その後も僕たちはひたすら交わった。
母さんの口内、膣内、顔、胸、お腹、お尻、全てに精液をぶち撒けた。
そしてクタクタになった僕はいつしか眠ってしまっていた。
朝――
誰かに肩を揺すられて目を覚ました。
「義和、起きて。朝ごはんの時間よ」
母さんの声だった。
ぼんやりとした視界の中で、母さんの輪郭がにじんでいた。
でも、すぐに現実が押し寄せてくる。
――しまった。裸のまま寝てたはずじゃ……!
一気に目が冴えた。慌てて自分の身体を確認する。
パンツは穿いている。浴衣もちゃんと着ていて、帯まで締められている。
それどころか、寝乱れた様子もない。
「……あれ?」
僕はゆっくりと身を起こし、隣の部屋へと目をやった。
イクミさんもユキさんも、もう着替え終えて、支度を整えていた。
鏡の前で髪を整える姿は、まるで何もなかった朝のように、穏やかだった。
「最後に温泉、入ってきたら?」
「私たちはもう行ってきたから」
ユキさんが柔らかく微笑んだ。
僕は無言で頷き、ゆっくりと立ち上がった。
足元がまだ少しふらつく。けれど、温泉の湯気を思い出すと、自然と身体がそちらに向かっていた。
途中――
ふと、昨夜のことが頭をよぎった。
あの男たちの部屋。
あの空気、あの気配。
何かに引き寄せられるように、そっと襖を開けて中を覗く。
……が、そこには誰もいなかった。
布団はすでに片付けられ、室内はきれいに整っている。
まるで最初から誰も泊まっていなかったかのように、何の痕跡も残っていない。
「……あれ?」
昨夜、確かにここにいたはずの人間たちが、気配ごと消えていた。
胸の奥がひやりと冷たくなる。
まるで、自分が見たすべてが夢だったかのような――そんな錯覚に包まれて、僕はしばらく立ち尽くしていた。
湯気に包まれた温泉の中で、僕はぼんやりと空を見上げていた。
湯はちょうどいい温度だった。
身体の芯まであたたまり、心地よさに少しだけ眠気すら感じる。
けれど、頭の中はずっとざわついていた。
――あの部屋には、誰もいなかった。
整えられた布団、掃除された床、残り香ひとつない空間。
まるで最初から、あの男たちは存在していなかったかのように。
いや、確かに見たはずだ。
母さんを背負って、あの部屋を出た。ミキオが手を振って、ドアを閉めた――
記憶は鮮明だった。でも現実は、何一つ証拠を残していなかった。
僕は自分の頬を軽く叩き、湯から上がった。
部屋に戻ると、朝ごはんの支度がすっかり整っていた。
テーブルには焼き魚、味噌汁、炊き立てのごはん。どれも香りがよく、旅館の丁寧な朝の味がした。
母さん、イクミさん、ユキさんはすでに座っていて、湯上がりの顔で和やかに話している。
「今日はどうする? もう少しどこか寄って帰る?」
「でもあんまり遅くならないようにしようね。買い物もあるし」
「そうね、帰る前にお土産屋さん、見ておきたいわ」
誰も、昨夜のことには触れない。
まるで何もなかったかのように。
いや――“何もなかったこと”になっている。
それがかえって不気味だった。
僕は箸を持ったまま、食事に手をつけられずにいた。
三人の会話だけが、穏やかに部屋の空気を埋めていく。
「……夢だったのか?」
つぶやいた言葉は、声にすらならなかった。
でも、胸の奥で確かにそう思ってしまった。
でも、僕の背中には、あのとき感じた母さんの体温がまだ残っている。
確かに、あれは――現実だった。はずだ。
けれど、今のこの空気のどこにも、昨夜の続きは存在しない。
僕だけが、時間の外に取り残されたようだった。
朝食の席は、明るい窓辺のそばだった。
天気のせいか、旅館の朝の空気はどこか清々しく、まるで昨夜の湿った記憶を洗い流そうとしているようだった。
僕はまだ頭の中が整理できないまま、味のしない味噌汁をすするだけだった。
そんな中、イクミさんの声がふいに響いた。
「それにしても昨夜は、よく寝てたわねぇ」
僕は反射的に顔を上げた。
「ねえ、ユキちゃん? 私たちがラウンジで飲み直して戻ってきたときなんか、義和くんもお母さんも大爆睡でさ」
「ほんとほんと。もうちょっと騒いだら起きちゃうかなって思ったけど、まったく反応なし」
ユキさんはおかしそうに笑い、母さんもつられて口元を押さえて笑っていた。
「そうだったの? 全然気づかなかったわ」
そう言って、母さんは小さく首をすくめる。
その笑顔は自然で、作り物には見えなかった。
でも、僕にはそのやりとりのすべてが、どこか遠くで行われているように感じられた。
あの夜、本当に“何もなかった”のだろうか?
皆が口をそろえて「寝ていた」と言い合うその声が、逆に僕の不安を煽る。
――じゃあ、僕が見たものは?
母さんを背負って歩いたこと、男たちの部屋、ミキオの笑み……
あれは全部、夢だったのか?
それとも――
夢にしてしまいたいだけなのか。
テーブルの上には、湯気の立つご飯と焼き魚。
旅館らしい丁寧な朝食が、何もかもを平穏に見せていた。
けれど、僕の胸の奥ではまだ昨夜の靄が、静かに渦を巻いていた。