体は眠ろうとしているのに、脳だけがざわついている。

 

さっき見たあの光景が、何度も、何度も、頭の中に浮かんでくる。

 

目を閉じれば、闇の中に浮かび上がる。

あの部屋の空気、母さんの姿、男の影、閉まる襖の音――

 

消えてくれと願っても、消えてくれなかった。

 

僕は目を開いた。

 

天井を見つめながら、そっと息を吐いた。

眠れない夜になることだけは、もう分かっていた。

 

 

 

 

 

 

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