※この作品はR-18です。

母の写真 日常の向こう側   作:松田義和

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第三章 幼なじみたち

そういえば、トシマサに再会して、ふと昔の友だちのことを思い出した。

 

小学校のころ一緒に遊んだあの子や、何気ない日々の中で自然と離れていったあの子たち――。

 

その中で、特にマサユキのことが頭に浮かんだ。 

 

マサユキは小学校5年の途中から、学校に来なくなった。

いじめがあったわけじゃない。

本人はいつも穏やかで、クラスでも友だちが多かった。

でも、体調が安定しなくなって、学校にいると頭痛がしたり、急にお腹が痛くなったりすることが増えていった。

 

後になって聞いた話では、神経症の一種だったらしい。

身体に症状が出るけれど、原因は心の疲れや不安だったりする――そんな病気だ。

 

当時の僕たちは、正直それがよくわかっていなかった。

でも、不思議とマサユキは、学校の外では元気だった。

放課後に誘えばゲームを一緒にやったし、公園でキャッチボールもした。

時々、ふっと表情が曇ることはあったけど、それでも笑ってくれていた。

彼の家に遊びに行くと、新しい漫画やカードが並んでいて、ちょっと羨ましかったのを覚えている。

 

中学に上がるころ、マサユキは別の学校に通うようになった。

不登校の子たちが通う支援学校で、そこからは自然と距離ができてしまった。

直接話すことはほとんどなくなったけど、親同士の付き合いが続いていて、彼のことはなんとなく聞いていた。

 

最近では、地元のスーパーで働いているらしい。

母さんが買い物のときにレジにいたよって言っていた。

「元気そうだった?」と僕が聞くと、「穏やかな顔してたわよ」とだけ、やさしく返ってきた。

 

なんだか、その言葉だけで少し安心した。

 

もうひとり、思い出すのはユイちゃんだ。

彼女は小学校まで一緒だったけれど、中学から私立の中学に進学した。

おとなしくて落ち着いた子で、勉強もよくできていた。

今は九州の国立大学の医学部に通っていると聞く。

こちらも親同士が仲良いから、近況はよく耳に入る。

 

将来は医者になるんだろうな。

命を預かるような、責任ある仕事に向かって、着実に歩いている。

 

マサユキも、ユイちゃんも、トシマサも、みんなそれぞれの道を、自分なりに歩いている。

遠回りだったり、早かったり、選んだ理由は人それぞれだけれど、どこかしら“自分”を持っているように思える。

 

そう思うと、少しだけ、自分が不安になる。

焦るというより、取り残されているような感覚だ。

でも、不思議とそれは嫌な感じじゃなかった。

むしろ、ちゃんと思い出せることが、どこかあたたかくて、うれしくもあった。

 

みんな、生きてる。

そして僕も、まだ途中なんだと思える。

 

 

すでに書いたように、母たちは今でも仲がいい。

母さんと、トシマサの母さん、マサユキの母さん、そしてユイちゃんのママ。

昔からの「お茶友達」だ。

 

たまに母さんが言う。

「今度、ユイちゃんの家で集まるのよ」って。

あの家は広いから、みんなで集まるのにちょうどいいんだろう。

テーブルに手作りのお菓子や果物を並べて、おしゃべりに花を咲かせているらしい。

 

母たちは、そこで近況を交換している。

あの子は元気にしてる、とか、最近就職したんだって、とか。

ちょっとした噂話も含めて、情報網のように回ってくる。

 

僕は、その話を台所の隅っこで、なんとなく聞いている。

特に話題に入るわけでもなく、ただ「へえ」とか「そうなんだ」と相づちを打つくらい。

でも、内心ではいろいろ思っている。

トシマサがしっかり店を継いで頑張っている話や、ユイちゃんが病院実習に入ったという話を聞くたびに、ちょっと胸の奥がざわつく。

 

同時に、どこか安心もする。

みんながそれぞれ、ちゃんと生きていることを知ると、自分もその輪の中にいられるような気がして。

 

子どもの頃は、親のつながりがそのまま子どもたちのつながりだった。

でも、いつの間にか僕たちは、別々の世界を生きるようになった。

それが「成長」なのかもしれない。

 

母さんたちが今でも変わらずお茶をして、笑って、近況を語り合っている姿を見ると、なんだかほっとする。

僕がまだうまく進めずにいるこの時間も、きっとそうやって見守られているんだと思うと、不思議と焦りよりも静かな気持ちになる。

 

自分も、どこかでちゃんと前に進まなきゃな……そんなことを、ふと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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